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『断崖の上のミシカ』 momonga様より

【momonga様からのいただきもの】


集落から少し離れた高台の上。ここからだとネストの家々が一望できる。

何か悩み事があったり、一人で考え事をしたいときに来る秘密の場所だ。


岩の影を抜け、少し開けた遮るものが無い場所に立つと冷たく乾いた風が次々と吹き抜けていく。


気を抜けば身体のバランスを持っていかれそうになるほどの強風だが、

断崖の上に築かれた集落であるネストではいつでも当たり前に吹いている馴染みの風だ。


古来より変わらず力強く吹き続けるその風は

本来ならばネストの民を守り、恵みをもたらすものであったという。


しかし、突如として現れた邪神によって自然を歪まされ、

絶対的な孤立を強いられた現在の状況下では、強き風の守りも逆効果となっていた。


水は枯れ、草木は倒れ、人もまた毒と飢餓に蝕まれている。


助けを求めようにも、峻厳なる断崖と、

志を胸に挑んだ強者を数多と飲み込んできた深い森がそれを阻み、

ネストの民の心は重い不安と暗い絶望に覆われていた。


風の音だけがする高台から、灰色に沈むネストを見つめていたミシカは、

噛み締めるように唇をきゅっと結ぶ。


乾いてひび割れ、かすかに血の滲んだ唇や、

水不足ゆえに入浴もままならずごわついた髪は、

本来ミシカ位の年頃の乙女にとって辛いことだ。


けれど、そんなことよりもずっとずっと強く

ミシカの胸を痛めるもの。


それは、泣くこともできない程に弱った赤子をあやす母親の痩せた腕や、

乾き切った田畑をそれでも諦めきれず耕す人の背中。

そして、毒によって黒く崩れゆく自らの足を抱えながらも、

民の苦しみを想って苦悩する父の姿だった。


なぜ、なぜ、こんなにも苦しまなくてはいけないの?

私にできることは何もないの?


幾度となく胸の内で繰り返してきた問いかけを、

今もまた止めることができない。


水分を失い、乾き切った地面を削るように吹きつける冷たい風は、小さな石の破片を運び、

いつからかフードを被らなくては外出することもままならなくなってしまった。


風にたわむ空色のセーターを押さえながら、ミシカの視線はネストの集落を越え

断崖の切れ目、大地と天との境界線へと移る。


そしておもむろにその場へ膝をつくと、両手を合わせ目を閉じて祈り始めた。


「……慈悲深き赤の神様、ネストの民をお救いください」

「どうか、どうか、ネストの民に希望をお与えください」


どれほどそうして祈っていただろうか。


かじかんだ手足の感覚が無くなってきた頃、

いっそう強く吹き抜けた突風にあおわれて深くかぶっていたフードが外れ、

銀糸の髪があらわになる。


慌ててかぶり直そうと手を背へ伸ばした瞬間、

ミシカはハッと何かに気付いたかのように束の間動きを止めた。

今、何かが視界の端に映った気がする。


この高度と風の強さでは、生き物が空を舞うことも不可能であり、

まさか鳥のわけがないと頭では知っている。


けれど、何故かミシカの胸はドキドキと高鳴り、

もう一度先ほどの何かが見えないかと、厚く流れ動く雲間へと目を凝らした。


すると、それまで薄い灰色でしかなかった空がにわかに光を帯はじめるではないか。

さらには虹色にうつろい輝く光の幕が、瞬く間に天一面へと広がっていく。


ミシカが呆然と光の帯を見上げ身動きできずにいると

それまで前面から吹き付けていた強風がとまり、今度は背後からフワリと緩やかな風が吹き始めた。


その風を感じた瞬間、ミシカの全身に鳥肌が立つ。


「あぁ!赤い神様・・・!!」


『人と大地と獣たちとの絆が失われ、民が滅びを迎えし時

伝説の赤の神様が現れ獣の怒りを鎮め、ネストの民を救う

空が色とりどりの光の幕に覆われ、風向きが真逆に変りし時

赤の神様が降臨される』


物心ついた時から寝物語として、大ババ様が話してくれた言い伝え。

それは決しておとぎ話などではなかったのだ。


溢れてくる涙は今目にしているモノへの畏れなのだろうか。

それとも、明日への希望を得た歓びからくるものなのだろうか。


ミシカは震える足を懸命に立たせると、

後はただひたすらに愛する故郷へと向かって走り出した______。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



遥か眼下に広がるのはぶ厚い雲。

光の帯はとっくに消え去り、

今はただ渦巻く風と全てを飲み込もうとする果てない空があるのみ。

落ちれば毒獣が棲む死の森が待つ。


それでもミシカの心は変わらない。

あの時、行くと決めたのだ。

ネストを救うために今自分にできる唯一のことをすると。


この断崖を越え、赤い神様へと民の声を届ける。


生きてたどり着ける保証などどこにもないし、

実際この使者を名乗り出た時は周囲の皆から反対された。

けれど。


もしも私が大地に叩き付けられ死んでしまったとしても。

きっと慈悲深い赤の神様は私の死体を見つけてくださるだろう。

そして、天高く聳える崖の先にも、

かの方が救うべき民がいることに気付いてくれる。

そうであるならば。


何を躊躇う必要があるだろう。


手元の綱を軽く引き、ミシカの命を預かってくれる翼の調子を最終確認する。

あとは信じて飛び立つだけ。


背後から吹く風がミシカの背を押す。

ネストの民の祈りと想いを乗せた風だ。

この風がきっと、未来へと連れて行ってくれる。


一つ、二つ。

呼吸を整えて。


ミシカは空へと舞った。



【筆者のアンサー】



 下を向かなければ飛べないが、意識は前を向いている。

 彼女の頼りない翼と機体、紐で束ねられた丈夫な革製の帆を風がぴんと張り広げてくれた。そして彼女を見知らぬ大地へと導く追い風に、奇跡と神の存在を予感させた。

 風と共に生き、風と共に命運を共にするネストの民、その王家に生まれたミシカが責務を果たし本懐を遂げる。極度の緊張と恐怖は彼女を異常な興奮へと導き、やがて歓喜と変わった。


 周囲と隔絶された環境にあって、彼女はネストの外を知らない。誰も見たことのない新たな世界に飛び出すミシカは、外界に漕ぎ出す一艘の小さな船のようなものだ。対岸に着くのかどうかすら保証できず。嵐の中の船出より、成功する確率はなお低い。だが


”よかった……この調子だと向こう側に届きそう”


 崖下から吹き上げる乱気流に揉まれ、幾度となく翼がへこたれそうになっても、ミシカの軽い身体が飛距離を伸ばしてくれる。風を受け、翻弄されつつ彼女はぐいぐいと空を泳ぐように進む。進路やや左へ流されながら、陸地の上空へと到達。そこで彼女はかじかむ手をさすり、軽く小さな落下傘を懐から取り出す。

 巾着袋のようなそれを、飛行しながら一つずつ大気の中へと送り出した。

 落下傘の軸の筒には、徹夜でしたためた手紙が祈りと共に込められている。たくさんの声を大地に届けよう。私が死んでも、どうか願いがかなうように。私の声が、この地のどこかにあらせられる、赤い神様のもとへと届くように。


”お願い、誰でもいいから拾って。そして神様へ届けて”


 彼女の願いの結晶は、綿毛のようにふわふわと、グランダの大地へと舞い降りた。

 そのいくつかが地上に間違いなく落ちたのを上空から見届けたとき、重い足かせから解放され、すとんと、ミシカの肩の荷が下りたような気がする。


 だがミシカの命を支える機体は、大陸に入ってから失速し、急降下を始めた。

 大陸上空の気流が変化したのだ。もともとミシカの飛行体はコントロールなどできたしろものではなく、風に任せて飛んでゆくだけのもの。風向きが変わり、沈下率が高くなってゆく。この速さで地に落ちたら、言うまでもなく命はない――。


 彼女は最後の手紙を掌中に握りしめた。これは最後まで握っていよう。私がしゃべれなくなっても、これを持っていれば何とかなるかもしれない。


 ネストとグランダの文字は異なるが、もしこの手紙が赤い神のもとに届けられたら、神様は読んでくださるだろう。ネストに救いが齎される日を、この目で見ることができないかもしれないことが心残りだが……着地場所を探しながら、ミシカは死に場所を選んでいるようなものだった。


 父に伝え聞いたグランダ国。そのはるか先に、大きな湖が見えた。運よく湖に落ちれば少しは生存の確率が高まるかもしれないが、どう見積もっても距離が届かない。慌てながら下を見ると、グランダの鉱山地帯。露天掘りの採掘場の脇に、木くずを積んだ資材置き場が見えた。あそこだ、着地地点はあそこしかない。

 息が凍り、足先の感覚はとっくに消えている。

 ミシカは覚悟を決め、複数の紐によって吊られた身体を大きく振り、機体を更に失速させた。


 私は一体、目覚めることができるだろうか。

 ふとよぎった疑問と恐怖を、祈りの言葉に代えて飲み干した。

「赤い神様……っ! どうかご加護を」

 毎日欠かすことなく捧げた信仰は足りていただろうか。審判のときになって、これまでの行いを悔い改める。それ以上、余計なことは考える暇は与えられなかった。彼女の体が資材置き場に落下をする前に、彼女は意識を手放した。



***


 ――ミシカは息をする。


 もう二度と目覚めることはないかもしれないと覚悟していたが、助かったのだと実感すると、全身にじんわりと喜びがこみ上げてくる。

 意識の芽が開くように、ミシカが自身を取り戻す。朦朧としていた五感が徐々に蘇ってくる。両手の指先が何か布地のようなものに触れた。

 ぼんやりと薄目を開けると、白い布地を敷いた寝台の上に寝かされていた。

 落下してから何がどうなっていたか、さっぱり記憶がない。落下後、全身を引き裂かれるような痛みに、わけもわからぬまま呻いていたような気はするが、今となっては記憶も途切れ途切れ。既に苦痛は消え去っている。死んでいるのか生きているのか、私はきっと生きているんだ。信じるしかなかった。


 そうだ、お祈り。

 赤い神様にお祈りをしないと。


 ミシカは彼女の生活に欠かせないとある重要なことを思い出した。周囲の状況をろくすっぽ確かめもせず、いつものように平らな場所を見つけ膝を折って、身を投げて祈りを捧げた。ネストの民は朝夕と赤い神に日々の祈りを捧げる。


 まだ見ぬ神、恋い焦がれたかの神に丁寧に祈りを終えると、ミシカの心は幾分落ち着いた。

 そして彼女は、ミシカの真横にいる白衣の人物に話しかけようとしてつま先から見上げると

 ――天地がひっくり返るほどに驚いたのである。


***

 


”こんなに贅沢にお湯を使えるなんて……”

 ふんだんに湯を使い、すみずみまで身体を清め、おさげを解き銀髪を洗い、ミシカはおわん型をした浴槽の湯船に脚を差し入れる。白い石材でできたこのドーム状の大部屋は、神の沐浴場だという。


『寒かったでしょう。しっかり温まってくださいね』

 飾り彫刻のある木製のついたての向こうから、ミシカを気づかうような声が聞こえた。

 枕詞のように唱えていた、かの神の慈悲と接遇にあずかる。人が聖域を穢し、あまつさえ同じ浴場を利用してよいのでしょうかと訊いたら、”神は穢れないものですよ”と優しく微笑み、ミシカの躊躇を吹き飛ばしてくれた。

”どうしよう”

 ミシカは歓喜のあまりどうにかなりそうだ。積年の疲れと閉塞感は湯の中に溶けてゆくかのよう。澄み切った透明な湯に全身を浸すのは初めてだったかもしれない。


『身体を拭う布、出口に置いておきますのでご自由に使ってくださいね。着替えもどうぞ。お湯が熱ければ泉の水を使ってください』

 湯殿に穏やかな神の声が響く。踏み入って来ようとはしない。


「ありがとうございます、ありがとうございます。申し訳ありません。すぐに出ます」

 緊張気味に返事をして、神が沐浴場から去ったのを確認すると、手持ち無沙汰に湯を両手で掬いちゃぷちゃぷともてあそぶ。気が付けば破顔し、頬が緩みっぱなし。私はまだ、笑うことができたんだな……と驚くミシカ。


”あの方が神様、かあ……人間みたいだったな”


 ミシカの城の、父王の間の壁面に描かれたタペストリに登場する古い伝説の赤い神には、確か足はついていなかった……赤目赤毛の聖獣のようでいて、人間のようではなかった。自然を体現した霊的な存在であるとばかり考えていた赤い神が、肉体を持って実在していようとは。会話が成立するとすら思わなかった。ましてや目に見えるものだとも思わなかった。


 言葉を交わすと、何だかとても身近で、飾り気がなく人間のようでとても親しみやすい。手を伸ばせば届きそうでいて、全てを受け入れてくれそうな。そして伝説の通りに、慈悲のありそうな人柄もうかがわせた。もしかして私は死んで神のもとへ召された幻でも見ているんだろうか。そうでもいい、幻でもいいから今はさめないで欲しい……ミシカは首まで湯に浸り、心行くまで湯を堪能する。のぼせてしまいそうになっているのは、湯気にあてられた、というばかりではない。


 神様を待たせてはいけない、と早めに湯から上がり、口を濯ぎ、用意された清潔な上下の衣に袖を通すと、見知らぬ花の香りがした。行き届いたもてなしに、ミシカは少しだけ後ろめたくなる。

 ミシカは貢物を持ってきていなかったからだ。大きな願いを叶えてもらうからには、それ相応の貢物が必要だったと、今になって思い出す。しかしミシカは少しでも軽くしようと身一つでやってきて、差し出せるものは己の身以外に何もない。生贄が必要だと言われれば食べてもらっても構わない。そう思うと、開き直った。


 身支度を整えて先ほどの部屋に戻ると、赤い神が、湯煎にかけてよく煮詰めた橙色の果汁を彼女に振る舞った。神殿の中庭に実った果実の果汁なのだという。嬉しそうに差し出すので口をつけると、とろけるように甘くて、しかしすっきりとした味わいがする。

「おいしい……です! ほっぺた落ちそうです」

『それはよかった。私の民たちの話によると、これを飲むと身体が温まるそうですよ』


 私には味がわかりませんが、と赤い神は困ったように微笑みながら鍋をかき回す。一方的に恩恵を貰ってばかりで、ミシカは捧げていないことに気付く。


「ごめんなさい、こんなにしていただいたのに私、神様への貢物も何も持ってきていなくて……もし、生贄でよければ私を……」

『生贄だなんて、滅多なことをいうものではありませんよ。助かった命を大切に』


 何も望んでいないのだと言って首を左右に振る神に対し、ミシカはミシカの体以外に一つだけ捧げられるものがあったことに気づいた。それは彼女の偽りなき信仰心だ。


「せめて毎日捧げていたお祈り、神様の前でします。聞いてください。慈悲深き赤い神様」


 ミシカは一語一語声に出し、いつもよりあらたまって神前で祈りを捧げはじめた。

 神はひとつひとつ頷きながら、黙して最後まできき遂げた。いるのかいないのか分からない架空の存在に祈りをささげるのではなく、実在する人物に聴いてもらえるというのは、心強く、喜ばしいことだった。


「どうか、どうか貧苦に喘ぐネストの民をお救い下さい」

『ええわかりました。もちろんそのつもりですよ』


 ミシカの待ち望んでいた、しかしそれは気高く自信に満ちた肯定の返事。

 あまりにもあっさりと受諾され、どんな顔をしてどんな礼を述べてよいのか分からず、あわわ、と慌てて次の言葉を選んでいると。


『あなたさえよろしければ、祝福させていただいてもよろしいでしょうか。あなたの体の傷は癒しましたが、心には傷が。少しは癒して差し上げられるのではないかと思います』

「あ、お、お願いします?」

 彼の言う祝福なるものが何を意味するのか分からないまま、ミシカが恐縮して正座したまま頭を垂れていると、両脇を抱え上げられ、そのまま柔らかく抱え込まれていた。


「はひっ!? か、神様?!」


 何が何やら分からぬまま、気が付けば抱擁されていた。

 王家の人間として周囲から指一本触れられることなく大切に育てられてきたミシカが、敬意を払われず子供のように、赤子のように男性に抱きすくめられるのは、父親以外には初めての経験だったりする。


『力を抜いてください。怖いことはしませんから』


 ミシカは何をされるものかと一瞬固まってしまったものの、抱かれ心地は肉親のそれに近く、我が子を慈しむ母親か父親のよう。抑え込まれた腕の中では懐かしさと安らぎを覚える。神体はよい香りがして、衣二枚ごしに密着しているとなんとも居心地よく、魂が洗い浄められ癒されるように錯覚した。身体の中にじんわりと温かな神通力が流れ込み、生命力が身体の隅々まで駆け巡る。


 無垢への回帰。例えるなら母胎の中に戻されたような心地。ミシカは神の胸もとに頬を寄せ、その熱を感じ、神の心に触れたいと願う。何時までも離れたくないという思いがこみ上げた。 

 だだひとが神の慈愛と恵みを受ける、神が人と絆をかわす行為。

 それが祝福なのだと、ミシカは本能的に理解することができた。

 

『ごめんなさいミシカさん。これまでは力及ばず、ネストの民に長い間苦しい思いをさせてしまいました。しかしこれからはもう安心して下さい』

「……はい」

 私たちは報われたのだ、祈りは聞き届けられたのだと、ミシカは自分自身に言い聞かせた。

 もっとも、僅かに納得できないこともある。この神殿が建てられたのは最近だが、神は九年前からこの世界にいたというのだ。九年前ならばネストの民は……という気持ちはあるが、ミシカは古き教えを守り、祈りを欠かさず神の降臨を待っていた。赤い神は民と交わした契約を守り、民を救う為に降臨された。何もかもが伝説の通り。だから、彼は約束をたがえていない。これまでのことを憂いても仕方がないのだ。


「ネストをよろしくお願いいたします。赤い神様」


 その夜、ミシカは赤い神の褥を借りて床に就いた。

 赤い神は嫌な顔一つ見せず人の子に居場所を譲り、部屋の片隅の机について日々の仕事をこなし、夜なべをしている。寝床を共にしないのは、年頃のミシカに配慮したからだろう。私は構わないのに、とミシカは少し残念だった。


『おやすみなさいミシカさん。私はここにいますから、朝まで安心して寝てよいですよ』

「は、はいっ。おやすみなさいっ、あ、寝る前のお祈り」

『今日はお疲れでしょうから、省略してください』


 ミシカは何だか照れくさくなって、布団を深くかぶった。

 何だかむしょうに、朝日を見たくなった。これまでは毎夜毎晩、これからのことを考えることが怖かった、明日を迎えることが怖かった。しかし今は未来というものを、希望というものを信じることができる。ミシカはそっと瞳を閉じた。


 愛しき故郷ネスト、風に阻まれた死の大地に

 最高の報せを持って還ろう。 


 久しく見ることのなかった、父王と兄妹たちの笑顔が瞼の裏に浮かんだ。

どこの風の谷ですかこれは・・・momonga様ありがとうございました!

このエピソードを送っていただいて筆者もミシカが好きになりました。

さ、彼女を来年の鳥人間コンテストに送り出すんだ・・・

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