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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第2部『二つの太陽編』

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ハムるって言葉が昔何の意味かわからなかった。

 「じゃあ、私、ちょっと戦艦作るために素材とってくるわ」

 キクさんがメタルドラゴン――ザリガニに跨り、ヴォルヴを発するのを見送ってから俺はしばらくの間どうしたものかと考える。
 ぶっちゃけキクさんが大砂海を渡る戦艦を造るまでやることが無いというのが正直なところ。
 そろそろローグさんも軒並みレベリングが終わりそうな勢いだから他の職に手を出してもいいかなと思う。
 スキルトレーニングは選択肢を増やしてくれるからやれるだけやっておきたい。

 「さて、チューちゃん暇だ。セックス三昧の自堕落な生活しようぜ?」
 「バカですよね?マスター。しませんよそんなこと」
 「じゃあオナニーするわ」

 さくっと小気味よく返してくれるあたりチュートリアも慣れてきたモンだ。
 残念ながらチューちゃんには勃起できない俺がセックス三昧の毎日を送ることはできない。
 せいぜいオナニー三昧の毎日が関の山。
 さてこれからオナニーでも試してみようかと思っていたら俺とチュートリアの間に取り残されたオナホールが俺の袖を掴んでいましたよ。

 「テンガ、お前キクさんと一緒に行かなかったのか?」
 「……ろーたーといっしょにいろって」

 どこか申し訳なさそうに俯くテンガだが俺は抱っこして肩車してやるとふんむと頷く。

 「しょうがねえな。テンガ使ってオナニーでもするか」
 「それおいしい?」
 「気持ちいい」
 「じゃあ、テンガもやるー」
 「じゃあおいたんと一緒にやろか」

 チュートリアが俺を呆れた目を見つめる。

 「……バカですよね?マスター」
 「オナニーは童貞のお仕事なのですよ。犯罪に走らないための自衛行為。自慰行為と自衛行為ってなんか似てね?」

 もはや張り詰めた緊張感がなくなればしばらくぶりに安眠がしたいと思い欠伸が止まらない。
 俺とテンガは揃ってくぁーと大きな欠伸をすると目を擦る。

 「とりあえず、しばらくは何もねーからレベリングでもしてなさいってこった。キクさんもそういった意味でテンガを俺に預けたんだよ」
 「テンガちゃんをマスターに?」
 「レベリングするとなりゃダスメシャムスの回りで雑魚乱獲だ。回復役が居ればポーション代が浮く。俺もいくつか手にいれなくちゃならんアイテムがあるからそれを集めながらぶらぶらとだ。金稼ぎもここいらで一度しっかりしておきたいし、拠点を決めないとな」

 やるべきことは山程ある。
 俺はダスメシャムスの温泉宿に赴くとマスターに告げる。

 「大部屋一つ売ってくれ」

 自宅を造るのも面倒なので拠点となる部屋を買うことにする。
 簡単な家でも造れればいいのだがヴォルヴ周辺は石材の削りだしからしなくちゃいけないのでザビアスタのホームのようにはいかない。
 寝られる場所を確保しておくのは必要なことでございまして、ずっと竜車で寝起きする生活というのもまた潤いがない。

 ――それに、何より温泉があるのに入らない理由がない。

 「けいきがいいですなおにいさん。しごとうまくいったか」
 「失敗だよ失敗。景気はこれからよくなるだろうさ」

 俺はさくっと手持ちの金をはたいて部屋の鍵を受け取ると赤い竜に連絡を入れておく。
 軽く狩りに行く打ち合わせをしておいて俺は部屋の鍵を受け取る。

 「2mちょいかかったなぁ。やっぱり一番いい温泉の大部屋買い上げるとなりゃそれくらいするわな」
 「最近ちょっと金銭感覚が麻痺してきました」
 「使った分は稼がないとならんからな。しばらくは稼ぎまくらなならん」

 ムシロを敷いた砂地の上にどっかりと腰を下ろすと久しぶりにチェーンソードのメンテを行う。
 俺はこの間のバザーで買った戦利品の中からいくつかレベリング用に使う武器を選ぶとそれぞれ性能をチェックした。

 「あの、マスター?」
 「お前さんも準備をしておけよ?戦いまくる毎日だからな」

 どこか神妙な顔つきのチュートリアが俺の傍らに座り尋ねる。

 「……魔王についてはご存じなのですか?」
 「魔王の書ってのが便所コオロギを倒した時のドロップにあってな?赤い竜も別の魔王のイリアを倒した時に拾ってる。俺達が知っている時代のちょっと先に魔王とやらが生まれる前の話が書いてあって、それで知ってた」
 「じゃあ、世界が崩壊に向かうというのも?」
 「まぁな。世界の封印をほどく――コンテンツを解放するってことはそれだけ俺達が強くなれるってことだ」
 「じゃあ――その分、世界は平和になるってことなのでしょうか」
 「冗談。コンテンツが解放されて俺達が強くなればその分、敵も強くなる。強くなった俺たちと同じ、いや、それ以上にだ」
 「それで、世界が滅ぶ――ってことですか?」
 「世界が滅ぶ?滅ばねえよ。魔物が増えたところで狩るべき獲物が増えるだけ。俺の財布が潤うだけだ。財布が潤えばキクさんみたいのがどんどこ街を作る。世界は繁栄するでしょうに」
 「なら……なんでシアン・ブルーは世界が滅ぶと?」
 「ゲームとしてコンテンツを解放すればその分、世界の寿命が縮まる。ゲームが加速すりゃその分、楽しめる内容が少なくなる。そうすりゃゲームを支えるプレイヤー人口がやがて減っていき……世界が維持できなくなるって意味だろ」
 「そうなんですか?」
 「こっからは俺の推論だ。700年前に俺達がさんざっぱらゲームをかき回していた頃ってのは世界が繁栄していたよな?だけど、それと同時に敵が強くなっていった。また多くのプレイヤー――レジスがゲームに飽きて世界の干渉を辞めていく。事実、運命の女神イリアの造反で大多数が辞めた。そうなりゃ今までゲームの中にあった物の維持ってのができなくなる。繁栄した分、世界は衰退する。実際見てきた訳じゃねーからわからんが、強くなりまくった魔物のせいで尋常じゃねー被害を受けたところもあったんじゃねーの?そういった意味だと俺は捉えたが」

 チュートリアは考え込むように俯く。
 この子はまた何を考えてるんでしょうかね。

 「俺の国の言葉にバカの考え休むに似たりって言葉があんだよ。バカが一生懸命考えたところでどうしょうもねえだろ」
 「でも、シアンブルーは抗うべき悪意があるって……」
 「そうだな。俺にワンワンオーをけしかけた奴は許せねえよな本当に」
 「その悪意こそが、使命だと……」
 「だろうよ。運営だもん」

 何から何まで運営が悪いのでございます。
 何があっても運営のせい。バランスが悪いのも運営のせい。ゲームがつまらないのも運営のせい。
 俺がゲームから出られないのも運営のせい。
 何もかも運営が悪いのでございますよ。

 「考えたってどうにでもなるもんじゃねえよ。考える暇があれば体を動かせ。今はワンワンオーを倒すのが必要なことが必要なこと。なら、やるしかあんめえだろ」

 もそもそと準備をしていると連絡を受けた赤い竜がやってきた。

 「あっちゃん、いくどー」
 「きちんと準備したん?」
 「いや、まだ」
 「そこにアイテム広げなさい。テンガ、修理してやってあげてな?」

 高レベルのアイテムは高レベルの鍛冶スキルが無いと修理もままならない。

 「かしこまりー」

 テンガを置いていったキクの配慮というのはそういった部分もある。
 金槌と金敷にドラグウェンデルを載せると叩き直し、砥石で削り上げるとどこか自慢げに赤い竜に渡す。

 「ありあとさん。あっちゃん、他何か要るものあるー?」
 「ポーション各種と耐寒、耐熱装備な。何狩りに行くんだ?」
 「ユニークのサンドスウォームさん狩った後に、グランホエールかな。余裕があればインスタンス入りたい。キクさんから飛行石頼まれてるからね」
 「フルコースで回すじゃねえか。付き合おう」

 シルフィリスがどこか疲れた表情で自分の主人を見つめ呟く。

 「……マスター、少し休むべきなのでは?」
 「他のサーバーの連中も追い込んでるからね、これっくらいしないと」

 赤い竜の言い分も最もだ。
 隔離されたゲームサーバーの中に居るとはいえ、だ。
 後から来る連中がゲームデータをそのままにやってきた場合、その遅れが致命的な差になってしまう。

 ――やれることはやってしまう。

 「さて、ま、久しぶりにハムハムしようじゃないの」

  ◇◆◇◆◇

 砂の混じった風を受け、外套を抱き寄せる。

 「……こんたなところか」

 叩き伏せたグランホエールが砂の海に腹を見せ、ゆっくりと粒子へと変貌してゆく。
 吐き散らかされたアイテムを拾い集め、俺は手早くテントを広げる。

 ――熱い日差しを避けて少しでも体力低下を避ける為のレストポイントとして。

 砂漠を歩いていれば誰かが設置したレストポイントが点在していることがしばしば。
 ユニークモブのポップ地点の付近ではたくさんのレストポイントが見られるはずなのだが他のユーザーがいなければそれもない。
 それはそれで少し寂しくもあるが、仕方の無いことだ。
 広げたテントの日陰にどっかりと座り込むと、俺はマテリアライズした水筒の口を開き水を嚥下し頭から被る。

 「暑いわー、マジ暑いわー、あっちゃん水ぅぅ」

 アイテムを拾い終えた赤い竜がのろのろとテントに転がり込む。

 「自分で用意しとけよもー」
 「でも用意しておいてくれるあっちゃんマジおかん」

 俺は水筒を放り投げると赤い竜は頭から被る。
 砂漠での狩りは思ってた以上にハードで体感的な暑さがやう゛ぁい。
 水霊のポーションを飲んでいたとしても感じる暑さが尋常じゃなく、少し動いただけでも息があがってしまう。  
テントの中を水浸しにして汚いと思うだろうが、そんなのが気にならないくらいに暑い。

 「はぁ……はぁ……ん、はぁ……はぅぅぅぅ~……もうだめ~」

 イリアどもも息を切らせてテントに転がり込み、だらしなく横になる。
 シルフィリスこそ気丈に振る舞って主人の横に腰掛けるがうちのチューちゃんはなんとだらしの無い。
 一番最後にやってきたテンガが一番元気で、最後まで砂漠で石を拾っていたが俺が休んでる姿を見るや4つ足になって駆け寄ってきて俺の膝の上にダイブする。
 俺はもう一本の水筒を開けると大の字になっているチュートリアにぶちまけ、テンガにも頭からかけてやる。
 気持ちよさそうにぶるぶると頭を振るテンガに皆が顔を逸らすが一仕事終えた充実感が程よい心地よさをくれた。

 「砂漠の大モブはやっぱりドロップうめーなコレ」
 「探索しづらい地域だからねー、リターンバックも美味しいわ」

 グランホエールの骨やら素材、腹にため込んだ鉱石系のアイテムは大型モブにふさわしいリターンバックをくれる。
 シルフィリスにテンガというこの時点でチートなNPCが居ることから討伐速度的には俺や赤い竜が武器種を替えて寄生してても問題ないレベル。

 「竜ちゃん大斧使うの?イメージちがわね?」
 「あっちゃんこそ両手短剣とかイメージ違うでしょ」

 赤い竜は竜斧バルフリンガーを使えるレベルまでのレベリングをしがてら、俺は短剣のスキル上げをしながらの戦闘だ。
 対ワンワンオーを想定した武器チョイスではないがいずれ上げておかねばならないスキルだからだ。
 俺の帯革から短剣を抜き、手早く修理して弄ぶテンガの頭を撫でてやるとにんまりと笑う。
 ここ最近、沈みがちだったテンガの表情が明るい。

 「テンガ今日は頑張ったなぁ」
 「えらい?」
 「えらい」
 「ふんす」

 積極的にサポートや回復を飛ばし赤い竜のワンマンプレイにもしっかり合わせてくるあたりAIにも成長が見られる。
 シルフィリスも俺の知らない場所での赤い竜との動き方を学んでいるのかきちんと合わせてくるようになった。
 如何せんチュートリアが一人、足を引っ張る形になっているがそれでも一戦一戦重ねる上で少しづつ進捗がある。
 起き上がり、ドリルについた水をぶるぶると振るうチュートリアが大きく息を吐き、俺の手の中にある水筒をひったくる。
 一気に嚥下して息をつくとまたへなへなと崩れる。

 「チューちゃんだらしねえぞ」
 「そんなこと言ってもこっちは全身を金属の鎧で包んでいるんですよぉ……フライパンの上で寝そべってるみたい……」
 「んなでかいフライパンなんざねえよ。あったとしても寝るのはチューちゃんくらいだろうに」

 俺はだらしなく寝そべるチュートリアをそのままに溜息をつく。
 赤い竜がどこかのんびりした様子の俺を見て眉を潜める。

 「あっちゃんらしくねーなー、ワンワンオーを倒すのにしゃかりきになるかと思ったのに」
 「もう倒せる状態だからな」

 それを聞いてだらしなく寝そべっていたチュートリアが跳ね上がる。

 「ええ!?も、もう倒せちゃうんですか!?あ、あれを?」
 「ああ。今回は正攻法でいく。あまりにも正攻法すぎてあんまり面白みが無いっちゃ無いのが難点なんだがな?だから大砂海を越える戦艦を造るまでこうして暇しちゃってる訳だしぬ」

 俺はインベントリからジュースを出すとごきゅごきゅと飲み干す。
 どこか物欲しそうにしていたテンガが居たからもう一つ出してくれてやる。
 本来なら子供ってこうして甘えたがる生き物のはずなのに不憫っちゃ不憫だわな。

 「テンガ、お前、おとんに会えて嬉しかったか?」
 「……うん」

 俺の膝の上で途端にもそもそとしだし、ジュースをちろちろと舐める。

 「お前のおとん、もうちょい頑張らないとダメだぞ。俺のワンワンオーに負けてるようじゃライオンとして話にならん」
 「おとんは、つよい」

 どこか必死にそう言いつくろうテンガが寂しそうだ。
 誰だって自分の父親の弱いところなんざ見たくは無い。
 父親ってのはとかくおっかなくて、強くて、子供にとっちゃ母親以上に恐ろしい存在なのだ。
 大人になればなるほど父親ってのが人間臭く見えていってしまうものだが――

 「そうだぬ。つよくあって欲しいもんだ」

 俺はごしごしとテンガの頭を撫でてやると立ち上がる。
 もうぞろ休憩を終わりにして次の獲物を探しにいかねばならない。

 「さて、陽が暮れる前に近場のインスタンスでも荒らしてこようかい」
 「そだぬ。ここいらだったらレア固定エンチャ付きあるんだっけ?」
 「固定エンチャだったら『灼熱』や『嵐』があったろ。あれあたりは自分たちでも使えるしNPC市場に流しても相当な値段で売れるぜ?」
 「じゃあ、掘りに行こうか」

 どっかのキクさんに言われたが焦りすぎていた傾向は多分にある。
 久しぶりにハムハムするのも本当に悪くないモンだぬ。

  ◇◆◇◆◇

 温泉でひとっ風呂浴びている最中に、俺はパジャⅦ世と再会する。
 遠征が終わればここで一風呂浴びる習慣があるライオンさんとの再会は割と気まずい雰囲気であった。

 「なんか暗い雰囲気でございますねライオンさん」

 皮肉ってみるがそれで笑いが取れるとは思っちゃいない。
 俺の膝の上ではどこかそわそわしたテンガが風呂から上がろうとしている。
 いや、正しくは父親から逃げだそうとしている。

 「テンガ、きちんと暖まらないと風邪引くぞ。キクさんに告げ口しちゃうで」

 ぶくぶくとお湯の中に沈み込み、顔をあげようとしないテンガの頭をごしごしと撫でるとライオンさんは俺の隣で湯に浸かる。
 いつまでもライオンさんの顔を見上げようとしないテンガにどこか寂しそうな溜息をついて俺と語る。

 「……先日は、すまなかった」
 「なにが?」

 いきなり謝られるモンだから何のことか戸惑う。

 「我らに力が無いばかりに貴殿らに迷惑をかけた」

 静かに頭を下げようとするライオンの顔に湯を引っかける。

 「――子供の前で頭下げんな。父親だろうが」

 びくりと膝の上で震えるテンガの頭を叩き、俺は抱いてやるとライオンの膝に押し込む。
 逃げようとするテンガを俺はひと睨みし、すくませると俺は会話を続ける。

 「別にあんたがたを当てにしてた訳でもねえからあやまられるのも筋違いっちゃ筋違いだよ。いかんせん努力も準備も足りてなかった。だから負けた。それだけだ」
 「……私が、甘いばかりに準備を怠っていた」

 どこまでも自分に厳しいヴォルヴの王様は辛そうに言葉を吐き出す。
 俺は鼻で笑って応えてやる。

 「そういう言い訳は要らんて。全部結果ですよ結果。そうやって言い訳するのは負けた自分を慰めるため。俺がここで『大丈夫だよ。次は頑張ろうね』なんて言えば気持ちは救われるんだろう?だけど、んなこと言ってやるもんかよ。俺は勝ちたい人だからな。勝ちから逃がしはしない」

 黙り込むパジャⅦ世にテンガはどこか悲しそうな顔をする。
 俺はどうにもこの人をダメにする温度が心地よく、砂の中で寝返りを打つ。

 「くだらねえ。負けの一つや二つで腐ってんじゃねえよ。さっさと体洗っても一度チャレンジすりゃいい話だ――テンガ、ライオンさんの背中流してやれ」

 びくりと震えるテンガに驚くライオンさん。
 俺は負け犬二人に告げてやる。

 「あにびくついてんだよ。てめえが負けたこといつまで引きずってんだ?その負け何時の負けだよ。一生懸命戦ってきた親父の背中くらい子供なんだから流してやりなさい。親父も親父で威厳もてよ。俺が見ていてやっから」

 おそるおそる洗い場に座るライオンと、その背後に立つテンガ。
 何も言えずお互いがどうしていいかわからず顔も見れずにいる。
 そんなのがじれったくて俺は砂の上に寝そべりながら文句を垂れる。

 「テンガ、そのスポンジもどきで親父の背中をこすりゃいいんだよ。簡単なお仕事だ。ヒーラーのお前さんが疲れくらい癒せないでどうすんの。卑しい系キャラのままじゃダメですのよ?癒し系のゆるかわキャラにならな」

 おそるおそるライオンさんの背中を擦るテンガ。
 はじめはたどたどしく、だけど、一度、手をつければそれはやがて自然な動きになる。
 俺はそれ以上くっちゃべるのも無粋だと思い、黙って見てやった。

 「ぐす……」

 何も言えない分、テンガは鼻を啜りはじめる。
 背中を丸めたライオンはどこかぐずぐずと鼻を鳴らし、一生懸命鼻の頭を擦る。

 「もそっと力込めてあらってやれよ」

 黙ってようと思いましたが無理でしたっと。

 「うん」

 ぐじゃぐじゃにした笑顔で力一杯こすりはじめたテンガにライオンさんが頭を垂れる。
 テンガが、震えた声でようやく、そう、ようやく声をかけた。

 「おどん、きもひい?」
「あぉ」

 どっちも声になっちゃいない。

 「おと、ちょっとふとった」
 「おまえは、かわらんな」
 「でも、はーふびーすとでも、いじめられない」
 「一杯、一杯、お前に伝えたいことがあったのに……いざ、こうして話してみると何一つ浮かばんな」
 「てんがも」

 俺にゃ二人の間に何があったのかはさっぱりわからん。
 だけど、長い間、会うことのできなかった二人だ。
 言いたいことも沢山あろうて。

 ――俺も、そう、俺もだ。

 現実世界に戻れば色々と家族と話したいことができるのだろう。
 だけども、そう、だけどもだ。
 力一杯、父親の背中を擦り、テンガが感極まってしゃっくりあげる。
 泣いているように見えるのは多分、湯煙のせい。

 「テンガ、今……幸せか?」
 「うん!あのね、あのね、てんがはこううんのかみさまのいりあになった!しあわせじゃないわけがない」
 「マスターは、やさしいのか」
 「さぼるとおこられる。でもね、でもね、てんがのだいすきなおうどんつくってくれる」

 キクさんおうどん作れるんじゃねーか畜生。
 俺がおさんどんする必要性が無いじゃねーか。
 あのアマぶっ殺す。

 「キクにゃとね、ぷろふてりあでおみせやった。てんがいっぱいいっぱいおようふくとか、ぽーひょんとか、つくれるようになった」
 「そうか、そうか……」
 「それでね、それでね……」

 俺は背中が真っ赤になってもどこか嬉しそうに目の端を擦るライオンさんを見てられなくて無性に犬かきの練習がしたくなった。
 幼稚園の頃、自由型でオリンピック選手になろうと思い開発した『ロクロータ犬かきスペシャルmkⅢ式改』の封印を解き静かに波打つ温泉をかき分けようとしたところ、どっかで見たことのあるドリルが水面に浮かんでいた。
 ぷくぷくと水泡を立てて沈んでいるドリルはそれで隠れられていると思っているのだろうか。
 しばらくして水の中で苦しそうにしていたものだから最後まで見てあげる。
 やがて顔が真っ赤になり、赤から青へと変貌し、背を向けて自ら頭を出す。

 「ふわぁ!はぁぁぁ……はぁぁぁぁぁ……けっほけほ!」

 荒い息をついて咳き込むチュートリアを静かに見下ろしていたが制裁を加えることを決意する。
 俺はすくっと立ち上がり、股間のエレファントビーストをドッキングさせる。

 「ちょんまげ」
 「にぎゃぁああっ!」

 最高に寒い親父ギャグは俺の親父直伝の必殺技。
 さすがにチューちゃんもこれには驚いたらしく水面から飛び上がる。
 バスタオルをはだけそうになりながら水面の上をびたんびたん転げ回るチュートリアちゃんのやかましさに尻にトゥーキックを入れる。

 「いだいれす」
 「お前、あに人のお風呂覗いてんのよ。俺の世界じゃ犯罪だぞ?」
 「い、いや、の、覗きなんてそんな!そんなツモリじゃ……て、テンガちゃんとお父さんの様子が気になって」
 「この状況で覗きじゃないと?水の中に隠れて俺の裸をまじまじと見ていたんとちゃうん?そうじゃなかったら何で水の中に隠れてたりするん?」
 「いや、その、隠れちゃったのは咄嗟にというか、なんか、私なんかが入ってっちゃったらマズいかなーって」
 「そら不味いわな。男の風呂場だもん。覗きは犯罪やで?」
 「ええ?でも、ここ混浴だしそれって……」

 狼狽えるチューちゃん。
 だが、真性クズにかかればそこからのバッシングコンボは基本でございます。

 「殺人犯、痴漢行為だけでは飽きたらず覗きまでやってしまうチューちゃんの真性クズな犯罪者気質にはマスターである俺もびっくりだ。もうやめるんだ。里でお母さんが泣いているぞ」
 「え、えええ!?私そこまで酷く……」
 「ありのままをお手紙にして書いて送ってやろうか?」
 「ごめんなさいごめんなさい!マスターが書くと絶対私が悪くなるから許して!本当に許して!」

 本気で泣き出しそうなチューちゃんをからかい終わると俺はじっくり、まじまじとチュートリアの裸体を眺める。
 ほら、胸のところとかにぷっくりした押したら面白そうなピンクのスイッチあるやん?

 「な、何をじろじろ見てるんですか……」

 さすがに怖気を感じたのかチュートリアが後ずさる。

 「いや、そこ引っ張ったり押したりこねくりまわしたらどんな声で鳴くのか気になって」
 「や、やめてくださいよ!え、えっち!へ、へんたい!」
 「男の風呂を覗いたり男に跨ってばーすとだいなまいしちゃう変態に言われたくなーい。どれちょっとどこまで変態なのか調べてやるよ」

 にぎにぎと手を寄せると真っ青になって水面を蹴飛ばして逃げ始める。

 ――だが、逃すほどPKプレイヤーは甘くないのですよ。

 「う、うわー!きゃぁあああ!ますたーそこさわらないで!ああ背中舐めないで!うぎゃー!あー!あーー!ふんわー!」

 全速力で走って逃げるチュートリアを追いかけ回し、俺は悪戯の限りを尽くした。

用語解説
 ハムる。
 おそらく出展は「ファンタシースターユニバース」あたりになるものと推測。
 同じマップ、同じクエストを延々とクリアし続ける様がハムスターが滑車を回す様に似ていることから、特定のマップをぐるぐる回ることを『ハムる』と揶揄された。
 同じ作業を延々と繰り返し続ける苦痛に耐え、目的の物が出るまで回し続ける忍耐力を指し、廃人達を『エリートハムスター』略して『エリハム』等と呼称する場合もある。
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+注意+
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