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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第三部『宵闇の天幕編』

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脊椎でサブタイ考えるのもだるくなってきた。

 早朝とはいえ食堂は盛況なようだ。
 まあ、独身の人間も少なくはなくこれから一仕事始まる前にがっつり飯を喰いたいと思うのはわからない話でもない。
 ねぼけ眼で食堂の中をうろうろ回るビーストの給仕達が運んできたサーマリフォレス丼を受け取り、俺は箸を手に取る。
 向かいで先にもそもそとサーマリフォレス丼を食らっている赤い竜が味噌汁をずるずるとすすって大きく息をついた。
 久しぶりの味噌汁。しょっぱすぎてあんま美味くねえ。

 「でさぁ、東回りでいくか西ルート通るかどうしようか迷ってるんだよね」
 「ふむ」

 もしゃもしゃと謎肉を口の中で咀嚼しながらピンク色のガリみたいなたくあんを齧る。
 ふわっとした油の甘さがほどけ、ご飯が口の中ではらりと解ける。
 するすると喉を通り、弾力のある肉が痛烈な甘みを広げる。

 「東ルートだと遠回りだけど主要都市の履歴を抑えながらいけるんだけど、首都まで遠くて面倒くさいんだよ」

 ガリたくあん(俺命名)が口の中と胸の上に落ちる油の重たさを一瞬で消し、最後にニンニク風の香りが腹の底に落ちて肩の奥に力が漲る。

 「西回りだとファールバレーを超えていくルートになる。西回りは上空にワイバーン飛んでたり風が強くなったりで飛んでいけないんだって」

 二口目を口に運び、濃厚でありながら後味にほのかに柔らかい苦みを残してすっと消えるタレのコクに舌の付け根が震える。

 「うめえなこれ」
 「聞いてないだろー?あっちゃん」
 「いや聞いてるよ。西も東も面倒くさいって話だろ?」

 ちなみに、赤い竜が言っているのはネルベスカまでの移動ルートの話だ。
 ゲーム内時間と現実時間がリンクしていると言えば聞こえはいいが、体感している移動時間の長さが現実時間と一緒だと思うと、どうだろう。
 俺自体、お空を飛んでの移動は苦にはならないが赤い竜ちゃんの場合、そろそろ面倒になってきた頃合いなのだろう。

 「ちょっと首都ネルベントまで行ってルーラストーン作ってきてよ」
 「残念だが野菜村のルーラストーンが無いんだ。ちなみに俺、シナリオ進めてないからルーラストーンが無い。そして、シナリオ進んだけどルーラストーンくれない仕様だぜ?」

 町から町への移動は行ったことが無い場所の場合、最低一度は自分で歩いていかなければならない。
 一度行った町ならば町から町への移動は夜間にルナゲートを使って移動できるのだが大型の都市にしか無い上に、まだ機能が解放されていない。
 ウィキを見る限り3つの首都でのメインクエストを進めると使用可能になるらしいがメインクエストの仕様が違う俺達の場合、未だ解放されていないのが実情だ。

 「ルーラストーン……つかルナゲートの解放は早急にしておきたいところなんだがぬ。とりま、ネルベスカのメインクエ終わればルナゲート解放されんだろうか」
 「行って解放してきてよ」
 「いいぜ?別に、ただ、レアボス居た時の確定レアは俺もらっちゃうけどね」

 俺は軽く煽ったツモリだったのだが、赤い竜は鼻で笑う。

 「あっちゃんの引くレアってゴミばっかりじゃん。次、僕の考えた最強のゴミ箱もらってきなよ」
 「おまえ、それ言う?それ言っちゃう?俺、泣いちゃうよ?泣いちゃってもいいの?泣いたら、そのー、あのー、なんだ。先生に言ったりお前のお母さんに言いつけてやるぞ」

 軽く悲しくなった。

 「まー、どっちから行こうか悩んでるんだよねー。あっちゃんならなんか楽できるこう、さくっとうまい方法があるんじゃないかと思ってさー。あっちゃーん、なんかいいアイデアおくれよー」
 「俺はドぅるえもんじゃないから」
 「頑張ればできるだろう?どこでもドア出して-?」
 「頑張ってもどこでもポアしかできないから」

 もそもそと飯を喰い、くっちゃべりながらもどうしたものか考える。
 別段、急ぐ旅でも無いから東回りで行ってもいい。

 「別段、東回りでもいいんじゃね?道中のユニークモブ狩りながらレア集めながら進んでもいいわけだし」
 「あっちゃん天才だな」
 「気づけよ。ただ、西回りも魅力的だろう。ファルバレー超えたところが犯罪都市サンダウンバレーだろ?盗品バザーで9鯖ライオンがあればこっちの方が美味しいだろうし」
 「あそこカルマ無いと入れないやん」
 「俺カルマあるし」

 チューちゃん殴ったりエルフの兵隊全滅させてシコシコ稼いだプロフテリアエリアでのカルマがしっかり残っている。

 「あそこの街だと何やってもカルマ貯まらないからちょっと全滅させてみても面白いんじゃねーか?犯罪都市は基本、全エリア裏路地扱いだろ?」
 「街のNPCってゴミしか持ってないじゃん。ぶっ殺してもカルマ貯まるだけでリバックが少ないし」

 セーフエリアとして指定されている場所以外ではNPCを殺せる。
 とはいっても、大きな街ではセーフエリアでは無い場所の方が少なく、せいぜい裏路地がいくつか存在するかどうかくらいだ。
 逆に、セーフエリアじゃない街のエリアを『裏路地』といわれるくらいだ。
 略して『rz』と失意体前屈を示す『orz』から頭を切り落とした略称を考えるあたり2chの方々は皮肉が効いてらっしゃる。
 rzをたくさん作ったのは良い思い出。

 「プロrzで少しカルマ稼いできたら?どうせ陪審員に賄賂渡せばいつでもリセットできるんだから」
 「金がもったいねー」

 カルマが貯まるのは俺の趣味みたいなもので強くなるには別段、カルマを貯める必要が無いのが現状だ。
 飯を食い終わり、食後のフルーツ牛乳が出てきたあたりでシルフィリスがのそのそと食堂の中に入ってくる。
 だべっている俺達の姿をみつけるや近づき席につく。

 「マスター、買い出しを済ませましておきました」
 「え?指示したっけ?」
 「いえ、プロフテリア騎士団副団長のマーシー・セレスティアルがロクロータ様に頼まれた耐寒装備を購入されていたので参考にして揃えておきました」

 なんてできた子なんでしょうシルちゃん。
 うちのチューちゃんに爪の垢を煎じて飲ませてあげたい。

 「そんなお金あるんだったら俺にちょうだいよ!つかどこでそんなお金手に入れたの!?」

 なんてアホな子なんでしょう赤い竜ちゃん。
 うちのチューちゃんと同じくらい頭が悪いかもしれない。

 「いいじゃねーか。俺がいつもやってる準備をシルがやってくれてるだけの話じゃねえか。おそらくギルドのクエの報酬がパーティ支給されたときにでももらってたんだろ?それっくらい持たせてやれよ。こうして気を利かせて働いてくれんだから」
 「えー、あっちゃんにアイテム代出させるのがいいんじゃん」
 「甘えるなカスい竜。みみっちすぎんぞ」

 シルフィリスが同意する。

 「マスター、それはマスターの品位を落とします。竜神のレジアンであるのであれば金銭で誇りをどうか傷つけることのないように願います。多少の額であれば、私が工面いたします。マスターが些事に捕らわれることのないようにいたします。なので、どうか」

 静かに頭を垂れるシルちゃんマジ可哀想。
 つかマジでヒロイン力が高いな。
 どこか気むずかしそうな顔をしているが容姿端麗、気配り目配り心配りもできる上にでしゃばらない。
 潜在的なヒロイン力としてはうちのチューちゃんと比べたら失礼なレベル。
 なんで赤い竜のところにこういういい娘が来るんだろう。

 「ほらー、あっちゃんのせいだー。またシルがうるさくなった」

 だって、赤い竜ちゃんには全く響いてないんだから。

 「豚に真珠、猫に小判、赤いのにシルフィリスだな」
 「……それはどういう意味でしょうか?」

 どことなく俺の言葉の中に侮辱の意を捕らえたのだろう。
 シルフィリスが俺を静かに睨むが俺は肩をすくめる。

 「持ってても意味が無いって意味だよ」
 「私に対する侮辱でしょうか?戦女神のレジアンから見れば私はいささか見識に……」
 「逆だ」

 どこか必死なシルフィリスの頭をぽんぽんと叩くと、俺は席を立つ。

 「いずれにせよ、いずれにせよ、だ。今日中に準備だけしておいて明日にゃでれるようにしとかな。道中、砂嵐じゃなくて吹雪に遭遇すりゃ耐寒装備は必須になるだろうからきちんと準備しておくこと」
「えー、あっちゃん準備してくれんでねーのー?」
 「シルがしてくれるから俺がするまでもねーだろ」

 どこか面はゆく顔をゆがめるシルフィリスに何が面白くないのか赤い竜はふてくされる。
 席を立つとふらふらと店を出て行きながらシルに指示を出す。

 「わかったよぅ。シル、あとであっちゃんに確認とっておいてー、あっちゃん結構抜けあるから注意してなー」

 俺への当てこすりかよ自分で準備しろし。

 「あの……抜けがあったとして、私でわかるものなんでしょうか?」

 至極もっともな反論も聞かず店を後にした赤い竜に俺はため息を漏らす。
 テーブルの上の空っぽのかごを見下ろして俺は肩をすくめる。

 「自分で喰ったものくらい、代金払ってけよ」

 ◇◆◇◆◇

 ウィンミント不在といえど野菜村の商業ギルドは通常運行だ。
 それくらいの人材は居るらしく、数人のエルフが忙しそうに建物の中を書類を抱えて言ったり来たりしている。
 昨日出した指示のせいもあるのだろうが、今朝方、マーシーが俺の欲しがる耐寒装備を依頼したせいでもあるのだろう。

 「……今朝方、早馬を出したので夕方には届くかと」

 恐縮しながら俺に頭を下げるエルフの若者に頷くと俺はひょこひょことついて回るシルフィリスを伴ってギルドを後にする。

 「……強引に叩いて出させるのだと思いましたが」
 「お前も俺をキチガイ扱いかよ。キチガイなのは認めるけど俺、無いものが出てくると思う程バカじゃないのよ?夕方に届くっつーなら頑張ってるじゃねーか。頑張る子をいじめる程俺、アホの子でもないのよ?」

 無い袖は振れない。
 どうしても欲しければ自分で取りにいきなさい。
 ドラゴン使って買いに行ってもいいんだがそこまでする程でもない。
 採掘場の下見やら築城地点の様子も見てこなくちゃなんないから夕方に来るってんならそれを待っても別に困りはしない。
 やることの無くなったシルフィリスはふらふらと街の様子を見て回る俺についてくる。
 赤い竜から俺にチェックを受けろって言われた言葉を愚直に守っているんだろう。

 「夕方まで暇だろう。遊びに行ってもいいんだぞ」
 「いえ……ネルベスカに行くのであれば雪原を越える準備はきちんとしておかなければなりません」

 どこか真剣に告げたシルフィリスにふんむと頷く。

 「砂漠でも俺の持ってる水筒頼みだったし、まあ、準備はしっかりしとかんといかんわな」

 ――砂漠での狩りで赤い竜はまるっきりの俺の準備頼みだった。

 砂漠での休憩所の設営用のテントや水の用意、水冷ポーションの用意すらしないでのこのこ来るのは当てにされているからなのか。

 「ネルベスカの永久凍土は……人の生きていく場所ではありません。ロクロータ様はご存じでしょうか?」
 「まあ、ファミルラの時に少しはな。帝都ネルベント付近は初心者でも歩き回れるじゃないか。プロフテリアの国境を越えようとするとキャラバン使わないとしんどいけどな」
 「それでも溶けない雪は――ネルベスカにかけられた太古からの『呪い』です。もとより、人が住むべき場所ではない……だけど、そこでしか生きられない人も居るのです」

 どこか寂しそうに呟くシルフィリスの言葉を聞き流す。
 そういやどっかの国の王族だったという話を思い出す。
 それが、ネルベスカじゃないのだろうかといまさらながら気がつく。
 初期国家として存在するのがプロフテリア、ヴォルヴ、そして、ネルベスカの3つであるとするならば。
 プロフテリアの王城でお呼ばれした際にゃ確かよその国の王族だかで夜通しお話して帰ってきた。
 ヴォルヴについては何の相手にもされてなかったし、むしろテンガが王族だった。
 残るは消去法でネルベスカなんじゃねーのかなと思った訳だが。

 「お前さん、そういや王族だって話だったよな?ネルベスカの王族なのか?」
 「はい。正式には、王位継承権を持つような人間ではありません。ですが、王族かどうかと尋ねられれば間違いなく王族に類する者となります」

 どこか歯にひっかかる物言いだ。

 「王族なのにイリアになっちゃって赤い竜ちゃんのお守りとか。人生の勝ち組から人生のドブ攫いに落ちたようなモンだぬ」

 何か言いたげなシルフィリスを放っておいて俺は街を出てフルフ渓谷の方へと足を進める。
 夕方まで時間はあるから今のうちに採掘所の様子を見ておこうと思ったからだ。
 採掘所までの道を鳥車を護衛するエルフや騎士に連れられたビースト達が鼻歌を歌いながら行き来する。
 インゴットに加工されたアダマス鉱石を運び込むところなのだろう。
 やがて森が開けて、大きく切り開かれた平地に大きな加工場ができあがっていた。
 カンカンと響く金槌の音や、むせるような炉の熱さが外にまで伝わってくる。
 荷車に積まれて運び混まれたアダマス鉱石をたくさんのエルフ達がインゴットに加工している。
 荷車から鉱石を降ろしたビースト達を追えば、フルフ渓谷の断崖絶壁に作られた採掘場に辿り着く。

 「ほーう」
 「これは……すごいですね」

 鉄骨で組まれた足場に簡素なエレベーターが設けられている。
 エレベーターで運ばれたアダマス鉱石を加工場に荷車で運ぶビースト達が列を作っている。
 そのエレベーターの横には階段が組まれ、組まれた階段の踊り場から作業用の足場がフルフ渓谷の断崖に沿って伸びている。
 幾重にも重なって伸びた断崖から横に掘り進む作業は昔見たアダマス鉱石の採掘場のそのまんまの形状だ。

 「あれでは深く掘り進んだら足場が崩れそうですね」
 「掘り尽くしたら上から順に崩していく。アダマス鉱石の地層は固いから掘り尽くすまで足場として崩落しないんだと」

 アダマス製のつるはしを肩にかつぎ、ぶかぶかのヘルメットをかぶったビースト達がきゃっきゃと騒ぎながら坑道の中に入っていく。
 それらを指示するエルフ達は照りつける日差しに汗を拭いながら坑道をどう掘り進めていくか検討していた。

 「エルフに指揮させて坑道を掘ってますね」
 「まあ、ビーストに勝手気ままに掘らせてたら崩落するだろうしぬ」

 俺はしばらく作業の内容を眺め、ひとしきり納得すると山頂を目指すことにした。
 途中、一度山道に戻るとインゴットを運び込む鳥車とすれ違い、また、道無き道を歩くくとにする。
 途中、いくつかの薬草を採取しながら山頂を目指し昼を過ぎて腹が少し寂しくなる。

 「……ドラゴンを召喚して飛べばよいのではないでしょうか?」
 「質問です。お前さんがあの山頂にある城を攻めるとしたらどうするでしょうか?」

 小高い丘の上で、ラビラッツの肉を挟んだサンドイッチをシルフィリスに放り、俺は同じ物を齧る。
 いつかチュートリアにも教えたが、エクスブロ火山に構えた城を落とすルートは三つ。
 フルフ渓谷からの遡上、空挺部隊による上空侵攻、そして、ザビアスタ森林の踏破。
 前二つは哨戒活動をしていれば簡単にその規模と進撃時期を計ることができる。

 「……侵攻ルートの確認、ですか」
 「正しくは迎撃地形の把握だな」

 最後のザビアスタ踏破はいくつもの伏兵を偲ばせて今上げた二つのルートと同時に行うこともできる。
 切り込みに対して、切り返すには同じ切っ先を用いるのが最善手。
 最も過酷な戦場の一つになる。
 だとすればそこは俺が戦わなければならない場所だ。
 やがて辿り着いた城の建設予定地で俺は感嘆の声をこぼす。

 「本格的だな」

 切り立った崖を掘り、掘った地盤をアダマスの外壁でコーティングしている。
 作業に従事するエルフが複雑な設計図を見ながらビーストに指示を出し、対して作業をするビーストもその複雑さに何度も確認を取っている。

 「……城の建造にしては構造が複雑ですね」
 「断崖を掘って最下部のフルフ渓谷侵攻用に迎撃船を用意しなくちゃなんねえ。無論、海運を利用するから港としての機能も有していなければならない」
 「ですが、それは基礎となる城を建造してからでも遅くないのでは?」
 「海運が使えるようになれば資材の搬入が楽になる。そうすりゃ築城の速度も上がる」

 俺は築城の様子を見るシルフィリスが何かに気がつき、それが何なのかわからないもどかしさを知りながらあえて教えなかった。

 「城の構造としては複雑ですね。何でこう、いくつものブロックを作って無駄なスペースを?」
 「後から足し増しするよっか、最初から完成形を定めてるからさ」
 「設計図を見た限りでは……有事の際の逃走用の秘密通路も無いようですが」
 「敗走なんざ、あり得ない。いや、面白く無い」

 俺はにやりと笑い、肩をすくめる。
 進捗状況だけを確認し、俺はエルフの作業指揮者と軽く打ち合わせをすると戻ることにする。
 今日一日、ついてきたシルフィリスはずっと俺を計るように俺を見ていた。
 何かを悩んでいるのは理解できる。
 というより、シルフィリス自体、常に何かを悩んでいる節はある。
 悩みを聞けば相手は楽になる。
 という綺麗事の戯れ言をほざくバカが俺の世界には沢山居た。
 苦しむ悩みなんざ口にした途端、現実を再度認識してもっと苦しむだけだ。
 聞いた相手は他人事として悩んでる人間を見て優越感に浸れるんだろう。
 相槌を打つだけでいい、なんざ聞いたこともあるが、その相槌で問題が解決する訳でもない。
 悩んでいる人間は問題を解決して欲しいのであって、別に聞いてもらうことを求めている訳じゃあない。
 職場の後輩の女の子に聞いたことがある。

 ――女の場合、聞いてもらいたいだけであって結論は出ている。

 どうしてそんなことをするのかとも思うが生き物が違うと言ってしまえばそれまでか。
 男だとしても話せる悩みなんざ、どうにでもなるくだらない悩みでしかない。
 解決してやる気がなければ、聞くモノでもない。
 えっちらおっちら山道を降りて日が傾く頃にはドラゴンで降りてくればよかったと後悔。

 「……ロクロータ様」

 もう野菜村が見える頃にシルフィリスが口を開いた。
 振り返って見れば思い詰めた様子でシルフィリスが俺を見ていた。

 「私は――どうすれば、マスターの力になれるでしょうか」

 いろいろと方法はある。
 それを言えば、シルフィリスはそれを選択するだろうし、赤い竜も躊躇はしない。

 ――だが、その中で確実に変わるものがある。

 そう考える俺も大分変わってしまったのかと妙に冷めた。
 だが、しかし、それでもやらなくちゃならないことを自分で決めていることからは逃げられない。
 俺は肩をすくめて答えてやった。

 「チュートリアは俺の役に立ってるように見える?」

 シルフィリスは難しい顔をして俯く。
 俺はシルフィリスを放って野菜村に戻ることにした。

 「……イリアの力をもってしても、何も、かわらない」

 何を悩んでるのかはわからん。
 悩んでいるとしても俺がどうこうできるものでもないし、どうこうしてやる気も無い。
 そもそも俺はこの世界にお客様として拉致られてる訳で彼らは本来、俺を楽しませるNPC。
 お節介ゴッコをして楽しんであげてもいいが、それは俺の趣味じゃない。
 どこか後ろ髪を引かれる気まずさを引き、俺はため息で消し飛ばすと歩を進める。
 どこか沈痛なシルフィリスの呟きを無視して俺は広場に赴く。
 そこで、俺は珍妙な光景に出くわした。

 「――ヒロイン力とはすなわち愛なのですね!」
 「わたくし、眉毛様に出会えて今までの自分がいかに無様であったかを思い知りました!」

 チュートリアと便所コオロギが膝を折り、井戸の縁に立つ小さな人影に手を組み涙を流していた。

 「そう、愛。私たちヒロインは形、姿、そして生い立ちも全て違う。だけど、私たちの中には必ず――愛があるの」

 いや、頭はゆるふわだとずっと思ってたんだ。
 だけど、なんつーか、ね。

 「あ、マスター!お帰りになられたのですね!」
 「おかえりなさいませロクロータ様!」

 どこか周囲に花を散らしながら浮ついた便所ヒロインどもが俺を見つけて駆け寄る。

 「マスター、私は目覚めました!私には愛が足りなかったんです!無償の愛の行動の中にこそヒロインがあるのです。マスターを愛し、慈しみ、そして思う。愛、そう、愛!素晴らしいと思いませんか?」
 「そう、愛です。愛が世界を救うのです。我らヒロイン教の他人を愛する清らかで、曇り無き心が世界を救うのです」

 ふつふつとじんましんが浮かぶ肌を押さえ、俺はぶるりと身を震わせて距離を取る。

 「彼ら童貞は愛を知らないまま育った哀れな子供達なのです。彼らが何を言おうと、どんな振る舞いをしようと。我々ヒロイン一族は愛を持って彼らに接しましょう。彼らは所詮、子供。子供が私たちに甘えて行う振る舞いだと思えば、どんな行為も愛おしく思える。彼らの行いを包み込む優しさ――それが、愛なのです」

 もはやヒロインっつーかヘロインキメたヤク中みたいに目が逝ってる。

 「はい!眉毛様。愛!愛なのですね!マスター可愛い可愛い♪おいでおいでー私の胸にうぇるかむ?」

 ぞわりと背筋が凍る寒さに俺は後ずさる。

 「ロクロータ様?逃げなくてもよろしくてよ?私たちは愛でもってあなたの行いを受け止めるわ」

 シルフィリスが流石にため息をつく。

 「……平和、なのですね」
 「平和ボケって言葉があるが……もはラリってんな。病院作ってあげようかしら」

 俺はチェーンソードを構えるとギュインギュインと唸らせる。

 「あれ?眉毛様?なんでマスターはお怒りなのでしょうか?」
 「眉毛様、ロクロータ様はなぜか我らを殺す気満々でございます」

 眉毛は静かに髪をかきあげて告げる。

 「童貞を超えた童帝は未だ、愛を知らないの。でも、安心して。愛の力は普遍、そして無限。恐れることなく愛を与えなさい」
 「「はい、眉毛様」」

 なにがどうなってこうなったし。
 だが、過程はどうあれ結果は結果。
 結果に対してのリアクションが次の結果につながるわけで。

 「マスター、私はそれでも愛をマスターに――」
 「私は愛の力でロクロータ様を惑わしお姉様を――」
 「――俺の世界の愛の伝道師が『右の頬を叩かれたら左の頬を出せ』と言った」

 どこか不吉な響きにアホ二人が脂汗をたらたらと垂らし始める。
 俺は淡々と告げてやる。

 「最高の愛の言葉だよな?だけど俺はこれ大っ嫌いでな?これ、叩かれる方は最悪で、叩く方は最高に飯ウマじゃね?これ言った奴、最高に悪い奴だと思うんだ」

 色んな人が怒ると思うがそこはそれ、その人の言った言葉通り俺に叩かれ続けて欲しい訳でブーメラン乙。

 「おう。ラリパッパども。しっかり受け止めろよ?死んでもやめねーから愛してくれやがっとーざへぅ」

 現実を見始めたアホどもが脂汗を滝にして、後ずさろうとするがもは遅い。
 俺はラリパッパより凶悪なのがキチガイなのだ。

 「もう一ついいことを教えてやろう――うちのじいちゃんが言ってた。壊れた物は斜め45度から力一杯叩くと直ることがあるらしいぜ?w」

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