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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第2部『二つの太陽編』

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360°回ってから前を向く。

 マルボ達はこれまでに一度も経験したことのないとても奇妙な感覚に包まれていた。
 精霊石の防衛に参加できるということは冒険者の中でも名誉にあたることである。
 自分の力を認められ、自分の住む世界に貢献するという意義はそれまで生きる為に小金を追うだけのものから冒険者としての意識に色々なものを与えてくれる。

 ――だが、異世界から来たレジアン達の振る舞いをみるだに。

 自分が何故かおそろしく小さな存在に勘違いしてしまいそうだ。
 熱砂がヴォルヴ砂漠の夜風に舞う。
 3日に渡る最後の精霊石防衛戦の最終局面において諦め顔の傭兵達にまざりそれはどこまでも澄んだ瞳で地平線を見つめていた。

 ――魔王のイリアの出現。

 傭兵達はあれが本気を出せば自分たちなど簡単に吹き飛ぶことを知っている。
 頼みのレジアン達は精霊石を守る気などさらさらない。
 ただ、己の功名心に走り危険な戦闘行為を繰り返すだけだ。
 竜神ユグドラのレジアンが見あたらない。
 それの傍らに居た戦女神のレジアンが尋ねる。

 「おい、チュートリア、赤い竜が見えねえんだが?あとシルフィリスも……」

 それはゆるやかに振り返り、はにかみながら告げた。

 「毒を盛りました」

 戦女神のレジアンがたじろぐ。

 「毒!?毒っつったか!?いや、俺のようにやれることを全てやれって言ったけど、俺、今まで流石に他人に毒まで盛ったことはねえぞ!?」
 「私とキクさんはマスターのせいでお腹を壊したことが、ありました」
 「いや、あれはたまたま俺の喰わした肉が腐ってて……」
 「じゃあ、たまたま毒を盛っちゃいました」

 どこまでも爽やかな笑みで告げるそれは、昨日までおろおろと戦場を左右に走っていたそれではない。
 マルボ達は長い傭兵経験の中でこうして『何か』を突き破った人間を幾度か見たことがある。
 だが、それにしても――

 「フフフ――」

 どこか悠然と微笑むその澄みきった瞳が夜の闇の中、煌々と輝き地平線をみつめている。
 アスタッシャの光が浮かばせるその様相は最早戦に立つ者ではない。
 長い巻き毛をかき上げる仕草がどこか、故郷に残した妻を思い出させる。
 どこまでも女らしい匂いを出していながら――

 「マスター……石の匂いがします」
 「ああ……うん、するんだろうね……きっと……」

 どこか戦女神のレジアンがたじろいでいる。
 マルボは見逃さなかった。
 レジアンがそれに対して僅かに――そう、僅かに後ずさりをして距離を取っていることを。
 それは正常な戦士の判断だと言える。

 ――危険なものからは距離を取り、己の身を守る。

 それは危険な戦場を生き抜く戦士の必須といってもいい嗅覚。
 だが、それの放つ異様さは最早戦士でなくとも嗅ぎ取ることができよう。

 ――これから戦となろうというのに。

 その少女は、戦女神のイリアだったはずだ。
 伝説として聞いたことがある。
 数多の戦場を駆けめぐり、多くの困難な戦の戦闘に立つ神となった少女の話だ。
 戦女神コーデリア。
 レジアンが導き、そして、神々が導き、人はイリアとなる。
 戦女神コーデリアの導きを経てイリアとなった少女は今、その鎧を脱ぎ捨て今は可愛らしくひらひらした服装をしている。
 それはどこか戦場に場違いでありながら、煌びやかさをもってその少女の雰囲気と絡み合い異様な雰囲気を作り出している。
 少女は手にした霊石を愛おしげに指でなぞり、じゅるり、とツバを飲み込んだ。

 「――っべー、まじっべー……こいつキチガイだ」

 戦女神のレジアンがよく『キチガイ』と呼ばれる噂がある。
 キチガイとは『気の狂った』だとか『異常』だとかと同義語であったはずだ。
 たしかにこれまでの精霊石防衛戦での振る舞いを見れば戦女神のレジアンはキチガイと呼ばれる素養を持っていた。
 戦女神のレジアンが応える。

 「私たちの言葉でこういう言葉があります――『おまゆう』」

 マルボはそれこそおまゆうだと思った。
 ヴォルヴ王国でその名を轟かす戦女神のレジアンとそのイリアがヴォルヴの砂漠で最初に見せる戦場――

 ――ヴォルヴ砂漠の精霊石防衛戦、最後の夜が始まる。

  ◇◆◇◆◇◆

 少し、時は遡る。
 俺は眠い瞳を擦りながら必死なチュートリアちゃんに色々と教えてあげることにしたのですよ。
 基本、人間誰しも『教えて』と言われれば教えてあげたくなるのが心情。
 どうでもいいことは自分で調べろggrksと突っぱねるのだがここにはグーグル先生はおりませんでして。
 そいでもってチャット入力での伝達と違ってスカイプ連携よりさらに上位の身振り手振り、図入りで説明できるもんだからきちんと教えちゃった訳なんですよ。

 「――石拾いっつったって奥が深いんだ。戦場としては前線で戦う人間の補助的な立ち位置だが、リザルトボードを狙う――いや、石拾いで最高スコアを叩き出そうとするいわゆる『スコアアタック』をし出すと奥が深すぎて追い求めるのも大変だ」

 チュートリアは俺の言うことを黙って聞く。

 「――リザルトランカーが一種のゲスさを持ち合わせているように石拾いは石拾いで同じか――いや、それ以上のゲスさを持ち合わせなければならない」

 石拾いが――いや、『スコアアタッカー』が持つべき心得を俺は説く。

 「仲間が戦場で力尽き倒れようとも、守るべき精霊石が危険にさらされていようとも石拾いは石から目を背けてはならない。助け起こすのに屈み、手を伸ばすなら、その指で石を掴め。精霊石を守りに走るなら、地面に刺さる霊石に向けて走れ」

 チュートリアが静かにツバを飲む。

 「――ボスが居るのなら好都合。全ての味方がボスへと向かう。それが最大の好機。地面に落ちている石は全てお前のものだ」
 「でも――それは――そこまでして――」

 俺は首を左右に振り、肩をすくめる。
 そうして、どこまでも嫌らしい笑みで応えてやる。

 「そこまでするから――『価値』がある」

 これは石拾い達の胸に刻まれた――『誇り』。

 「誰もがそこまで追い求めはしない――精霊石防衛戦が成功するだけの石を拾えばいい。だが、石拾いはその限られた状況の中で――ただ石を拾うという行為を追い求め、他人に役立たずと、地雷だと――戦犯だと誹られようとも求めた石の数を『リザルトボード』に刻む」

 俺はそこまで言っておもむろにインベントリからチェーンソードを実体化する。

 「――それは剣の道と一緒だ。これを極めたところで何になる。何一つ生み出さない。だが、それでも追い求める――そこにある『価値』は追い求めたものの血肉の中にしか刻まれない。だが、同じ血肉を持つものなら――いや、リザルトランカーなら誰しも『理解』するだろう。なぜなら多くのリザルトランカーが同じゲスさを――精神的な強さを戦場で強いられるからだ」

 俺は静かに剣の切っ先を撫で、精霊石防衛戦で獲得した霊石をマテリアライズする。
 霊石を手の中で弄び息を吹きかける。

 「――リザルトランカーは強者だ。その強者と方向は違えど――同じ強さがなければ『リザルトボード』に石拾いとして名を連ねることはできない。地雷上等、戦犯OK、他人の役に立つより己の自尊心――それがランカー石拾いの道だ」

 そう、それは確かに存在していた。

 「移動スキルを連発する為に何千万とする装備に身を包みMPを確保し、武器スキルを鍛え――そして、石拾いの仕様に挑む。それが本物の石拾いだ。そこまでやらなくてもリザルトボードに名を刻むことはできよう。だが、今のお前にはランカー石拾いと同じだけの覚悟と、技術が無ければこの絶望的な状況を覆すことは叶わないだろう」

 つきつけられた現実に、ただの少女であるチュートリアは唾を飲む。
 放られた石を受け取り、手の中で輝く霊石を見つめ呟く。

 「――私は――できるんでしょうか――」
 「できるかできないかは自分が決める。できないと決めた奴はできない――できると決めた奴はできる」

 俺はかつて共に追い求めた連中と重ねた意思を送る。

 「なぜなら――石は誰にでも平等に輝くからさ」

  ◇◆◇◆◇◆

 ってなことがあって、色々と石拾いについてのノウハウを教えてあげたのですよ。
 そう、そりゃあかっちりと教えちまっちゃった訳なんですが。
 そうして一眠りしている間にうっかり寝過ごしちまって急いで精霊石防衛戦の戦場にやってきたらなんか、うん、チュートリアが狂ってた。

 「うふふ――石ってこんなに綺麗だったんだ」

 霊石を手にしたチュートリアは完全に覚醒しちゃってる。
 どこか恋をする少女のように石を弄び、静かに地平線を眺める。

 ――以前に渡したお金をまだ取っておいたみたいでした。

 何でも実家の母親の生活が少しでも楽になればと置いてこようとしたらしいが母親に怒られたそうな。
 そのお金はあなたがあなたのマスターと共に戦う為に使うべきお金で私の為に使うお金ではないって。
 俺としちゃイングリスさんに使って貰った方が良いと今更ながら思う。

 ――こいつ、よりにもよってネタ系法衣に金をぶっ込みやがった。

 『シルヴァードパレオ』を中心としたひらひらとした衣装に『マンフスレード』というまるで天女の羽衣の帯みたいなふわふわした腕防具の布飾りが背中で風に揺れている。
 頭に載せたウィングホーンヘルムこそMP盛りの装備だからそのままだが、完全に走る装備にしちゃ奇抜すぎる。
 結構高かったろうに――
 アスタッシャの光が立ち上り精霊石がアストラの位階を降りて顕現?する。
 その光の中でチュートリアがこの短い時間の中でどれくらい練習してくれちゃったんだろうか。

 ――仮面ライダーブラックばりにキレッキレなポーズを決めて高らかに叫ぶ。

 「――防衛アイドル石拾イン!チュートリア、開幕左ライン、走りますっ!」
用語解説
ggrks
 ネットスラングで『ググれカス』つまり、『人に聞く前にグーグルで調べてから来い』という意味。

おまゆう
 ネットスラングで『おまえが言うな』の略
cont_access.php?citi_cont_id=649025998&s
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