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けったいなぶどうの鬼

半年前
この東屋から眺めた
果てしない うす緑のじゅうたんに
「ぶどう畑ってどれ?」と
人ごとみたいに叫んだ私

半年前
何とかあなたの 目を盗んで
ここに昼寝に 来ることだけが
唯一の楽しみだった私

その私が今
あのときと同じ この東屋で
あなたに膝枕をしてる不思議 

穏やかな秋風の中
実りを終えた樹々たちが
やっと許された安息の時を
満喫する今

ぶどうの季節が
ひとつ終わった今

私の眼に映る畑の意味は
その姿かたち以上に
天と地ほども 変わったけれど

私の膝で うたた寝してる人だけは
あのときのまま
ちっとも変わらず ぶどうの鬼

気が短くて居丈高
子どもみたいに
すぐに大声あげる人

人の顔見れば
「ついて来い」
「俺のやるとおりにやれ」
「常識がない」
「世間知らず」

偉そうにいばるくせに
ぶどうの木には しゃがみこんで
幹なでながら 優しく声をかける人

二言目には
「そんな肩の開いた服で」
「男の家にひとりで」
「男と旅行なんか」

口やかましくて
頭が固くて古い人

田舎って
どうしてこんなに何もないの?と
毎朝毎晩むくれる私に

シャワーから
鏡台から
果ては水洗トイレまで
2日とかけずに 作ってのけて
そ知らぬ顔でとぼける人

捕ってみせてとせがんだ蛍
しくじりもせず
1度で見事に
そっと両手に閉じ込める人

決してひけらかさないけど
訊けばたちどころに
次から次へと 虫の名前を
そらで教えてくれる人

そして
覚えの悪い生徒の私に
堪忍袋の緒を切らす人

しがみつくのに苦労するほど
背中が広くて あったかくて
歩きながら
よく通る声で
歌を歌ってくれる人

雨の中で私を見るなり
傘も持たずに 
大丈夫かって飛んで来て
いっしょに濡れてくれる人

呆れるのも通りこして
いつまででも一緒に
濡れていたいと思う人

ため池には落っこちる
便秘で死ぬと騒ぎもした
酔っ払ったし
足もくじいた
自分が嫌で情けなくて
泣きべそだって 何度もかいた

挙げたらきりがない
私のかっこ悪い姿
なぜか平気でさらせた人

ヘビが出たって
クマが出たって
文句も言えないような 山の夜

そばにいてくれるなら
そばで眠っていいなら
怖いものなんか
何もないと思える人

嬉しいことがあったとき
悔しいことがあったとき
迷わず足が向くのは畑

顔が見えたら飛んでって
いの一番に
話を聞いてほしい人

パパとおじいちゃん
頼もしくて大好きな 私の味方

その2人が口をそろえて
あの男なら大丈夫だって
いい婿を見つけたと
死ぬまで誇りにできるって
太鼓判押してくれた人

足がすくんでふり向くと 
口をひき結んで目をこらし
いつのまにやら すぐそこで
心配そうに立ってる人

なのに目が合うと
「性懲りもない」と
照れておどけて からかう人

無事に育つかどうかなんて
ましてや
甘く実るかどうかなんて
そんな確信は
これっぽっちもないけれど

判っていても
夢中にならずにいられない
不思議な命が畑にはあると
私に教えてくれた人

たえず移ろいゆくからこそ
来年はおろか
明日の保証すらないからこそ

命はすべて
涙が出るほど愛おしいんだと
畑で教えてくれた人

根が 
相性のいい土と出逢うことじたい
奇跡だと知ってる人

根を下ろすことの 厳しさも
根を張ることの もどかしさも
ずっしり骨身にしみてる人

それでもなお
ひるみもせず
じたばたもせず
一つところで一生かけて
必要とあらば 自分そっちのけで
守ってゆくに違いない人

私もこの人に
きっと何か してあげようって
私は この人に何が
してあげられるだろうって
生まれて初めて思った人

私の夫にして
けったいな ぶどうの鬼

 けったいな ひまわり志願者より





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