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破綻少女 黄の章
作:弐乃菜子



アラタナハジマリ 19


     エピローグ

今うちで十三夜全員が飲み会の最中。
 ただしオレは今席を外してるので、勇気があれば勝手に参加して。
 オレはそのうち戻ります。

 今釜蔵にいるので、来る気があるならじゅ

          *

 肉の焼けた異臭漂う、武家屋敷前。
 ぱしゃり、と石畳に張られた水面から近付く、赤い着物を着た銀髪の少女と、傘を持った彼女の従者2人。
 秋野(あきの)紅葉(くれは)は、呆然自失した様子で何かを見つめる少年に近付いた。
「半端なメールを送ってきたから折り返し連絡を入れたら、連絡がつかなかった。嫌がらせかとも考えたが、優しい私は連絡が来るまで待っていた。そうしたら外で不穏な動きがあった」金属と宝石が優しく擦れたような、甘く尖った独特な声で、紅葉は言った。
「……それで、出てきたのか?」竹は紅葉の方は見ずに、力ない声で言った。
「そう。家主としては無視するわけにもいかないからな。すると腑抜けた顔をした無様な男がいるではないか。そのまま見ておいても良かったんだが、私は優しいからな。少し手を貸してやった。あれで間違いはなかっただろう?」
 一向に竹が自分の方を見ないことに、痺れを切らしたのか、紅葉は首を動かして竹を覗き見る。
 その際、主が濡れないようにと傘を持ったメイドの手が動く。
「……ああ、助かった」
「うん。竹に礼を言われて、今の良い気分に浸りたいところなんだが、それよりも先に聞いておきたいことがある」
「……何だ?」
「理解していることを聞くな。時間の無駄だぞ。――ああ、こんな会話も久しぶりだ。本当に久しぶりだぞ? あの後、見舞いには来ないし、こちらに越してきてからも竹のところの医者を紹介しただけで、他に連絡をしてこない。全く、私を何だと思ってるんだ。と愚痴を言いたいところだが、今はやめておこう」
 今のは愚痴ではなかったらしい。
 紅葉はその宝石のような紅い瞳で竹を見つめると、
「それよりも、アレはどうするんだ?」とつまらなそうに聞いた。
 紅葉がアレ呼ばわりし、竹が先ほどから見つめているのは、一体の焼死死体の横で雨に打たれて倒れている少女、荒川宿禰だった。
 宿禰の首筋には、真新しい2つの噛み傷があり、そこから血は流れていない。
 それは彼女に訪れた異変を示している。
「どうするんだ? アレの中身は既に人ではないみたいだぞ? 見た感じ出来損ないではあるが、鬼の類だな。何なら今私が焼き殺してやっても良いが?」
 竹はそう言って宿禰に近付こうとする、鬼の姫の肩を掴んで止めた。
「止めるのか?」
 紅葉は振り向いて、竹と目を合わせる。
 紅葉の眼は嘘偽りなく、本気で宿禰を殺そうとしていた。
「……止める。それは駄目だ」
「それは何故?」雨を蒸発させるような熱の籠もった視線で紅葉が竹に問う。
「――オレは知らない奴の事はどうでも良い。でも、知っている奴をどうでも良く思えるほど強くはない。それが美少女ならなお更だ」
最初は小さな声だったその言葉は、最後には微笑みとともに口ずさまれた。
「そう。なら私がこれ以上言う必要はないな。答えが決まってるなら、さっさと行動をしたらどうだ? いくら私が優しいといっても限度はあるぞ?」
「……そうだな。悪い。全く情けない。出来れば忘れてくれ」
「それは出来ん相談だな」紅葉は漸く口元を綻ばせた。
「だろうな」竹は苦笑いして、倒れた宿禰に近付く。
「しかし、助けるにしても手はあるのか?」紅葉は首を傾げる。
「今はない。でも今日は幸い、夜たちのパーティーが開かれているからな」竹は、その両手で宿禰の体を抱えた。俗に言うお姫様抱っこ。
 その抱え方を見て、ピクリと紅葉は不快そうに一瞬だけ眉根を寄せ、すぐにそれを戻して呆れたように言う。
「他力本願な奴だな」
「何も解決出来ないよりはマシだろ」竹は宿禰を抱えたまま、肩を竦めた。
「かもしれん」紅葉も竹に合わせるように肩を竦めてから、
「さて、私も準備するか。真実はその死体の処理を、真逆は車をまわせ」と言った。
「準備って?」酔いも覚め始めた竹に、何か先ほどとは別種の嫌な予感が過ぎる。
 そんな竹を尻目に、双子メイド、八坂(やさか)真実(まみ)真逆(まさか)姉妹は主の申し付け通り、行動を始めた。
 仕事の出来るメイド姉妹である。
「ん? まだ宴は終わっていないんだろう? だから私もこれから参加するのだが? 誘ったのは竹だぞ?」紅葉は、落ちていた黄色い傘を拾って雨を遮ると、悪戯っぽく笑う。
「…………あー。そういえばそうでした」
 駅前で売人を待っている最中に、暇潰しに送った三行のメールを思い出す。
 後先考えない、完全に思いつきの行動。
竹はまだ自分の家で飲んでいる連中を驚かせる為だけに、大神深翠、山吹蒼香、アレクサンドラ・ワーナーの三人にメールを送っていた。
秋野紅葉が初めに言った半端なメールというのは、そのメールを編集している途中で、時間切れになって送ったものである。
時間切れになっていなかったら、

今うちで十三夜全員が飲み会の最中。
 ただしオレは今席を外してるので、勇気があれば勝手に参加して。
 オレはそのうち戻ります。

 今釜蔵にいるので、来る気があるなら準備しておいて。
 1時間以内にこちらから連絡します。

となる予定だった。

「ふふっ、今更断っても無駄だぞ? そもそも宴には勝手に参加して良いらしいからな。それにあの文面だと、話しに聞く他の女もいるのだろう? せっかくの機会だ。今宵、決着を付けるのも悪くないだろう」紅い眼をギラつかせて、紅葉は言った。
「……まぢかよ。完全にミスだろ。アホかオレは」
 酒の勢いに任せて、悪戯心を出したのが運の尽きだった。
 竹は激しく後悔した。
 そんな竹を見て、紅葉は楽しそうな顔をして言う。
「なんだ? 後悔するのはまだこれからだぞ。覚悟しておけ」
「……うい」
 酒はもう飲まない。
 あとよく考えて行動しよう。
 竹は心に決めた。
「とりあえず話し合いだけで収めて下さい」
 宿禰を抱えたまま、竹は全力で頭を下げた。
「さあ? それは竹の心がけ次第だな」
「……死んだな」竹はそう呟いて、他の三人が参加していない事を願うために、天を仰ぎ見る。
 仰ぎ見た夜空は、相も変わらず竹の幸先を現すような涙を流した曇天だった。

 ハロウィンのこの日、パーティーの最後は少年にとって、幸福な地獄に終わった。
ハロウィンのこの日、不幸な少女は仮の装いではなく、本物の吸血鬼に変わった。

          *
 
 この時の竹は目の前で起きてしまった事態に気を取られて、何も気付けなかった。
 何故、何の変哲もない青年が急に変異したのか。
 何故、それが吸血鬼と呼ばれるものだったのか。
 神の複製品(デッドコピー)がそれに気付くのは12月。
 唯一の(オリジナルワン)は、まだ気付かせない。


お読み頂きありがとうございます。
短めのエピローグとなりましたが、次話の内容がエピローグその2みたいな感じなのでご勘弁を。
次で最終話になりますが、18と19で抜けているところは補完します。
あと紅葉が久々の登場です。漸く出すことが出来て、良かったです。











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