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南瓜祭りと青い小人





「南瓜を、頭で……………叩き割る」



ネアがその日、そう反芻して遠い目になってしまっていたのは、本日の午後からウィームのごく一部の土地で行われるそんなお祭りの概要を聞いてであった。


都市部では行わないその祭りの為に、今日のネアとディノはザルツ近郊の農業都市に派遣されるのだ。



ウィーム近郊でも農業は行われているが、南瓜の産地となっているのがツダリの街、そして、本日向かうその隣に位置するツグリの村であった。



南瓜は魔物がつきやすいので、作るのに向いた土地と向かない土地がはっきり分かれる作物なのだと教えて貰ったのは、昨年のツダリでの南瓜祭りの助っ人の仕事が入った時のこと。

林檎や葡萄のように様々な人外者を引き寄せるのではなく、南瓜は特定の生き物を呼び寄せる。

それが即ち、南瓜の魔物であった。




(南瓜の魔物さんは、去年は見ないで済んだけれど…………)



今年はどうだろうか。



ツダリの隣に位置するツグリの村は、ツダリから少しだけ離れた土地の畑に向いた区画を貰い受けた若者達が、新たに立ち上げた集落なのだそうだ。


言わばツダリにとっても子供のような土地で、かつては親世代がツダリに住まい、新しく家族を得て自分の畑を開墾する子供達がツグリに住んでいた。

今はもう世代を重ねて知らない血も混ざっていると聞くが、それでもこの二つの土地に住む人々は仲がいい。


エーダリアは、昔ながらの美味しい南瓜を作るのがツダリ、少し革新的な品種の南瓜などを市場に出してくるのがツグリだと覚えているのだとか。


ウィームは元々一つの国だったくらいの広大な領地だ。

それだけの土地の中で、こうしてどの土地の話をしてもその土地の特徴を覚えているエーダリアに、ネアは何だか感動してしまった。

どんな些細なことであれ、自分の暮らす土地が誇るもののことを知ってくれていたら、住人達も嬉しいだろう。


そして今日は、そんなツグリで行われる、ツダリの南瓜祭りによく似たお祭りの警備のお仕事が、ネア達に下りてきたのだ。



「ディノ、昨年のお仕事と少しだけ似ていますよ。このツグリの村では、やはり収穫後の畑には土地の生き物達の為に小さな南瓜を残してあります。そして、そんな残しておいた南瓜の中に悪いものが溜まって来た頃を見計らい、こちらはそんな南瓜を頭で叩き割るお祭りがあるのです」

「……………どうして頭にしたのだろうね」

「拳より難易度が上がっていますが、そこはやはり、血気盛んな若者達が始めたお祭りですから。大人達に負けないように、より華々しく南瓜を粉砕するべく、頭で割ってみせるとはしゃいでしまったのでしょう」

「頭で……………」



あまりにもおかしなことをする人間に、ディノはすっかりしょんぼりしてしまった。

祝祭やこのような鎮めの儀式をお祭りにしたものには、開催時に魔術の誓約が敷かれている。

そこで制定された作法や手順などは、気軽に変更出来るようなものではないのだ。


よって、このお祭りのように、あんまりな方法を制定されると、そんなお祭りがずっと受け継がれていってしまう。



(そもそも、その南瓜には、悪いものが集まっているのでは…………)



そんな南瓜に頭部を打ちつけていいのだろうかと不安になるが、毎年大きな事故もなく続いているので、無事に粉砕出来ているのだろう。


ネアは目の前に広がった広大な南瓜畑を眺め、人々のたくましさについて思いを馳せた。



本日の仕事の概要は、このツグリの村の祭りが行われている間、森から畑に現れるという青い小人の警戒をする事である。

得体の知れない生き物なので、祭りの魔術で悪変したりする可能性があるのだ。



「収穫は終えているから、豊穣の祝福はもう引き揚げられているね」

「今年は、大きな農作地などには豊穣の祝福を集めた、花輪や麦のリースが配られたのですよね?」

「うん。蝕より前に収穫を終えた方がいい。特に、このような魔物や妖精を集めやすい作物は、早めに収穫を終えるように国内でも報せが出ただろう」

「蝕があると決まった頃に、エーダリア様もばたばたしていましたよね。ウィームではすぐに豊穣の祝福の花輪が配られていましたが、アルビクロムなどにはそのようなものがないのだとか…………」

「ジアートも系譜の者達も、今年は忙しいからね。全ての土地を見て回れる訳ではないし、豊穣となればそれは森や川の恵みにも適応されるものだ。…………蓄えのない土地では、蝕が続くと飢饉になりかねない。その為にも、皆早めに収穫を終えるんだよ」



蝕で反転した資質は、蝕が終わったら落ち着くのだそうだ。

なのでその後で育てる作物にまで影響が出ることはないのだが、今まさに収穫を迎えようとしていたものなどは、豊穣の魔物の反転で枯れてしまうことが多い。


勿論、全てがそうなる訳ではなく、ある程度の区分があるのだという。

例えば畑の野菜は枯れてしまっても、自宅のお庭の家庭菜園は無事だったりする。

その規模のものであれば豊穣の領域の外側になるそうで、魔術的に見逃されるのだそうだ。



(ウィームのように、ジアートさんの祝福の得たものを分けて貰えた土地は少ないみたい…………)



豊穣の魔物本人からの支援ではないが、そのようなものがあれば、畑は早めに収穫を終えることが出来る。

その祝福を漏れずに行き渡らせるようにして各土地の代表者に運用を託し、その土地の中で優先的な畑から収穫を終えてゆくのだそうだ。


優先的にというのは、領内の流通や商いではなく、まずは自分達の生活に必要なものの収穫を終えるようにというのが、領主からの指示であったらしい。



(エーダリア様は、そういうところが好かれるのだと思うな………)



税金に相当するものは、勿論ウィームにもある。


だがそれはあくまでも管理費として使い、エーダリアの私財にはいっさい混ざらない。

だからこそウィームでは、まずは農地を有する領民達に自身の生活の安定を確保して貰い、その他の産業で得た利益で潤う都市部の住人達は、各商店が備蓄していた在庫の食糧などを買う。


そうなると、流通などが滞り品薄で食べられないものが出て来そうなものだが、実際にはそうはならないのだそうだ。



以前、雲の魔物が癇癪を起して土砂降りの雨で農業地帯の畑をくしゃくしゃにした時も、まずは自分達の生活が滞らないだけの食料の確保を促すと、自分達の生活に必要な最低限の食料などを魔術援助で確保させて貰った該当地区の領民達は、であればもう少し余裕が欲しいと、商品になる作物も、少しでもどうにかしようと頑張るらしい。

それは、人間らしい強欲さなのかもしれないが、結果として被害は想定より随分と少なくなった。


とある村では、残しておいた種や苗を、手の空いた者達で何とか水抜きをした畑に持ち寄って魔術を使える者達で急ぎ育てたそうで、決していつもの収穫量ではないが、村人達の冬のおこづかいになるくらいの収穫にはなったそうだ。



広大な畑ではなく限られた土地で、生育の祝福をいっぱいに貰って過保護に育った作物は、言わばハウス栽培のようなものだろうか。

味も良く品質もしっかりしていたので、量は少ないものの良い値段で売れたのだという。

そしてその稼ぎで、例えばパン一枚しか蓄えがなかった食卓にチーズが乗れば、勿論人々はその方が幸せなのだ。


最低限の生活が保障されていないと挫けてしまう者も多いが、余分の為にであれば人間というものは奮起するらしい。



「なので、エーダリア様は素敵な領主なのです」



そうふんすと胸を張ったネアに、ディノは小さく頷いた。

あまり多くを知らないことも多い魔物だが、高位の魔物だからこそ知っていることも多い。

特に、国や街を治めるような人々との接点は、やはり高位の魔物らしくディノも持っていた。



「領土全体の収益という意味では、勿論下がるものだろう。けれども、特定の場所が落ち込まずに、全体で全体を支えられるだけの力と知恵があれば、国や領土は沈まないものだ。特にウィームは、土地そのものが豊かなところだからね」

「ええ。ウィームは、何て豊かで美しいところなのでしょう………」



ネアは決して口には出さなかったが、そこには一度あの酷い統一戦争の敗戦があったからこその、団結や強さもあるのだろう。

もう二度と愛する美しいものを損なわれたくないという願いや誇りが、この領地を上手に回しているのである。

そして、だからこそウィームの領主はエーダリアでなければならないのだ。




「………さて。到着しました。今日はこの南瓜畑の真ん中にある、森の監視台の周りでの警備です!」



お喋りをしながら二人がゆっくり畑を歩いたのは、ディノにも捕捉しきれないような小さな悪いものがいてもいけないので、まずは畑を少し歩いてみようということになったからだ。


柔らかな畑の土はこの季節の霧でしっとりと湿り、奥に広がる森の向こうにはまだ霧がたちこめている。



このツグリの村は、山裾に広がる森に面しており、ツダリの街の畑を囲んでいた森とは木の種類が変わってくるので、少しだけ様相が違う。

こちらの森からやって来る生き物達も、ツダリの畑を荒らす生き物達とは違う種類のもののようだ。



ネアはまずその第一号として、しっとりと濡れた畑に見たことのない岩小人を見付けた。



「ディノ、…………岩小人です」

「岩小人……………」



畑に綺麗につくりつけられた畝に、まだ幾つか小さな南瓜が残されている。

南瓜祭りでも持ち帰られなかったようなので、悪いものは収まっていなかった南瓜なのだろう。

そしてそんな南瓜の一つに、岩小人とでも言うべき不思議な生き物が体当たりをしている。


大きさ的には小石なのだが、形状は岩という感じのごつごつした胴体に、ぴょいっと細い手足がついている生き物は、その体部分で何とか南瓜を削ろうとしているようだ。

しかし、霧で表面が濡れている南瓜の皮で滑ってしまい、小さな体でむがむがしていた。


通常であれば自然の生き物なので手出しはしないのだが、あまりにも悲壮な雰囲気に、ネアは可哀想になってしまって、ディノを見上げる。


頷いてくれたので、そっと声をかけてみた。



「岩小人さん、通りすがりの警備の者ですが、私の魔物に、その南瓜を削って貰いましょうか?」

「ギギ?!」

「どこか一カ所を削ったら、そこから中身をほじくりやすくなりますよね?なおこれは、通りすがりの優しさですので、無償で行いますからね」

「ギギ!!」



いきなり見知らぬ人間と明らかに高位な魔物に声をかけられ、驚きに固まってしまった岩小人は、そんな提案に大はしゃぎで飛び跳ねた。


遠目で見たら、小さな石ころが飛び跳ねているような、儚げな姿だ。



「南瓜を砕けばいいのかい?」

「飛散してしまうと駄目になってしまいそうなので、皆さんが削り易いように、ケーキを一人分だけ切り出すような形で削り込みを入れてあげて欲しいのです。出来ますか?」

「うん。簡単だよ」



頼もしいネアの魔物は、霧でしっとり濡れてつるつるだった南瓜を上手に切ってくれた。

魔術でふんわりさくっと切り出された欠片に、岩小人は大喜びでネア達を崇め始めた。

そして、何かきらきら光る祝福をぽいっと投げてくれると、削り出された欠片を体当たりで半分にし、その片方を抱えて大はしゃぎで帰っていった。



「…………ディノ、祝福を貰ったようですが……………」

「うん。靴の中に入った小石で、足を傷付けない祝福だそうだ」

「まぁ、地味なようで結構嬉しいものですね。これで私の足は万全です!ディノ、あんなに優しく南瓜を削ってくれて、有難うございました」



そのような小さな怪我や痛みはディノの守護の外側でもあるので、喜ぶご主人様に褒めて貰い、ディノも嬉しかったようだ。



岩小人が残していった南瓜の欠片は、どうやら近くに潜んで様子を窺っていたらしいもしゃもしゃした生き物がさっと持っていった。


ネアは最初、丸い毛玉が連なった毛虫状のものかなとぎょっとしたのだが、良く見れば小さな茶色い毛玉鼠のような生き物がわいわい並んで走っていただけだった。

わっしょいわっしょいと運んでいった南瓜のかけらは、畑の隅にあった巣穴の中に消えてゆく。



「ムキキ」

「ギュウ!」

「ムキュウ………」



削られた南瓜があることが分り、あちこちから、今日は南瓜を割り難いと苦戦していた小さな生き物達が集まってきたようだ。


栗鼠や兎や握りこぶし大の狐など、俄かにもふもふが揃い、ネアは愛くるしい光景にほっこりする。

みんなでかりかりやって中の美味しいところを削り出すと、それぞれ持って来ていたお持ち帰り用の袋や籠に入れて、ご機嫌で帰ってゆく。



南瓜の魔物はいるにはいるそうだが、ディノが、歩いている間に隣の畑に追い払ってくれたらしい。

今日は、森からやって来る怖いものを追い払う為に来た筈なのだが、思っていたよりももふもふ三昧でネアが心を緩めた時のことだった。



ずしゃっと音がして振り返ると、森と畑の境目に巨大な泥人形が立っていた。

体を捩じっておかしな体勢でこちらを見ているので、明らかにホラー寄りの物体であり、子供が乱雑に描いたような顔部分がいやに虚ろな眼窩となってこちらを見ている。




「……………きゅっ」



ネアは早々に苦手な物体だと判断し、ディノの背中に隠れた。

背中にご主人様がへばりつくのが可愛いと魔物がもじもじしてしまったが、慌てて泥人形から目を離さないように言われたディノは、恐ろしいものではないと教えてくれた。



「あれはね、このような開けた土地で暮らせない、森や渓谷の生き物達の羨望の念が凝ったものなんだ」

「じゅ、充分に怖いではないですか…………」

「確か、ハスカルという名前をつけられている土地があったよ。覗き見る人という意味だ。こちらを覗き見て満足すると去ってゆくだけだから、厄などを落してゆくことはない。寧ろ、土地が豊かであることを示しているので喜ばれることもあるそうだ」

「ディノ、この泥人形さんをご存知なのですか?」

「うん。前に、ギードに教えて貰ったんだ。私も最初は、ギードを襲おうとしているのかと思って壊してしまうところだった」

「それで、ギードさんがどんな存在なのかを教えてくれたのですね」



そう言えば、ディノは嬉しそうに微笑んで頷いた。


言われた通り、泥人形は暫く収穫の終わったばかりの南瓜畑や、遠くの村の方から聞こえてくる南瓜祭りの賑やかな声を窺っていると、やがてふわりと姿を消した。


ほっとしてネアが視線を畑の方に戻すと、先程ディノが削ってあげた南瓜は、綺麗に中身がなくなってしまっていた。


残った皮の部分も薄っぺらくなっているのでと、それも残さず毛玉のような生き物がもそもそ食べている。

そして、そんな南瓜の皮を食べ終えた毛玉達が、きらきらと淡い光を畑に落としているではないか。



「あれも祝福の一つとして、この土地を豊かにするのだろう。そういうことを考えて、作物を残してあるのだね…………」

「たくさんの知恵を集めて、これだけ立派な畑を維持しているのですね。……………ディノ、私達が探していたのはあれではないでしょうか?」



ネアはここで、報告に上がっていた生き物を、森の入り口に発見した。

青い三角帽子に青い服を着た小人のようなもので、その生き物を見るなり、ディノはネアをさっと持ち上げた。



「………ディノ?」

「あれは、良くないあわいの列車の誘導人のようなものだ。前触れに近しい存在だけど、触れてしまうと連れ去られるから気を付けようか」

「…………どうにか出来るようなものでは、ないのでしょうか?」

「鎮めることは出来る筈だよ。ギードの系譜の者だから、音楽や美しい装飾品を好むかもしれないね」

「…………ギードさんもなのですか?」

「彼がその資質の王だからね」



青い小人は、ディノの姿に気付くと畑には出て来ずに森の方に帰っていってくれた。

高位の生き物を恐れるという心はあるようだが、人型であってもあまり人間に近しい生き物ではないそうだ。

人の形をしているが、中身は森の土塊や木の実などが詰まっているだけと聞き、ネアはぞっとして手渡されたディノの三つ編みを握り締める。



「どんなことの前触れなのでしょう…………」

「凶兆全般を示すものだ。あれを鎮めるまでは、新しい作付はしない方がいいだろうね。恐らく、蝕が近付いていることの前兆だと思うけれど、祓った方がいいのは間違いないよ」

「では、さっそくエーダリア様にそう報告しますね…………」



ネアはエーダリアにすぐに報告し、そのままの内容を村の責任者に伝えておくとすぐに返事が来た。

リーエンベルクを経由してその報せが村の自警団や村長にも届き、この辺りの大きな魔術団体か、或いはガレンから、鎮めの儀式を執り行う魔術師が派遣される。




さあっと、雨が降り出した。

霧雨のような細やかなヴェールに、ネアは少しだけその冷たさを頬に受けて楽しんだ。


山間の土地ではもう、秋を飛び越して冬の気配もしてくる頃だが、まだ秋告げの舞踏会が終わったばかりなのだ。

秋も深まるその恵みの季節に、この立派な畑に何も障りがないといいのだが。



その後も南瓜祭りが終わる午後までの時間を、ネアとディノは広い南瓜畑を歩いて警備を続けた。

何度か小さな生き物達の為に南瓜を割ってやり、森から現れた害獣を追い返す。

害獣たちはディノの姿を見ると逃げていってしまうので、特に煩わされることはなく、二人は無事に仕事を終え、村長から頭突き南瓜のグラタンを貰ってリーエンベルクに帰った。



グラタンのいい匂いに弾むネアに、ディノもどこか誇らしげにしてくれている。

ネアが喜ぶことで、こちらの魔物も仕事の楽しみを覚えてきてくれているのだろう。




「むぐふ!ほくほくで美味しいれふ!!」

「わぁ、ベーコンがあるところが美味しいね!」

「ふふ。ゼノにも喜んで貰えて良かったです」




南瓜のグラタンはかなりの大容量だったので、帰ってからみんなで分けた。

南瓜グラタン会に呼ばれたゼノーシュも、大満足ではふはふする。


じゅわっと旨味を加える自家製厚切りベーコンがごろごろ入っていて、しんなり炒めた玉葱に、たっぷりチーズの南瓜グラタンを食べれば、何となく収穫の喜びを一緒に分かち合えるような気がする。



リーエンベルクの料理人の作るグラタンより大味だが、ご家庭の美味しいグラタン感がよく出ていて、チーズとホワイトソースが濃厚でパンに乗せて食べても美味しい。



「はい、ディノ」

「乗せてくれるのだね。…………かわいい」

「この場合は、嬉しいでいいのでは………」

「かわいい…………」

「むぐぅ」



独特な形の青い巨大なグラタン皿は、お魚のパイや雉のパイなどを作るときに使う、籠型で持ち手がついているザルツ周辺の土地の有名な焼き物であるらしい。


人々が収穫した作物を卸しに出向く近隣の流通の中継都市では、この籠型のグラタン皿を持ち込めば、お店でグラタンやパイを注文して自分のお皿で焼いて貰う事が出来るそうだ。


統一の型で作ったグラタン皿を流通させたのは、畑仕事などで翌日の仕事開始が早く、お店でゆっくり食事をする時間はないという近隣の住民の生活サイクルを考慮し、そんな彼等に持ち帰りの料理を定着させる為の作戦だったのだとか。


なので、家族の多いお宅だとこのグラタン皿が必ず何個かはあるらしい。

家族全員分の持ち帰り料理を入れるものなので、この通りの大きさなのだ。



「僕、このグラタンを食べたのは初めてだなぁ………」

「まぁ。ノアも初めてのグラタンなのですね」

「南瓜のグラタンは私も久し振りだ。久し振りに食べると美味しいものだな」

「ゼノのやっている、チーズとソースと南瓜をぐりっとスプーンで取って、かりかりのバゲットに乗せて食べる手法が堪りませんね!」

「騎士がこうやって食べるんだよ。グラストに教えて貰ったんだ。ね?」

「はは、仕事の合間の食事の仕方なので、お恥ずかしいところですが…………」

「おや、ダリルもグラタンなどの差し入れがあると、このようにして食べていますよ。まぁ、彼の場合はもう片方の手にグラスを持つからですが………」



ウィームでグラタンの差し入れやお礼が珍しくないのは、秋のグラタンは収穫のお祝い料理に格上げされ、あちこちで行き交うからである。

このグラタンも勿論、今日の南瓜祭りのお祝い料理だ。



ネアは、こうしてどこかの家のお母さんが作ってくれたグラタンをみんなで囲める幸せに、胸をほこほこさせながら美味しい時間を過ごした。




なお、青い小人は、翌日にきちんと鎮めの儀式が行われたらしい。


綺麗な飾り石の腕輪を奉納され、青い小人はツダリの村には現れなくなったという。

近隣の土地を管理するザルツの伯爵からも、青い小人が現れたら報告するようにと、各地におふれが出たそうだ。



そして、ギードが好むのが、素朴な民芸品のような優しい雰囲気の装飾品だと聞いて、実は少しだけほっとしている。











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