妖精の耳飾り
シーには様々な能力がある。
司るものに紐付く宝石を育む力もまた、シー独自の魔術である。
「きらきらしてますね。凄く綺麗です」
「気に入っていただけて良かったです」
ネアの手に乗せられているのは、幾粒かの小さな宝石を連ねた装身具であった。
ヒルドは宝石の質も司るシーなので、幾らでも大きな宝石を育てられるそうだが、今回は常用の装飾品にするので小さくしてくれたらしい。
青にも緑にも見える宝石達は、鮮やかな色彩でありながら透明度の高さから、存在感が強過ぎず、単純に光を反射するだけでなく、夜空の星のように繊細な輝きを内包していた。
「この金具の部分は何で出来ているのですか?」
「冬の木漏れ日を紡ぐ妖精がいますので、それを使っています」
宝石を繋ぐ部分は全て、金水晶のような透明な素材が使われている。
ネアの手の中の装身具は、藤の花のような下がり揺れるタイプの耳飾りだ。
あまりにも繊細なので、耳につけるとしゃらりと髪に馴染み、まさに守護の道具という雰囲気である。
「ディノ様がいらっしゃる時には必要ありませんが、そうでない時にはつけていて下さいね」
「ディノの守護とは、ぶつかったりはしないのでしょうか?」
「ええ。抑えるものが違うので大丈夫です。これは、解毒や修復も兼ねますが、魅縛の加護を封じる役目が最もですから」
「……もう二度と、おかしな祝福を持つ妖精は捕まえません」
「ええ。そうして下さい」
よほどの心労をかけていたのか、耳飾りをつけたネアを見るヒルドの眼差しは満足げだ。
時折指で触れるので、ネアは何だか落ち着かない。
「そう言えば、ヒルドさんの庇護をいただけるのはとても凄いことなんですね。エーダリア様が青くなっていらっしゃいました」
「私のような種の妖精ですと、あまり切り分けるものではないですからね」
「エーダリア様は、もしかしたらご自分の領域が侵されたと思ってあのご様子なのでしょうか?」
「………前にもお伝えしましたが、男児にここまでの守護はかけませんよ」
「わかっていても、自分だけのご師匠を取られたような、お兄様を取られたような、そういう複雑な思いがあるのかも知れませんよ」
「おやおや、であればあの方には、そろそろ自立していただきましょう」
「………ふふっ」
「ネア様?」
そんな風に言うくせに、表情を見ているだけでやはり、ヒルドにとってはエーダリアこそが特別なのだと教えてくれる。
家族のように思い慈しむからこそ、こんなぞんざいな扱いとなるのだろう。
「階位に関係なく、お二人の気取らない絆の強さが、とても好きだなと思ったんです」
「…………確かに、不肖の弟子という感覚はいつまでもありますね」
エーダリアに向ける苦笑のときだけ、ヒルドの瞳からは仄暗さが失われる。
ネアを見て微笑むときにある奇妙な鋭さも、その時ばかりはただ柔らかい。
(そして、こちらを見るときにふと感じる、この危うさは何なのだろう)
本当に捕食しないのだろうかと、ネアはその度に少しだけ不安になる。
或いは、ヴェルクレアの歌乞いに相応しいかどうか、常に見極められているのかもしれない。
何しろ、鬼教官である。
「こんなに素敵なお守りをいただいたのですから、気を引き締めて、日々精進しますね」
そう言えば、少しだけ残念そうにヒルドは目を細めた。
この後の話への導入なので短いです。