黄の章 02
1
10月31日、日曜日。
世の中の大抵の人たちがお休みのこの日。
学生である天倉竹も幸福感たっぷりに、ベッドの中で惰眠を貪っていた。
時刻は既に午後を回り12時半。
昨日、彼が寝たのが深夜1時頃なので、約半日近く寝ていることになる。
それでも竹は未だ起きる気配が一切ない。
何故なら今日は予定がないので、死ぬほど寝るという自堕落ではあるが、個人的に最高の方針を打ち出していたからだ。
寝る事が好きで、それ以上に起きるのが面倒。
かなり駄目な人物である。
しかし、そんな幸福なひと時は大抵脆くも崩れ去る。
予定外の来訪者によって。
ぶーん、ぶーん、ぶーん、とベッド脇のテーブルに置いておいた携帯が震え、着信を伝える。
竹は一度寝ぼけながら、テーブルに手を伸ばしてそれを掴み、折りたたみ携帯を開いて誰からの着信か、まだ開ききっていない目で確認する。
ディスプレイに表示された名前は『まつ』。
「……」
竹は携帯をテーブルに戻して、布団をかけなおして目を瞑る。
無視することにした。
テーブルに置きなおされた携帯は、その後も暫く振動していたが、相手が諦めたのかそれとも留守電に接続されたのか、振動が止まった。
それで安心して、再びまどろみに落ちる。
だが、30分ほどした後に再び携帯が自己主張をしはじめた。
竹は不愉快そうに眉をひそめて、もう一度携帯を手に取った。
寝転がりながら着信の相手を確認すると、ディスプレイにはまた同じ文字。
竹はもう一度放置しようかと考えたが、また同じ繰り返しになりそうなのは目に見えたので、仕方なく通話ボタンを押した。
「あい」起きたばかりだった為、声が少しかすれる。
「あ、もしもし。寝てた?」
テンションもオクターブも高めの声が携帯から聞こえてくる。
「うん。寝てたけど、何」
少し恨みがましい声で言ってやるが、相手にはそんな攻撃は効かなかった。
「あー、じゃあ今から行くわ。もう起きるでしょ」
何がじゃあで、何故にもう起きるでしょ、と決め付けられているのか色々と不明だったが、そんなことを突っ込んでも意味がないので、溜息をつきながら返す。
「……今何時」
「1時くらい」
正直面倒だったが、とりあえず12時間は寝たのだからと妥協して、松田の訪問を許可する。
「……じゃあ30分後に」
「ういー、了解。あとKJも一緒に行くから」
「はいよ。ああ、あと来るとき飲み物買ってきて」
「おっけいです」
「じゃあ着いたら連絡してくれ」そう最後に告げて通話を終える。
その後5分ほど布団の心地よさに、やっぱり断れば良かったかな、と後悔してから覚悟を決めて体を起こした。
顔を洗い、着替えはせずにリビングでテレビを眺めていると、1時半を少し過ぎた頃に携帯に松田から電話が掛かってくる。
それを放置したまま玄関に向かい扉をあけると、松田聡也と佐藤顕志が大きなビニール袋を持って立っていた。
「ういーっす!」
「ちーっす!」
「ういっす。ああ、松鍵閉めて」
二人のテンション高めの挨拶に、テンション低めの挨拶で返して玄関から中に戻る。
二人は靴を抜いでからその後ろをついてくる。
テレビが付けっぱなしのリビングに戻り竹と松田がソファに座ると、佐藤が持っていた袋をソファの前のガラステーブルに置いてから座る。
「何それ?」竹が袋を見ながら二人に聞く。
「飲み物」佐藤がニヤリと笑いながら答える。
「飲み物? 量多くね?」確かに飲み物を買ってきてとは言ったが、こんな大量に買ってくるとは思わなかった。なにせその大きな白いビニール袋はパンパンになっている。
これからパーティーでもあるんですか、ってくらいに。
「今日は、これからパーティーやるから」松田が弾けるような笑顔で言う。
本当にパーティーらしかった。
だからいつにも増して、テンションが高いのか。
だがそんな事をいきなり言われても、竹は二人のようにテンションが上がらない。
「なんだそりゃ?」と眉を寄せて聞く。
「パーティー、パーティー。テンションの低い竹さんも、これを見れば一発だから。ケンジ中身出して」
松田のウキウキした発言を受けて、佐藤もウキウキしながら袋の中身を一本づつ取り出していく。
それを一つ、また一つと確認していく度、竹の表情がみるみる綻んでいく。
「こ、これはっ……!!」
それは一本が軽くウン万円を超える良アルコールの数々。
それが合計25本。
「竹、これ好きでしょー」全てを袋からテーブルに並べた佐藤がニヤニヤしながら、竹に聞く。
「好きっ!」竹はハキハキと答える。
その台詞を聞いて、二人がゲラゲラ笑う。
「でもこんな量どうしたの? 金は?」
「ケンジさんの奢りですよ」松田が言った。
「ケンジ……大好きだっ!!」竹が佐藤の目を見ながら言った。
「しかも食料は、後で出前取ってくれるって」
「あ、愛してるーーっ!!」竹はきゃー、と立ち上がって佐藤に抱きつく。
そして、「今日はパーティーだ!!」と後悔も眠気も完全に吹き飛んだ最高の笑顔で言った。
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