優しい夜と優しい朝
目を開けると、ぼんやりと滲む部屋の風景がどこか頼りなく感じる。
熱に冒され、朦朧とした意識ではふはふと息を刻んだ。
「狐さん、少しだけ水分を摂りましょうね」
どこからか、ネアの柔らかな声が聞こえて、冷たくて爽やかな甘さのものが口の中に入れられる。
あまりの美味しさにごくりと嚥下し、喉が張り付くようにかさかさに乾いていたことを思い知らされた。
もっと欲しくて口を開けると、冷たいスプーンで次の一口が入れられ夢中で飲み込む。
「この花蜜のアイスには、体力を補う祝福があるそうです。みつみつアイスのお店に熱を出したお子さん用な品物があったのをディノが思い出してくれて、閉店間際の駆け込みで買ってきてくれたのですよ」
そう話してくれるのがやはりネアだと確信すると、柔らかな膝の上に乗せてくれて大事にされている幸福感にうっとりとする。
(シルがこの氷菓子を買って来てくれたんだ…………)
そう考えるとまた嬉しくなり、ネアの膝にすりすりと顔を擦りつけた。
優しい手が、そっと首から背中にかけてを撫でてくれる。
(…………ああ、僕が君にとても大事に愛されているみたいだ)
そうやって撫でられると、不思議な甘さと酩酊感に堪らなく心が緩んだ。
ネアから与えられるその愛情は、最初に求めたようなものではないが、だからこそ失われずに安心してこの身を委ねられる確かなものになった。
そして、ノアベルトが本当に欲しかったのは一晩の欲望を満たし、眠る間に暖かな肌を貸してくれる恋などではなく、ただいまと帰っておはようと声をかけられる、いつも見捨てずに側にいてくれるこんな温もりだったのだ。
(ネアがいて、そうするとシルもいてくれて………)
誇らしいことに自分から手を差し伸べて友達になって貰えたヒルドに、契約を望み手を差し出してくれたエーダリア。
それにグラストやゼノーシュも大事にしてくれるし、熱を出したこの身を労って、アメリアは涙目だったし、ゼベルも心配してくれた。
よくボールで遊んでくれる雨降らしのミカエルは、自身の固有魔術を切り出してまで、頭を程よくひんやりとさせる織り布を与えてくれた。
うつらうつらと意識を漂わせ、体を優しく撫でてくれる幾つもの手を思い出して幸せに身震いする。
あのアルテアまで、丁寧にブラッシングしてくれるのだから、この擬態はとんでもない。
(だから、元の姿に戻ってこの苦しさをやり過ごすより、このままネアの膝の上で大事にされたいな…………)
「…………はい。アイスはお終いです。ひとカップ綺麗に食べられましたので、これでもう、熱で苦しくても体力が落ちてしまったりはしませんからね」
そっと膝の上から降ろされて悲しく思えば、今度は柔らかな毛布の上に乗せて貰い、また優しく撫でられる。
寝心地としては確かにこちらの方が楽ではあるので、ちょっと寂しかったが撫でて貰えるのであればいいやと考え直した。
ふわりと、額に口付けが落ちる。
その甘さに心の端が痺れ、どうしていいのか分からなくて体を捩って微かに尻尾を振った。
「ふふ。狐さんが早く良くなりますようにの、魔術の足りない私からの渾身の祝福でした。気持ちはたっぷり篭っていますから、きっと効く筈ですよ!」
(ああ、嬉しいな……………)
嬉しいだとか、幸せだとか、胸が苦しくて涙が滲むようなそんな甘やかさに溺れて眠れるのはこのリーエンベルクにいる時だけ。
ここはノアベルトの宝物で、ノアベルトにとっての終の住処だ。
もうどこにも行きたくない。
ずっとここで、やっと手に入れたこの家族と暮らすのだ。
まるで祈りのようにそう思えば、なぜか涙が滲みそうになった。
「…………苦しいのだろうか。体を冷やした方がいいのかい?」
「狐さんの体は小さいので、このミカエルさんの布だけで充分だと思いますよ。一度、こういう感じで撫でてあげて下さいね」
「…………こうかい?」
「ふふ、それならきっと狐さんも嬉しいでしょうね」
さりりっとシルハーンの手が背中を撫でてくれて、ノアベルトはまた心がむずむずした。
もっと撫でても構わないとごろりと寝返りを打つと、驚いたシルハーンがネアにどうすればいいのかを聞いている。
「この寝返りは、このあたりをもっと撫でても構わないのごろりです。撫でてあげてくれますか?」
「…………うん」
さりり、さりりっと撫でられ、口元が緩む。
ふと、あの遠い日の舞踏会の夜が瞼の裏側に蘇った。
心臓を奪われ、眉を顰めている女達や無責任に笑っている男達にへらへらと笑いかけながら、あの会場を出た。
人垣の向こうに立っていたシルハーンの瞳が揺れて滲み、微笑んでいるけれど泣いているように見えた。
きっとあの時、シルハーンは心の中で泣いていたのだろう。
ウィームが攻め落とされてリーエンベルクが炎に包まれ、愛する筈だった彼女が炭化した遺骸に成り果てたのだと思っていた頃。
忌まわしいヴェルリア王族達を呪い苦しめながら、やっとシルハーンの絶望を理解した。
愛することを望みもがきながらも、その苦痛をあんな大勢の前で抉り晒され、それはどれだけの絶望だったのか。
愛そうとしてそれを無残に打ち砕かれて初めて、そんな事がやっと分かった。
それなのに、今はこんな風に側にいてくれる。
多分こんな風に一緒に暮らせるようになったのは、シルハーンも変わったし自分も変わったからなのだろう。
二人とも愛することを知ったし、今はここにお互いにとって大切な家族がいるだけでなく、友としてお互いを思えるようにもなってきた。
ざあっと、あのラベンダー畑が風に揺れる。
細やかな妖精達の煌めきと、雲間から覗く満天の星。
その中を歩いて、こちらを振り向いたネア。
こっちにおいでと言われた気がした。
こっちに来れば幸せになれるよと。
(うん。僕はどれだけの苦しみが待っているのだとしても、そこに行くよ…………)
みんなで一緒に囲む食卓や、またあの避暑地に行って、それぞれの誕生日をやったり祝祭を共に過ごしたりもして。
起きて会いに行けば、そこにはいつもの家族がいる。
あの、与えた髪を持って海に消えて行った女達や、それであなたは、私にどんな素敵なものを与えてくれるのと首を傾げた女達。
いつも待ち惚けて、きっといつかはと思いながらやがて諦めた。
一緒に暮らしても、大勢で楽しく騒いでも、誰も与えてくれない。
愛し方を与え方を知らないノアベルトに、こうすればもう一人ではなくなるのだという方法を、誰も教えてくれなかった。
誰かの肌の温もりがないと眠れないが、きっと女達のことを愛してはいなかったような気がする。
過ぎ去れば誰の名前も覚えていなかったし、誰かにまた会いたいと思うこともなかった。
もしかしたら、心の何処かでは憎んでさえいたのかもしれない。
(でも、ネアの名前は忘れなかったな。ネイ、だったけれど…………)
振り向いて貰えず、奪われて殺されても、その名前は手放さなかった。
人間を大嫌いになり、どれだけの命を腹立ち紛れに奪い弄んだだろう。
火が恐ろしく、寒くて苦しいその日々の中でも、苦しいからといってその名前を手放さなかった。
(だからきっと、僕はもう、エーダリアやヒルド、このリーエンベルクのみんなの名前をずっと忘れないんだろうな…………)
ここだけが。
ここがあるからこそ、何処にだって行ける。
『ネアがね、君の髪を貰い君を置き去りにした海の乙女達を見付けたら、紙容器の精を投げつけるのだと話していたよ。手を汚さずに紙容器の精を持ち運ぶ術も思いついたらしい。…………誰か残っているのであれば、ネアに頼むかい?』
シルハーンに真剣にそう言われて、何だか笑ってしまった。
笑いながら、嬉しくて幸せで心が弾んだ。
エーダリアは、髪を元通りにしたいのなら、ギョームの魔物を使って毛髪の復元の研究をしようかと言うし、ヒルドは件の乙女達の髪を切り落とせばいいのではと、愛剣を手に微笑んでいた。
(僕の家族……………)
だからほら、またこうして頭を撫でてくれる。
優しい手で、熱を出しているノアベルトが安心するように。
「…………お任せしてしまいましたね。そろそろ交代しましょう」
「ヒルドさん、夜は複数名で交代した方がいいのではありませんか?」
「私は明日が休日ですから、構いませんよ。それにネイは友人ですからね」
「ふふ。ノアが起きていたら嬉しくなってしまいそうな言葉ですね。…………むむ、尻尾がふりふりしてます」
「起きているのかな…………」
「熱でぼうっとしながら、夢うつつな感じかもしれませんね。でも、その言葉を聞けたなら、きっと胸がほこほこして熱も早く治ってしまうかもしれません」
そんなネアの言葉に、そうだよと言いたかった。
ヒルドにだって他にも友人達はいるけれど、一緒に暮らしている友人はそこまで多くない。
エーダリアとヒルドと自分は特別に絆深い三人組だという執着がどこからか芽生え、そんな子供染みた思いに苦笑する。
でもここは、誰にも譲れないのだ。
「…………少し、眠り方が健やかになったのではないか?」
「とは言え、また夜半過ぎに熱が上がるかもしれませんから。エーダリア様はもうお戻りになられては?」
「…………もう少しだけ、ここにいてもいいか?私はいつも、ノアベルトに頼る事が多いだろう?…………こうして守る事が出来るのが、…………不適切な表現かもしれないが、誇らしいのだ」
ふっとヒルドが微笑む気配がして、窓の向こうでさらさらと風の音が聞こえた。
外では風が出て来たのだろうか。
秋から冬へと移り変わる季節が例えようもなく美しいウィームでは、ノアベルトは夜明けの霧の街を歩くのが好きだ。
ただ一つ残念なのは、そのように思う者はとても多いのか、案外街が賑やかなところである。
「このような時ではなくても、彼はあなたには甘えていると思いますよ。ディノ様とネア様を見ていると感じることなのですが、………恐らく彼らは、守り慈しめることも堪らなく心地良いのでしょう。守らせて貰えるということは、自分の領域のものであるという魔物達なりの甘え方なのかもしれませんね」
そんなヒルドの言葉に、ぼんやりした意識のまま頷く。
愛せるもので守れるもので、これは僕のものだよと言えるのがいいのだ。
いつもそこにいて、何でもない話が出来て、苦手なものや好きなものを知っているのが堪らない。
海竜の戦の時に、ネアを守りに行けて自分の領域のものだと言えて嬉しかった。
儀式や祝祭の時に、エーダリアが当たり前のように銀狐を肩に乗せてくれるとわくわくする。
実は、ヒルドが就寝前に銀狐が廊下で眠りこけていないかの見回りをしていると、わざと寝ていたふりをすることもある。
「…………であれば、私は私なりに自分の領域だという執着を、看病することに感じるのかもしれないな。お前は殆ど体調を崩さないだろう?」
「おや、私の看病をしたいのですか?」
「……………力を借りてばかりだという気がするのだ」
「……………であれば、それは杞憂です。幼いあなたが私に手を伸ばし、私の鎖を外したあの時に、一生分の救いは得ましたから」
「……………ヒルド」
ネアのものとは違う、けれどもまた優しい手がそっと体を撫でてくれる。
これはエーダリアだ。
「…………そしてネイも。彼がいなくては、私は得られず与えられなかったものもある。彼がここに住むようになって、私もとても幸福です」
その言葉にぐぐっと息が詰まって、胸が潰れそうになった。
目の奥が熱くなって涙が出そうなのに、曖昧な意識がそれを覆い隠してしまう。
(…………うん。熱が出るのもいいことだ)
そう考えると、安心してまた眠りに落ちた。
よく分からないけれど、ふわふわと素敵なところを漂い、美しい夢だった気がする。
そして、夜明け前に目を覚ますと、体は随分と軽くなっていた。
(…………まだ暗いけど、夜明け前くらいかな)
隣を見ると、ヒルドが眠っている。
普段は寝台に上がることを嫌がるくせに、今日は当たり前のように隣に寝かせてくれていて、ヒルドはつい先程、それもうっかり眠ったばかりに思えた。
いつもの室内着ではなく、何かがあれば外にも出られるような服装のままだ。
その代わりに、ノアベルトの体には柔らかな毛布がそっとかけられていた。
(…………ありゃ、喉がかさかさだ)
はぐはぐと口元を動かし、すっかり乾いてしまった鼻先を舐めようとしたが、口の中は乾ききってしまっていた。
部屋の中を見回せば、少し離れた机の上に水差しと銀狐用の水飲み皿も置かれている。
眠っているヒルドを起こしたくなくて、ノアベルトはよろよろと起き上がると寝台から降りた。
しゅたんと床に降り立ち、少しよろめいたもののこのくらいであれば朝には元気になれそうだとほっとする。
ぽてぽてと歩いて書き物机の横にある椅子に飛び上がると、ぐらりと体が揺れた。
(……………あ!)
揺れた体を支えようとして振り上げた尾が、机の反対側の端にあったインク壺に当たる。
慌てて押さえようとしたが間に合わず、ぞっとするような一瞬の後に、インク壺は床に落ちていった。
かしゃんと音を立てて、絨毯に濃紺の染みが広がる。
それを見下ろして呆然とすると、先程までの幸せな気持ちは吹き飛んでしまった。
どうしようと、胸が苦しくなる。
胃が沈むような嫌な気持ちと、どこか泣きたいような失態への落胆と。
(ああ、僕はまた失敗した…………)
耳が寝てしまうのと、けばだった尻尾がへなへなと足の間に巻き込まれるのが自分でも分かった。
悲しくて涙目になってしまう。
ヒルドの部屋の絨毯を汚してしまったし、あのインクはきっと良いものだ。
「……………ネイ」
少し慌てたような声が聞こえて、ノアベルトはそろりと振り返った。
どれだけ怒らせてしまうのだろうと耳を寝かせて上目遣いに見上げると、ヒルドは床に落ちたインク壺を拾うよりも先に、なぜかノアベルトを抱き上げた。
こちらを見た瑠璃色の瞳は鮮やかで、そこには恐れていたような苛立ちは見えない。
「すみません、眠ってしまったようだ。…………怪我はしていませんね?……ああ、尻尾の先が汚れてしまいましたね」
そう言って、尻尾の先を水差しの横にあった濡れタオルで丁寧に綺麗にしてくれる。
ノアベルトは目を丸くしてそんなヒルドを見返し、またじわっと涙目になる。
情けないことだが、この姿だと酷く心が剥き出しで柔らかくなり、いつもそうなってしまうのだ。
前足でそっとヒルドの手の甲を押さえ、悲しくなって俯く。
「…………インク壺のことですか?気にしておりませんよ。それよりも、まだ体調が万全ではないのに無理をさせましたね。喉が渇いたのでしょう?」
優しい声に堪らずムギーと鳴きながら顔を擦り付け、拭いて貰ったばかりの尻尾をふりふりする。
ヒルドはそんな銀狐の体を片手で抱いたまま、器用に水飲み皿に水を入れてくれた。
不安定な書き物机ではなく、床の上のいつもの場所に置いてくれて、近くで様子を見る為にか、自分も床に座って隣に並んでくれた。
しゃばしゃばと水を飲み、口元を充分に潤しながら横目で見ていると、インク壺には魔術をかけ、ふわりと輝かせて溢れたインクを戻している。
だがやはり、見事な絨毯にはインクの染みが残ってしまった。
夜が明けたらこの染みを完璧に綺麗にしてみせるとノアベルトは心に誓い、無事に水を飲み終えてヒルドに擦り寄った。
「もう少し、眠れそうですか?」
その問いかけに頷くと、前足を伸ばしてヒルドの室内着を指し示す。
彼は、室内ではとことんのんびり寛ぐのが好きだ。
休みの日にはあまり部屋の外に出ないし、見た目ばかりの衣服よりは、多少不恰好になっても肌触りの良いものを好む。
それは、ノアベルトには、あの王宮で自身の空間や時間など殆どなく残忍な女達に弄ばれていた頃の苦痛を埋めるべく、漸く得られた彼だけの至福の時間のように思えた。
彼もまた、ノアベルトによく似て。
華やかな宴席や高価で見栄えばかりの装いより、自分の領域で寛ぎその家族を守ることを好む男なのだ。
今日は休みのはずなので、ゆっくり寝ていてもいいだろう。
面倒をかけてしまった分、少しでも休んで欲しかった。
「いえ、私は……………やれやれ、では着替えましょうか。そうすれば、あなたもゆっくり眠れますか?」
頑固な目に気付いたのか、呆れたようにそう微笑み、ヒルドはノアベルトを寝台の上に作られた仮設の寝床に置いてくれた後、着ていた衣服を脱いで部屋着に着替えてくれる。
「ただし、これから眠るとなると朝食の席は後からですね。空腹などはありませんか?」
ネア達に食べさせて貰った花蜜の氷菓子のお陰か空腹は感じておらず、こくりと頷いた。
「………では、少し朝寝坊しましょうか。その代わり、具合が悪くなったり、喉が渇いたら私を必ず起こして下さい。いいですか?」
その言葉にまた頷き、厨房とエーダリアへの伝言を魔術掲示板に書いているヒルドに尻尾を振った。
この掲示板は各部屋にある兄弟石の板に専門のインクで文字を書くと、全ての石板に同じ文字が浮かび上がるのだ。
今のように、通信をかけるのには不適切な時間に使うもので、急ぎで読まれなくてもいい程度の伝達事項であればこれで済ませてしまえる。
この部屋の他には、エーダリアの部屋と執務室、騎士棟、厨房と家事妖精達が必ず立ち寄る家事妖精の団欒室、そしてネア達やノアベルトの部屋のある棟の一画にもあり、そこから情報を共有するのだ。
「さて、あなたの体調も問題なさそうだと伝えてありますので、これで我々は今暫くゆっくりと眠れそうですね。朝食は十時にしましたから、その前には起きますよ」
窓の外から、静かな雨音が聞こえてきた。
夜明け前から降り始めた雨に、またウィームは霧の朝を迎えるのだろうか。
でも今は、優しい友人で大切な家族になったヒルドの隣で、ゆっくりと眠ろう。
また幸福でぬくぬくとした気持ちが戻ってきて、うっとりと目を閉じた。
体調が良くなると、ヒルドには一度叱られることになる。
豆の木の上でのことで、自己管理が出来ておらずにネア達を危険に晒したということだ。
ネアは庇ってくれたけど、ノアベルトは体調が悪い時にはヒルドがどれだけ優しかったのかをきちんと覚えている。
何となくその柔らかさが忘れ難く、その週はことあるごとに狐姿でヒルドに甘えた。
幸い、自分でもよく分からなかったその衝動に、ネアが病み上がりにはよくあることだと説明をつけてくれたので、とても安心する。
それから暫くして、ネアに、エーダリアはどちらかというと家族に例えるなら弟のようなものなので伴侶を得ても構わないが、ヒルドは兄のようなものの気がするので伴侶を得たら嫌かもしれないと相談したところ、ネアはいきなり兄弟が二人も増えたと絶句していた。
取り敢えず、今年の年末から新年のどこかでノアベルトには妹が出来る。
そうなるとシルハーンも義弟になってしまうので、兄弟はたくさんいるようだ。
ヒルドは母親の役だと言い張るネアとは、それまでに協議を重ねておこうと思う。