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廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第2部『二つの太陽編』

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赤甲羅をドリフトで避ける世代の人達。

 精霊石防衛戦の始まる夜までは時間があった。
 それまでの時間はゆっくりと休もうと思っていたのだが珍しくチュートリアがやる気を出してくれた。

 「マスター……私に、訓練を付けてくれないでしょうか」
 「訓練?」
 「はい……ネルに遅れを取るようでは……この先、戦いは熾烈になっていきます。お願いですマスター……私に、戦い方を教えて下さいっ!」

 家出騒動からちょっとは自分を反省してくれたのだろうかこういう積極性を出すのはいよいよ追い詰められたからだろうか。

 ――良い傾向ではある。

 「……あの、やっぱり、ダメですか?」

 どこか申し訳なさそうに俯くチュートリアに俺は素っ気なく応える。

 「いいぜ、訓練ぐらいいつだってつけてやる」
 「……え?」
 「但し、俺は手を抜くからな。お前から言ってこない限り、勝手にしてるしお前が音を上げるようじゃ途中で切り上げる。こうして忙しく世界を右に左に走り回ってんだ。その合間にやってる訓練だって自覚しろよ」
 「は、はいっ!」

 そんな訳で俺は訓練用に適当な片手槍を探していた訳なんですよ。
 ネルベサの街をうろうろしている最中、そいつは目立つモンだから一発でわかってしまった。

 「よぅ」

 そう言って片手を上げたのはバケツメットを被ったスパイクドレザーベルトアーマーを身に纏った変態である。
 一瞬だけ、誰かわからなかったがその肩にちょこんと眉毛のぶっとい妖精が乗っているもんだからわかってしまった。

 「……無職、童貞?」

 俺が大通りで素っ頓狂な声をあげると肩の妖精がにんまりと笑う。

 「へっへー、奇遇だねー♪こんなところで会うなんてー」
 「なんだ、お前さんも来てたのか」

 無職童貞――なのだろう、以前はラビラッツマスクをしていたからそれと判ったが今の格好は俺のスタイルを模倣したいわゆる『バケツテンプレ』だ。

 「あんたに聞きたいことがあんだよっ!えーと、なんだ……」
 「なんだ、そんなことの為にわざわざこんなところまで来たのか?」
 「違ぇよ!クエストで来たんだよ、そうじゃなくてだな……」
 「しかし、このテンプレ装備いいな?お前さんの見てマネしたんだが、こうマッシヴな男になった感じが……」
 「どう見ても変態じゃんね?」

 この二人は本当にフリーダムすぎる。

 「ああ、もうそうじゃなくてよっ!えーと……」

 俺もう相当テンパっていた。
 なにせ、ちんちんぶらぶらの歌を知っているということはこの男と俺には共通点として本物の『あっちゃん』が介在していることになる。
 だとすれば色々と聞きたいことがあるのだが、何から聞けばいいのか纏まらない。
 そうして俺が口走った単語が――

 「暗黒流れ星っ!」

 談笑していた無職童貞と眉毛の二人がぴしりと凍り付いた。
 口走った俺自身もそのあまりのおぞましさに身の毛が逆立つのを覚えた。
 あの恐怖は一度経験したら忘れられない。

 「……業務上過失」

 無職童貞が呟いた単語に今度は俺が凍る。
 俺の脇腹と背中と足とか頭、あと眩しく輝いている太陽が恐ろしくなる。
 いくつものトラウマを植え付けてくれた『あっちゃん』の『四八の殺人業』の一つだ。

 ――カメハメ大王の筋肉バスターなんざ目じゃねえ。

 正真正銘人を殺しにかかって来る必殺技だ。

 「脳ヒット脳ラン……とかもあったわよねぇ……」

 ぞくりとする単語を呟き、灼熱のヴォルヴ砂漠で俺達は寒気を覚える。

 「……やっぱりお前さん『が』知ってたんだな」
 「でしょう?ちょっとこの年齢の男の子にしちゃ筋がピンと通ってるなーって思ったモン」

 無職童貞と眉毛は俺を苦笑しながら見つめると肩を抱いた。

 「あんたはっ!一体、なんで『あっちゃん』を知ってるんだ?」
 「そういう意味じゃ俺とお前は『兄弟』みたいなモンだ。それだけ言えばわかるだろ」

 どこか柔らかく肩を叩く手のひらは、どこか苦労を感じさせる。
 それだけでこの男が普通と違う男だと理解した。

 ――同じ苦労をした者だけが理解できる奇妙な共感があった。

 「――龍の字、貰ったぜ?」

 無職童貞はスプリットヘルムの横に描かれた『龍』の字を示し、胸を親指で示す。

 ――それだけで意気は伝わった。

 俺達はそのまますぐ側の酒場に入り、適当なジュースを頼む。
 いそいそとついてきたチュートリアがどこか遠慮するような雰囲気で俺の傍らに座る。
 無職童貞はバイザーを上げ、ジュースを一気に嚥下する。
 一瞬だけ覗いた眼光を見て俺はゾクリとした。

 ――凶暴、なんてもんじゃねえ。

 じっくり見ていたらこっちが喰い殺されかねないような鋭い目をしていた。
 喰ってかかる全てを挽き潰し、叩き殺すような挑戦的な目だ。

 「さて、どっから話をしたもんかな」

 無職童貞は空になった石のカップを叩きつけ、身を乗り出して俺に迫ってきた。

 「どこで、どうして。そんな事を語るにゃ野暮な話だろ。俺もお前も、そしてこの眉毛もお前さんの言う『あっちゃん』というのを知っている。それだけでいい話だ。俺はお前さんの不様だった頃の話を聞きたくは無いし、お前さんも俺の不様だった頃の話を聞きたい訳じゃあねえ。それは俺達の腹ン中に抱えて死んで墓の中に持っていきゃいい話だよ。ただ、俺が『あっちゃん』とやらを知っているかどうか、それを確認したかっただけだ。そして、俺もお前が知っているかどうか知りたくて伝言を頼んだ。お互い、いわゆる相互認識というのはできた、それでいいか?」

 スプリットヘルムを脱いで屈託無く笑うその男は俺よりずっと老けて見えた。
 老けて、といっても年齢的には若いだろう、青年と呼ぶのが正しいかもしれない。
 だが、纏っている雰囲気というのだろうか、それはずっとその辺りに居る年だけ重ねた子供のままの自称社会人達よりか鋭いものがあった。

 ――自称大人どもの下らない理屈を真正面から挽き潰す強さ。

 とでもいえばいいのだろうか。
 反論でもすれば即座に切り替えす――いや、斬り殺すだけの威圧感を感じる。

 「しかし……暑ぃな。ファンタジー世界にゃクーラーなんかねえのな。便所も不便だし困ったモンだ」

 どこか人間臭い柔らかさで雰囲気を一気に崩し、相好を屈託無く崩す。
 気がつけば俺も相好を崩していた。

 「便所なら水洗でウォシュレット付きのが一応、あるにはあるんだぜ?まぁ、入手は面倒っちゃ面倒だが、俺も一個ダブついてんのがあるから譲ってやってもいい」

 無職童貞はそこで苦笑して返す。

 「要らねえよ。それよっかおじさんはゲームなんざドアドアとメタファイトとマリオカートとぷよぷよ以外真剣に遊んじゃいないからな。ネットゲームっつーのがよくわからんウルティマオンラインとかそんなのをちょっと聞いたことがあるくらいだ。ワギャンランドはネットゲームになったのか?」
 「ファミコン世代じゃねーか」

 あかん、この人あかん人や。
 そらド素人だわ。

 「あ、馬鹿にしてんなこの野郎。てめーが生まれる前からコントローラー握ってんだぞ。年季が違うんだよアールピージーだって得意なんだぞ?」
 「へ、へぇ……」
 「ナイトガンダム物語2円卓の騎士をチート無しで3時間以内にクリアできる。コツはバーサルナイト鈴木」

 ドヤ顔で言われても、んなマイナーゲーム知らんわ。
 無職童貞が全くのネトゲ初心者だということは理解した。
 俺は一瞬、龍の字をくれてやれと赤い竜に言ったことを後悔したがそんな心配はすぐに払拭された。

 「しかしま、ネットゲームっつーのも面白いモンだな?」
 「色々と苦労はしてんじゃないのか?」
 「楽しんでるぜ。やっぱ夢のゲームだよな。一度は考えたモンだぜ。友達と一緒にドラクエやってみてえってのは。聖剣伝説2だとみんな別方向に行こうとしてカクカク引っかかってイライラしたもんなぁ」

 楽しげに笑う無職童貞は俺が忘れてしまったネットゲーム初期の楽しさに満ちあふれていた。

 ――今のところは大丈夫だろうか。

 「色々できるってのは楽しいわな。他のゲームだとお金すぐにカンストするけどネットゲームは懐広いわ。稼げる稼げる」
 「まあ、金があって装備が調えられるうちは無理しなければズブの初心者じゃなければどうにでもなりそうだな」
 「まあ、金さえありゃ今のところはなんとかな。経済の回し方は現実と一緒だから割かし楽に稼がせて貰ってる」
 「へぇ、どれくらい稼いだんだ?」
 「まだ少ねえよ。10億くらいだ。1G?1ゴールドっつーのか?」
 「は?」

 10億?
 1kが1000で、1mが100kで100m集まって1Gだ。
 悪いがキクさんでさえそんな手早く稼げちゃいねえぞ?
 一体こいつ何やって稼いだんだ?

 「あんた、それだけの金、どうやって稼いだんだ?」
 「ほれ、現ナマを電子マネーに換金して電子マネーで買えるアイテムあるだろ?あれの中から利ザヤがいい奴を転売して1億ぐらい元手を作ってだな……」

 ――こいつどんだけ課金力あんだ?

 10億ジルを現ナマ換算したらRMT相場見ても1万2万の話じゃない。
 新規にサービスが開始されたゲームで市場流通通貨もそんなに回っていねえわけだし、そもそも、閉鎖された限定サーバー内での話だぜ?

 「仮想空間っつーぐらいだから本当に金の回し方も現実と同じなのな。現実よっか割かし楽に稼げるわ」
 「そうそう稼げる額じゃねーだろ。キクさんだってざっと見200mあるか無いかくらいじゃねーか」
 「ガキだからな。でもま、それでも頑張ってる方じゃねーか?」

 上から目線来ましたー。
 だけど、反論できません。
 悔しければ、同じ事をやってみろでファイナルアンサーですから。

 「金なんざいくらあろうが大して役には立たねえよ。金があって買えるのはせいぜい物と労力くらいだ」
 「その金稼ぐ為に必死な奴が世の中にゃわんさと居るんだぜ?」

 無職さんはどこか余裕然として応える。

 「金稼ぎの方法って簡単なんだぜ?みんなが一生懸命やって稼げないならみんなと違うことをすればいいだけの話だからな。ぶっちゃけた話、お前さんだって現実でゲームをしてなかったら結構金稼げてたんじゃねえか?」

 確かにそれは、考えたこともある。
 何百時間も浪費して、何万円もぶっ込んで果たして現実で得られた物は何も無い。

 「そう簡単に稼げるなら苦労はしねーよ」
 「苦労はするわな。だけど本当に簡単だぜ?」

 ――本当に何も無い訳ではないが、それは著しく判りづらい物であるのだが。

 「金はあれば確かにいいが、たいしたことができるモンでもねえよ。俺はそれよっかお前さんが持っているモノの方が価値のあるモンだと思うぜ?」

 無職童貞はそう言ってにっと笑い俺を覗き込んできた。

 「俺が持ってるモノ?」
 「――ぷよぷよを遊ぶのにスーファミとテレビのゴッツイものは金で買えるんだよ。だけど、究極連鎖法や凝視は金をいくら積んでも買えねえよ」

 何を言ってるかわからん。

 「ちっくら教えて貰いたいんだが、素手で戦っていく場合、どうやって戦ったら強く――うーん、こういう場合、効率的にっていうのか?戦えるんだ?波動昇竜拳的な技一杯あんだろ?ネットゲームでも」
 「プレイヤースキルとしての話か?それとも、ビルドとしての話?」
 「その辺り全部含めてだな。他の武器の戦い方はなんとはなしに判るんだが格闘系の戦い方がよくわからん」
 「他の武器で戦ってればいいじゃねえか」
 「直接ブン殴る以外に戦うとか、ありえないから」

 そういえばこの人も『あっちゃん』を知っているんだと思い出す。
 どこか屈託無く笑う無職童貞に俺は静かな熱を感じ、笑みを返す。

 「――そういうスタンス、嫌いじゃねえわな。やりたい事を自由にやるってのは大事だ」

 俺と無職童貞は笑みを交わすと立ち上がる。

 「……うちのチュートリアの訓練もある。ついでだから一緒に教えるよ。チュートリア、お前も覚えておけ。ナイト系の立ち回りで一番厄介な相手が『格闘系』だ』」
究極連鎖法
 パズルゲーム『ぷよぷよ』出展。
 相手に致死量のおじゃまぷよを降らせる連鎖を即座に組んでいく連鎖法。
 階段状に展開し選択肢を増やしていくのが特徴。

凝視
 同上出展。
 相手の画面を見ながら連鎖構築の状況や発火タイミングを見る技術。
 書いてしまえば簡単そうに見えるが相殺の無い初代ぷよぷよでは即座に試合が決まるため自分の連鎖を組む速度を落とさずこれをやるのは技術的にはそれなりに難しい。

 波動昇竜拳。
 格闘ゲーム「ストリートファイター2」出展。
 波動拳キャンセル昇竜拳のこと。当時の子供達は昇竜拳のゼットコマンドがアナログスティックで操作するのが難しく、今では当たり前に行われる格闘ゲームの操作でも難しい技術のように言われた。
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