12、仰天
金曜日。
そんな精神状態の中、俺はレイちゃんと会った。
彼女のおススメの店でパスタを食べる。
女の子と一緒じゃないと来ないような、オシャレな店。
微妙に上品な味は、ある意味懐かしいものがあった。あ〜。俺って彼女いない歴、何年だったっけ…。悪くないよな、この感じ。
お互いに仕事のことや、軽く家族のことなんかにも話が及んだ。
レイちゃんが、結構じっくりと話を聞いてくれるタイプで…聞き上手っていうのかな…俺はついついいろんなことを喋ってしまう。
その時は、正直奴のことは忘れていた。
それから、近くのシネコンに映画を観に行くことになっていた。恋愛モノ。
そもそもメールで彼女が「観たい映画がある」って言ってきて、なんとなく流れで「じゃあ一緒に行く?」って俺が返事をして、それで今日会うことになったのだ。
店を出て、ぷらぷら歩く。
まだ手をつなぐって関係でもなく、ただただこの一週間のことを話しながら歩いていると、レイちゃんが「あれ?」と呟いて、立ち止まった。
「何?どうしたの?」
俺も立ち止まる。レイちゃんが、車道の向こう側を指差した。
「あれ…高垣さんじゃない?」
言われて、俺は顔をしかめた。
せっかく、頭から奴を追放するのに成功していたのに…。
嫌なタイミング、と思いながら、俺も彼女の指差す方向を見た。
「えッ!」
ヘンな声を出してしまったのは、俺だった。
確かに、それは高垣だった。
白いカッターシャツの袖を折り返し、今日締めていた水色のネクタイは外さないまま歩いている。
でも、問題はそこじゃなかった。
高垣は、1人じゃなかった。
一緒に歩いているのは、ユウコちゃんでも無かった。
高垣の腕に、細い腕を絡ませているのは、見るからに綺麗な顔立ちの…男だったのだ。
「……」
俺とレイちゃんは顔を見合わせた。
お互い、まずいものを見た、という気分だった。
「え〜っと、高垣さんって…」
レイちゃんがそう言った言葉の先は俺にも分かる。
「ホモなの?」とか「ゲイなの?」とか言おうとしたんだろう。
俺は『知らん知らん』と首を横に振った。
でも良く考えたら、当たり前といえば当たり前の光景だった。
だって、あいつは俺に『付き合って』なんてバカなことを言ったんだから、男が好きで当然っちゃ当然だ…。
でも何故か、俺は高垣のことをストレートだと思い込んでいた。
…んなわけないよな。俺の方こそ「バカ」なんじゃないか…。
ぼんやりと見ている先で、高垣にベタベタしていた男が、ふと奴のネクタイを外しにかかった。
喉元の辺りに指を入れて、結び目を緩めて、そしてシュルッと抜く。
それを高垣の胸ポケットに丸めて入れた。
なんだかその光景はいかにもこれから何か始まりそうな、エロい雰囲気を醸し出していた。
そんなの、人通りでやるな、ホテルでやれって言いたくなるような…。
正直、初めてデートする俺とレイちゃんには、ちょっと気まずくなるほどの雰囲気だった。
テレビのラブシーンを親と見ちゃったような気まずさだったのだ。
「お、俺、あんまアイツのプライベート知らないんだ。別の課だし」
やっとの思いで、俺はレイちゃんにそう言った。
「でも、まだ、なんか実際よく分からないし…ユウコちゃんとかには黙っておいてくれる?」
「そ…そうね…」
レイちゃんも、突然の事態に戸惑っていた。
「じゃあもう、何も見なかったことにして、行こう」
「うん」
レイちゃんの、ホッとしたような返事が聞こえて、俺もホッとした。
その瞬間。
高垣と、目が合ってしまった。
距離…30mくらいかな…。もっと?
表情は見えた。
目を丸くしていた。
俺も固まってしまっていた。
3秒くらい、お互いの顔を見ていた。
その間中、胸をギュッと締め付けられるような何かが俺の中にあった。
……。
俺は、そっと視線を外した。
映画の内容は頭の中をスルーしていった。
映画の後、喫茶店でちょっとだけレイちゃんと喋ったけど、それもただヘラヘラと話を合わせただけで、早々に切り上げて駅で別れた。
高垣のことばかり考えていた。
理由は分からないが、どうしてか腹が立ってしょうがない。
俺、どうしたんだろう。あんな奴のことは放っときゃいい、考えなくていいのに…。
家に帰って、ふと携帯を見た。
映画館に入るとき、マナーモードにしてた。
……。
着信履歴…高垣から。
電話を返してやる義理は無い。
でも…。
いや…。
少し迷った。
やっぱ、やめとこう…。
俺は携帯をそっと机の上に置いた。
その時、マナーモードのままだった俺の携帯が…机の上で震えだした。
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