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破綻少女 黄の章
作:弐乃菜子



黄の章 06


               3

「あれ?」
午後3時を過ぎたあたりで竹が首をかしげた。
「ん、どうかした?」
 タバコを吸いながら佐藤が聞いた。
 酒は少し休憩中なので、酔いの進行は少し止まっている。
「結局誰も呼んでないじゃん」
「ああ、そういやそうだったね」
「だしょ。誰か呼ぼうぜ。誰呼ぶよ?」
 竹に聞かれた佐藤が、うーん、と考えながら松田に視線を向ける。
 視線を向けられた松田は、先ほどからソファに仰向けに寝転がって寝ていた。
竹はソファの大部分を占拠された佐藤がとても気の毒に見えたが、基本的に優しい佐藤は文句を言わず暫くそのままにしていた。
だが誰を呼ぶか竹に聞かれた事で、松田の意見を聞こうと寝ている松田を揺する。
「まっつん、起きてー」
「……違う……回復だから」松田は目を開けずに眠たげな声でそう答えた。
 意味不明の応えに佐藤が困った顔をして竹を見る。
 竹は面倒そうに立ち上がって、寝転がっている松田の尻を叩く。
「何だそれ、意味がわかんねえよ。良いから起きろ」そう言って今度は松田の頬を叩いて、ソファに座りなおす。
「……いったー。それはないわー。バッド入るわー」
 松田にとっては理不尽な暴力を受けて、松田は迷惑そうな表情で抗議の声とともに体を起こした。
 竹はその抗議を正義は自分にあるのだとでもいうように、完全に無視する形で言う。
「良いから誰呼ぶか考えて」
 自分の抗議を無視された松田は不服そうな顔をしたが、いつもの事だと半ば諦めた口調で言う。
「……おいちゃんが来るでしょ」
「それとは別に、よ。てか夕方って、何時ごろなのさ? ケンジ時間わかる?」
「いや、わからない」佐藤が首を横に振る。
「じゃあ松、今電話して聞いてみて。オレも誰か呼ぶから」
「誰呼ぶの?」
「本か大木かな。暇だったら来るだろ」
「あい。てか腹減ったんだけど、何か頼まない?」松田が竹と佐藤に同意を求めるように聞く。
 しかし、竹は「オレは減ってない」とぴしゃりと否定する。
 竹は基本的に自己中である。
「ええー?」松田が、出たよ自己中という目で竹を見た。
 竹は松田のその視線に気付いて、どっちが我侭なのかハッキリさせる為に佐藤に聞くことにした。
 そもそも出前を頼んでくれるのは佐藤なので、全ての決定権は佐藤にあるのだ。
「ケンジは腹減っている? まだ3時だけど」
『まだ3時』の部分を強調して竹は佐藤に聞いた。こういう小さい部分での姑息な策は竹の十八番である。
 佐藤は「いや、まだ減ってないかな」と正直に言った。
 その答えに松田は不満そうな顔をする。
 しかし、松田も決定権が佐藤にあることがわかっているので文句は言わなかった。
 竹は自分の意見が通った事で満足そうな顔をして、
「出前すんのは6時くらいで良いんじゃない?」と佐藤に同意を促した。
 佐藤は首を縦に振る。
「おっけい。じゃあそんな感じで。松、おいちゃんに電話しておいて。あとケンジそこの瓶とってくれる? それと灰皿を掃除しておきてくれると吉」竹はそう言って立ち上がり、テーブルの上と床に置かれた数本の空瓶を回収してキッチンに向かった。
 結構細かいところのある竹は、小まめにゴミを片付けるのだ。
 キッチンで空瓶をビン専用のゴミ箱に捨てた後、竹はキッチンの上の戸棚の中を漁る。
 そして、袋を3つ抱えて再びリビングに戻ると、それらをテーブルに置いて言う。
「とりあえず出前するまではこれで」
テーブルに置かれたのは、ポテトチップと醤油煎餅、それとふ菓子。どれも竹が買い込んでおいたものだった。
さっさと出せば良かったのに今まで出さなかったのは、戸棚から取り出すのが面倒だったからである。
「どれからいく?」竹は食料が現れて機嫌が一転した松田に聞いた。
「ポテチからで」
「はいよ。んで、おいちゃんは何だって?」竹がポテチの袋を開ける。
「んー、何時になるかわからないって」松田がポテチを食べながら言った。
「あらら。まあ良いか」
「そのうちくるべ」佐藤が言った。
「だね。んじゃとりあえず本に電話してみるわ」そう言って竹が携帯電話で電話をかけ始めた。
 7コールほど鳴らすと電話が繋がり、もしもし、という声の後ろから様々な音が飛び込んでくる。
 どうやら本多は外で電話を取っているらしかった。
「あ、もしもし。本さ、今日暇? 暇だったらうち来ない? 今、松とケンジと飲んでるんだけど」
 外にいるのがわかるので暇ではないだろうが、それでも聞いてみた。
「今日? 何時から? てか飲んでんのかよ」
「飲んでんのよ。まあ何時からでも良いけど、出来るだけ早目が良いかな」
「えっと、夕方だったら平気」
「4時、5時くらい?」
「多分そのくらいかな」
「OK。じゃあそのくらいに来て」
「ほーい。あ、あと大木も一緒に行くかも」
「そうなの?」
「うん。今一緒にいるから」
「あらそ。二人でお出かけしてたのか。それなら手間が省けたわ。んじゃ大木と一緒に来てよ」
「わかった。それじゃあ着いたら連絡するね」
「了解。それじゃ夕方に。んじゃねー」
「はーい。じゃねー」
 電話を切って、佐藤と松田に結果を告げる。
 結果を告げるといっても、通話しているところを聞いていたので殆どわかっているだろうけど。
「本と大木来るってさ。あと1〜2時間後くらいに」
「何、あの二人一緒にいるの?」ポテチをバリバリ貪りながら松田が聞く。
 松田の横で佐藤がポテチを一枚、「うめえ、これうめえ」と独り言を言いながら大事そうに食べていた。
「そうみたい。買い物じゃない? わかんないけど」竹はそう答えて、ポテチの袋に手を伸ばし、直後「あれ!?」と驚いた声を出した。
 竹は驚きの表情をしながらポテトチップスの袋を持って、中を覗いた。
「ポテチがねえ!」
 竹は驚嘆の声を放ち、幸せそうにポテチを食べ尽した二人を睨み付けた。
 竹に睨まれた二人は、自分たちが何故睨まれているのかわかっていない風に、キョトンとした顔をした。
 その二人の表情に竹が苛立たしげに言う。
「お……お前ら……喰いすぎだろ!! てか食うの早えよっ!」
「そんな事ないでしょー。言いがかり、完璧言いがかり」松田が暢気な声で言った。
 それに続いて佐藤が言う。
「そーだぞっ。まあまあこれでも食べて」
 そう言うと佐藤はふ菓子の袋を開けて、ふ菓子を一本竹に渡した。
 そして松田と自分にもふ菓子を分配して、袋をテーブルに戻した。
「……」竹は腑に落ちない表情をしたまま、渡されたふ菓子に齧り付くと、一瞬で蕩けた表情に変わって幸せそうに一言呟く。
「……甘ぇ」
 それに続くように佐藤と松田もふ菓子を食べ始めて、それぞれ幸せそうに呟きだす。
「うめぇ」
「うまっ。これうまっ」
 その後、暫くの間「うまい」と「甘い」を連呼しながらふ菓子を貪る男達、という奇妙な光景が繰り広げられた。


お読み頂きありがとうございます。

速度が上がらず申し訳ありません。今年最後の更新かもです。











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