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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第三部『宵闇の天幕編』

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赤い竜をCQCでナイフ解体

 一度決め台詞が決まるととにもかくにも使ってみたくなるのが心情。
 俺に見つかってしまったマノアを引き連れ、風呂からあがったチュートリアを拉致して街の外まで連れて行く。
 無論、赤い竜とシルフィリスも一緒だ。

 「イリア、なんだか少し臭くねっすか?なんていったらいいんスかね?田舎の香水?」
 「まだ匂い取れてない?取れてない?」

 確かにまだ僅かに臭う。
 眉を潜めるマノアに俺は応える。

 「一体何があったんスか?」
 「それは自分の中のドラゴンだけが知っている」

 かっこよく決まった決め台詞に赤い竜が悔しそうな顔をし、他は微妙な顔をしている。
 野菜村も広くなってしまった故、以前にチュートリアをフルボッコにした草原ももはや野菜村の一部と化し、木々の生い茂る森林の中で俺達は武器を広げることにした。

 「あ、あの師匠?一体これから何を?」
 「何をって、お前さん達がどれっくらい強くなったか見るんじゃねえか」

 赤い竜もこういうときは準備が早く、もはや臨戦態勢である。

 「俺も赤い竜もなかなか殴り合う時間がねえから、こういうの大事にせなな」

 今回のヴォルヴ遠征で色々と自分にも課題が見えてきた。
 これまでファミルラで培ってきた技術だけでは攻略できないことを知った。
 だが、逆に『今の状況』だからこそできることを武器にできることも知った。
 ならば、それらを実戦で使えるようにチューニングしてやらなければならない。

 「師匠のイリアをまたぶん殴ればいいッスか?」

 どこか余裕そうな表情で笑みを浮かべるマノアが大剣を肩に担ぐ。
 マンダルア巡礼を済ませ、レベルカンストしたマノアにとっちゃ以前のチュートリアなど敵ではないだろう。

 「ネルともう一度、ですか……」

 以前に全く歯が立たずフルボッコにされているチュートリアとしてはどこか自信がなさそうだ。

 ――俺としては一つの実験でもある。

 「まずは、模範演舞でもしたげましょうかい」
 「だーぬ」

 育成も大事だが自分がやっぱり一番大事。
 俺も赤い竜も自分が新たに作った技術をぶつけてみたくてウズウズしている。
 獅子の盾を腕に固定し、チェーンソードのトリガーを引く。
 うなり声を上げるチェーンソードが凶暴に煌めき、俺はスプリットヘルムを被る。
 相対する赤い竜もドラグウェンデルを引き抜き、ドラゴンウィングシールドを大地に突き立てる。

 ――オーソドックスなナイトスタイル。

 だが、お互いがお互い、裏タブに何を潜ませてるかまではわからない。

 「今回はスクエアの練習じゃねえから本気で行くぜ?勝てる気でいんなや?」
 「来な?叩き潰してやんよ。勝ち負けの結果なんて――」

 お互いが獰猛に笑い、告げる。

 「「それは自分の中のドラゴンだけが知っている」」 

 ◆◇◆◇◆

 「「ハッ――」」

 互いに様子を見ることなく、開始の合図と同時にダッシュで肉薄する。
 ローグ系は腐っても遠距離職。
 距離を取ればジリジリと削られ、嬲られるナイト系はいかに距離を詰めるかが課題である。
 だが、対して俺は近接ローグである。
 遠距離での応酬を磨くくらいなら近接での選択肢を増やすことに決めた。

 「「コール――」」

 互いの一手は悔しいほど一致してしまった。

 ――ペット召還によるブラストノック。

 召還時に発生する衝撃を利用した広範囲牽制。
 だが、俺はステップで、赤い竜はガードでそれらを躱し、防ぎ、互いに視線を交わす。

 ――召還はあくまで『チャットコマンド』で行い、キャラクターのモーションとは関係無い。

 だからこそ、一撃を入れながらこうして無理矢理に回避行動に入ることができる。
 そこに赤い竜も最早気がついていたようだ。

 ――互いのドラゴンが吠える横で俺はチェーンソードを伸ばす。

 ここからは単純に技術が物を言う殴り合いだ。
 通常攻撃の『誘い』に乗らず、切っ先が鎧の上で火花を散らす。
 そのモーションの終わり際に『バッシュ』を重ねて来たが俺はその『バッシュ』を『ジャストガード』からの最速ステップで抜ける。

 ――ステップからのスクエア『スラッシュ』で赤い竜の周囲を巡る。

 最初の『読み合い』に負けた赤い竜が『サークルエッジ』で仕切り直しを図る。
 その瞬間にムーンサルトで唯一『サークルエッジ』の当たり判定が出ない位置――赤い竜と『同じ座標』にステップで逃げ込む。

 ――画面を通して得られる情報より、遙かに多い情報量。

 キャラクターの肩越しではない有視界の狭さから来る不利より、リアルタイムで動く相手の挙動を見切ればより、戦闘は『高速』になる。
 魔王のイリアである『アターシャ』を想定するのであれば。
 レベル50カンストの今であれを倒すことを『決めた』のであれば。

 ――より意識を研ぎ澄まし、この『高速戦闘』を物にするしか、無い。

 バッシュで赤い竜からスタンを奪うとムーンサルトで即座に追撃をかける。

 「――ッシャァ!」

 ムーンサルトからの『ダウンスラスト』、壁蹴り『ダウンスラスト』
 着地してからの『スラスト』も叩き込み、『ダッシュ』で駆け抜ける。

 ――この間、僅かに3秒。

 スタンから復帰した赤い竜も早い。
 即座に『ダッシュ』で肉薄し、通常攻撃を振るって来る。
 俺がステップでそれを避けようとすると通常攻撃を『シールドダッシュ』でキャンセルして回り込む。
 肩を掠めたシールドの衝撃が俺を吹き飛ばし、そこから『レイジスラスト』でさらに回り込む。

 ――大きく回り込んだ『レイジスラスト』の軌道に目を見張る。

 ジャストガードを狙ったガードが僅かにタイミングをずらされ、『ガード』となって体に衝撃を覚える。

 ――『ノンロック』による軌道制御。

 高速で移動する相手を捉えるために、あるいはアクションゲーム初心者の救済措置として相手を『ロック』して攻撃を当てやすくするシステムがある。
 それは近接戦闘でも同じでダッシュやレイジスラストといったスキルはロックした敵に向かっていく特性がある。
 無論、『ロック』を切った使い方も存在することには存在していた。
 縦横無尽にダッシュしたり赤い竜のように攻撃スキルを移動スキルとして使用するには『ノンロック』で放つのがセオリーだ。
 が、しかし、赤い竜がやったのは『ロック』して方向を決めた後、『ノンロック』で軌道を変え、再び『ロック』して相手にぶつけるといった方法だ。

 ――システム的にラグの少ないエルドラドゲートの仕様、そして『今の状態』を最大限に利用した手段。

 僅かな『時間』を操作する『手段』は『高速』であるからこそ『強力』な手段となりえる。
 続く連撃をガードで凌ぎ切るとそこからお互い、通常攻撃を振るおうとして弾かれたようにステップで距離を取る。
 ここまで踏み込まれればいくらローグといえどダッシュで引き離すことは叶わない。
 逆に、互いが互いの一撃を決めるには有効な位置と言える。

 ――互いに研ぎ澄ました『技術』をぶつけ合い、さらなる『高み』へ。

 人のみが持ち得る『発想』を駆使し『ライン』の先を目指すのであれば。
 俺は両腕を広げ、武器を持ち替える。
 右手をあけ、逆手には――ナイフを。
 赤い竜は両腕に――やはり、自分のスタイルを貫き通す――ドラグウェンデルを。

 「――決めようじゃねえか」
 「だぬ」

 俺たちは互いに獰猛に笑うと最後の一手を決めるべく弾かれたように駆けだした。

 ◆◇◆◇◆

 勝負は一瞬で決まった。

 「ねーわ!あれねーわ!」
 「姑息と言うなら姑息と言えばいい。死体に口無しー♪」

 勝負の結果にぶーぶーと文句を言う赤い竜だがその気持ちはわからんでもない。
 かつて、俺が近距離ローグ戦で油断して唯一遅れを取った手法をそのまま、そう、そのまま赤い竜に使ってやっただけの話。

 「短剣に麻痺毒しこんであとフルボッコとかねーわ!ねーわ!」
 「言ったじゃねーかw何でもアリだってw50カンストまでだったら耐性装備揃わないからこれも有効な戦術なんですーw」

 ダッシュしてきた赤い竜を右手『疾風正拳突き』でカウンター取ると見せかけてステップキャンセルで背後からホールド。
 後は相手が麻痺るまでひたっすら刺して麻痺ったら毒短剣に持ち替えて毒を差し込みナイフをゆっくり装備解除した上でホールドからの『締め上げ』。
 毒のスリップダメージの他に締め上げによるスタミナ減少、スタミナが無くなれば微々たる量だがHPにもダメージが入る『締め上げ』で死ぬまでギシギシしてやればいい。
 数秒の行動不能より凶悪な『麻痺』は文字通り致命的なバッドステータスだ。
 行動速度が遅くなり、時折はいる行動中断の瞬間的スタンにより『ホールド』からの振り解きができなくなる。
 元々ローグは『デバフをかけてじっくり相手を嬲る』ことに特化した職業でもあるからその基本に忠実に立ち返っただけの話。

 ――だが、実際やられてみるとこれ相当に腹立つから赤い竜の気持ちもわかる。

 「短剣見たらデバフを疑えって教わらなかったっけ?」
 「麻痺しこんでるとは思わねーよ!普通、『即死』仕込むでしょうに!」
 「即死耐性はアンパイ取るなら欲しいだろ?その心理を逆についてみました」
 「これだから毒ローグ嫌やわー」

 赤い竜を下した俺の戦術をどこか惚けた様子で見ていたシルフィリスが尋ねる。
 チュートリアやマノアに至っては何が起こったのかも理解していない様子。

 「あの、ロクロータ様は何故短剣を選び、マスターを下せたのでしょうか」
 「短剣ってのは威力が少なく、手数が多い。そりゃ刃渡り少ないから普通の剣より威力も少ないわな。しかも値段も安いときたもんだ」

 短剣カテゴリは一時、その使い方がわからない連中から『産廃』言われてた時代がある。

 「だけど、その手数の多さを逆に利用したのが『毒』を使用したデバフ必殺CQCの組み上げだったんだ」

 短剣の神髄は毒と格闘を組み合わせたコンボである。

 「短剣の特性として今言ったように、刃渡りが少ない。つまり、ポーション作成スキルの副産物、『毒』生産で作った毒を鞘に仕込むと刃に毒が付着して斬りつけた相手にバッドステータスを生じさせることができる」

 俺は鞘に毒を入れて実演してみせる。
 引き抜いたナイフの刃は薄く紫がかって光を反射した。

 「通常、片手剣なら毒一個につき2回まで、大剣なら1回までで毒自体、耐性のある相手には効かないし発動も確率で信頼性に欠ける。だけど短剣は納刀モーションまでの間に10回まで効果が持続する」

 俺はぼうっとしているチュートリアを掴み、その背後から短剣をねじ込んでやる。

 「ぎにゃぁああ!」
 「片手をあけておけばこうして『ホールド』から『バックスタブ』で『急所狙い』――俗に言う『レバ刺し』ができるし、『レバ刺し』状態だと毒の発動率が跳ね上がるから毒の効きもよくなる」

 必至にもがいて逃げようとするチュートリアを逃がし、ステップで距離を取るとその額に向けてナイフを放る。

 「他にもこうして『投げナイフ』で『ヘッドショット』を狙うこともできるし、これも当然、毒発動の確率は上がる。つまり、ナイフイコール『毒』の図式が成り立つくらいナイフと毒の相性は良いんだ」

 地面に泡を吹いて倒れたチュートリアに解毒ポーションを投げつけ、俺は肩をすくめてみせる。

 「もちろん、弱点もあり耐性のある装備をされると毒は全く効かなくなるし、毒自体、プレイヤーが頑張れば自分で耐性をつけることもできる。高レベル相手には全く刃が立たなくなるが高レベルの短剣の威力で『レバ刺し』をされればそれだけで相手を封殺できることもしばしば」
 「……私を実験台に使わなくても」

 よろよろと起き上がるチュートリアが恨みがましい目で俺を見てくるがこういうのは実体験で覚える方が早い。

 「短剣のいいところは街中で持ち歩いてもNPCの警戒が増えないところ。街中での帯刀はNPCが警戒することの方が多いけど、短剣は帯刀しててもNPCが警戒しないからな。それに超軽荷になればスタミナの減りも少ないうえに軽業のクールタイムも減少かかるからよりアクロバティックに戦える」

 行き着く先は一撃必殺なのだが、こうした『選択肢』も持ち得ておけば戦いの幅が広がる。
 広がった幅でこうして『勝ち』を拾っていくこともできる。

 「ちくしょー、あっちゃんが短剣習熟するのはわかってたんだけどローグ相手に負けるとか、ないわー!あっちゃんが『侍』なるまで大丈夫だと思ってたんだけどなぁ」

 赤い竜は俺が何故『短剣』のスキルを上げるか理解しているようだ。
 基本、一つの選択肢を徹底的に磨く『スタイル』は俺も赤い竜も変わらない。
 だが、その『選択肢』のために数多くの『下積み』が必要なのが俺の『選択肢』なのだ。
 赤い竜が悔しがる中、俺はようやく復調したチュートリアとマノアを顎で示して指示する。

 「さて?模範演舞はこれまでだ。どれ、お前ら遣り合ってみ?」

 俺は果たして『AI』が『人間』に迫れるかどうか。
 それを改めてみることにした。

 ◆◇◆◇◆

 チュートリアとマノアはどちらともなく武器を構え、静かに距離を取る。
 ヴォルヴ遠征以降、互いに顔を合わせることはなかったが、どちらにも積んだものがある。

 「へっへー、マンダルア高地に無駄に拉致られた訳じゃねえッスよ?」

 マノアの手の中にある大剣は以前のスチールブレードとは違い、ハードブレードになっている。
 ハードガントレットにハードグリーヴ、胴体をネェルレザーブレストに変更し、軽装テンプレのバケツテンプレに近い形になっている。

 ――レベルを向上させたことで装備が変わっている。

 自分で稼いだ金でより強くなるための工夫をしたのだろう。
 エンチャントこそされてないが基礎スペックが向上している。
 元よりAI自体は悪くなく、様々な手を組み合わせて使う下地ができている。
 だが、基礎スペックが不足しているが故に、戦力として見れば『使えない』状態だったのだ。
 だからこそ、マンダルア高地でのレベリングをひたすらさせた。
 基礎スペックが伸びれば伸びた分だけ強くなれるからだ。

 「……行きます」

 対してチュートリアは基礎スペックこそ俺とのレベリングで高かったが、圧倒的に戦闘を行うAIが弱かった。
 最近こそ、一日一時間を目安に俺との対人戦をして練度を上げているが一朝一夕でこれが身につくものでもない。

 「……あっちゃん、何か企んでるの?」
 「まあ、見てろって」

 俺も確信を得た訳じゃないから赤い竜にはそれだけしか言えない。
 どちらともなく動き出したことから、俺は二人の戦闘に集中した。

 ――先に動いたのはマノアだった。

 ダッシュで距離を詰めると、チュートリアのシールドがガードの体勢に入るのを待って側面から『レイジスラスト』。
 基本的なナイト系を相手にする時の立ち回りだ。
 レイジスラストの切っ先が届くのに併せてチュートリアが『スウィング』で応じる。

 「なっ――!」

 互いにノックバックし、チュートリアが槍を突き出すのに併せてマノアがステップで距離を取る。
 そこにすかさず『シールドダッシュ』で肉薄し、マノアの『サークルエッジ』に併せて『バッシュ』で弾き飛ばす。
 よろけたマノアに追撃で『ピアッシング』を丁寧に突き込むと、ステップで距離を取り自分に『ヒール』を飛ばす。

 「――『閃光』っ!」

 自分が押されてるとわかったマノアは腕のワンダーバングルに触れて閃光を飛ばす。
 だが、チュートリアは冷静にヘルムのバイザーを下げてそれを躱すと、踏み込んできたマノアの『射程圏外』から槍の穂先を突き込んで連撃を決める。

 ――大剣と片手槍ではその範囲はほぼ同じ。

 だが、唯一片手槍が優れる利点があるとすれば『攻撃モーションの早さ』だ。
 ヘビースタンド持ちの相手であればひるみが無いから押し切られるが、軽装相手であればこうして牽制して相手の出鼻をくじくこともできる。
 流石にマノアもチュートリアがこうした手管を取ってくるとは思っていなかったようだ。

 「――フレアボルトっ!」

 距離を取り魔法で牽制し、さらに距離を稼ぐと木の背後に隠れ武器をクロスボウに持ち替える。
 チュートリアは釣られることなくゆっくりと弓に持ち替え、バングルを触り自己強化バフをかけてゆく。

 「――ブレッシング、ホーリーヴェイル」

 自己パラメーター増強と防御力増加。

 ――テンプルを相手にして一番厄介なのが自己強化バフの存在だ。

 これまでチュートリアは自分の職である『テンプル』がどんな存在なのかを全く知らないままに使用していたから、自己バフをかけることをあまりしなかった。
 だが、何度も何度も俺に叩かれるうちにようやくその本質を掴み、自己バフをかけることを覚えた。

 「勝負あったぬ」

 赤い竜がそう断言する。
 俺もその見解に同意する。
 木の影から飛び出たマノアがクロスボウでチュートリアを狙撃するが、チュートリアはそれが刺さるままに弓を撃ち返す。
 ノックバックからそのまま木の陰へ転がり込んだマノアに対し、チュートリアは悠然とヒールで今のダメージを回復し矢をつがえてマノアの出現を待つ。

 ――クロスボウは威力、連射力こそ高いが射程と威力は長弓の方が上だ。

 いつまでも木の陰から姿を現さないマノアは多分、チュートリアに対して攻めあぐねているのだろう。
 ポーションによるダメージ回復を図りながらも、自己バフ、ヒールを備えたまともなテンプルを相手にしたのはこれが初めてなのだろうか。

 「……仕掛けます」

 チュートリアが弓を引き絞り、上空に向ける。

 ――弓の範囲スキル『アローレイン』

 それは障害物の影に隠れたマノアの上空から降り注ぎ、マノアをいぶり出す。
 『ローリング』で姿勢を低くして障害物から障害物の間へと渡るマノアに幾度となく浴びせられる『アローレイン』

 「なんなんスか!これ、あのイリアだってんッスか!」

 持久戦になればなるほどマノアが不利になっていく。
 やがて、痺れを切らしたマノアがクロスボウを片手にダッシュで肉薄しようとしたところをチュートリアは静かに狙いを定めた。

 「――『ホーリーシュート』っ!」

 ――迸る閃光が、マノアの額を貫いた。

 ◆◇◆◇◆

 俺や赤い竜からしてみれば当然の結果なのだが、流石AIといったところか。
 マノアにしては何がどうしてチュートリアに負けたのか理解できていない。
 そして、その結果に一番驚いているのはチュートリアだった。

 「か、勝った?」

 喜ぶより先に疑問が沸き上がる。
 前回、一方的に嬲られたのがうってかわって今回、マノアを封殺する形になった。
 逆にマノアは何故一方的に封殺されたのか理解できてないようだ。
 シルフィリスが静かに目を細めて分析する。

 「……テンプルとはあのような戦い方をするのが本当の形なのですね」

 赤い竜は思いっきり欠伸をすると俺を見る。

 「で?どういう意味あんのこれ」
 「前回と比べてチュートリアも大分動きがこなれて来たろ?育て方次第によっちゃ――中身入りよりあてにできんじゃねえかなって思ってな」

 赤い竜が苦笑する。

 「そりゃ無理なんじゃね?」
 「今の状態ならぬ。ようやく初心者並に動かせるようになった程度だしぬ」

 だが、初心者以下から初心者だ。
 僅かながらにも成長する手応えを感じ俺はひとまずの成果を覚えた。
 マノアはようやく意識を取り戻し、草の上で身を起こすと頭を振る。
 俺はその頭をチェーンソードの腹で叩き、鼻を鳴らす。

 「慢心したな?言ったろ、本来ならテンプルはスレイヤー系を封殺できるって。お前、俺が言った大剣に特化するって話、忘れてンのか?そんなちゃちな豆鉄砲抱えるくらいなら死ぬ気で突っ込め。テンプル相手に詠唱許せばずるずると不利になるだけだ。バッカじゃねえのお前」
 「でも師匠っ!」

 俺は反論しようとするマノアを捨て置いてチュートリアに向き直る。

 「基本が出来てきたな。だが、まだバフが遅い。自己バフはかけられるタイミングで全部かける。余力があれば他人にもバフをかけなくちゃいけないんだ。相手の動きを良く見るのもいいが相手の動きに合わせるんじゃなくて自分から相手の動きを作っていく動きをしなくちゃ簡単なフェイントで崩されンぞ」
 「は、はいっ!」

 惚けたチュートリアが気を持ち直す。
 マノアに至っては最早泣きそうな顔をして俺を見上げている。
 俺はコキコキと首を鳴らすとチェーンソードとガトリングを装備すると嫌らしい笑みを浮かべる。

 「どれ、ちっくら二人がかりでかかってきな?面倒だから今日の訓練は二人相手にやってやんよ」

 赤い竜との第2ラウンドまでに徹底的にIRIAを叩くことに決める。

 ――マノアについては意識を高めるため、チュートリアに至っては慢心を防ぐため。

 どこか赤い竜がつまらなさそうに口を尖らせたが、シルフィリスだけはじっと俺の動きを見つめていた。

 ◆◇◆◇◆

 ちょっとはっちゃけすぎて気がつけば日が暮れそうになっていた。
 ぜえはあと荒い息をつきながら今にも死にそうなのはチュートリアとマノア。
 どこか面白くなさそうなツラをしているのは赤い竜と俺だ。

 「ローグに3割落とすとかねえわ」
 「うるっせえ、少なくとも5割までもってくツモリだったんだが……」

 騙し手が通用するのは一度か二度くらい。
 その騙し手で手堅く勝ちを拾っていけばそうそうヘビーナイト相手に負けは無いはずなのだが――

 「単純な読み合いでも結構負けてんのがなぁ……」
 「読み合いに勝てれば確殺なんだけどなぁ……」

 火力自体が確殺ラインを超えているヘビーナイトでは少々分が悪い。
 だが、確実な手応えも感じたのでまだまだ技術を洗練させていけば食い下がれるはずだ。

 ――そうなればブレイバーで真価を発揮できるはず。

 「ぜぇ、ぜぇ……し、師匠は化け物ッスか……」
 「はぁ、はぁ……一度も、一度も槍がつかなかった……今まで手を抜かれてた……」

 1対2というハンディを与えたので少々、本気を出してしまった。
 というより複数戦のセオリーである『殺れる奴から殺れ』を徹底しただけの話なので、別になんということはない。
 それより、1対2で一度もダメージを与えられないことの方が重要だ。

 「お前ら本当にバカな?1対2なんだからどっちか片方が防御に徹してその間にもう一人が攻撃すりゃ簡単に当たるだろうに。そこに確殺火力をぶち込めばいいだけの話なのに全然連携取れてねえよ。あんなんじゃ勝てなくて当然」
 「そりゃ師匠に勝てるなんて思っちゃいねえッスよ?あのマーシー・セレスティアが本気で心酔してるって話ッスから。あんなの倒す人に私ごときが……」
 「負け犬は一生負け犬。俺に負けるなら他にも負けることを許す。勝てる戦いに勝つのは当たり前。勝てない戦いをどう勝とうとするか。勝ったら勝ちを繰り返せばいいだけの話。マノアちゃんそのうちゆるふわメンタルのチューちゃんにすら勝てなくなっちまうぜい?」

 俺が煽るとマノアが顔を真っ青にする。

 「こ、これにッスか!?これに負けるッスか!?自分がぁ!?き、今日のは立ち回りが悪かっただけッス!イリアにだけは負けねッスよ!」

 マノアにさんざっぱらバカにされてチュートリアが睨む。

 「……これでもマスターに毎日殴られてるんですからね。少しづつでも強くなってるんです。ネル相手にだって今日は勝ったしこのままいったら相手にならなくなるかもしれませんねー」
 「むっかー」
 「ふんす!」

 いがみ合う二人の様子に俺は鼻を鳴らし、肩をすくめる。
 遅れて歩くシルフィリスがどこか難しい顔をしている。
 今日中に準備をすませようと思ったがこれは明日になりそうだ。
 半日とはいえ一日一杯殴り合いしてどこか疲れた。
 それは赤い竜も同じようで最早欠伸をしている。

 「今日はもう帰る。キクさんのおかげで色々とやること増えたしぬ」

 一日置いた街の状況ってのを見て、どんくらいの収益があがってるのか確認せなならん。
 それに応じて傭兵達の状況を見たり、周辺にどんな魔物の出現があるのかを確認して、ユニークが出るなら狩りに行く準備もしなくちゃならん。

 ――街経営して俺のような戦闘職がメリット受けられるのがユニークモブの情報なのだ。

 飯をどうしたものかと一瞬考えたがそれも面倒だったので考えることをやめた。
 わざわざ食堂まで出向かなくても飯くらいなら村長の家でなんとかなるだろう。
 俺はこの時、そんな甘い考えを持っていた。
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