魔女の国、そこは湿地だらけで洗濯物がなかなか乾かない。太陽も中々でないし。
なかなかに苦しい立地条件である。他にも黴が生えやすい。地味に困る。
湿地帯を好む毒竜や盲目の雷竜なんかが生息しているので毎日がアドベンチャー。
それなのでこの国の魔女は大体炎系の魔法を習得することになるし
竜を手懐ける魔法も習得する事になる。それ故他の魔法国家より奇特な術が生まれるのだ。
しょうがないのだ、なんせ生活の為だし命の為なのだ。
炎、竜を手懐ける術の魔法を習得したら今度は何故か毒だ、その理由は毒竜の所為だ。
そう、盲目の雷竜は洞窟に引きこもっているのでなかなか出てこないが毒竜は頻繁に出る。
毒竜の攻撃方法として毒液の噴射が特徴的でありそれを浴びた人はすぐにでも解毒をする
必要がある。三時間放っておくと死んでしまう程強い毒だ。危ないに決まっている。
故に解毒を基本とした毒の魔法を習得する事になる。解毒を習得したついでに毒薬の精製
方法を学ぶというふうに発展する人もいるが大体の人は解毒を習得して後は投げている。
何せ毒の魔法は媒体が必要なのだ。魔力により毒を生成するだけでは使えないので
何らかにそれを宿らせる必要がある。例えばパンだとか、水だとかに。
毒薬生成を学ぶ人もあまり習得しようとしない。毒薬を作った方が楽だからだ。
ここまでが生活で必要な魔法。有事の際に使用する魔法も当然ある。
炎魔法の発展系、爆裂魔法。簡単に言えば簡易大砲である。
着弾すれば爆発を起こす魔法。比較的習得が楽なので軍ではこれを使用している。
と、いうよりも戦争が起きるケースが少ない故に起きたとしても他に必要な魔法がない。
あるとしてもそれは防御用。例えば魔法障壁だ。しかしこれは己の魔力をそのまま壁に
するだけなので習得もへったくれもない。解毒を習得する辺りで大体皆が習得する。
しかしながらこれを極めれば城壁より硬く頼もしい障壁の展開が可能となる。
なので、軍では魔法障壁隊というのが存在している。しかし悲しい事に軍なんか
あっても無駄なのだ。何故か、こんなところに攻め込むバカはいないのだ。
キノコぐらいしか生えてないような国だ。戦略的利用価値も何もない。
それに竜が多い。底なし沼なんかも腐るほどあちこちにある。
うわ、いらねぇ。というのが近隣の魔法国家の声だ。攻め込む価値ゼロ。
戦略的には価値ゼロの魔女の国だが商業的にはおいしい物がある。
例えばキノコ、魔女の国でしか取れないキノコは高級食材だ。
さらに毒竜。食えるわけではないがその皮は色々と使用法がある。
高級バッグにもジャケットにもなれる。保温効果が高いので寒い地方では大人気。
それでいて安い。関税がかかっていても安い。主婦には嬉しい存在。
そういうわけで何となく平和な魔女の国。計画経済でもないのに失業者なんかいないし。
死ぬ人も大体が老衰や病死だ。底なし沼に沈んだだとか毒竜にどつかれたとかも
いるにはいるがその数は少ない。オマケのようではあるが犯罪者も何故か少ない。
そういうわけでよくわからないがなんとなく平和な魔女の国。
そんな国での日常もどうしようもなく平和なのである。
学校の空き教室でクミンは一人弁当を広げていた。
友達がいないわけではなく、むしろその友達から逃げているのだ。
理由はその弁当が美味だから。少し分けて貰おうとする輩が後を立たないのだ。
自分の分がなくなる事態だけは避けたいと空き教室で食べているわけである。
静かな環境を好む彼女にとってはこの空き教室はそれこそ楽園だろう。
しかしながら守り手不在の楽園に繁栄と永久は存在しない。
とうとうここで弁当を食べているというのがバレてしまった。
「見つけたぞクミン」
「さぁそのうまそうなソレをよこすのだ」
弁当のオカズ一品に対して見事なまでの執着心をもつこの二人に位地が割れたのは
痛すぎる。魔女の国では男子は珍しい。どういうわけか女の子しか生まれてこないのだ。
男子が生まれると母親は涙を流して喜ぶという。それほどまでに珍しいのだ。
故にこの国での男に愚者は存在しないというのが一般論であるがここに例外が二人もいる。
きっと産まれる時に色々なものをお腹に忘れたのだろうとクミンは苦笑した。
「どうしてそこまでオカズに執着するかな、君たちは」
「恨むのなら己の料理スキルを恨むといい」
「そうさ我等はオカズという財宝を求める冒険家なのだ」
底なしの馬鹿だ、とクミンは再び苦笑する。
その間にもにじり寄る馬鹿二人組。誤解されそうな場面ではあるがこの二人は
色気より食い気で花より団子な思考回路の持ち主なのである。
「わかったよ。分けよう。三人で食べようか」
「よしきた」
「話がわかるやつは嫌いじゃないぜ、俺は」
クミンは渋々二人にオカズを分けた。恥ずかしいと思わないのか大喜びする二人。
私まで同類に見られるじゃないか勘弁してくれとクミンはまた苦笑する。
だが案の定この三人は何か変な人というレッテルを貼られている。
クミンまでそういう扱いをされているのは不憫で仕方が無いが
それもこれもその二人の所為である。二人を嫌がりもせず接近を許しているのは
クミンぐらいなもので、それ故に変な人だと思われてしまうのだ。
ただ本人は知らないだけなのだ。時すでに遅しということが。
「しかし美味いよな」
「ああ、将来はレストランでも開けるんじゃないのか」
「へぇ、そしたら常連客にでもなってくれるかい」
「ああなるさ。この味を求めて毎日でも通うだろうさ」
「値段はタダでよろしく」
「君たちは商売というものを理解していない……」
こんな馬鹿な二人ではあるが何故か一緒にいると楽しい、いよいよもって
私自身も毒されてきたかとクミンはまたも苦笑した。もう苦笑しかしていない。
この苦笑をどう受け取ったのかこの後この馬鹿二人は妙な勘違いをする事になるのだが
それはまた別のお話である。何はともわれ魔女の国は今日も平和なようだ。 |