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◆Secret 02◆徴(しるし)
009  /名前以外のあなた
 検索のキーワードがあることに気付かされて、(かなう)はセアドに抱きつきたい衝動に駆られたが、それは抑えて端末の検索モードを設定した。
 館内の図書資料だけではなく、巷間溢れるネタも拾えるよう範囲を広げる。
「これだと、もの凄い時間掛かるんじゃないか?」
「うーん、物凄い量が出てくるか、物凄い少ない量になるか、それは分からないけどね」
 まず最初になにを打ち込もうか。
 そうは思ったものの、ターゲットは既に決まっているも同然である。
(名前だよ、君の―――)
 キ・ア・ラ。
 たちまち可能な限りのライン全てを駆け巡りはじめた。
「キアラ?」
「あ、うん……」
 まさか国家機密だなんて言えないし、いきさつも口にはできない。まさかIDカードのカルテに、あの人たち(・・・・・)からのメッセージが入ってたなんてもっての外である。
「―――出てくるなぁ。キアラなんて女の子のありきたりな名前なんだから。見なよ、ここからどうやって探す?」
 最初の難問が早くもやってきた。
 画面いっぱいキアラと言う名前に関するデータが羅列する。
 早くも情報の海に溺れそうになった。
 そこからまた絞り込んでいくしかない。
 他に、どうする……
 君は、なにと繋がっているんだ。
 ――病院の階段で初めて会って……
 ――赤い靴を買った
 ――お昼を食べて、タウンをぶらぶらとお喋りしながら歩いた
 ――森から出てきた
 向かいの島に行って博物館に入って……
(名前以外に、何があると言うんだ)
 素性不明の人間とは、せいぜいがその程度である。
 軍が関与しているからには、そうそう行き着けるようなところではない。
 少年一人が指一本すら上げることの出来ない、圧倒的な力の壁。
 別方向からピンホールを狙うようなアプローチを望むところだが、こればかりは神の援けが必要であった。
 叶は眼を閉じた。
(落ち着いて……、拾う物が無ければ、会話から拾うんだ)
 記号の羅列のようで詩的な響きをも持っていた、キアラの言葉の数々を思い出せるだけ意識の上に昇らせようと試みる。
 どれも正確に覚えているわけではない。人間の記憶など曖昧で、時にはその心情に合わせた情景をバックに捏造だってする。
 おまけに、どうして出逢ったんだろうかと、雑念が入ってしまう。
 何度も彼女と歩いたコースを思い出して、その時々の会話を掘り起こしてみるが、コレと言った収穫など望むべくも無い。
 黙って瞑想状態になってしまった叶の脇で、セアドが端末に表示された「キアラ」のデータを適当に開いて閲覧し、ボソボソと呟く。
「しかし……けっこう使えるもんだよな。自分ちでもやろうかな、勉強で資料探すとき」
 それから、まるで博物館みたいだ、と言った。
 ―――そこで叶はハッとする。
 博物館?
 良い思い出が無いのが正直なところだが、しかしそれが引っかかった。
 目を見開いて拳の指を歯に当てる。
 画面が叶の視線を感知して、バックライトが減光された。
(博物館だ。博物館―――でもなぜ博物館……)
 入ったのは良いが、宇宙展示室の入り口ですぐにメに遭ったから、特別なことは無いはずだった。
 その前だ。
 その前に。
 頭の中に映された映像を後ろへと巻き戻す。
 情報案内でコース設定をしているとき、キアラはこのアッペリウ星系のホログラムを見てたんだ。

”この星たちは、全部なの?”

 この星達は―――
 星の数を気にしていたのだ。
 星って、惑星のことだよな?
(惑星と、数と、キアラ?)
 接点は皆無である。
「“惑星”……か……」
 キアラのデータの海に、惑星のキーを入れてみる。
 お陰で約三分の一くらいに目減りはしたが、困難であることに変わりは無かった。
「この、女の子と惑星とって、どうなってんの?」
 まったくの蚊帳の外であるセアドには、もっと分からない。ここで飽きたのか、ちょっと色々見てくると言って席を立つ。
「静かにしろよ」
 小声でその背中に言いつけると、かすかに期待をこめて素早く『軍』を付け加えた。
 途端にヒット数がガクンと落ち込む。
(これは……正解だったかな)
 急いでキューブ・メモリを取り出すと、コンソールの隅に置いてデータコピーの準備をする。
 それから身近に人が居ないか見回して、幾つかのデータを開いてみるも、殆どが関係のない内容であった。
 キーワードに限って言えば、惑星と軍事関連の資料が一番濃厚だったが、そこにキアラの関係性はありそうにない。それは仕方が無いことだ。
(なにしろ、国家機密だからな……)
 傍目にはいたいけな少女と、彼女を拉致監禁する横暴な軍の構図しか浮かばない。だが、あのジョット軍曹の丁重な扱いといい、どうしても彼らには必要な人物である存在感と言い、そのギャップを埋められる根拠が無い今、まったくの混沌(カオス)なのであった。
(連中、彼女の事を『キアラ様』って言ってたな……)
 この星系には役職以外の身分差は無い。すると彼女は他の星系からゆえあって連れてこられたのだろうか。
 てことは物語にありそうな、キアラはどこかのお姫様でそこで叛乱とか内戦とか起きて、囚われの身になった彼女を、このアッペリウ政府に委託して閉じ込めているとか―――
(―――いーや、いやいやいや、違うだろ)
 うっかりした妄想に、頭を振る。
 そんなよくある、王侯貴族臥薪嘗胆悲劇的物語な王道(ワンパターン)ではないだろう。
 そういった身分制度のある星は有るが、どこかでクーデターが起きた話はザラにあっても、アッペリウに亡命とか捕虜の収監事業とかは、知る限り聞いたことがない。
 試しにそれも検索してみると、三百年位前に亡命騒ぎの事実はあるものの、その子孫が百年後くらいに晴れて凱旋帰郷している。
 官報に記されている新規事業立ち上げでも、ありきたりな産業以外見当たらないのだ。
(一般人に知らせてはならないものもあるだろうけど……表にさせないとなれば……どっかの傭兵部隊とか駐留してないかな。非正規ルートとか)
 妄想が別のところに発展してしまったようである。
 そうなったら思いつき次第、手当たり次第。きっと何かに当たるだろう。
「あと……惑星か……」
 アッペリウ星を周回する惑星は七。
どう数えても『七』。
 増えもしないし、減りもしない。
 モニターのアッペリウ星系を俯瞰した画像の中で、七つの惑星がグルグルと回っていた。
 そのうちに午後の授業が始まる時間になったので、慌ててキューブ・メモリをポケットに仕舞いこむと、セアドを探しに席を立ったのである。


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