不揃いな薬瓶とお揃いの人形
その日は、朝から幾つかの薬を作る仕事があった。
祝祭の季節が近付けば、やはりそれなりの備えは必要になる。
カルウィの水面下の情勢不安などの問題もあるので、今年の冬は様々な懸念があるのだろう。
そんな中、ネアの上司は今日の仕事について説明してくれながら、ふと、気になる問いかけをした。
繊細な問題だからか、とても言い難そうにしながらも尋ねてくれたのだから、どれだけ優しい上司だろう。
(でも、伴侶になる準備は整っているのか…………か、)
言われてみれば、もう一月足らずで約束の日になるのだ。
この世界に来てから早々にディノの婚約者にはなったが、ディノが共に過ごす日々に満足したのなら、その約束はどこかでなくなってしまうのではないかなと考えたこともあった。
けれどもディノはずっと側にいてくれて、いつの間にかこんなところまで来ていたのが、ネアは不思議でならない。
(最初はそれでこの大事な魔物が満足するならという思いもあったけれど、今はきちんと向き合ってディノとのことを考えるようになった……………)
嬉しい嬉しいと全身全霊でこちらに好意を向けてくれる大切な魔物がいて、ネアは、その大切な魔物を愛するようになった。
勿論、ディノはネアの理想の男性像からは大きくどころか、道を逸れて船に乗って異国に旅に出てしまうくらいには離れているが、それでも今はディノだけがこんな風に愛おしいものなのだと自覚している。
(…………異国というか、船に乗って異国に流れ着いて、そこから人類未踏の密林とかに入って古代遺跡から異世界に飛ばされるくらいには理想とは違うけれど……………)
にゃわなる世界は、未だにネアには難易度が高過ぎる。
そちらの奥義を会得しているとしても、施した後にどうすればいいのかはまだ闇の中だ。
取り敢えず、こんな文化もあるらしいのだがとディノにそろりと聞いてみたところ、三角木馬などに憧れはないらしい。
寧ろ、なぜそんなものを喜ぶ人がいるのだろうととても怯えていたので、まだ症状はさほど深刻ではなさそうだ。
(鞭にも憧れはないらしいから、お仕置きという言葉と、打撃に爪先踏み、三つ編みリード、飛び込みや馬乗りに頭突き、そして椅子にされることや紐で繋がれることが好きという認識でいいのかしら…………)
巣から引っ張り出す儀式については、魔物としてはネアが甘えてくれているという認識であり、自分のご褒美とは少し違うようだ。
(…………は!思考が脇道に逸れた…………)
慌てて首を振り、ネアは目の前の魔物に視線を戻す。
考え事をしていたネアが自分の方を見ないのが不安だったようで悲しげにしていたが、目が合うとぱっと顔を輝かせた。
「爪先を踏むかい?」
「…………デジャブ?」
「でじゃ……………?」
「ディノ、最近は爪先を踏まなくてもお仕事が出来るようになったのではありませんか?」
「ひどい……………」
ぺそりと項垂れてしまい、ディノはことりと薬の瓶を机の上に置いている。
あまりの悲しさに作られた薬の瓶は装飾ゼロの素っ気ない素焼きの瓶になってしまい、ネアは慄いた。
(おかしい、こんな風に私も心を育てて貰いながら、たくさんの試練を乗り越えて絆を深めつつ、ディノの抵抗力も上げてきたつもりだったのに…………!!)
ネアが、身の丈に合わない特別な生き物を手放せないと知って、理想ではない魔物が一番になって、毎日一緒にいるのが当たり前になった日々がそこにはあった筈なのだ。
確かにディノは少し会えないと抵抗力が落ちてしまう儚い魔物だが、それでも少しずつ丈夫になってきたと思っていた。
(なぜなのだ…………。今朝なんて、目が覚めたら巣の方からじーっと見ていて、目が合うとじたばたする始末…………。構って欲しいのかなと寝台に上げようとしたら死んでしまったし……………)
そんな魔物が荒ぶったせいで、今朝からウィームには彩雲がかかった。
北部では虹が出たそうだし、ネア達の部屋の窓には真珠色の素晴らしい薔薇が咲いたので、ディノにお願いして大事にとっておいて貰ってある。
「…………ディノ、その代わりに終わったら爪先を踏んであげますよ?」
「ご主人様!」
「そして、午後からはおでかけしますからね。ゼノが見付けてきてくれた新しいお菓子のお店をひやかしつつ、狐さんの新しいポーチを買いに行きます!」
「ずるい…………」
「あら、エーダリア様に差し上げるものなのに?」
「ネアが浮気する……………」
「じゃあ、ディノにも狐さんグッズを買ってあげましょうか?」
「…………ノアベルトのはいいかな」
「……………むむぅ。ではどうすればいいのだ」
「エーダリアなんて…………」
小さくそう呟き、魔物はまたことりと薬の瓶を作業机の上に置いた。
今度は綺麗な硝子の瓶になっているが、いつものような優美な形ではなく牛乳瓶のようなぶこつな形だ。
銀狐なノアの姿を模した商品を売る専門店は、新しい商品が入るとあっという間に売り切れてしまう、領民熱愛のお店である。
今や大人から子供までに愛される銀狐は、かつてこのウィームを愛したことで有名な塩の魔物なのだが、一番の人気の品が狐印の塩なので、ネアは何だか正体がばれている気がしないでもない。
とは言え、知っていたとしても、ウィームの民達はそれを暗黙の了解として、そっと胸に秘めておくのだろう。
今日はそこに、エーダリアがチラシを見て目を輝かせていた銀狐ポーチを買いに行くのだ。
きっと間違いなく欲しいのだと思う。
しかし、エーダリアはそういう時に、売り切れ必至の商品に自分が並んで買ってしまうと、領民の喜びを損なうと考える人なのである。
かくして、そんなエーダリアの様子に気付いた、強欲なことで有名なネアが、上司への贈り物として手に入れにゆくことにした。
(私も、狐さんの塩入れが欲しいな。…………それと、この前リノアールで見た期間限定のお店にも寄れたなら…………)
「…………は!では、リノアールに来ている期間限定出店の祝祭用のブローチ屋さんで、何か一つ買ってあげましょうか?リノアールにしては安価な金額設定ですし、一つずつ全部違う種類があるみたいなので、ぜひに覗いてみたかったのです!どうせならお互いに一つずつ買い合っても楽しいかもしれませんね…………」
ネアの提案で、魔物はびゃっと顔を上げた。
とても嬉しかったようでぽぽぽっと目元を染めてしまい、手早く美麗な薬瓶を幾つも机に並べ、こくりと頷いた。
しっとりとした艶を帯びた爪は、髪の毛と同じ色だ。
綺麗な指先で並べられた薬瓶は、特別な宝物のような気がして大事にしたくなる。
「君が欲しいものは、幾つでも買ってあげるよ」
「ふふ、買うのは一つでいいんです。市場へのお買い物鞄につけてもいいですし、季節が変わったらブローチ額縁に飾れますものね」
「…………取っておけるものなのだね」
ネア達の部屋には、天鵞絨の台座を張った特別なブローチ額縁がある。
祝祭が多く観光客もたくさん来るので、記念バッチやブローチが多く売られるウィームに住んでいると、そのような記念品も溜め込まれることになる。
繊細で美しいブローチなどを宝石箱の奥にしまい込むのは寂しいので、収納と展示を兼ねておけるこのブローチ額縁を、あれこれ試行錯誤して作ったのだった。
壁にかけるときらきらして素敵な美術品のようで、これから買い揃えるもの用の空きスペースもたくさんあるので、ディノもすっかりお気に入りだ。
「はい。二十本揃いましたね。こちらの二本は少し形が変わってしまったので、私が使ってもいいですか?」
「……………かわいい。動いてる………」
「……………症状が重い…………」
二人は仕事を終えて昼食を摂り、午後には揃った薬瓶を持ってエーダリアの執務室に行き、納品を済ませた。
今回の薬は高位の治療薬なので、ウィーム領内の各地に一本ずつ配られる。
これからの季節で万が一大きな事件や事故があった際に、軽症者であれば小匙一杯で治療が済ませられる優れものだ。
濃縮液なので決して一人の患者に使い切らないようにという使用説明がなされているのは、この薬の効果の高さを隠す意図である。
その土地の信頼出来る管理者には本来の効果が伝えられており、命さえあれば一本で重体の患者を二、三人完治させられるのだ。
「…………確かに受け取った。いつも、効果の魔術観測をすると愕然とするな。これだけのものがあれば、守れるものがどれだけあることか…………」
「エーダリア様、…………お膝の上にいるのは狐さんですか?」
「………………ああ」
尻尾がはみ出ているので気付かれてしまい、エーダリアはばつが悪そうに視線を泳がせた。
呼ばれたと思ったのか、青いボールを咥えた銀狐がぴょこんとテーブルの下から顔を出す。
「さては、ヒルドさんに内緒で狐さんと遊んでいて、お膝の上に隠したつもりだったのでは……………」
「い、いや、先程飛び乗ってきただけで…………ヒルド?!」
「エーダリア様、資料をお持ちしたのですが…………どうされました?」
よりにもよってなタイミングで部屋を訪れたヒルドは、手に沢山の書類を抱えていた。
ネア達の会話は聞こえなかったのか、ひどく慌てた様子のエーダリアに首を傾げる。
しかし、こちらの妖精はとても鋭いので、すぐに、エーダリアの膝の上の銀狐に気付いてしまったようだ。
「…………おや、真面目に執務をされているのかと思っていましたが、ご休憩でしょうか?」
「…………ひ、膝の上に乗せていただけで、決して遊んでは…………こ、こら………」
慌てて両手を持ち上げて首を振ったエーダリアに、遊んで貰えるのかなと思ったものか、銀狐が咥えていたボールをぎゅうぎゅうと、その腕に押し付けている。
ボール遊びへの期待に尻尾を振り回して、すっかりご機嫌だ。
エーダリアは目を輝かせている銀狐に抗えなくなったのか、ぐっと言葉に詰まり、操られるようなぎこちない動きでボールを受け取ってしまう。
エーダリアがボールを手にしてくれたので、銀狐はムギーと喜びの声を上げた。
「………やれやれ、ひとまず休憩としますか。…………ネア様達は、昼食は取られましたか?」
「はい。今日のお昼は肉団子の入った、お酒の風味で体の温まるクリームシチューですよ。クネドリーキで食べると幸せいっぱいです!午後からはゼノのお気に入りのお店に行ってお菓子を買いつつ、例のお店に行ってきますね。帰りにリノアールに寄ってきますが、何かお使いはありますか?」
ネア達が出かけるのが銀狐グッズの店だと分かったのか、ヒルドは一拍考えた後で微笑んで首を振った。
ネアは、銀狐ハンカチでも買ってきてあげようかなと考えながら、エーダリアとヒルド、ムギーと鳴いてボールを追いかけた銀狐に行ってきますと手を振った。
外に出ると、ひんやりとした空気が気持ちよくて、ネアはぐいんと伸びをする。
ウィームの空気には、何か人間を幸せにする不思議な成分が含まれているのではないだろうか。
特にこの冴え渡った冷たい空気には、心を綺麗にしてくれる特別な作用があると思えてならない。
「まずは、お菓子の屋台に行ってさっとお菓子を入手します」
「さっと……………」
リーエンベルクを出た二人は、すっかり冬の情景になったウィームの並木道を歩く。
イブメリアの日にはここを馬車で走り抜けるのだが、窓からの景色の夢のような美しさに、ネアは息が止まりそうになるのだ。
真っ直ぐにリーエンベルク前の広場に向かうこの道は、街からこちらに向かうのが最高の情景だと言われているが、ネアは、大聖堂の尖塔や歴史のある美しい街並みを望む街に向かうルートも素晴らしいと思う。
ちゃりちゃりと、風に宝石のような水色の実が揺れた。
街路樹に絡まる霧の系譜の蔓草に、ここ数日の霧の日々が、立派な霧の結晶石を育てたらしい。
葡萄のような形状なので風に揺れると石同士がぶつかって音を立て、その煌めきを小さな妖精達が集まって嬉しそうに見ている。
枝の一つに羽を休めてとまっているのは、小さな雪竜だろうか。
眠たくなってきたのか、かくりと頭を揺らし、はっとして周囲を見回していた。
「ディノ、今日はまだ手袋がなくても良さそうなので、手を繋ぎませんか?」
「ずるい、虐待する…………」
「解せぬ」
「ほら、三つ編みを持っているだろう?………その、手を繋ぐのは大胆過ぎるからね…………」
「解せぬ…………」
とても儚くなった魔物は、くしゃりとなりながらも、ネアには三つ編みがあることを丁寧に教えてくれた。
むふーと息を吐いたネアに、今度は息をしていると嬉しそうだ。
二人はそのまま街まで歩き、途中で、街の騎士達との祝祭の打ち合わせを終えて帰ってくるアメリアとエドモンに出会った。
アメリアはお昼の休憩時間に銀狐グッズを買ったらしく、小さな陶器の人形を自慢げに見せてくれる。
これは秋の葡萄と麦に囲まれた限定品で、冬はイブメリアの飾り木にじゃれつく姿で発売されるらしい。
「ふふ、あんな可愛らしいお人形もあるのですね。今度、ノアの部屋に飾ってみます?」
「ノアベルトが、ノアベルトを……………?」
「予防接種の時のむぎゃむぎゃ狐さんや、食いしん坊の尻尾振り回し狐さんのお人形もあるのだとか。狐さん模様が編み込まれた子供用の尻尾マフラーは、売れ筋商品なのだそうです」
「……………ノアベルトはそれでいいのかな…………」
「この前のように、朝起きたらたくさんのボールを抱えて寝ていたりすると、塩の魔物とは何だろうと遠くを見てしまいますが、狐さんの時はとても幸せそうなのでこれでいいのでは?」
「うん…………………」
そうして、二人が最初に訪れたのは香ばしい香りのするお菓子の出店だった。
アーモンドやトウモロコシの粉を素朴に焼き固めたお菓子で、たくさんのドライフルーツが入っている。
ざくざく齧る香ばしさが堪らず、一枚食べると手が止まらなくなる恐ろしいお菓子でもある。
元々はウィームの有名な菓子店で売られていた物を、そのお店の息子さんが独立してこの商品一つで売りに出したのだが、これが当たりだったようだ。
香ばしい甘い香りに惹かれて、通りを歩く人達がついつい買ってしまう。
「元の世界で私が暮らしていた土地に、似たようなお菓子があったんですよ。でもこちらのお菓子のように、冬の夜明けの花蜜は入っていませんでしたが…………」
「君も、それを食べていたのかい?」
「ふふ、このようなものは安価なのだろうなと思って買ったのですが、お会計をしたらそこそこのお値段で慄いた記憶があります。とても有名な老舗のお菓子屋さんのものだったのが敗因なのですが、あまりにも美味しくて翌週も一枚買ってしまいました」
美味しそうなスブリソローナが、大きなパンが一斤買える値段だと知って焦った時のことを思い出し、ネアはくすりと笑った。
よく考えれば、通常のクッキーくらいの大きさの小さなものも売られていたし、そちらは妥当な値段だったのだと思う。
しかしあの時、ネアは魔が差したものか帽子の底くらいの大きさのスブリソローナをレジに運んでしまっていた。
勿論、翌日と翌々日のお昼は抜きとせざるを得なく、たいへんに苦い思い出である。
「はいよ。檸檬のものが五枚。杏が五枚。そして果物たくさんが五枚だね。………こっちの、キャラメルと木の実の六枚は別の包みかい?」
「はい。こちらは別の方へのおみやげなので、袋を分けて下さい」
「じゃあ、袋の色を変えておくよ。中の袋は、使われた果物のスタンプが押されているからそこを見ておくれ」
「はい。…………ほわ、ほかほかです!」
「勿論さ。ほら、味見用のをお連れさんとどうぞ」
「まぁ!有難うございます!」
ネアは、エーダリア達と食べる為に一枚ずつ買い、ゼノーシュとグラストへのお土産のものも購入した。
店主がくれた味見用のかけらを頬張れば、ざくざくとした歯応えと香ばしい甘さに幸せな気持ちになる。
ディノも貰ったお菓子をぱくりと口に入れ、幸せそうに目をきらきらさせていた。
素朴な味わいのものなので、好きな味だったのだろう。
「さて、次は狐さんのお店ですね」
「あそこかな……………」
「まぁ、青い家根に狐さんの模様のタイルです。なんて可愛いお店なんでしょう!」
通りの向こうに見えるお店は、銀狐グッズのお店になる前は、空き店舗だったところだ。
三年前までは細工の美しい木の定規の専門店であったのだが、一家の父親が亡くなり、子供達が何か新しい商売をしようと話し合っていたところ、エーダリアの会の役員をしている次男が、ぜひ銀狐グッズのお店にしたいと提案したのだとか。
リーエンベルクの許可も得て晴れて開店してからは、ウィームっ子にも愛される人気のお店になっている。
「良かったです!ゼノの情報通り、この時間はなぜか空いていますね」
「ノアベルトがたくさんいる…………」
「たくさんの狐さんのお人形が………!可愛くてつい足が止まってしまいますねぇ」
お店のショウウィンドウは、控えめなディスプレイながらも、その上品で可愛らしい様子に人々の足を止める。
星屑の結晶石で照らされた小さな硝子窓の中には、これまでに発売された銀狐の陶器の人形の中の人気の六個がちょこんと飾られていた。
ふんだんに花を生けた花瓶の下なのが、森の中で遊ぶ銀狐の姿を見るようで、ついつい、唇の端が持ち上がってしまう。
「ではまず、新商品のポーチです!」
「ポーチだね」
ご主人様の意気込みに合わせ、ディノもきりりと頷いた。
けれども、様々な銀狐に溢れる店内から出る時に、なぜ自分が涙目で尻尾けばけばの首傾げ銀狐の陶器の人形を買ってしまったのかまでは、まだ理解が及ばなかったようだ。
手に持った小さな紙袋を見つめ、半ば呆然としている。
「きっと、ディノが買ってくれたと知ったなら、ノアは喜びますね」
「そういうものなのかい?」
「はい。買ってしまったことをぜひ話してみてあげて下さいね。そして私もなぜか、お腹を出してすやすや銀狐さんの人形を買ってしまいました。恐ろしい愛くるしさに慄くばかりです………………」
ネアの言葉に、ディノはこくりと頷いた。
二人は、そもそもあんなに愛くるしいので致し方なしと頷き合い、リノアールに向かう。
しかし残念ながら、今日から開くはずだったお目当の店は、月夜で昂った豆の精の襲撃で街道が封鎖された為に搬入が遅れ、明日からのオープンに変更されてしまっていた。
「………むぅ。ちょっぴり残念ですが、今日は、ディノとお揃いの狐さん人形が買えましたしね」
「お揃い…………」
「ふむ!では、美味しい屋台の温かな葡萄酒か、メランジェのお店でお茶をして帰りましょうか?それとも、お部屋で温かなスパイスティーでも飲みますか?」
「…………君が作ってくれるのかい?」
「ええ、とびきり美味しいスパイスティーを淹れますよ?」
「ご主人様!」
エーダリアは、お土産のポーチを渡されてとても喜んでくれた。
しかし、とっておきの美味しいスパイスティーをご馳走された魔物は、ご主人様が自分の為だけに淹れてくれたと、飲みきった後に一時間ほど寝込んでしまった。
これはいよいよ深刻になってきたとノアに相談してみたのだが、あらためて愛情確認をしたことで本当に自分を好きでいてくれているのだと盛り上がっているか、婚約期間終了前につき、遠足前夜の子供な気分であろうという診断が下された。
ネアは念の為に寝起きの魔物のおでこに口付けてみたが、またしてもぱたりと死んでしまったので、儚さが過ぎると途方に暮れている次第である。