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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第三部『宵闇の天幕編』

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う゛ぁーじんきりんぐ

 結論から言うと目論見は成功した。
 ファスバーン氏は俺との取引に快く応じてくれ、俺達は3日の猶予を得た。

 「あんたバカだろう!出会った時からバカだと思っちゃいたけど本当のバカだ!」
 「何言ってやがんだ。てめえのことくらいてめえで覚えておけよ。おかげでおいたん無駄な出費をする羽目になったじゃねーの」

 ビムシルドから一日の距離を半日の行程で全力疾走。
 ビムシルドの近辺に点在するダンジョンの一つ『ボウバル遺跡』の中を俺達は絶賛全力疾走中。
 朽ちた鉄板で組まれた外壁は何かの研究施設を彷彿とさせながら細やかな意匠はファンタジーのそれというなんとも歪な遺跡である。
 意匠から手繰ればいつの年代の遺跡だとか細やかな設定はあるのだろうが基本、そんな面倒なことはどうでもいい俺にとっちゃただのダンジョン。
 俺は走りながらやかましいジーナの悪態を聞き流していた。

 「あんた200万ジル持ってんだったらなんで貸してくんないのよ!それがあれば一時的に工房の権利を手に入れることだって――」
 「俺の取り立てきびしーよ?トイチで取り立てるから」
 「トイチって?」
 「十日で一発。ダメなら十割。ちつにくちゃんじゃtnpkしないから十日後に400万ジルでございますよ」
 「バ――それじゃ暴利じゃない!」
 「だから暴利だって。取り立てだってきびしーし」

 俺がやったことは簡単な話なのだ。

 「えっと……ロクロータ様はどうやってビムシルド商会のファスバーン氏から猶予を得たのですか?」
 「200万ジルを担保に3日以内に『亡霊の巣窟』終わらせてくるから待っててって。もし3日以内に終わらなければ俺の200万ジルとお店はあのオッサンのモノ」
 「それだったら私に200万貸してくれた方がよかったのに!」

 遺跡の中を走り、俺達はさくさくとショートカットルートをチェーンフックで駆け上がる。

 「いや、ちつにくちゃんでしょう?信用無いよ。それだったらファスバーン氏の方がまだ信頼できるし。お金って大事だしね?」
 「嫌がらせだろ!絶対それ私に対する嫌がらせだろ!」
 「うんw」
 「っかぁぁぁ!腹立つぅぅぅ!」

 急ぎ走りながら遺跡の中に現れた死霊兵――ガイストソルジャーをアサルトライフルで駆逐していく。

 ――練度を上げすぎた俺達にとっちゃ40台前半レベルの遺跡でも敵にならない。

 「――して?『亡霊の巣窟』には挑んだことは?」
 「あるよ!――奥までは行けなかったけど、ある!」
 「ゲートの色は――赤色か?」
 「うん!――なんでわかるの?」
 「駆逐系だろ?だったら赤色ゲートだろうと思ったからだ!」
 「そうなの?」
 「覚えておけ。エルドラドゲートは赤が討伐系、緑がトラップ、黄色がクエストだ。色が混ざれば中身も混ざる――ゲート攻略の基本だ」
 「――そんなのはじめて知ったよ!あんた一体何者なの?」
 「通りすがりの鬼教官だよ!」

 広間に配置された高レベルモブ――リビングドラフトと呼ばれる巨大な4つ足の魔物と相対する。
 全長で8メートルはあろうかという巨大な体躯を短い足で支え、巨大な腕を広げ俺達を待ち受ける。
 ねじくれ曲がった巨大な角を突き出し、紫電をまとわりつかせた突撃に俺達は号令も無く散会し――即座に攻撃行動へ移る。
 壁を駆け上がり、跳躍したクラウディアがチェーンフックを投げつけ頭へ向けて跳躍する――
 側面へスライディングで回り込んだジーナが両腕で抱えたマシンガンで足の一本を撃ち崩す。
 稲妻バックステップで距離を取った俺がデザートラプターとm9でヘッドショットを決めると――最高の射撃位置についたクラウディアがバズーカで至近距離から顔面を吹き飛ばす。

 ――レベル40台前半といえどエリア配置のストレンジモンスターであれば並のパーティなら苦戦を強いられる。

 だが、上位職へ迫るポテンシャルを誇る『ガンナー』のスペックを正しく引き出してやれば――

 ――射撃の反動で距離を取り、着地したクラウディアがマグナムを即座に抜き放つ。

 『クイックドロウ』からの『フレンジー』――

 細い腕の中でぐるぐると暴れるリボルバーが閃光を上げ、凶悪な咆哮を上げる。
 空中に放った弾丸をリロードの度に振り回した銃身の弾倉で拾い上げ、サイティングをずらさず撃ち続けるクラウディア。
 ガンカタ真っ青のバレットダンスで集中させた火力は遠距離随一の火力――
 執拗に頭部に吸い込まれた弾丸が凶悪な悪魔の顔面をこそぎ、削り――穿ち、消し飛ばす。
 崩れ落ちたリビングドラフトが砂煙を上げ、巨躯を沈める。
 黒い障気を残し、消える死体を見つめ、クラウディアがリボルバーをホルスターに納める。

 ――ちょっと前までのクラウディアとは違う。

 完全にガンナーとしての動きをマスターした少女は――一人前の『戦士』になっていた。

 「――すっご」

 ジーナが鮮やかな手並みに感嘆の息を漏らすが、実際、ジーナ自体もこれっくらいはやれるようになっている。
 伊達に無駄なレベリングを繰り返した訳ではない。
 レベリングの中に実戦トレーニングを組み入れた『ロクロータブートキャンプ』を経れば並以上のプレイヤーの動きはできるようになるだろう。

 「――全軍止まれ、ここにて小休止を行う」
 「「イエス!はい!了解!」」

 荒く上がった息からスタミナの上限もそろそろ半分くらいになっているだろう。
 それでも無駄なく動けるAIに仕上がったのは俺もびっくりだ。
 小休止を言い渡され、それでも呆然としているクラウディアの肩を叩く。

 「――どうした?はじめての実戦でびびったか?」
 「いえ――わかりません」
 「――戦えているよ。十分過ぎるくらいだ。飯を喰え」
 「あ――イエスはい了解!」

 呆然としていたクラウディアは慌てて火石を並べ簡易かまどを作ると糧秣に火を通し始める。
 訓練の合間に基本的なレンジャースキルも教えていたが、手際はまだ悪い。
 だがしかし、もそもそとパンを齧りながらゲリィのスープを飲み始めているジーナがしみじみと呟く。

 「最初はどっかのお嬢さんの酔狂かと思ったけど――あの地獄の訓練を終えると冒険者も形無しのガンナーができあがるわね」
 「そういうお前さんもガンナーらしくはなってきたじゃねえか」
 「どっかの鬼教官に人格まで破壊されたかんねー――うう、思い出すだけで地獄だ」
 「しっかし、工房の地下にしっかりといい武器貯め込んでんじゃねえか」
 「――正直、誰にも言いたくなかったけどこの際仕方ないしね。秘密の在庫って奴だよ」

 NPCと仲良くなれば普段売ってくれない物も売ってくれるようになる。
 ジーナの工房の地下には俺がビムシルドを目指した理由である――レア重火器がしっかりと保管されていた。

 「43榴弾砲こそねーけど、バズーカやらガトリングの他にもレア素材貯め込みやがって。実用段階のライフルやマグナムだってあんならそれで訓練してもよかったのに」
 「……今となっちゃ親父の形見だかんね。そう簡単に人には見せたくないよ」
 「だけどあっさり売ったじゃねーか。おかげで俺も戦力増強計れたわけだしな」
 「あんたが金持ってるってわかったからだよ!はぁ……最初から売っておけば200万ジルだって稼げたかもしれないのに……」
 「客商売するには目が悪いんじゃねえの?水商売やっても色気もねーし人生詰んだな」
 「うるっせーよ!お前だってわけわかんねーものばっか買いやがって!あんたが買った奴って親父でもどうやって使うかわかんないモンばっかだよ?」
 「商品を見る目も無いときた。俺が哀れみを持って相場を教えてやんなきゃお前、まるまるかっぱがれて終わったぞ」
 「うぅ、反論できないから痛い――」

 ジーナは自分の手にしたマシンガンを見下ろし涙目になる。

 「……くそう、これがこんな強い武器だったなんて」
 「素手と比べるな。エムファイはマシンガンの中じゃサイティング速度に重きを置いた使い勝手のいいマシンガンだ。使える弾頭も豊富だし耐久性も標準的なラインを持っている。発光石を使ったカスタムをすればライトも付くし赤水晶カスタムでレーザーサイト――ロック速度上昇カスタムも含めればガンナーとしては一級品の武器だ」
 「うーん、わからん!」
 「お前のようなガンアーツ主体で戦う奴ぁハンドガンかマシンガンかって700年前に決まってんだよ。ハンドガンクラスのサイティング速度もってるマシンガンなんざ他にねーから黙ってそれ使っとけ」

 クラウディアはゲリィをくべたカップが暖まるまでの短い間に銃をばらしメンテナンスをしている。
 素早く分解し、素早く組み上げ――機械系知識のレベリングも済ませた――メンテナンスで銃をこまめに手入れするのはガンナーの基本心得。
 ジャムったら即死亡のリスクを抱えているのもガンナーの特色だ。

 「――リボルバーは装弾数こそ少ないがジャムりにくいハンドガンだ。威力の高いマグナム弾を使っていく形になる。実戦ははじめてだろう。自分の戦い易いスタイルを確立しろ」

 とはいえ、クラウディアの適正についてはあらかた把握している。

 ――ハンドガンによる徹底したインファイと重火器や狙撃銃を利用した遠距離狙撃。

 マシンガンやアサルトライフルのようなミドルレンジでの撃ち合いは苦手にする傾向にある。
 間合いを重視する格闘を扱ってきたIRIAであるジーナと比べ、『間合い』に関するとらえ方が下手な傾向にある。
 だとすればインファイならインファイ、アウトレンジならアウトレンジとはっきりわかる戦い方を徹底するようになっていた。
 逃げ切れるなら間合いを作り遠距離で戦い、逃げられないなら徹底したインファイで戦う。

 ――これくらいわかりやすい方が何も考えなくていい。

 「バズーカは遠距離武器に見えて実は近距離武器だ。遅い弾頭を避けられるくらいなら直接当てに行け。爆風に注意しろ。爆風は自分もダメージを負うが緊急回避にも使える。お前の使っているタンサームは装弾数こそ1発の使い切りだが重量が低く威力と弾速度に重みを置いた一発必中のバズーカだ」

 言われて弾丸を装填し、他の武器もチェックするクラウディア。
 射程型スナイパーライフルにソードオフショットガンを2丁、そして、マグナムとオートマにデリンジャー。
 いずれもレアではない汎用品だが――汎用品を『揃える』ことでそれぞれの状況に合わせることができる。

 「実戦でこんなに――扱えるでしょうか」
 「訓練も実戦も変わらない。訓練でできないことが実戦でできる訳がない。逆に落ち着けば訓練でできることは実戦でもできる。ただ、実戦は失敗すれば命を落とす――ま、お前の場合は死なないだろうがな?」

 クラウディアはどこか覚悟を決めたようにそれぞれの銃を見つめるとホルスターに納めていく。

 ――服装備であればギリギリ『軽装』の重量だ。

 重量を持てるようにランニングで基礎体力も鍛えておいた甲斐があった。

 「しっかし――そんなにバクバクよく買ってあげられるわね?あんたの恋人かなんか?」
 「え?――その、え?」

 クラウディアが顔を真っ赤に染めるが俺は否定する。

 「そんなんじゃねえよ――若干訳アリなんだ。ネルベスカまでの護衛を任されてる。気分屋でガンナーになりたいなんて言うもんだからお世話役の俺も大変なんだ」
 「でも、護衛対象に払うお金じゃないよ?ガンナー用の銃なんて弾代だってかかる上に本体だって元々大量に流通するモンじゃないから値は張るし……」
 「――それ以上は聞くんじゃねえよ。金の出所を知れば命に関わることだってあんのくらい冒険者ならわかんだろ?」

 含みを持たせて言えば、後は勝手に想像してくれる。

 「――本当にあんた一体何者なのよ」

 俺は答えることなく弾丸の装填を終え、消費した弾丸の製造を終えるとナイトレイドを肩に担ぐ。
 食事を終えスタミナを回復させた2人も手早く準備をし、コートについた埃を払う。

「さて、休憩は終わりだ――これより最深部への行軍を再開する。到達目標時間はヒトハチマルマル。遅れは許されない」
 「「イエスはい了解!」」

 ◆◇◆◇◆

 遺跡の最深部までは特段障害となるべき障害もなく訪れることができた。
 特殊職ガンナーの一線級が3人揃って40台前半の敵しか出てこないダンジョンで苦戦するという状況がまず、無い。
 NPCとはいえ普通の人間と同じかそれ以上に使うNPCであればなおのこと。

 「んー、パワーレベリングによる蹂躙って楽しいなw」

 ギリギリのレベルで際どい選択を続け、正解を選び取り続ける楽しみもあるが、圧倒的な強さで難易度を挽きつぶすのもまたRPGの醍醐味。
 最深部の手前の長い空中回廊を歩きながら俺は鼻歌を歌う。
 もともと何かの発電施設なのか溶鉱炉なのか中央部に巨大な炉を持ち、それを下るように組まれたダンジョンだ。
 遺跡と呼ばれるのもあちこちに眠る機械系資材からなのか。
 ボウバル遺跡の最深部に設けられたホールには赤色に輝き揺れる繊維のような光が立ち上りゲートを形成している。
 だが、そのゲートを守護するように人間の一団が居座っている。

 「――あの人達は?」

 まるで何かを待っているような様子の一団に不自然さを覚えたクラウディアが小さく尋ねる。

 「わかんない――でも、ビムシルドでは見たことのある連中だよ」
 「冒険者か?」
 「――うん、あんまり、いい噂を聞く連中じゃないけどね」

 俺はそれだけでピンと来た。

 「――なら、あれだ。ファスバーンの雇った私兵かなんかだろ」
 「ビムシルド商会の?なんでさ」
 「ガンスミスの工房を取り上げたいのは奴らなんだろう?亡霊の巣窟をクリアされて、工房を手に入れられなくなるのも困るんだろう」
 「なんで?」
 「――狙いは工房の地下にあったあの武器達さ。正直、俺が欲しがるくらいだから相当のモンだって検討くらいはついてんだろ?」
 「だけど――そこまでするモンなの普通」
 「実は俺、お前から相場の5分の1くらいでぼったくってんだわ」
 「バ――あんたきちんと相場で払いなさいよ!」
 「いやぁ稼がせてもらいましたーwってのはさておき、それだけの財産が眠ってる工房を手に入れられるとなれば念には念を押すだろう。ましてや今度は俺達みたいな助っ人付きだ――俺が担保にした200万ジルだって大金なんだろう?」
 「あんた!あれ一体いくらぐらいするモンだったの!教えなさいよ!あ、5倍か――あれ?あれれ?500万ジルはくだらないってこと!?ちょっと――」
 「まあ――威力は見てのお楽しみってことで」

 俺は嫌らしい笑みを浮かべると通路の影から奥を覗いているクラウディアの肩を叩く。

 「――何人くらい居る?」
 「4人……でしょか」
 「高台にも伏兵が居る。見えるか?」
 「はい……6人」
 「他にも潜んでいる連中が居る――切り込めるか?」

 無論、俺が行って一掃してもいい。
 だが、実際クラウディアが複数戦闘でどれくらい立ち回れるかを知っておきたいというのもあった。

 ――実際、適正だけでみればクラウディアのガンナーの力量は舌を巻くレベルだ。

 触れてみたクラウディアの肩は――震えていた。

 「――やってみます」

 ――死亡しても復帰できるイリアであるクラウディアを先方に置く。

 死亡すればそれまで、また、ペナルティを負う俺やジーナを後方に置くのは戦術として至極、当然になる話だ。

 ――だが、それを選択しなかったのには理由があったからだ。

 無論、その理由に気づかれる前にどうにかできる程度の敵戦力と判断しての采配なのだが――
 広間に飛び込んだクラウディアが銃を構え――

 ――そのまま立ちすくんだ。

 「なにやってるのあの娘!」

 ジーナが驚愕する。
 突撃を構えて居た俺も戸惑う。

 「あんだぁ?」
 「――おい、依頼の奴だ!」
 「やれ!」

 ――相手の反応が早い。

 広間の入り口の死角に隠れていたローグが短刀を抱えて斬り込む。

 ――背後からの回避訓練も行っているクラウディアには届かない。

 ステップで壁際を取り、ハンドガンで応じるが――そのどれもが当たっていない。

 直線軌道で突っ込んで来るガンナーに対応する学習をしていない一般IRIAなら遅れを取ることがそもそもないはずだ。

 「クラウ!なにしてやがる!」

 クラウディアの表情は怯えていた。

 ――待ち伏せしていた冒険者の足下に叩き込んだ弾丸が跳弾して跳ねる。

 俺は即座に武器をナイトレイドに持ち替えるとジーナの肩を叩いた。

 「――突っ込め、上は俺が落とす」
 「ああ!」

 飛び出したジーナを狙う弓兵が弓を引き絞る前に、ヘッドショットで屠り去る。
 伏兵がいると判断して待機していた選択は正しかったが相手が悪い。
 飛び込み、跳び蹴りで頭上を取ると蹴りモーションからムーンサルトで即キャンセルしてからのヘッドショットで1人を崩すと、ウォーリアの足を払う。
 倒れた相手の頭部をマシンガンの連射で一気に潰すと周囲の敵に両腕を広げて『出スペラード』で牽制する。

 ――弾丸を連射しながら周囲に狙いをつけずにばらまくガンナーの『範囲スキル』

 完全に孤立したクラウディアの窮地を救うと、俺は高台で潜んでいるハンター達を一掃し、ハンドガンに持ち替える。

 ――そうして、冒険者達の親玉らしきウォーリアに狙いを定めると、気がつく。

 「――ジーナ!」

 俺はこのまま殲滅させようと距離を詰めようとしたジーナを止める。
 敵も待ち伏せに失敗し、ウォーリアを中心に隊形を組み直す。
 俺は銃をホルスターに納め、クラウディアに告げた。

 「クラウ――あいつらを殺せ」

 言われ、クラウディアの身がすくむのがわかった。

 ――魔物ならば、殺せていた。

 だが、クラウディアにとって『相手』は『人間』なのだ。
 俺の意図がわからないジーナは俺を怪訝な表情で見てくる。
 冒険者として――そうした命のやりとりをしたことのあるジーナは忘れている感覚なんだろう。

 ――人を殺すのには『覚悟』が居る。

 自分の『痛み』から『他者』の痛みを『共感』し観念に落とすことのできる人間が『殺す』ということ。

 「でも――」
 「――あれは、敵だ」

 クラウディアに厳かに告げ、俺はクラウディアの足下に――弾丸を撃ち込む。
 訓練で『覚えた』俺の『本気』が冗談ではないことを理解させているだろう。

 「簡単だ。お前は訓練ではできていた。照星、照門を合わせ、引き金を引くだけでいい。相手を見る必要は無い。銃弾が勝手に殺してくれる――相手も『お前を見てはいない』」

 だが、それでもふんぎりのつかないクラウディアは手の中で銃をカタカタと震わせていた。

 ――先に冒険者達の方が仕掛けてきた。

 「――わからんが、やっちまえ。先にあの木偶を潰す!」

 奴らとて退路は無い。
 退路となるべき通路は俺達が塞いでいる。
 殲滅しないことには逃げることだってかなわない。
 動き出した冒険者達が散開する。

 ――前衛のウォーリアを押しだし、横からローグがクロスボウを構える。

 背後に下がったマジシャンが詠唱を始める。

 ――典型的な軽装前衛スタイル。

 ウォーリアの振るった両手剣をステップで下がり避け、壁際に押し込まれる。
 壁伝いに逃げるクラウディアにローグのクロスボウが追いすがり、クォレルがクラウディアの足に突き刺さる。

 ――鈍足効果付きの『アンクルショット』

 足を削がれたクラウディアが直後――マジシャンの放った『ファイアーボール』の至近着弾を受けて吹き飛ぶ。
 防具をほぼ装備していないクラウディアであれば瀕死のダメージもいいところだろう。
 駆け出そうとするジーナを制し、俺はじっとその様子をみていた。

 ――初撃を避けられたウォーリアが剣を振り上げながら跳躍する。

 『スラッシュエッジ』の飛びかかりで一気に決めようとするウォーリアの瞳はどこまでも凶暴にクラウディアを睨み――

 ――クラウディアの瞳が色を無くした。

 ダァン!と乾いた音がホールに響き、ウォーリアが床を転がった。

 ――クラウディアの手にはショットガンが握られていた。

 起き上がろうとし、ポーションを口に含むウォーリアが忌々しげにクラウディアを睨んでいる。
 ローグは踏み込もうとし、躊躇して距離を取る。
 マジシャンは次の詠唱をはじめているが表情には焦りが見えていた。

 ――クラウディアはふらふらと起き上がると、額から流れる血を拭う。

 そして、表情を無くしたままリボルバーとオートマを構えた。

 ――先に獲物になったのはマジシャンだった。

 稲妻のように反響する発砲音が立て続けに響き、マジシャンの体がゴムまりのように弾む。
 死してなお、銃撃を辞めず、弾倉が空になれば慣れた手つきでリロードする。
 吐き出された薬莢が床を叩き、乾いた音を立て、ぴくりとも動かなくなったマジシャンから静かに血が広がっていく。

 「うぁ―――ぁぁぁあああ!」

 雄叫びを上げて走り込んでくるウォーリアを髪をかき上げて見つめるとクラウディアは高速でステップを繰り返し――下がる。

 ――ガンナーが『PK職』として絶対的に有利な理由の一つ。

 数多のゲームで射程を持つ武器が有効とされ、魔法職では叶わず、ガンナーのみに許される最も基本的で強力な選択肢。

 ――『引き撃ち』

 稲妻ステップと組み合わせれば延々と近接職を翻弄して屠り去ることができるガンナーはPK職の代表でもある。
 たぁん、たぁん!と無慈悲な銃声が響き渡る。
 ウォーリアの強靱な肉体の上で弾丸が爆ぜ、血の花を咲かせる。

 ――側面からクロスボウを撃ち込もうとしたローグの瞳をリボルバーが撃ち抜く。

 膝をつき、崩れ落ちるローグを一瞥すると孤立したウォーリアを静かに見つめた。
 滅多に剣を振りかぶるウォーリアの動きが次第に鈍くなり、やがて、諦めたように動かなくなる。

 ――憎々しげにクラウディアを見るウォーリアの視線を、静かに受け止め、クラウディアは最後のリロードを行う。

 つきつけたリボルバーの銃口が鈍く輝き――爆ぜた。
 どさり、と重々しい音を立ててウォーリアが沈む。
 広がっていく血の海は確実に死んだことを表記していた。
 だが、しばらく残る死体を見下ろしてクラウディアは撃鉄を起こす。
 静かに引かれた引き金が撃鉄を落とす。
 爆ぜた薬莢が悲鳴を上げ、弾丸を吐き出す。
 吐き出された弾丸が血にまみれた筋肉質の男に沈み、クラウディアは一発一発、丁寧に弾丸を叩きむ。
 激しい銃声の度に男の体が痙攣する。

 ――何度も、何度も。

 撃鉄が乾いた音を立てて落とされた時、俺はクラウディアの肩を叩いた。

 「――気が済んだか?」

 血に塗れたクラウディアは肩をふるわせながら、黙って死体を見下ろしていた。
 ナイトレイドを肩に担ぎ、俺は告げる。

 「――引き金を引くだけで簡単に人は死ぬ。引き金が、刀剣が、拳が人を殺す。人が人を殺すから死ぬんじゃないってことがわかったろ?」

 そこにある自分の悪意をみなければいい。
 誰だって簡単に自分を善い人間にできる。

 「――殺されるから仕方が無かった。そう言い訳してしまえ。言い訳が必要ならたくさん作っておけ。慣れたら言い訳が要らなくなるんだろうよ」

 俺はそれだけ告げるとクラウディアを放ってエルドラドゲートの前に立つ。
 ジーナが俺に何かを言いたそうにしている。

 「――なんだよ」
 「あんた――悪い人間だわ」
 「だろうよ――」
 「――無理に殺させる必要、あったの?」
 「ねえよ?――だけど、俺、良い子ちゃんって嫌いなんだわ。どいつもこいつもみんな皮はげば糞。糞の自覚無い奴がいいふりこいてペラ回すのって――ムカつかない?」
 「あんたと――友達じゃなくて本当によかったと思うわ」
 「俺――友達いねーしな」

 くだらないお喋りに飽きて俺はいつまでも惚けているクラウディアに告げる。

 「――おら、いつまでも惚けてんじゃねえぞ。黙ってたって次の殺しをしなくちゃなんねえ。休憩の後、エルドラドゲートに突入をかける。装備資機材の点検整備をすみやかに実施し備えろ」
 「はい……」
 「俺はそんな返事の仕方、教えた覚えはないぞ無価値の糞豚」
 「――はい、イエス了解」
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