2、無視
で。
俺はその日以降、高垣のことを無視しまくった。
仕事では多少話さなくちゃいけなくて話をしてやる。高垣は、そんな時すごくホッとして嬉しそうだった。
でもその時だけ。
俺はすぐにまた無視状態に戻った。
というのは、俺だってどうしていいか分からなくなっていたからだ。
何の話をすればいいんだ?
あの時の話なんて絶対にしたくないし、でも顔を見れば思い出すじゃないか…。
今までみたいに話せたらいいんだろうけど、そこまでお人好しじゃない。
なんであんなことをされなきゃならないんだと思うと腹が立つ。
やっぱ、話してやる気になれない。
帰るときも、高垣に捕まえられないように必死だ。
仕事の終わる頃に席を外しておいたり、逆に怖い顔をして仕事をしてみせたりして、声をかけられるのを防ぐ。
2週間くらいそうやって頑張っていたら、さすがに諦めたみたいだった。
今日は、高垣の方が先にスタスタ帰っていった。
ホッとした。
俺も、帰ろ。
気楽になった俺は、定食屋に寄るとマンションに帰った。
あの夜のことを思い出すと…かなり恥ずかしい。
だって、高垣も高垣だけど、俺の方がずっとみっともないことになってた。
…3回くらい…イってしまった…。
それも、前への刺激だけで感じていたとは言えなくて…むしろ、後ろで…。
「宮田さん、ココなの?…ココ?」
なんて言われながら、奴が腰を動かして抽挿を繰り返すと、痺れるような快感が生まれて、俺は身を捩り、悶えた。
「ぁッ、ぁあッ、高垣ッ…ぁああッ…ダメ…」
「ダメ?ダメなの?」
高垣が、俺の中からギリギリのトコロまで出て、動きを止めた。
もどかしくて…腰が、揺れた。
「た…高垣…」
身体の奥はまだ痺れてる。
ぁぁ…もっと…。
辛くて、高垣を見上げた。
…視線が絡む。高垣が眉根を寄せた。
「宮田さん…」
甘く、濡れた声がして、それからギュッと抱きしめられて…。
「ぁぁ…んッ!」
一気に、突き上げられた。
入ってくる、その熱くて固い欲望の塊に俺はどうしようもなく感じていた。
「高垣っ、高垣…ぁッ…ぁぁッ」
奴の名を呼びながら、その身体にしがみついた。
「宮田さん…イイ…すごい…」
高垣が、感じてる。
その声に煽られる。
なんで…?どうして…どうして俺はこんなに…。
素直に感じて、高垣の身体にしがみついた。
「宮田さん…俺…もう…イきそう…」
耳元でそう囁かれて、奥深くまで突き上げられた。
「ぁあッ…」
死ぬ…かと思った。
気持ちよすぎて…。
高垣の腕が俺の肩をしっかりと抱きしめて、それから低く呻いた。
身体の中に、奴のが注がれるのを感じた。
どうして…あんなこと…。
なんて、数日間は考えていたけど、もうやめた。
考えてもどうしようもないばかりか、身体が熱くなってしまう。
彼女いない暦2年は長すぎたか…なんて自分に言い聞かせた。
欲求不満だったかも、って。
1人で部屋に居る時に思い出すと、どうしようもなくなって…。
でもなんか高垣のことを考えて自分で処理するのもヘンだ。
あああ、ダメダメダメ、また考えてしまってる!
忘れろ忘れろ忘れろ!
…シャワー入ろ。
そんなことを考えて、立ち上がったときだった。
部屋のインターホンが鳴った。
何?
インターホンのボタンを「talk」にした。
「はい」
そう言ったら、少しためらった深呼吸の音がした。
「あの…高垣です」
ゲッ!
「な、何しに来た!」
「謝りに来ました」
…謝りに?来るなよ…。
「すいませんでした、あんな…」
「わッ、そんなことをそこで喋るな!」
俺は慌てて玄関へ行き、ドアをほんのちょっと開けた。
「ああもういいよ、帰れよ」
少し開いたドアの隙間から、しっしっ、と手を振った。
「…すみません…」
大きな身体の高垣が、かわいそうなくらい小さくなって謝っている。
本当に反省しているようなその姿に、ほだされなくもない。
「…もう…本当にもういいよ。明日から喋ってやるから」
そう言ったら、奴の表情がパァッと明るくなった。
…俺も甘い。
「なんか、あれだろ、お前も酔ってたみたいだし」
「…すいません…」
「それで誰かと間違ったんだろ、もういいよ」
そう言った瞬間だった。
奴が、目を見開いて、そして急にドアの隙間から玄関に入ってきた。
「わっ」
驚いて後ずさりした俺の手をギュッと握り締めた。
「違います!」
「え?何?」
「誰かと間違ったりしてない。俺は、宮田さんが」
「わああ、それ以上言うな!」
高垣が続けて言おうとした言葉は、実は俺が最も恐れていたことだった。
「あの日のことは忘れてやるから、それ以上言うな!」
俺は高垣を叱り飛ばした。
それ以上言ってみろ、シャレになんないぞ。
なのに、高垣ときたら、俺の手をグッと引いて、あろうことか抱きしめてきた。
「おい、ちょっと!」
「無かったことにするつもりか?」
「あ…たり前だろ…!?」
「イヤだ、無かったことになんてさせない」
「わッ、おいっ…あっ…」
顎を掴まれて、キス…された。
唇を甘く噛まれて…それから、舌が俺の歯列をなぞった。
「や、やめ…」
言葉は、その唇に絡め取られ、抵抗する腕の力も奴の腕の中へと吸収されてしまう。
ダメだ、これ以上は…。
奴に抱きしめられて、汗の匂いを感じて、そして俺は…。
俺は…。
耳が、弱いらしい。
そこに舌が絡むと、駄目らしい。
膝の力がガクッと抜けた。
「た…高垣…」
情けなくも、俺は高垣にしがみついてやっと立っているような状態だった。
「部屋、入ってもいい?…それともここで…?」
高垣が、俺の耳に囁いた。
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