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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第2部『二つの太陽編』

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頭防具が無いと本当は北斗破顔拳の餌食。

 ぶっちゃけると相当にヤバい相手であった。

 「戦女神のレジアンンンンンンン!!」

 追いすがるアターシャを振り切るには移動スキルが足りない。

 ――ターンステップで真正面を捕らえるとアターシャの剣にシールドを合わせる。

 ジャストガードから最速のキャンセルで背後に抜けてターンステップ。
 振り向き様に振るわれた剣の衝撃波が砂塵を巻き上げて背後の傭兵達ごとぶった斬る。

――後方へ向けての『稲妻ステップ』で距離を取りながらの衝撃波回避。

 その場から居なくなったと思えば俺の背後へのワープ。
 殺気を感じた俺は直後にムーンサルトで眼下に剣を振るうアターシャを捕らえダウンスラスト。

 ――鎧の上で弾けた切っ先から衝撃波が生まれる。

 鎧に施された魔力なのか何なのかはわからない。
 だが、ダメージを受け、衝撃で吹き飛ばされ地面を転がる俺に即座に肉薄しようとするアターシャを前に俺は受け身をとり強引に起き上がるとジャストガードで受け流す。

 「引き潰れろっ!潰れてしまエヤァッ!」

 迸る衝撃が半円状に広がり砂塵が巻き上がり破裂する。

 ――視界が埋まる。

 絶望的な状況で俺は即座に意識を引き上げると前に踏み込んだ。
 後ろで空を切る轟音が響き渡り、俺は胸をなで下ろす暇もなく走り抜ける。
 砂塵が切り裂かれ、姿を現したアターシャが荒く息を巻き、俺を睨みつけていた。
 俺はステップを繰り返し距離を離すだけ離すと、荒く息をつく。

 「限界を超えぬ人の身にありながら我が太刀を躱すか。流石と言っておこう戦女神のレジアン。だが、かなうまいよ。貴様の命運はここで尽きる。世界の悪意に翻弄されその記憶を捧げよ」
 「誰かこの可哀想な子なんとかしてくれよ。誰だよこんなキチガイに刃物与えた馬鹿」

 悪態をついてポーションを口に含むが余裕なんざ一切ねえ。
 赤い竜も珍しく状況を読んだらしく大剣に盾を構えている。

 ――モーションに隙らしい隙が設定されちゃいねえ。

 普通ならば『この攻撃にはこうして欲しい』だとか『このモーションにはこうして欲しい』というのがあるのだが、全くもって存在しない。
 完全に殺しにかかってるチート設定のモブだ。

 「――僕の考えた最強のエネミーってか、くそったれが」
 「あっちゃん、手はあるかや?」

 ――小型モブに絶対的な機動力と攻撃力を足したチート。

 「……竜ちゃん、格闘で割り込む。差し込めるか?」
 「カンストしてんの?」
 「伊達にマンダルアこもっちゃいねえぜ」

 だが、それでも俺達の奥底にある挑戦心を消すまでには至らない。

 ――多くの不可能を可能にしてきた廃人の矜持がある。

 困難なコンテンツこそ真に攻略すべき対象。
 武器を納め、両腕を開けると俺は拳を打ち鳴らしアターシャに向き合う。

 「……さぁ、昨日のようにヒィヒィ言わせてやんよ」
 「対策を練ってこないとでも思っているのか?」
 「重鎧を着込むことでホールド以降の派生を封じたくらいだろ」

 踏み込みを躊躇させる不敵な笑み。
だが、俺はそれ以上に不敵な笑みを向けてやる。

 「――格闘ってなとどのつまり、人を倒す為の技だ。俺の世界でもどれだけの人間が体一つで戦ってきたと思ってやがる。格闘は浪漫じゃねえんだ――相手を倒し、生きる業だ」

 グリーヴが砂を蹴飛ばし、俺は走る。

 ――アターシャが横薙ぎに振るった剣が衝撃波を生む。

 俺はダッシュからの跳躍で衝撃波を飛び越えさらに距離を詰める。
 だが、アターシャは即座に剣を振り上げ縦方向の衝撃波で追撃を図る。

 ――空中に居る俺は必然的に回避する方法が無くなる。

 だが――

 「――甘ぇよな」
 「なっ!」

 重力を無視し、強引に地面に突き刺さりそこからスライディングでアターシャの足下に肉薄する。

 ――『スラッシュダウンキック』からの『スライディング』

 ジャンプを誘ってからの追撃は対人の基本コンボだ。
 様々な武器カテゴリに対策スキルが用意されている。
 無論、格闘にだって存在する。

 ――完全にゼロ距離に入り、格闘の間合いとなる。

 「んなろがやっ!」

 強引に立ち上がりながらヘッドバッドを決める。

 ――顔面に装備の無いアターシャの顎にスプリットヘルムを叩き上げる。

 たたらを踏むアターシャに確かな手応えを感じて畳みかける。
 小ジャンプからの『アッパー』『ソバット』『浴びせ蹴り』キャンセル『スラッシュダウンキック』

 ――その全てが相手の頭を叩く。

 「――やっぱりな!お前のスタン耐性ガバガバじゃねーか!」

 防具の隠しパラメーターを熟知していないから頭部防具をおろそかにする。

 ――可愛い顔が弱点になる。

 アバター装備かと思ったら全くの『無防備』ときてくれる。

 ――本当にIRIA様々でございますですよ。

 腰を落とし、拳を落とし、息を吐く。
 アターシャがよろめき、上体を起こし俺を睨みつける。

 ――『スタン』から復帰しつつある。

 僅かに引いた足が砂の地面を踏みしめ、チャージを終える。

 「――ぁぁっ!――死―ねぇぇぇっ!」

 アターシャの最速の横振りが俺を薙ごうとする。

 だが――

 「――『疾風正拳突き』ィィ!」

 ――全技最速のチャージ正拳突きがアターシャの顔面を打ち貫く。

 衝撃が輪となり大気を震わせ重鎧の悪魔を打ち上げる。
 高威力、発動までは最速とありながらチャージ中は移動不能かつ、射程が短い。
 使い所が難しいスキルではあるが対人では『疾風カウンター』は一つの強力な手札である。
 スタンからギリギリ繋がらないチャージ時間は癖があることこの上ないが、最速で繋げれば相手の行動に合わせてカウンターを取れる。
 読める相手には効かないが、知らない相手には絶大な威力を誇る。

 ――通称『初心者顎砕き』

「――あっちゃん、どけぇぇえええ!」

 跳躍した俺の下を赤い竜が走り込む。

 ――シールドタックルからのサークルエッジ。

 横殴りに振るわれた剣に吹き飛ばされ、転がるアターシャに俺は即座に肉薄する。
 受け身で強引に起き上がったアターシャの周囲に衝撃波が広がる。

 ――だが、俺の本能がステップでその衝撃波を飲み込んでいた。

 強モブであれば起き上がり対策はしているという予感、それが初見でアターシャの衝撃波を予見させていた。
 至近距離、相手の呼吸が聞こえる位置でアターシャは笑う。

 「やるではないかっ!戦女神のレジアン!だが、これまでだ!これ、までだぁぁぁっ!」

 縦横無尽に振るわれるアターシャの大剣が俺に伸びる。

 「――北斗ビルド奥義っ!」

 だが、俺はその全てをかいくぐる。

 ――触れれば一撃死まったなしの猛攻をステップのみでかいくぐる。

 「無想転生ッ!ブーンw!」

 ――通称、無想転生。蔑称『蚊とんぼ』

 格闘版の『スクエア』だが武器持ちのステップアタックと違い、出の早い格闘攻撃を織り交ぜた『スクエア』だ。

 ――至近距離での格闘攻撃の速度は武器攻撃のそれより早く、アターシャの速度とくらべて劣ることはない。

 有効なダメージを重鎧には与えることはできてはいない。
 蔑称のとおり蚊とんぼのようにひらひらと相手の回りを飛ぶだけのネタ技でしかない。
 だが、この無想転生改め蚊とんぼには一つだけ有用な効能がある。

 ――『スクエア』の練習には最適、以上。

 「――小癪なっ!だが、それでは私に傷を負わせることはできまい!」
 「だが、お前も俺を捕らえることはできねえだろがっ!」

 真正面でにやりと笑みを浮かべ、俺は大きくダッキングしてかがむ。
 背後から轟音を立てて飛翔した槍がアターシャの胸に突き刺さる。

 ――大槍投擲スキル『バスターランス』

 ノックバックして転がるアターシャを見下ろし、赤い竜が鼻を鳴らす。

 「火力から盾役から何でもやるあっちゃんが相方だと楽でしゃーないわ」

 バックステップで赤い竜の隣に並び立ち、軽くステップを踏んで鼻を擦る。

 「――体一つありゃ戦える格闘も覚えておくと楽しいぜ?」
 「火力はお察しだけどね」

 対モンスター火力として見る場合、格闘スキルの多くは武器スキルに後塵を拝する形になってしまうのは仕方がない。
 武器威力、そして、優秀な武器のモーションスキルに付された攻撃補正。
 いずれをとっても格闘は及びもつかない。

 ――だが、対人を想定するならば話は別だ。

 「――徒手空拳ごときに私が砂を被ることになるとはな、ぬかったわ」
 「その認識、改めた方がいいぜ?――格闘は対人じゃ強いんだ」

 ――そう、対人を想定するならば格闘は強い。

 「優秀なモーション速度、武器スキルに比べた消費MP、スタミナの少なさ、そしてこれでもかっつーくらいに多い選択肢の多さ。どれをとっても一級品だよ。何故だかわかるか?」
 「――何を、言っている?」
 「俺たちの世界がお前達の世界を作った。そして、格闘ってのは俺達の世界じゃ――人間を叩く為に血反吐はいて編み出された技の数々なんだよっ!」

 俺は静かに腰を落とし、構える。

 ――基礎的な格闘スキルであっても遜色無く戦える。

 裏を返せば格闘に通じればどの職業を選んでいても体一つで戦える。
 習得するにゃ楽じゃない訓練が必要だ。
 スキル設定のボタンも足りなけりゃそれぞれの技はピーキーにすぎる。
 だが、それを押してなお格闘には追い求めさせる浪漫がある。

 「フフフ、だが、愚かしいな。その程度の威力で私を倒すことなど叶わぬ。小手先だけの技術をいくら振るったところで――」

 俺と赤い竜は互いに見合わせ肩をすくめる。
 俺たちはくつくつとアターシャを笑う。

 「本当にこいつバカだぜ?」
 「俺から見てもバカに見えるわー!」

 何を笑われているかわからずに居るアターシャが怪訝そうに眉を潜め俺達の動向をうかがっている。

 「――この僅かな間に何を仕込んだかは知らぬが、些末な企みくらい粉砕してみせよう」
 「だ、だめや、り、竜ちゃん俺、げ、限界――さ、些末な企み粉砕されちゃうw」
 「うっわー、本当にこいつバカだよ!」

 堪えきれず笑う俺にアターシャが何かに気がついたように周囲を見渡す。

 「まさか――イリアが居ないっ!?貴様達っ!何を企んでッ――」
 「いやwぷふwいやw居ますよ普通にwあそこで一生懸命石取り合ってますがーw」
 「竜ちゃん、だwだめだwつ、つぼったwい、いりあが居ないっ!w何を企んでwぶふwぶふふwす、すんませんwなにもたくらんでませんでしたw」

 俺達はとうとう堪えきれずその場にうずくまって地面を叩く。

 ――そうして差し込む朝日の中、静かに昇るアスタッシャの光を見上げアターシャがようやく事態を飲み込む。

 「ま、まさかッ!貴様達ッ!」
 「いやね。俺達べつにお前と戦おうなんてミリグラムも思って無かったんですよ」
 「そだね。リザルト欲しかっただけだし」

 精霊石が光を放ち、消えてゆく中、アターシャの周囲にアスタッシャの光と同じ光が立ち上る。

 ――俺達が狙っていたのはただ一つ。

 「本日の防衛戦は終了しましたー。またのお来しをお待ちしておりまっす!」

 ――時間切れによるボスの自然消滅。

 倒したことにはならないからドロップや経験値は入ることはない。
 だが、本当にごく希に凶悪なボスが配置された場合、このようにして時間一杯ヘイトを取って精霊石に近づけさせないようにして時間切れを狙う。
 精霊石防衛戦が終われば防衛戦フィールドの消滅とともにボスは皆、自然消滅して消えてしまうのが――『仕様』だ。

 「ど、どこまで人を――バカにすればっ!――」

 一生懸命こちらに手を伸ばすがそれも届かず。
 俺たちは揃って一生懸命両手を振ってサヨナラをしてあげる。

 「「じゃあのw」」
 「必ず!――必ず殺してやるぞぉぉぉ!」
 「それさっきも顔真っ赤にして言ってたやん。でも無理だった。魔王のイリア格好悪ぃ、ザマァw」

 煽るだけ煽って消えていった魔王のイリアが少しだけ泣いていたのは飯ウマ。
 静かに昇る朝日を見つめ、俺は虚空に浮かんだリザルトタイトルを眺める。

 ――赤い竜、※※※※、シルフィリス。

 上位三名の名がでかでかと表示され、どこかやり遂げた感のある赤い竜がふんすと胸を逸らす。
 誰しもがこの熾烈な防衛戦を乗り切ったことに安堵していた。

 ――ただ、一人、その場で絶望に顔を歪めるチュートリアを除いて。

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