――拝啓
最愛の我が妻、そして我が子供達へ。
まず先に言っておこう。まだ当分、そっちには帰れそうもない。
ここは酷い所だ。
毎日人に銃を向けなければならない。
毎日人に銃を向けられなければならない。
人を撃つのは嫌だ。
とても嫌だ。
引き金を引いた後に、手にジーンと残るんだ。
手に撃った感触が残るんだ。
人を撃ったと実感させられるんだ。
遠くから撃つと、人はあっけなく死ぬ。簡単に死ぬ。
近くから撃つと、人が苦しんで死ぬのを見る事になる。
人の命がこんなに軽いモノであるハズがない。
だが人は、銃で撃つとすぐに死ぬんだ。
まだ、帰れそうにない。
いくら撃っても終わらないんだ。いくら撃っても戦争が終わらないんだ。
自分が何故撃っているか、何を撃っているかわからなくなるんだ。
ここは酷い。
ここは怖い。
怖い、恐い。
まだ、帰れそうにない。
何を書いているんだ。
何を書いているんだ。
こんな事を書いては、天皇陛下への不敬と取られてしまうだろうに。
だが後に生きる人々は、この戦争を知らなければならない。
否、知って欲しい。だから書いている。
まだ、帰れそうにない。
私は昨日も、今日も人を殺した。この戦場で生きているヤツは、もう皆人殺しだ。
私もだ。
もう神は私を許してくれないだろう。
だからせめて妻よ、子供達よ。
私を許してくれ。
まだ、帰れそうにない。
八月七日
―――――――敬具
「…………この手紙が届いた頃には、戦争は終わっていました。私の夫は、私達家族のために、戦争の恐ろしさを教えてくれました。」
「この手紙が届いた時、世間は九月だというのに、まるで夏みたいな暑い日でした。郵便局の方が、『旦那さんはお国のために、立派に戦って死んでいったそうですよ』と言いました。」
「皆さん、[お国のため]とは何でしょうか?皆さん、覚えていて下さい。国というのは、私達のために有るハズです。私達がいてこそ有るハズです。」
「こんな事を言ってはいけないでしょうか。」
「でも、言います。」
「天皇とは、本当に必要ですか?」
「さぁ、私達で新しい日本を作りましょう。新制日本の幕開けですよ。」
『六時のニュースです。今日未明、皇居近くにおいて大規模な逮捕劇がありました。主犯の人物は八十歳を超える女性で、戦争による孤児や未亡人を集め、天皇陛下の殺害をもくろんでいた模様です。調べによりますと―――』
―――追伸
妻へ、
私はもう帰れないかもしれない。
だから妻よ。
日本をもっと良い国にしてくれ。
天皇陛下とともに、日本をもっと良い国に―――― |