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風が奏でる癒し唄
作:鮎坂カズヤ



幕間 : パズルのピース


  

  ◆ ◆ ◆



 写真立ての中で微笑む三人の男女。
 中央にはイスに座って満面の笑顔で微笑む女性。その両端で彼女の兄とその友人が寄り添うように立っている。
 もう三十年以上も前に撮られた写真。
 時の止まった世界の中から、彼女は眩いばかりの笑顔でこちらを見つめていた。

「イオ、オズ。……もうすぐ、もうすぐだ」

 そう呟いて、写真立てを伏せる。
 イオの笑顔はあの頃から今も変わらず、私の心を穏やかにさせてくれる。
 彼女の兄、オズもよく洩らしていたな。『アイツの笑顔は俺の宝だ』と。
 そうだ、オズ。私にとってもイオの笑顔はかけがえのないものだった。
 三十年以上経った今見ても彼女の笑顔は変わらず美しく、見る者の心に春風のような爽やかさを届けてくれる。
 だからこそ、今でも思い出せる。
 生涯を捧げてでも果たすと決めたあの誓いを、氷のように冷え切ったあの冷徹な決意をはっきりと思い出せる。
 ――この笑顔をたやすく奪ったクズ共に早く鉄槌を下さなければならない、と。

「もうすぐ、もうすぐだ」

 しかし、まだ足りない。
 一番大事なものはすでに手に入れてある。だが、まだ足りない。
 パズルのピースは少しづつ揃いつつある。
 そして今日、もう一つ重要なピースがこの手に揃う。

 ピーー、ピーー。

 来客を告げるブザーの音が室内に響き渡る。伏せた写真立てに重なるようにディスプレイが浮かび上がる。
 それは、待ち望んでいたピースの到着を告げる知らせだった。

『仙堂さん、いらっしゃいますか?』
「……ええ、お待ちしてましたよ、柳くん」
『例の磁場の件、ようやくデータにまとめることができたので持ってきましたよ。まったく、随分前から調査していたくせにこんなに時間かかっちゃって、ホント、無能な部下共ですいません』
「いえ、管制塔の技術職の方でも時間がかかる程です。他に頼んでいればあと三年はかかっていたでしょうね。とても優秀な部下をお持ちでうらやましいことです。柳くんの指導の賜物ですよ」
『ハハッ! ま、そうでしょうね。それで、このデータはどうします? せっかくここまで足を運んだんです、ここの扉を開けてもらっ――、』
「いえ、結構です。データはそこのポストにでも入れておいてください。わざわざご足労おかけしてすいません。報酬はいつもの口座に振り込んでおきます。どうもありがとうございました」
『……はいはい、わかりましたよ。たまには仙堂さんと顔を合わせて食事でも、と思ってたんですけどねぇ。またの機会にしますよ。そんじゃ』

 面長の顔がディスプレイから離れていく。
 会合が断られたことが気にいらないのか、明らかにその表情は憎々しげだった。
 はっきり言って、私はこの男が嫌いだ。
 管制塔の高官という肩書きがなければこんな男とわざわざ接触する理由はない。
 しかし、それなりには役に立つ。彼がいなければパズルのピースはここまで集まらなかっただろう。
 だがしかし。
 私はこの男が嫌いだ。

「さて、これで重要なピースがもう一つそろったな」

 時空間移動を使用する際、空間に穴を開かなければならない。
 その際に発生する磁場は二種類、『出発ゲート』と『到着ゲート』と呼ばれる二つのゲートを開く際に発生するものだ。
 それ以外のゲートも磁場も存在しない――はずだった。

「もう一つの歴史が開いただろうゲートの磁場。これこそが、フライングマンの謎を解くカギになる」

 しかし、まだ足りない。
 このピースとすでにもっているピースとを符合させなければ何の意味もない。
 管制塔に頼めるのは時空間移動に関することだけだ。
 この件に関する専門家を探し出さなければ、私の決意は達成しない。
 フライングマンを研究する科学者。
 もっとも捜し求めているそのピースは、いまだに見つかっていない。

「……おとぎ話を真剣に研究する科学者か。そんな都合のいい存在が簡単に見つかるわけはない」

 しかし、絶対に見つけてみせる。
 私の生涯が幕を閉じるまで、絶対に諦めたりなどしない。
 オズのためにも。イオのためにも。
 誓いを果たすために犠牲にしてしまった、あの少女のためにも。
 写真立てを再び起こす。オズの隣にいる青年と目が合った。
 若かりし頃の自分。その姿に、いつものように憎悪の念を募らせる。

 この時のお前に力があれば、イオの仇を取れた。オズの無念を晴らせた。

 今となってはそのどちらも不可能になってしまったが……今の私になら、別の意味で復讐を果たすことはできる。
 待っていてくれ、イオ、オズ。
 もうすぐ、……もうすぐだ。



  ◆ ◆ ◆

  







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