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手順を踏め!
作:イシイ-イタル



10、合コン


 ……。
 落ち着かない。
 なんなんだ、この落ち着かなさは。

 金曜日。今日は例の合コンの日だ。自分でもソワソワ、ソワソワしているのが分かる。
 いわゆる"遠足の前の日の"ワクワクとした落ち着かなさ…とは違うのだ。残念ながら。
 目の端にチラリと入っている高垣が気になってしまう。
 気になってしまう自分が情けないのだが…。

 合コンに行くのがバレたらどうしよう。
 バレませんように、バレませんように。

 冷静に考えたら、別にバレたって良いはずなんだ。俺の勝手なんだし。
 『お前とは付き合わない』って言ったし、もう家に来るなって言ったし、奴のことを気にする必要はないんだ。
 …とは思うものの。

 バレませんように、バレませんように…。
 バレたら、どんな凄いことになるか、想像もつかず…。
 怒るだろうなとか、殴られそうだとか、不安な妄想が次々と頭の中で旋廻する。
 くそ〜、俺の方が年上で、先輩で、しかも襲われた側なのに、なんでこんなに気を遣わにゃあならんのだ。奴め〜!
 なんか憎い。憎いぞ。
 フツーに仕事している高垣の姿が憎々しく思えてきて、据わった目で睨んでいたら、目が合った。
 高垣がニッコリ笑って頭を下げた。

 ムカ〜ッ!
 なにその余裕ヅラ!

 俺はプンっと顔を背けたが、あまりに小学生みたいな態度を取ってしまったことが逆に恥ずかしく、書類に目を落としたまま2度と顔を上げなかった。





 定時になり、俺はそそくさと机の上を片付けた。もう合コンに行きたいとか、女の子と会いたいというよりも、高垣から逃れたい一身。楽しい気分などほとんど無く、メタルギアソリッドの主人公(注)にでもなった気分だ。ホフク前進でもして消え去りたい…。
 上司同僚たちに小声で「お先です〜」と声をかけ、スルスルスルっと出口へ急いだその時…・

「お、宮田!」
 ドッキーン…!

 だ、誰、声をかけたのは…。

 ドキドキしながら顔を上げたら、松戸がドアの所に立っていた。
「な、なんでお前ここにいるんだよ、ロビーで待ってろって言っただろ!」
 俺は小声で抗議した。
 高垣はコッチを見ているだろうか…。恐ろしくて振り向けない。見てるかどうだか分からない、その視線が背中に痛い。
 そんなビクビクしている俺の様子などお構いなく、松戸が能天気に言い放った。
「あのさ、急に欠員出たんだけどさ、代打がいなくて。お前んとこの高垣どう?」
 な、何ぃ…!
「だ、ダメダメダメダメダメダメダメ!」
 俺は血相を変えて断ったが、無駄な抵抗に終わった。
「何の代打ですか?俺で良ければ参加しますよ」
 高垣の、低くてイイ声が俺の背中…というか頭の上から聞こえたのだった。


「お、助かるよ〜。看護婦合コンなんだけどさ」
 と、松戸が言った時の、高垣のイラッとした空気が、バチバチと感電するように伝わってきたのは俺だけだろう…。
 奴は、すぐにニッコリと笑って言った。
「へえ…。看護婦さんですか…。宮田さんも?」
「そうそう。今日は宮田メインね。彼女募集中なんだって」


 気…失いそう…。



 松戸と、松戸の課の1コ上の先輩と、俺と、高垣。
 向こうも4人。2人はかなり可愛くて、あと2人はフツー。
 松戸が気を利かせて、可愛い2人の間に俺を座らせた。
 でも…楽しくない…。っつーか、楽しめない…。
 スーッと斜め前に座った高垣の、顔は笑ってるけど、時々目が笑ってない。
 怖い。

「あの〜、宮田さんって、どういうお仕事してるんですか〜?」
 左隣のレイちゃんが聞いてきた。
「まあ4人一緒の会社なんだけどさ、俺は事務方で。今は建設関係の部署にいるけど、専門職じゃないから、もうすぐ異動かな。4年目だし」
「そっか〜。異動とかあるんだ」
「レイちゃんは?」
「私は個人病院に勤めてるから異動とかは無いの。大きいトコだとあるんだけどね」
 ……。
 俺が『レイちゃん』って言った時、高垣がこっちをチラって見た。
 怒ってるって感じでもなく、本当にチラっと。
 でもそれがまた、何を考えてるか分からなくて不安になるんだ。

「高垣さんって、自宅なんですか?」
「うん。まだ親のスネ齧り」
「なんだ〜、じゃあお家に遊びにってワケにはいかないですね〜」
 おッ?
 俺の右隣に座っている、ユウコちゃんっていう髪の長い子、どうも高垣が気に入ったらしい。机を挟んで、結構突っ込んだ会話をしようとしてる。
 高垣も、そこそこ愛想良く返事をしてる。ユウコちゃん頑張れ!俺は2人の会話に、聞き耳を立てた。

「1人暮らしとか、予定無いの?」
「うん。資格取るまでは」
「何の資格?」
「1級建築士。実務経験2年必要なんだ。だから来年以降受験するんだけど、まあ一発合格は無理かな…」

 ふーん、やっぱそんなこと考えてるんだな。奴は専門職だもんな。
 ちょっとエライなぁ、などと思ってしまった。
 高垣の課の社員って、ほとんど建築士の資格を持っていたり、取ろうと受験したりしているんだけど、なんかフラフラ事務やってる自分と違って、目標があるんだな〜って思う。
 就職してからも勉強してるっていうのがさ、エライなって。

 そんなことを思うと、合コンの最中なのに、ふと"自分の情けなさ"にしんみりしてしまう。

 いやいや、いかんいかん。しんみりしている場合じゃないよな、今日は別の目標があるわけだから。
 でも…。
 レイちゃんも可愛いんだけど、なんだか力が入らない。
 レイちゃんよりも…斜め前の高垣が気になってしまうんだ。



(注)メタルギアソリッド…ゲーム。敵地に潜入し、ミッションを果たすことを目的としており、主人公スネイクはほとんどの場面で物陰に隠れ、コソコソと移動する。詳しくはWiKiやはてなダイアリーなどをお調べ下さい。


10話目まで来ました。感想、拍手等ありがとうございます。
おかげさまで頑張って書き続けております。
もう少しお付き合いいただけると嬉しいです。
<(_ _)> 至







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