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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第2部『二つの太陽編』

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最大の敵は身内

 右の頬を殴られたら左の頬を差し出せ。
 というのは言った側にとっては最高の状態かもしれないけど、言われた側にとっちゃ最低の話である。
 殴られたら、殴り返すのが当たり前で気持ち的には倍返しがモットーで。
 それすら過ぎたら理不尽極まりなくなるのだが今日の俺はすんごく理性的。

 「チューちゃん?ねぇチューちゃん。君、防衛戦で何してたん?何してたん?つか、俺達この防衛戦に何をしに来たん?」

 チュートリアを砂の中に埋め、鼻を摘み上げる。

 「いひゃいれすますたー、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
 「俺達リザルト取りに来たのよね?来たのよね?君何位?半分以下とかぶっちゃけ何仕事してんのってお話なんですよ?わかります?」
 「ごめんなさいごめんなさいいっしょうけんめいがんばりますからゆるして」
 俺は傍らに置いた通りすがりの野犬が一生懸命いきもうとするのをぎりぎりのところで押し除けてあげつつチュートリア大先生に質問する。
 「俺、石拾えっつったよね?つったよね?俺が石を拾えっていうのには理由があるのわかります?わかりますよね?俺、今まで間違ったこと君に教えた?教えた?教えてないよね?ならなんで言われたことしないのかな?」
 「でも、せいれいせきをまもら…あ、あー!だめ!やめてー!うんこしないでー!」

 通りすがりの野犬が切なそうに鼻を鳴らし排便を途中で辞める。
 砂の中に埋まったゆるふわドリルちゃんもぴすぴすと鼻を鳴らし、切なそうに俺に訴える。

 「ますたーのいうことはわかりました、いうことききます、だからゆるして」
 「俺をゲス野郎と言うのは許そう。グーパンしたけりゃすればいい。だけどね?やるべきことをしない半人前が、いっちょまえに態度取るにはちょっとチューちゃんお仕事サボりすぎなんとちゃうん?」

 通りすがりの野犬がチュートリアの前で排便を済ませ、その匂いにチュートリアが必死に顔を背けようとする。
 だが、お犬様はざっざと後ろ足でチュートリアに砂をかけて一緒にクソを蹴飛ばす。
 後ろ足で耳の後ろをがりがりと掻くと満足したようで走りさり、後には砂にまみれた可哀想なチュートリアが残る。
 俺はぺっぺと砂を吐き出しているチュートリアの背後に爆炎結晶石を置いて励起させる。

 「……リザルトランカーを狙うには方法が二つあんのよ?」
 「にぎゃぁあああ!」

 爆発で吹き飛ばされ周囲の砂ごと吹き飛ばされたチュートリアが地面を転がる。
 俺はそのチュートリアにかがみ込むと地面で痙攣しているチュートリアにポーションを投げつける。

 「一つは今回、俺が頂いたように敵のキルを沢山取ること。リザルトポイントに加算されるポイントで最も高いのが敵のキルポイントだ。与ダメージが加算されるのは集団戦くらいだ。精霊石防衛戦じゃ敵へのファーストタッチ、ラストキルにしか攻撃に関わるポイントってのは加算されない」

 ぶるぶると首を振るチュートリアが泣きそうな顔で俺を見上げる。

 「ふゃい……」
 「チューちゃんは俺と殴り合って敵を一杯倒せるのかなー?倒せないでしょう?そんな単純なこともわからないのかなぁ?」

 俺は満身創痍のチュートリアを小突き、涙目でぴすぴすと泣くチュートリアにお説教をしてあげる。
 「チューちゃんの職業はテンプルで、かつ、重装系テンプルさんですよ。それなりに攻撃性能は積んでいるけど本職火力さん達に比べればキルレース、ダメージレースに参加するにゃ足下にも及びませんのですよ。ぶっちゃけ精霊石防衛戦で魔法職やガチスレイヤーからキルを奪おうとするとアサシンで瀕死の敵を横取りするハイエナ殺法以外の方法はございませんでしてよ?」
 「そ、そこまでしてポイントが欲しいのですか……」
 「ああ、欲しいね!欲しいとも!リザルトランクに名前が載る。一番上に名前が載る。これ以上にドヤ顔できる結果がありましょうでしょうか?」

 俺はチュートリアちゃんにネトゲゲーマーの本質を教えてあげた。

 「有象無象の一般大多数と『俺は違う』と、『俺は強い』と誰の目に見てもわかる『結果』というのを突きつけるこの喜びが他にありますでしょうか?みんな他の人に『見て』もらいたいんですよ。名前を覚えて貰いたいんですよ。『あいつは強い』と認めて貰いたいんですよ。リザルトランクは一つの結果。過程がどうあれそこで一つの結果を出せるということは、結果を出すのに必要な『実力』があることには変わりが無いんですよ」

 これは一つの真理である。

 「……ですが、それは精霊石防衛の本質とは全くかけ離れているものだと、思います」

 それもまた真理。

 「へぇ――こいつぁ、教育が必要なようだ」

 だが――

 「精霊石防衛は俺達にとってはリザルトランカーにとっては『当然』のように達成する過程にしか、過ぎない。精霊石を守り、成功させるのは当然だ。その当然の中でどれだけの力を持っているのかを誇示する――その一つの結果がリザルトだ」

 どこか底冷えする俺の声にチュートリアがたじろぐ。

 ――俺は気がつかないうちに昔の鋭さをこの幼いイリアに向けていた。

 「――数字という絶対評価。無慈悲に並べられていく順位。そこに『どれだけ成功に貢献したか』という目に見えない結果は反映されない。同じ戦場に立った多くの人間がただ、厳然とした結果にのみ目を通し、その『成果』を数字として見つめる。『成功』に貢献した、なんざリザルトランカーの言い訳にもならん。数字こそ正義、数字こそ絶対、失敗するかしないかの瀬戸際を攻め、ただただその価値観を数字のみに置き、どこまでも冷徹に数字レースに勝ち上がる覚悟が必要だ」

 たじろぐチュートリアがおそるおそる反論する。

 「……ですけど、それはともすれば防衛を失敗させる恐れのある行動を招くことになると思います」

 そう。
 リザルトランカーというのは一概に良いものばかりでもない。

 「そうだ。その現実があることは認めよう。俺がやったようにいたずらに敵を引きつける行為はともすれば味方の布陣を崩し、魔物を精霊石に近づかせ、崩壊すれば精霊石の破壊を招く危険な行為であることに変わりない。それがお前の言う防衛を失敗させる恐れのある行動であることは認めよう」
 「だったら――」

 反論しようとするチュートリアを完全に封殺してやる。

 「――ご託はリザルトを取ってからほざけ」

 どこまでも底冷えする声で俺はチュートリアを黙らせる。

 「お前がどれだけ貢献したかなんか、俺にはわからないな。それはどこを見ればわかるんだ?逐一お前の行動を見ていればわかるのか?いいだろう、俺はそれだけのことも当然できる。そしてお前がきちんと防衛を成功させる上で有効な行動を取っていたのも認めてやろう――だが、そんなものは見てやらんし、認めてやらん」

 チュートリアが俺に気圧され、後ずさる。

 「――俺のリザルトは今回、1位だ。誰にも負けない、最強のリザルトポジション。さて、お前は何位だった?2位か?3位か?違うだろう、12位だ。地元の傭兵達に遅れを取り、12位の位置に甘んじているお前を、1位の俺に認めろと言うのか?それは何をもって俺にお前を認めろと言うんだ?」
 「わ、わたしは――」
 「――お前は何をした?何をどう成功に貢献した?敵を倒したのか?精霊石を拾い集めたのか?それとも、敵を引きつけるためにファーストアタックを取ったのか?それとも瀕死の敵にトドメを刺し、精霊石を防衛したのか?――それらの『貢献』の数値はリザルトボードに記されている――さて、お前は、何位だった?」

 チュートリアは完全に沈黙して押し黙る。

 「――12位、でした」

 俺は鼻で笑う。

 「実力が無ければそもそもハイエナレースにすら参加させて貰えない。一つの結果を出せば、それはおのずとその結果を出せるだけの『実力』があることに他ならない。それが、例え本質的な強さとは違っていたとしても、その本質に迫る『一定水準』の強さを持っていることに他ならない――だからこそ、後ろ指さされようとリザルトランカーはリザルトランクに拘る」

 『強さ』というもののがどれだけ空虚な物の上で評価されているかの現実を知り、チュートリアは狼狽える。
 だが、俺はそんなチュートリアに告げてやる。

 「俺のクエスト、そしてお前の『使命』は何だ?――戦女神のイリア、チュートリアが精霊石防衛戦のリザルトランク『3位』以内を獲得することだ。それはお前自身が強くあり、そして――皆に『認め』させなければならないということだ」

 チュートリアが唾を飲む。
 まだまだ覚悟の足りないこの半人前にいきなりゲームは厳しい障害をつきつける。

 ――だが、そんな障害くらい、踏み越えていかなければこの先。

 「――石を拾えチュートリア。結晶を拾えばファーストタッチと同様の10ポイント。小型モブのキルポイントと同じだけのポイントだ。それは小さな数のように思えるかもしれない。だが、考えてみろ。中型モブを倒しても50ポイント――そしてボスモンスターにはポイントが付されない。そんな中、その10ポイントをいくつも集めれば――それはやがて大きな数となる。積み上げた結晶の穂先は――確実にリザルトボードを貫く」

 ヴォルヴ砂漠の乾いた風が俺たちの間に吹いた。
 どこまでも疲れた熱気をはらんだ風がほんの僅かに湿り気を帯び、静かで気だるい熱を滾らせる。
 踏み出したチュートリアはそれでも迷いながら首を振る。

 「わたしは……それで、認めて貰えるのでしょうか」

 ――本質的な強さとかけ離れた評価。

 それで誰しもが認める『強さ』を得たことになるのか。
 俺は数多の意思に削られ、多くの戦場を渡り歩いて残った答えを告げる。

 「リザルトを取る実力も、覚悟も無い人間が追い求めた人間を弱いままに吠える資格はねえよ――その現実を突きつけたければ、『リザルト』を取ってみせてからにしろ」

 それは多くのリザルトランカーたちの心の声だ。
 そして、どこまでも非情で冷徹な答えを下す。

 「数字は誰にでも、平等だ」

 俺は熱を吐き出して、気だるくなり大きく息を吐く。
 それでも迷うチュートリアは固まりきらない覚悟を決めたように見える。
 このまま訓練をつけてやろうかとも思ったが、おそらく、そう、おそらくは次の防衛戦でも固まり切らない覚悟のおかげでリザルトを失する未来が見える。

 「……マスター?」

 はてさて、どうしようか悩んでいると俺のゲスセンサーがもの凄いいいアイデアを閃いたわけですよ。

 「そういや、シードを使ったアイテムでリネームチケットってのがあったよな?」
 「え?あ、はい。名前は世界と自分を繋ぐ重要なタームで、そのタームを変えて新たに世界に自分をつなぎ止めるアストラの神具の一つです」
 「……もし、ヴォルヴ砂漠精霊石防衛戦でリザルトを取れなければお前を『肉便器ちゃん6歳』という名前にすることに決めた」
 「――はっ!?」

 俺はとてつもない名案を解説してあげる。

 「戦女神のイリアとして、多くの人の信望を集めるには『結果』が必要なのですよ。わたくし戦女神のレジアンとして色々結果を残しておりますが、君のやったことと言えばプロフテリアの広場でうんこしただけじゃないでしょうか?ぶりぶりっとぶっぱした――」
 「やめひぇー!」

流石にチュートリアちゃんも発狂寸前。
 いい具合に追い込むことができればいいのだが。

 「君はこのままじゃ戦女神のイリアじゃなくて排泄のイリアになってしまうわけですよ。なんなら、名前も肉便器ちゃん6歳に戻してあげましょう。マスターとしてはそれでもよろしいのでございましてよ?むしろ、その方がいい。そうしろよ」
 「頑張りますっ!絶対に、ぜったいにっ!次こそは!マスター!どうか、どうかお慈悲を!名誉を挽回するチャンスを!どうかっ!どうかっ!」

 必死に土下座して謝り倒すチュートリアがどこまでも哀れでゲスらしく鼻で笑う。

 「俺が一生懸命なのは貴様にその名誉の挽回とやらをさせてやる機会だと深く覚えたのであれば、よしとしよう。俺はデストロン様ぐらいに理想の上司を目指しているからな」
 「あ、ありがたき幸せ!」

 デッテイウあたりのIRIAであればあまり深く教え込まなくても理解もしてくれるのだろうがチュートリアは物覚えはいいが少し、理解に乏しい傾向がある。

 「貴様は物覚えが悪いからな、さてはて、どうしたものか……」

 丁度、その時だ。
 頭上に影が覆い被さり、大きく風が吹いた。
 俺が見上げるとそこには豪奢な赤竜が大きく4枚の翼を広げ、華麗に旋回していた。
 渦巻く砂塵を後に引き、優雅に地上に降り立つとそれはどこか嫌らしい笑みを浮かべて俺を見下ろしていた。

 「やぁ、あっちゃん、ひどいじゃないか。精霊石防衛戦があるのを黙ってるなんて」
 「あ、赤い竜さん!来てくれたんですね!よかった、魔王のイリアも出現しているからこれで百人力です!」

 どこか嬉しそうなチュートリアと裏腹に俺の顔は真っ青になる。
 ドラゴン形態から人間形態へ移行したシルフィリスが静かに頷く。

 「……魔王のイリアが居るのであれば好都合、今度こそ、遅れは取らない」
 「やりましたねマスター!これで、今回の使命は達したも……あれ?……マスター」

 俺はどこまでも蒼白な顔で呟く。
 最強の中二病スタイルを貫く赤い竜と、チートイリアのシルフィリス。
 この二人が居ればクリアだけを目標とするならばこれほど楽な話は無い。
 だが――

 「最悪だ……最早クリア不能かもしれん」

 ――最強のKYを相手に勝てる気がしなくなった。
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