僕、平井 悠二は、都内にある私立月臣学園高等学校に通う高校生だ。
その僕が、月臣の校門を通過仕掛けた時「悠二」と横から声が聞こえた。
僕はその声に足を止めて振り向いた。その先には、背中まで伸びたサラサラで真っ直ぐな黒髪に、つり目を持つ少女がいた。
門の前に立つその少女の名は坂井 裕香理。僕と彼女は、家が隣同士で、幼稚園からこの学校迄ずっと一緒だった。所謂、幼馴染みって奴だ。
「おはよう、裕香理ちゃん」
僕は彼女に笑顔で挨拶をした。
「おはよう。今日はどうしたの?遅いじゃん」
「うん、一寸ね」
「ハハーン、アンタまたやったの?やめなさいよね、そう言う事は。って、私もアンタの事言えないけどさ」と苦笑する裕香理ちゃん。
「否、今回は未だ何もやってないよ。ただの寝坊さ」
「と言う事はただの夜更かしですな?」
「うん、まあ・・・。て言うか僕の事ずっと待ってたの?」
僕の問いに、裕香理ちゃんはカーッと顔を赤らめた。
「バカ、そんなんじゃないわよ」
言って裕香理ちゃんは一人、そそくさと昇降口に向かって歩いて行った。
「待ってよ、裕香理ちゃん」
僕は裕香理ちゃんの後を追い、横に着いた。
それとほぼ同時に、HR開始のチャイムが校内に鳴り響いた。
「悠二、急ぐわよ」
「うん」
僕たちは昇降口迄慌てて駆け、靴を履き替えて教室にダッシュした。
裕香理ちゃんが引き戸をガラガラと開け、室内に滑り込み、後から僕が入って引き戸を閉める。
「坂井と平井、また二人揃って遅刻か。お前らちゃんと来ないとヤバいぞ、ん?」
と担任の吉川 巽がニヤニヤしながら言ってきた。
そんな顔の巽先生に裕香理ちゃんは言った。
「キモイよ先生」
途端、巽先生の心に槍がグサッと刺さった。
そんな先生を尻目に、裕香理ちゃんは窓際の席に着いた。
僕は裕香理ちゃんの代わりに、先生に謝ってから裕香理ちゃんの隣に座った。
それとほぼ同時に、始業のチャイムが鳴った。
「それじゃあ授業始めるぞ」
と先刻まで落ち込んでいた先生が、立ち直って言った。
「(悠二)」
と裕香理ちゃんが小声で僕に声を掛けた。
僕は小声で「(何?)」と返す。
「(屋上行こう?)」
担任が担当する国語の授業。その授業が嫌いな僕は、裕香理ちゃんの言葉に頷いた。
僕たちは席を立ち、引き戸に向かって歩いて行った。そしてドアを開けると、巽先生が言う。
「おいお前ら、何処行くんだ?授業始まってるぞ」
「「は?知らねえよ」」
僕と裕香理ちゃんは揃って返事した。
不意に、皆の視線が僕らに向けられた。
「何よあんたたち?」
裕香理ちゃんが言うと、クラスメイトの一人、木下 鮎が立ち上がって言う。
「一寸二人とも、ちゃんと授業受けなさいよ」
「「嫌だ」」
僕と裕香理ちゃんは、再度揃ってそう返事した。
「よせよ、木下。あいつらには何言ったって無駄なんだからよ」
そう言ったのは、鮎の後ろに座っている男子、日下部 秀だった。
「秀の言う通りだぜ、鮎。不良コンビには関わるなって」
と言うのは、鮎の隣に座る鮎の彼氏、日野神 晃だ。
「日野神くん、一寸こっちにいらっしゃい?」
と裕香理ちゃんが笑みを浮かべて手招きをした。
「ったく、何だよ?」
晃は、面倒臭そうに席を立ってこっちにやって来た。
バカ、戻れ晃!
「不良って何かしら?不良って」
言って裕香理ちゃんは、拳をポキポキ鳴らして晃をフルパワーでボッコボコにした。
仰向けでピクピクと痙攣を起こす晃。
「晃!?」と鮎が晃の下に駆け寄る。
「一寸坂井さんっ、晃に何て事してくれたのよ!?」
「まあまあ・・・」
と僕は前に出て鮎を宥めるが、
「平井くん、退いてくれるかしら?」
「嫌だ」
「退きなさいよ!」
鮎は僕を突き飛ばした。
「うわっ!」
その行為に因って、僕は後ろにいた裕香理ちゃんにぶつかった。
「痛っ」
「ゴメン、裕香理ちゃん」
「否、悠二は謝る必要なんて無いよ。悪いのは鮎なんだから」
「私が悪者決定なのか?」
鮎の問いに裕香理ちゃんは頷いた。
「あー、お前ら席着かんのか?」と巽先生。
「あ、すみません」
鮎は先生に謝り、晃を引きずって席に戻った。
「行こうか」
僕は裕香理ちゃんにそう言って、屋上に移動した。
「って、来てみたは良いけど、殺風景ね」
「授業中だからね」
「サボり仲間は居ないのかしら?」
言って裕香理ちゃんは辺りを見回した。
居る訳無えだろ──そう突っ込もうとした時、裕香理ちゃんがフェンスの前に設けられた椅子に誰かが寝ているのを見付けた。
僕たちはその寝ている誰かに近付いた。
誰かは、僕たちの気配に気付き、目を開けた。
「何だお前ら、俺の睡眠の邪魔でもしようってのか?」
言ってそいつは、起き上がり様に僕たちに眼を飛ばした。
「何よその目?私たちに喧嘩売ってる訳?」
「買ってくれるのか。少しはホネがあるんだろうな?」
そいつは立ち上がり、拳をポキポキ鳴らした。
すると裕香理ちゃんの顔が真面目なそれに成り、回し蹴りが放たれた。
「うわっ!」
そいつは勢い良く吹っ飛んでフェンスにぶつかってコンクリートに倒れ落ち、頭上に星を数個出してクルクル回転させた。
「ちょっ、気絶しちゃったよ!?」
「喧嘩売るから悪いのよ」
言って裕香理ちゃんは椅子に座り、煙草ケースを出して一本取り出し、口に銜えてライターで火を点けた。
未成年が煙草吸うなよ、と僕は心の内で思った。
「悠二も吸う?」
と裕香理ちゃんが僕にケースを差し出す。
「否、僕は良い」
僕が断ると、先刻の奴が意識を取り戻して立ち上がった。
「てめえ、先刻はよくもやってくれたな!」
言ってそいつは、裕香理ちゃんの後頭部を思いっ切り殴り付けた。
「うっ!」
裕香理ちゃんは呻き声を上げ、煙草を口から落として夢の世界へ旅立った。
幸い、煙草は椅子の下に転がってくれた。
「お前、名前は?」
僕はそいつにそう訊ねた。
「この俺をお前呼ばわりか。まあ良い、教えてやろう。俺は時津風 浩介、憶えておきな!」
浩介はそう言って、椅子を跳び越えて僕に襲い掛かった。
僕は浩介の攻撃を回避して反撃した。
怯む浩介。
その隙に僕は、懐からナイフを取り出して、背後から浩介の首筋に当てがう。
浩介は顔を真っ青にして僕を顧みる。
「お、おい、冗談はよせよ、な?」
「否、僕は本気だよ。お前は僕の大切な裕香理ちゃんを傷付けた。だから、悪いけど君には死んで貰うよ」
「・・・・・・」
沈黙する浩介。
「最後に言い残す事はあるかい?」
僕は問うが、浩介の返答は無論、
「・・・・・・」
沈黙だった。
「そうか、それが君の答えか」
言って僕は、ナイフで浩介の頸動脈を切り裂いた。
浩介は驚いた様な顔で全身の力を失くし、ものの数分で肉の塊と化した。
「ん?」
背後に気配を感じた僕は、恐る恐る振り向いた。
その先には裕香理ちゃんが可哀想な物を見る様な目で立っていた。
「何だ、裕香理ちゃんか」
ホッとした僕は、安堵の溜め息を吐いた。
「裕香理ちゃん、隠すから手伝って」
「うん、解った」と裕香理ちゃんは頷き、遺体の足を掴んで持ち上げた。
「で、何処に隠すの?」
その問いに僕は貯水タンクを目で示した。
「彼処のパイプの下に隠そう。遠くからでも死角に成ってるからバレないだろう」
そう言って僕は、裕香理ちゃんと一緒に遺体を貯水タンクの太い三本のパイプの下に運び込んで隠した。
「裕香理ちゃん、今夜開いてる?」
「うん、開いてるよ」
「それじゃあ今夜、遺体の処理するから来て」
「解った」
「じゃあ、そろそろ授業も終わる頃だし、教室戻ろうか」
「うん」
僕たちは屋上を跡にし、教室へと戻った。
*
夜中、僕と裕香理ちゃんは月臣の校門で落ち合った。
僕たちは互いに頷き、門を乗り越えて職員玄関に向かった。
今夜は宿直の先生が居るので、職員玄関は開いている筈・・・。
僕は扉に手を掛け、徐に横へスライドさせた。すると扉は案の定開かれた。
僕たちは中に入り、玄関の扉をソッと閉め、足音を立てずに屋上の遺体を隠した場所まで向かった。
僕は用意しておいた黒い大きなゴミ袋を取り出し、口を広げた。そして遺体を引っ張り出し、袋の中へと詰め込んで口を固く縛った。
「「(せーの!)」」
僕たちは袋を持ち上げ、抜き足差し足で校門の前へ移動。
「これどうやって越える?」
と疑問符を浮かべる裕香理ちゃん。
「裕香理ちゃん、僕が投げるから向こう側でキャッチして」
「で、出来る哉?」
裕香理ちゃんは門を乗り越えた。
「投げるよ?」
「良いよ」
僕は力一杯、袋を放り投げた。
袋は門を飛び越え、裕香理ちゃんの下へ落下して行った。
「よっっとっとっと・・・」
裕香理ちゃんがゴミ袋を何とかキャッチして蹌踉めく。
僕は慌てて門を乗り越え、裕香理ちゃんを支えた。
「あ、ありがとう。悠二」
「どう致しまして」
「それで、何処に埋めるの?」
「あ、まだ考えてない」
「バカ、そのぐらい考えておきなさいよ!」
「ごめん・・・」
「・・・しょうがない、川に沈めよう」
「川に?」
「だって何も考えてないんでしょ?」
「うん、まあ・・・」
「じゃあ決まり」
「えっ?」
「文句言わない」
「否、未だ何も・・・」
って聞いてない。
「ほら、ボーッとしてないで行くわよ」
言って裕香理ちゃんは、川に向かって歩き出した。
僕は「うん」と頷いて同じ方向に歩き出した。
*
僕たちは多摩川にやって来た。
河原に降り、袋を解いて石を詰める。
その時だった。
「君達、こんな時間に何をしてるんだ」
と土手の上から自転車に乗ったお巡りさんが言った。
僕は小声で、
「(裕香理ちゃん、どうする?)」
「(バレたら拙いわね・・・)」
「(殺っちゃう?)」
「(そうね、殺っちゃおうか)」
僕たちは互いに頷き、お巡りさんに近付いた。
「な、何なんだ君達!?」
動揺するお巡りさん。
「気付かなければ良かったのに」
言って裕香理ちゃんは、自転車から降りたお巡りさんの股間を蹴って怯ませ、踵落としを喰らわせた。そして僕が腹這いに成ったお巡りさんの腰に備えられた拳銃を抜き、お巡りさんの背中に当てがう。
「立ちな」と裕香理ちゃん。
お巡りさんは立ち上がり、両手を挙げた。
「あそこの袋の前まで移動して頂戴」
お巡りさんは言われるがままに、僕たちと共に河原に置かれた遺体入りの袋の前まで移動した。
「裕香理ちゃん、袋から出して」
僕がそう言うと、裕香理ちゃんが袋から遺体を出した。
「こ、これは君達が?」
「そう、私たちがやったんだよ」
「そしてお巡りさんが運悪く僕たちを見てしまった。だからお巡りさんは、此処で拳銃自殺をするんだ」
言って僕は、銃口をお巡りさんのこめかみに移動させた。そして──
パアン!──僕は、引き金を引いた。
お巡りさんは力を失い、その場に崩れ落ちた。
「あっ!」
裕香理ちゃんが何かに気付いた様に声を出した。
「どうしたの?いきなり」
「悠二、指紋」と裕香理ちゃんが僕握っている拳銃を指差す。
僕は握っている手を見た。
手袋を填めていない。
僕は慌ててハンカチを取り出し、拳銃に付いた僕の指紋を拭き取り、拳銃をお巡りさんに握らせた。
これで大丈夫な筈・・・。
「悠二、ナイフは?」
「ああ、あるよ」
僕は浩介を殺した時に使ったナイフを取り出した。
「それの指紋も取ってお巡りさんに握らせて頂戴」
そうか、お巡りさんが浩介を殺した事にするのか。頭良いな、裕香理ちゃんは。よし、後で誉めてやるとしよう。
僕はそんな事を思いながら、ナイフの指紋を拭き取ってお巡りさんに握らせた。
「待って。ただ握らせるだけじゃ怪しいから、ズボンのポケットにでも突っ込んでおきましょう」
裕香理ちゃんは僕からハンカチを取ると、それでナイフを掴んでお巡りさんのズボンのポケットに差し込んだ。
「はい、これでオッケー。さ、人が来ない内に行きましょう」
言って裕香理ちゃんは黒い袋を素早く畳み、僕の手を掴んで自宅に向かって引っ張った。
「ちょっ、放してよ裕香理ちゃん。一人で歩けるから」
「良いじゃない、別に」
言って裕香理ちゃんは微笑んだ。
ま、良いか。
*
自宅の前に着くと、僕たちはお互いの顔を見つめ合った。
「じゃあ、また明日」
言って裕香理ちゃんは、僕の唇に自分のそれを重ねてチュッと音を鳴らした。
この行為は、恋人同士が行う接吻ではなく、ただのお休みの挨拶である。けど僕にとっては、それが嬉しい事には代わりない。
裕香理ちゃんは僕から離れると、家へと入って行った。
*
翌朝、家を出ると、塀の前で裕香理ちゃんが待っていた。
「おはよう、悠二」
裕香理ちゃんは僕に笑顔で挨拶した。
「おはよう。待っててくれたの?」
その問いに裕香理ちゃんは頬を赤くした。
「べ、別に待ちたくて待ってた訳じゃないからね。勘違いしないで頂戴」
「じゃあ何?」
「うっ、それは・・・」
「愛する僕と一緒に行きたいから待ってた、そうでしょ?」
僕がそうからかうと、裕香理ちゃんの頬が更に赤く成った。
「な、何バカな事言ってんのよ!て言うか何時、私が悠二に愛してるなんて言った!?」
「じょ、冗談だよ裕香理ちゃん」
「・・・悠二のバカ。さっさと行くわよ」
機嫌を損ねた裕香理ちゃんは、一人で行ってしまった。
「あ、待ってよ裕香理ちゃん」
僕は慌てて裕香理ちゃんを追った。
これは、僕と裕香理ちゃんが快楽で人を殺める物語。これからも、僕たちの犯罪は、決して止まる事無く続くであろう──
To be continued...
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