時の魔術師(1/4)PDFで表示縦書き表示RDF


時の魔術師、四部作(春夏秋冬)の”冬”です。順不同ですが、残りの”春””夏””秋”も順次掲載してゆくつもりです。
時の魔術師
作:Michel



〜冬〜


 私の教室におかしな男子がいる。それも、すぐ隣の席に。
見た目はそんなに悪くない。黙って座っていれば、俳優の妻夫木クンに、ちょっと似てる。

 笹原隆太(ささはら りゅうた

 外は雪。こんな日には学校よりも、家のコタツでぬくぬく眠っていたい。

 でも、今って授業中でしょ?笹原は、何かを机から自分の膝に出したかと思うと、缶切り(これを持っているのも不思議)でキコキコ、開け出した。

 え?マグロ缶?

 あっけにとられて、見つめていたら
「食う?」
 私の視線の中で、笹原はにこやかに笑うのだ。
「い、いい……」
「あっ、そう。なら、いただきます」
 悪びれもせず、マグロ缶を食す。お箸まで持ってきてるの?

 こいつって、給食の時間にふらりと登校してきたり、2時間目にはもう姿がなかったり、もう、やりたい放題。
 あんたのせいで、今の数学の問題、先生の解答解説が、ちっとも頭に入らなかったじゃないの。中二の成績だって内申に響くんだからね。

* * *

「ねえねえ、美夏、今日やる?ターゲット決めた?」
 2時間目が終わると同時に、友達のゆうちゃんが声をかけてきた。
「うーん、まだだけど……」
 ちらりと見た隣の席。授業中はマグロ缶に夢中で、休み時間は睡眠の様子。いったい、学校に何しにきてるんだろ?
「笹原隆太にする」
 私は、隣に聞こえないように声をひそめて言った。
「えっ、超変わり者だよ」
「いいの。おもしろそうじゃない」

 “うそ告”って知ってる?最近、私たちの悪友間で、密かに流行っている遊びなんだけど。
やり方は簡単。ターゲットの男子を決めて、“告白”するだけ。でも、それは、“嘘”。
 ……で、後で嘘だってばらしてやった時の小気味良さ。

「笹原隆太がいい」
 後で、彼の靴箱に手紙を入れよう。内容は簡単明瞭。

“前から笹原君の事が気になっていました。放課後、屋上で待ってます。石井美夏”

 後ろめたくない?“うそ告”なんて、人の心を傷つけるだけだよ。心の中で誰かが私に問いかける。
 べつにいいの。こんな事くらいで傷ついたなんて、思う方が弱いんだ。


* * *

 放課後の屋上

 笹原遅いな〜。呼び出したのはいいんだけど、寒いよ。屋上なんか指定するんじゃなかった。

 ほうっと息を吐いてみる。白い息。雪は止んだけど、心の中には白い靄がかかってる。
 ほうっとまた、白い息。

 あれっ、笹原?

「ごめん。手紙くれたの、お前?」
 いつの間に現れたの?ちっとも気づかなかった。
「あ……う、うん」
「……で?」
「……で?って、あの、だから、笹原君の事が前から気になってて、それで、話を聞いてもらいたくて……」
「あっ、マグロ缶の事か?隣で食うなとか」
「ちがうってばっ!」
「……なら、何なんだよ……?」

 さすがに鈍そうな笹原でも、少しは手紙の意味を理解しているようで、バツが悪そうに視線を私からはずした。ちょっと、ほくそえみたくなる瞬間。それって、多少、期待してる?
「あの、前から私、笹原君が好きだったの」

 “うそ告”完了!屋上の隅で隠れて見てる、ゆうちゃんにVサインを出したい気分。
 でも、笹原の反応はとても、とても以外だった。

 ほうっと息を吐く、息を吐く。白い息、白い息……

「そんな事、言われたの、初めてだ」
「……」 
「今日って寒いよな」

 また、ほうっと……白い息

* * *

え?何、ここ、何処?

入道雲と青い空。
緑の木々を通り抜ける木漏れ日。
川の音。堤防を歩く二人の男女。
どこかで見た景色……


夏休み、これって今年の夏休み?!


それは、一瞬の映像。


私と……大好きだった……私の先輩。


「……つきあってくれませんか」
「悪いけど……」
「お友だちからで、いいんです」
「ごめん」
「何で?」
「……俺、石田の事あんまり好きじゃないんだ」
「えっ?」

 いつも、私に笑いかけてくれた優しい先輩。

「おまえ、しつこいよ」

 封印していた苦い思いが、私の心を突き破る。


* * *

「お、おい、何で泣いてんだよ?」

寒い放課後の屋上に座りこみ、涙がとまらない。横にいるのは笹原?お願い、顔を覗き込むのは止めて。
「ごめんなさい。ごめんなさい。嘘だった……笹原、好きだなんて……嘘ついた……」
はあ……と一つ息を吐き
「泣くなよ。“うそ告”されて泣きたいのは、こっちなのに」

そうだ、とっておきの物があるんだ。笹原は、本当に弱りきった顔で、リュックを開くと、こう言った。

「桃缶食べるか?」

* * *

「美夏!どうしたの?!」
 血相変えて、走ってきたのは、“うそ告”を見ていた、ゆうちゃん。
「笹原〜!あんた、美夏に何言ったの!」
「知らないよ、勝手に泣き出したのは、石田の方だ」
「そうだ、俺も見てたぞ!悪いのは石田だ!俺だって、先週、やられたんだ。“うそ告!”」
 突然、飛び出してきた笹原の親友?村田は、鬼の形相で“ゆうちゃん”を睨みつける。
「もう、止めろ、止めろ!ほら、みんなで気をとりなおして……食べるぞ、“桃缶”!」

 ふうと一つ息を吐くと笹原は言った。

「俺はテストの答えをいつも間違える。何でか教えてやろうか?忘れるからだよ。でも、それって当たり前の事なんだ。人間は忘れる、いや忘れられる。それってすごい機能なんだ。だから、俺はテストの点が悪くても気にしない」

私、もしかして、なぐさめられてる?よく分からない彼の台詞。

笹原隆太って、本当におかしな奴。


ほろほろと、また、雪が降り出した。
「今日は、寒いよな。本当に寒いよな……」


でも、季節が変われば、また、暖かい日が来るんだよ。


     【時の魔術師】 〜冬〜 完












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




TOP | NEXT


小説家になろう