「そんなもんだろ。」
まるで諭すかのようにオレを追い越す際に言い放ったマサオの言葉、
乳母車に乗り始めてまだ一ヶ月と満たないオレにとり、それはまさに
屈辱でしかなかった。
悔しがるオレを尻目にマサオの乳母車は加速していく。
エンジンの差なのか、はたまた2ヶ月早く生まれたマサオとの
経験の差なのか。
よくよく考えればオレもマサオもまだ赤子、乳母車という名の
馬車にただ乗せられているだけのリトルプリンスに過ぎない。
となるとやはりエンジンの差か……。
マサオのエンジン、その太ももと二の腕は胎児の頃に聞かされた
森のクマさんを彷彿とさせる。
一方どうだろう? オレのエンジンはと言えば、
その華奢な腕とスラッと伸びた足、
まるでアスファルトフラワーのように可憐ではないか。
一言注意しておくが、オレは決してマザコンではないぜ?
まだ乳飲み子ではあるがな。
そんなことを考えていたらマサオの姿はもう見えなくなっていた。
生まれてまだ幾年も経たない自分が言うのもなんだが、
競い合い追い越すことだけが全てではないのかも知れない。
そう思ったオレはエンジンにそっと呟くように言うんだ。
「ヘイ、マザー……あんたの母乳はまるで愛と栄養が詰まった
魔法の哺乳瓶だぜ?」ってな。
念を押しておくが、オレはマザコンなんかじゃないぜ?
今夜はどんな泣き声で母乳をせがんでやろうかと考える、
ただの乳飲み子さ。
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