挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
廃神様と女神様Lv1 作者:井口亮

第2部『二つの太陽編』

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

105/255

デザエモンで昔、開幕即死を作ってリアルファイトした経験がある。

雲竜クラウボロスが相手だというのは俺にとっては僥倖だった。
 これが『祖竜アルバスト』や『大空魔竜ガーゲイナー』を相手にするようであれば問答無用で高度を下げていた。

 ――高々度のモブとはレジェンドクラスやアンノウンユニークレベルを相手にする必要があることから移動手段としては敬遠される。

移動という概念において空を自由に飛べるというのはゲームの中でも反則に近い。
 低空を移動するのであっても反則くさいのだが、警戒が不可能に近い超上空という領域を飛ばれると色々とチートに近い襲撃法もできたりする。

 ――その制限として設けられていたのが超上空の強モブ配置だ。

 だが、オワコンを経てやることのなくなった人種達にとっては超上空はいつでも行けるエクストリームチャレンジの格好の遊び場でもあるわけで。

 「わぁぁああ!!わ!わぁあああ!!」

 情けなく泣き喚くデッテイウの腹を軽く蹴飛ばし、次々と放たれる雷撃を紙一重で躱してゆく。

 ――空をうめつくさんばかりの雷撃が放たれ、幾本かが俺を狙う。

 クラウボロスの鼻先を押さえるように飛ぶ俺の先で、アンヘルが『ブースト』して空域を離脱していくのが見える。
 その尻が見えなくならないように距離を調節しながら俺は面倒くさそうにデッテイウの頭を小突く。

 「慌てなさんなって。自分を狙ってくる攻撃なんざ避けるのも簡単すぎて屁が出るもんだぞ」

 ぶりっと屁をこいてやるとデッテイウも落ち着いたのか、だが、それでもせわしなく翼をはためかせる。

 「ちょ!やめてください汚いっ!って雷撃弾来ますよ!誘導弾です!」

 雲竜クラウボロスの周囲に帯電する雷光が球形を描き、放物線を描き放たれる。
 直線状に走る雷光の中を縫って接近する光弾をそれこそ僅かに機動をそらすことで避ける。

 「ひぃぃ!いやぁぁっ!」
 『――羽虫のように避ける。その小さな翼、手折ってくれよう』

 雲竜クラウボロスの静かに唸り、直後に甲高い嘶きを上げる。

 ――雷光が渦を巻き、円を描くとそれが幾重にも広がり、球形状に周囲を包む。

 幾重にも広がる雷円のから放たれた稲妻が甲高い音を立てて俺に向けて放たれる。

 ――さすがに『ロール』を発動させ、雷光をぐるりと巡り避ける。

 『我が雷輪の空にどこまでその羽を打つことができるか、見せてもらおう』

 雲竜クラウボロスの腹の底に響く声が大空を震わせる。

 「マスターっ!」

 チュートリアが心配そうに俺を振り返り声を張り上げる。
 俺は頭上で指を回し、遙か先を指し示す。

 ――雷光の檻の中を飛ぶ俺が指し示す先を見つめ、もう一度振り返るとチュートリアは頷く。

 「信じますっ!どうかご無事でっ!」

 完全に視界外へ消えたチュートリアを見送り俺はデッテイウの顎を撫でる。
 その最中にも幾条もの雷光が傍らをせわしなく通り過ぎてゆく。

 「ご主人っ!ご主人っ!」

 俺は慌てるデッテイウがどこか面白くてにやりと笑い、ガトリングを構えた。

 ――弾数が足りなくて殺しきれるものでもない。

 今ある火力じゃ自動回復に追いつかず殺すことは叶わない。

 ――必殺の火力を縦横無尽に振るう雲竜クラウボロスを相手に『現状』では勝利は掴めない。

 「なに、負ける訳じゃねえんだ。『遊ばせて』もらおうじゃないか」

 雲竜クラウボロスを本当の意味で『攻略』したのは第2サーバーの連中だった。
 2鯖の連中についてはある程度知識を持っていたが、攻略動画を攫って見たところ、全く知らない連中がこの雲竜クラウボロスを第3段階まで引きずり出していた。
 空戦については他人に遅れを取らないだけ積んだ気でいただけに、2鯖の連中の攻略方法は異例に見えてしかたがなかった。

 ――だが、俺はそれまでこの雲竜クラウボロス戦をRPGの強ボスを倒すゲームだと勘違いしていたからだ。

 他のゲームのいいとこ取りを目指してくれただけあって、俺がその発想に至らせてくれるには分かり易い動きを2鯖の連中はしてくれていた。
 奴らは『別のジャンル』からやってきた連中だったから俺が知らないはずも当然。

 ――大量に吐き出される雷光や弾丸の雨の中を潜り、どこか悠然と飛ぶ翼に雲竜クラウボロスは嘶きを上げる。

 『何故だッ!何故我が稲妻は貴様へ届かぬっ!』

 デッテイウはようやく、そう、ようやく俺の意図を掴み、そして稲妻を『覚えた』。

 「へい白ウンコ。その程度の雷撃じゃあ俺の世界の黄色いネズミに負けんぞ?あれ、確か全国の子供達を病院送りにした実績あったはずだから」

 煽られて、雲竜クラウボロスの雷光が激しく輝く。
 幾条にも伸ばされた雷光がデッテイウの翼を貫こうとするが、そのいずれもが空を切り甲高い音を立てるだけだった。

 『グゥ……ウゥ――ッ!』
 「わかるな?デッテイウ」
 「……はい……ですが……」
 「覚えておけ、これが超上空モブを相手にする基本の動き『n+1』だ」

 n+1。
 俺も最初にこの単語を聞いた時、何のことを言っているのかわからなかった。
 それもそのはず。

 「『弾幕シューティング』の避けゲーを楽しもうじゃねえか。なに、『怒首領蜂』よかぬるいゲームだ」

 この概念はRPGじゃなくて『シューティングゲーム』の概念だったのだから。

 「――ほんの僅かだけ、そう、ほんの僅かだけ自分の位置をずらしてやればいいんですよね?」
 「自分を狙ってくる弾丸だけ、避けてやればいい!」
 「それ以外はブラフっ!移動できるスペースを制限する為――焦るなっ!焦っちゃダメだっ!」

 ――こいつぁ本当に頭がいい。

 当たりIRIAを引いた気分だ。

 「自分の座標をnとするならばその位置から斜線に被らず1座標を足してやりゃいい。そうすれば被弾は免れる」

 コンピューターがこちらを認識して弾丸を撃つ場合の数式がある。
 それは発射台となる敵機、あるいは砲台オプションの位置から弾丸をこちらの自機である座標の数値に向けて弾丸を放つ数式。
 その自機の位置座標をnとするならば。
 弾丸は様々な機動を取りながらもそのnの位置へやってくる形となる。

 ――基本はこのnの座標に数値を1足してやることで回避ができる。

 それがn+1の考え方である。

 「あとは状況に応じて…ッ!やってみますっ!」

 ようやく回避を任せられる段階になって俺は引き金を後ろに向ける。
 吐き出された弾丸が細い火線となって雲竜クラウボロスの鼻で火花を上げる。

 『――我が体躯に鋼をつけたものは久しくおらずっ!戦女神のレジアンっ!』

 それが引き金となり、AIが変わった。

 ――雲竜クラウボロスが雷光を纏い、大気が震える。

 「デッテイウッ!ロールだっ!」
 「あいさーッ!」

 渦を巻いた大気に雷光が迸り、雲竜クラウボロスが顎を開く。
 ロールをした俺達の傍らを凶悪な風と雷光が迸り、稲光を従えた牙が迸る。
 体躯を伸ばした雲竜クラウボロスの『突進』が傍らを通り過ぎ、俺はディスプレイ越しではない、本物の『ドラゴン』の顎に背筋が冷たくなる。

 「くぅ……ぱねえわな」

 軽口で恐怖を押し殺し、それでも前を見据え、デッテイウの腹を蹴る。

 ――AIの調教は終わった。

 走る準備は整った。

 『逃がすものか。お前はやがて我ら龍族の敵となる。この場で滅ぼす』
 「俺は今、シューティングゲームしたい気分じゃ無いんですわ。ボム持ってきてねえからまた今度な」

 煽るだけ煽り、俺は中指を立てて雲竜クラウボロスを振り返るとデッテイウの手綱を緩めた。
 首を突き出したデッテイウが『ブースト』の体制に入る。

 「――ご主人、一気に抜けるですかっ!」
 「勝てる相手かよ」
 「――いつか、届きますか?」
 「届く。奔れよ?速度を落とすんじゃねえぞ?」
 「あい――さぁーッ!」

◇◆◇◆◇◆

 遠く雷鳴が響く。
 チュートリアは吹き付ける風に砂が混じるのを覚え、遠く後ろの空を眺めた。
 遠雷の響く音が鳴る度に胸が痛む。

 「……心配なされるな」

 白き竜は背に跨る幼き主人を諭し、砂漠を見据えていた。

 「……ですが」
 「我らの主人ならば、心配は要らないであろう」

 アンヘルはそう告げ、静かに頭を振った。

 「――自らの敵わぬ相手に立ち向かうは無謀。なれど、生き延びる事が叶うならばそれは挑むべき事ではある。我らが主は愚かではあるまい」

 静かに吹き付ける風が焼けていた。
 流れていく冷たさに心地よさを覚え、それでも頭を振る少女に竜は怪訝に思う。

 「あれが、私達が挑まなきゃいけなくなる相手、になるんですよね……」
 「イリア……?」
 「今、立ち向かえない私が、マスターと一緒に立ち向かえるのでしょうか……」

 どこか気弱になっているイリアの姿は同胞の竜を思い起こさせる。
 それは竜にとっては最も唾棄すべき性質である。
 罵倒して、這い上がってきたものだけが上へと飛べる。
 竜とは、そういうものだ。
 だが――

 「あの緑竜は――」
 「――え?」
 「――デッテイウはそれでも我らが主人と翼を広げる」

 白竜はらしくなく呟いた。
 気がついてみれば、白竜は苦笑した。
 力強く羽を羽ばたかせ、震えをはたき落とす。

 ――また自らも背に乗せた主と同じ思いであったのだ。

 「追いつこう。我らの主は間もなく我らに追いつくであろう。我らは置いてゆかれぬように逆風の中であろうと――追いつくしか、あるまい」

 俯く主の弱さがどこか愛おしく思えるのは何故だろう。
 それが竜の血肉に刻まれた強さを目指す誇りの根源であることをまだ、竜は知らない。
『怒首領蜂』
弾幕系シューティングゲームのタイトル。これで『どどんぱち』と読む。
「敵の撃った弾を避ける」というシューティングゲームの基本的な要素を極端に高め、1画面に最大245発という凄まじい数等が話題となり、最終ボスの「死ぬがよい」の名台詞が印象的な弾幕系シューティングゲームの金字塔。
cont_access.php?citi_cont_id=649025998&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ