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花びらと面影




はらはらと絶望の花が降る。

そんな花びらの中を歩き、ギードは白み始めた空を仰いだ。

少しずつ明るくなってきた平原には、むせ返るような血の匂い。



そこかしこに終焉の系譜の者達が見え、遠くにある燃え落ちた大きな教会の前には、ウィリアムのものとおぼしき白いケープが翻るのが見えた。



(また彼は、その終焉の凄惨さに苦しむのだろうか)



そう考えかけて胸が痛んだが、自分達はもうそればかりではないのだと首を振った。


もうすぐシルハーンの誕生日がある。


その日の為にギードは、擬態魔術の研鑽を積んできた。

もうすぐ迎える日をどんなに楽しみにしていたかを思い出せば、この戦場の憂鬱さも軽減出来るような気がする。



勿論、苦しみはそのままそこにある。


舞い散る花びらはどこまでも続き、王子達の政策の違いによる摩擦とやらで滅ぼされた町の、やるせなさと絶望があちこちに黒く凝っている。

理不尽に殺されたこの町の人々は、丁寧に死者の行列に回収させないと祟るかもしれない。

そう思いながら、井戸に毒を放り込まれ、苦しんで死んでいった人々の亡骸の横を歩いた。



ざあっと、強い風が吹いた。


その風に舞う花びらの向こう側を見て、ギードはどきりとする。



風に揺れるのは、白灰色の耳下で切り揃えられた髪。

そして、こんな凄惨な戦場には不似合いな星屑の瞳。

飾り気のなさが彼らしい灰色の優美な装いに、どこか兵士のもののような無骨な装飾。



そこに立っているのは、かつての友人の姿そのままの、今代の犠牲の魔物であった。



ふっと、目が霞んだ。

それは日差しが目を射ったのかもしれないし、風が沁みたのかもしれない。

或いは、胸がとても傷んだからだろうか。



その胸を押さえて、ギードは遠くにいる犠牲の魔物を見つめる。




(今の彼とも、一度だけ話をしたことがある)



今代の犠牲もグレアムのような気質だと聞き、やはりここと同じようなカルウィの戦場で出会った時、短く言葉を交わした。



穏やかさ、思慮深さ、そして仄かに魔物らしさの香るその裏側の鋭さまで、そこにいるのは記憶の中の友人に良く似た誰かであったが、話に聞く犠牲の魔物は生贄なども欲する悪しき魔物であるらしい。


であればきっと、違う部分もあるのだろう。


今の彼には、以前のグレアムが大切にしていた、友人達と過ごす余暇や、人間のような生活を楽しんでいる様子はない。

ギードやウィリアムが人間の街の雑多な居酒屋を楽しみ好んでいたように、グレアムは小さな家を構えてそこで人間のように暮らすのが好きだったのだ。



カルウィには、絢爛豪華な今代の犠牲の魔物の為の神殿があるのだという。

それは、生贄を望み王子達の権力闘争に関わる、ギードの知らない魔物の姿であった。



そんな風に根本の資質が変われば、そこにいるのはもう、あの友とは違う誰か。

よく似た慕わしい部分を残せば残す程、僅かな差異に胸が締め付けられることもある。



だからギードは、それ以上はもう確かめられなくなった。




(今の彼は前の彼と違うと思うのは、俺の身勝手な妄執でしかない…………)



今代の犠牲からすれば、それは、さぞかし目障りな感傷に違いない。


そう分ってはいても、やはり心は動くのだ。

だから、ギードにとっての今代の犠牲は、やはり他人とは思えないし、好き嫌いで言えば好きな魔物だとは思うが、何となく接し難い部分のある相手になっていた。




ざっと、耳馴染みのある靴音で土を踏む音がした。

ばさばさと風に白いケープが揺れて、ギードにも誰が来たのかを知らせてくれる。



「ああ、彼も来ているのか…………」



そんな声にギードが振り返ると、いつの間にか隣にウィリアムが立っていた。

また次の風にはたはたと白いケープが風に揺れたが、今日の彼は、いつかの水仙の夜程の絶望は纏っていないようだ。



そのことにほっとして、ギードは頷いた。



「ああ。…………ウィリアムはその後、彼とは?」

「実は少し前にネアが海竜の戦に巻き込まれてな、その時に彼が一緒に戦ってくれたらしい」

「……………ネアが?………それに、彼は海の系譜の者ではないのに?」

「…………すまない、この前に会った時に話し損ねたな………」



驚いて目を丸くすると、ウィリアムは小さく笑う。

これは嬉しい時の仕草だと気付いて、ギードは微かに胸の奥を波立たせた。



(ウィリアムは、彼に好感を抱いたのだろうか?)



自分と同じくらいに、ウィリアムはグレアムに特別な思い入れを持つ男だ。

時に彼は、仲間内からも冷淡に思われることがあるが、実際にはとても繊細な男である。



(そんなウィリアムが、…………?)




記憶の中のあの日は、こんな風に。

いや、もっと壮絶に。

ただ、絶望の花びらの舞い散るその中にあった。



それは無視しきれず、忘れることの出来ない特別な思い出で、いつまでも、いつまでも、あの日のことは夢に見る。


そうして、酷く身勝手なことに、今の犠牲の魔物がまたあの大切な友のように微笑んでくれればいいのにと考えてしまうのだ。


そんな日のことを思い、ウィリアムの言葉を反芻すると、胸が騒いだ。

だが、まずは少し引っかかった発言を指摘することにしよう。




「……………ということは、ネアが海竜の戦に巻き込まれたのは、その前のことなんだな?」



微かに恨めしい思いで目を細めたが、すまなかったと苦笑したウィリアムは、確かにあの日は酷く疲れていた。

水仙の呪いで滅びた集落を出た後、彼は堪らずにネア達に会いに行ったらしい。


それでも、そんな救いの夜が明ければ、夜の帳に隠されてあの村から外側に逃げ出した者がいないのかを、もう一度調べに行かねばならなかった。


更には、周辺の国に今度は鈴蘭の呪いを利用した武器を作ろうとしている動きがあり、ウィリアムがその計画を遂行しようとした者達を排除してきたという、その後で食事をしたのだ。



(ウィリアムが、終焉に触れていない者を排除することは珍しいと思った…………)



それくらい、あの水仙の呪いの顛末は堪えたのだと思う。

同じような事をしようとした者をどうしても許せなかったくらい、彼は怒り、そして恐れたのだ。


だからきっと、ウィリアムには、海竜の戦の話をする余裕はなかったのだろう。



(そう言えば、伝え損ねたことがあるからまた今度と言っていたな…………)



その夜は禁忌に触れることを厭わずそのような呪いを後世に残す愚かな者達について、二人であれこれ語っている内に時間が過ぎてしまった。


ウィリアムは、己の資質に呼ばれて新しい戦場に赴くのだと、慌ただしく別れた。



「ああ。…………どうも、純白の一件で顔を合わせたことがきっかけで、ネアが彼に助けを求めたらしいな。あまり見知らぬ者を頼られると危なっかしいんだが、彼女が落とされた土地には制限が多くて、シルハーンや俺は後を追えなかったんだ。海竜の戦では、彼が一緒にいてくれて助かった」

「それはつまり、………彼も応じたということか」

「そうなんだ。シルハーンも、シェダーと、………そう名乗ってはいるが、恐らく周囲の者達とのやり取りを聞くに今もグレアムという名前なのだろう…………彼を気に入ったのだと思う。…………俺も、その時に彼と色々な話をした。様々な噂があるとは思うが、言われるような悪趣味さとは無縁の男に思えたぞ。寧ろ、…………俺達の知っているグレアムに良く似ていると思った」

「そうなのか…………!」



それは思ってもみなかった朗報であった。

今は大事な人を得て慎重になっている筈のシルハーンが気に入り、ウィリアムがそう言うのであれば、きっとそうなのだろう。



(シルハーンやウィリアムが心を緩めている今だからこそ、新しい犠牲が、彼等の不安要因とならなければいいと考えていたが…………、その心配はなさそうなのか…………!)



そう思ったら、胸の奥から深い深い溜息が零れ落ちて、ギードは、自分がどれだけ不安だったのかをあらためて思い知らされた。



一本の白い蝋燭になり、足元に転がり落ちたグレアムに声を殺して泣いたあの日。

殺されても止まらない彼を自分が止めるしかないと思いそうしたものの、そうするしかなかったという事実をむざむざと見せつけられた気がして、息が止まりそうになった。



(そうか、……………あの日からずっと、俺は恐れていたんだな………………)



新代の犠牲の魔物がどんな人物にせよ、姿形があまりにも酷似しているのは事実で。

そんなもう一人のグレアムに、どうかもう二度とこの手で滅ぼさせないでくれと、ずっとギードは祈っていたのかもしれない。



「ネアが、シルハーンの誕生日に顔を出して欲しいと、彼にも話してみたと言っていた。…………今の彼も、なぜだかよく分らないが、シルハーンのことを大事に思っているようだからと」



それはもう一つの嬉しい報せだ。

あのグレアムに似ているのであれば、だからこそ彼はまたシルハーンを大事に思うのかもしれない。


それならきっと、かつて彼が大切に守った王を、その手で傷付けるようなこともあるまい。



「……………彼は、来てくれるだろうか」

「どうだろうな。…………だが、俺も何度か思ったよ。…………今のグレ………シェダーと話をしていると、彼は俺のことを随分とよく知っているような気がすると。…………だから、彼は来るような気がした。…………例えそれがあの頃のようにではなくても、例え俺達がいない時にシルハーンに顔を見せに来るだけであっても。それでも…………」

「ああ、………それでも充分だ」



(誰よりもあの方の幸福を願ったグレアムが、例え新代の彼となっても、シルハーンが漸く得られた幸福を見ることが出来るならば…………)





少しだけ話し、ウィリアムは西方の湿地帯の方にまで続く戦乱の爪痕を辿って離れていった。



この町は酷い有様だが、ここよりも遥か先まで、この争いの爪痕が残っているようだ。


この町と、西方の湿地帯に駐留していた近くの都の騎士達は、この国の王族達の争いの果てに、犠牲になったのだと聞いた。

こうしてあちこちで小さな戦や小競り合いが起きること自体は、カルウィという国では決して珍しいことではないが、この国に関わらず、巻き込まれて命を落としてゆく人々の怨嗟や絶望は計り知れない。



この怨嗟や染み込んだ死の恐怖が、蝕の時に何か望まない反応を示さないといいのだが。




ざあっと、またこの土地特有の強い風が吹いた。



その風に目を細め、風に嬲られてちゃりりっと鳴った耳飾りを片手で押さえる。

統括の魔物としてこの惨状の何かを確かめる必要があったものか、犠牲の魔物はまだいるようだ。

小さな町には不似合いなくらいの大きな教会の前で、誰か見知らぬ妖精と会話をしていた。


立ち去り際に、ウィリアムは彼と短く言葉を交わしたようだ。



そうやって小さな邂逅から次にも言葉を交わす誰かになり、また次に出会う時にも言葉を交わせば、いつかどこかでその繋がりはしっかりとしたものに変化してゆくのかもしれない。



(だとすれば、俺はどうするのだろう)



そう考えて唇の端を持ち上げ、存外に臆病な自分に苦笑した。


見上げた空には最後の花びらが舞い、遅効性の毒により恐らく夜半過ぎから夜明けにかけて命を落とした者達の魂が、死者の国に旅立ちつつあるのを感じた。



今日はいい天気になるだろう。



そして、残された者達にはきっと、この空の青さは目に沁みるだろう。


だが、こうして風に散る花びらを見ている限り、死者達が去れば絶望がだいぶ軽減するのは確かなのだ。

それは、今代の世界には死者の国があり、ウィリアムが丁寧に管理しているお蔭で、死者達が地上に帰ってこられる日があるという救いによるものが大きい。


永劫の別れまでにまだ猶予があることで、ほんの僅かな希望が残されるのだ。

もう一度会えるならばと生き延びる者達は多く、とは言え向こうでの再会を望んで命を絶つ者もいる。


死者の国を持つ人間だけが可能なそんな残り時間を、ギードはどこか羨ましくも思っていた。




「………………何だ、見ない顔の魔物がいるな」



ふっと視界が翳り、ギードは眉を顰めた。


ばさりと大きな翼を広げて舞い降り、まだこの辺りでは見かけない雪喰い鳥がこちらを見下ろしている。

その翼は六枚もあり、全てが眩しいくらいの純白であった。



これはまさかと考えていると、突然視界が翳る。



「リュツィフェール!」



鋭く低い声が響き、ふわりと転移の香りがした。

すぐ目の前で揺れたのは白灰色の髪で、今、目の前にこちらを庇うように立ったのは、シェダーと呼ばれている今代の犠牲の魔物なのだと気付いたギードは目を丸くする。



「何だ、またあんたか」

「やめておけ。彼は絶望を司る魔物だ。………それに、あのウィームの歌乞いの少女の知り合いだと思うがいいのか?」



(………………それは、ネアのことだろうか?)


魔物なら兎も角その言葉がどんな効力を示すというのだろうかと困惑したが、不思議なことに、それを聞いた雪喰い鳥は如実に顔を顰めた。

なぜだか羽を少しだけ内側に丸めると、周囲を見回して身震いしている。



「……………絶望の魔物なら、あの死者の行列の一派か。この土地の民に似た、紛らわしい恰好をしやがって」



そう小さく呟き、ばさりと大きく翼を振るって雪喰い鳥は飛び去っていった。

何だったのだろうとそれを見送り、ギードはこちらを振り返った男の瞳に微かな逡巡を見た。

あるかなきかの微かな躊躇に、心の中にわだかまった何かが決まり、ギードは彼に淡く微笑みかける。




(ずっと昔は、そうすることが不得手だった)



けれども友にはそうするのだと、ギードにそう教えたのはグレアムだ。




「…………危ないところだった。礼を言う」

「君であれば、純白が相手でも問題なかっただろう。だが、俺の統括の土地でのことだ。迷惑をかけた」

「カルウィは、この先、戦が多くなりそうなのか?」



このままでは会話が途切れてしまうような気がして、少しばかり強引にそう尋ねると、彼はどこかほっとしたように小さく気配を緩ませた。



(そうか、前歴を引き摺って俺達を気にかけるのは、彼も同じこと)



先代の犠牲の魔物の最後は壮絶だった。

だからこそどこからも、禁忌だからこそと言わんばかりに漏れ聞こえてくるに違いない。

そうして彼もまた、かつての犠牲の魔物を知る者達との関係に悩むこともあるのだろう。


であればもっと早く、こうして微笑みかけてみるべきだったか。



(いや、どのような人物なのかを知るまでは、安易にそうする訳にもいくまい。やはりこれもまた、ネアが彼と知り合ってくれたことで知り得た彼と言う男だったのだ…………)



全てを知り、何も知らない者だからこそ。

そしてシルハーンの婚約者で契約者だからこそ、きっと彼女だけが出来たこと。

そこから得た恩恵の穏やかさに感謝しつつ、ギードはかつての友人と同じような眼差しをするシェダーからの返答を待つ。



「今代のカルウィの王の治世が、後五十年程で終わるだろう。それまでに、王子達の継承権争いは続くとは思う。それに、さらにその下流の動きとして各王子派の貴族達の小競り合いも多くなる筈だ。…………とは言え、カルウィ王は強欲だからな。自国を損なう程の大きな戦は許さないだろう。この土地を自分達の領土だと思っている水竜もまた、そこまで多くの摩耗となれば諌める筈だ」



砂混じりの風に遠くを望み、シェダーはそう教えてくれた。

話を聞く限りそこには、生贄を求め毎夜饗宴に溺れる残忍な魔物の姿はなく、どこか生真面目に情勢を静観する魔物らしい静謐さがあった。



「…………ずっと昔、この国の王子になど生まれなければ良かったと絶望していた子供がいた。母や乳母達に隠れて育てていた小さな獣を、王子には相応しくないからと殺されてしまって、一人で川の畔で嗚咽を堪えていたんだ。……………あの子供はもう、いなくなってしまっただろうか。鮮やかな緑の瞳をしていて、……」

「黒みがかった焦げ茶色の髪をした?」

「ああ、そうだった!あんたが知っているということは、まだ壮健なのか?」



そう尋ねれば、彼は微笑んだようだ。

魔物らしい怜悧な眼差しには、どこか満足げな光が揺れる。



「彼は、自分を手駒として民や侵略者達の粛清を強いてきた、強欲な兄の願いを叶える為の贄として、愛する人のいる辺境の都市に追放された。その土地を守り、栄えさせ、誰にも損なわせないのが彼に与えられた役目だ」

「……………そうか。あの子供は、やっと愛する者を守る為に生きることが出来るのか」

「彼は、魔術可動域も高く武芸に秀でていたからな。王の覚えもめでたかったが、母親の身分が低かったことが災いした。随分と長い間、多くを殺し続けることを強要されてきたが、この先は国内で最も貧しい辺境の町で、あの少女を守りながら暮らしてゆくのだろう」



それは、兄王子の願いを叶える為に、シェダーが課した対価であったらしい。


より多くの血を流し殺してきたことのある王族を指定し、国内で最も貧しい土地に送るように命じた。

土地の民を損なわず、まるで善人のように己の財を切り崩しながら十年暮らし、その後は好きなところに戻って構わないが、その土地と土地の民をまるで自分の体の一部のように庇護し続けること。



そしてその土地には、彼が心を奪われた心優しい奴隷の少女がおり、毛色が変わっているからと異国から買い付けられてきて捨てられた孤独な彼女を庇護した心優しい民達がいる。

彼は、土地に着任するなり彼女を自分の屋敷に引き取ったらしい。

今はまだ手探りだが、慈しむことを学ぼうと、日々努力しているのだとか。



(それならきっと、彼は死ぬまでその土地を守るのだろう)



足を怪我した小さな獣を抱き締めて、この獣が弱く恵みをもたらさないものであっても、とても愛しているのだと語った不器用な子供。

既に積み重ねた履歴は消せないが、愛するものの為であれば、彼は二度と手放さない筈だ。


それが、とても得難いものであるからこそ。




そう、大切なものは、とても得難いものなのだ。




「…………また近い内に会えるだろうか。シルハーンの誕生日の祝いに呼ばれているのだろう?」




そう尋ねると、シェダーは不思議な微笑みを浮かべた。




『ギード、少し不在にするがまた会おう。その時には、俺が不在にしていた間のシルハーンがどうだったか教えてくれ』



いつだったか、そう片手を上げてあの城を出て行ったグレアム。


そんな彼がやっと戻ってきたような。

また会えると応えるというよりは、ずっとここに居たのだとひっそりと呟くような。





「……………ああ、また会おう。俺には色々な誓約があってな。だが、僅かにであれ、顔は出すつもりだ。………なんとかすると、彼女と約束した」



そう言って微笑むと、今代の犠牲の魔物はまたこの土地の魔物や、あの雪喰い鳥達の方に戻っていった。




青い青い空を見上げて、ギードは唇の端を持ち上げる。

ヨシュアにも教えを請うて、擬態の調整は万全だ。




誕生日のその日、シルハーンは幸せそうに微笑むのだろうか。

どんな贈り物を貰うのだろう。

そこに居て共に祝えたら、どれだけ楽しいだろう。



特定の日をこんなに楽しみに思うのは、とても久し振りな気がした。



そこにはきっと、絶望の花が舞うことはない。









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