白い蛇と変わった魔物
「叔父さんはヴェルクレアの方にある海に遊びに行っているんだ。アイザックも知っている島だろうか」
そう尋ねると、友人は心内の窺えないような淡い微笑みを浮かべる。
灰色の曇天の下で、そろそろ涼しくなってきた風に揺れる黒髪に、伏せた睫毛の下の黒い瞳。
母は夜の神様みたいだねぇと言い、ミュウさんは最近妙に張り合うようになった。
今日は、遠方の島国から訪れる商隊の行商人がここに来るのだ。
だからかもしれないが、アイザックは昼過ぎからふらりと姿を見せ、兄に振る舞われたミルク酒を飲んで談笑している。
テントを出て、少しだけ霧の出て来た山肌を眺める。
夏の盛りに咲いていた花はもう見えない。
季節が移り変われば失われてゆくものもあり、それがまた来年も姿を見せるのかどうかは、誰にも分からないことだ。
失われないものはない。
けれどもそれは、自然な形なのだから。
「私が知っている場所かどうかは分りませんが、第一王子と一緒であれば危険などはないでしょう。……………それと、私の見間違いでなければ、水瓶の横で眠っているのは、ドーミッシュでは?」
「彼を知っているのかい?最近、よく遊びに来てくれるんだ。ミュウさんはよく喧嘩しているけれど、愉快な小鹿だから僕はいてくれると楽しいよ」
「……………あれは立派な魔物ですし、目に見えるような災いを呼ぶものではないにせよ、あまり良い質のものではありません。くれぐれも、居つかれないようにした方がいいでしょう」
そんなことを言うので笑ってしまうと、アイザックは困惑したように目を瞠った。
この黒髪の男性の姿で訪れることが多くなり、白い翼の雪喰い鳥から助けてくれた時にもこの姿だったので、きっとこれが彼の本当の姿なのだろう。
ここ最近で彼は更に、ルドヴィークと話す時にだけは、なぜか眼鏡を外していることが多くなった。
元々、かけてもかけなくてもいいそうだが、ここで眼鏡をかけていると、ミュウさんが割りに行くので煩わしいのだとか。
そんなミュウさんは、アイザックが来た途端、お腹を出して撫でて欲しいと甘え始めた。
母からは、甘やかして貰っているのをアイザックに自慢したいのだろうと言われている。
「前に、他の羊飼いが来た時に、アイザックのこともそんな風に言われたんだ。見たことのない神様がいるけれど、あまり魅入られてしまわないように早く帰した方がいいって。大事な友達なのだと話したら、とても驚いていた。でも、もう友達だと伝えてあるから、山の仲間達が君を怖がることもないだろう」
そう伝えれば、アイザックは微かに歪んだ微笑みを浮かべる。
残忍で冬の水瓶に張る氷のように鋭く、けれどもその鋭さはルドヴィークに向いてはいない、どこか自然の猛威のようなもの。
「おや、彼等はあなたの友人である私のことは、もはや知己のようなものだと思うのでしょうか?」
「うーん、そうではないかな。彼等にとってアイザックが知らない人物であるのは変わらないんだ。ただ、名前も知らない見知らぬ者ではなくて、僕の友人だが自分の知らない誰かという認識になるんだと思うよ。何か困ったことがあったら、僕の名前を出せば助けてくれると思う」
「…………………成程、あなた方はそのように考えるのですね」
(あれ、落ち着いたかな…………)
その変化に首を傾げてから、こちらを見て苦笑したアイザックに更に首を傾げた。
「…………あなたはいつも、私の微かな気分の変化を感じ取ってしまう」
「でも、理由は分からないよ。だから、アイザックが僕に思う事があったら、そして自分の気持ちが伝わっていないようだと感じて困ってしまったら、煩わしいとは思うけれど言葉にして伝えてくれると嬉しい」
「疎通が滞ったくらいで、私は機嫌を損ねたりはしませんよ?」
「うん。でも君は疲れてしまったり、がっかりするだろう?友達にそんな思いをさせたくはないからね」
その言葉になぜかアイザックはぎくりとしたように視線を揺らし、こほんと小さく咳払いした。
「ああ、向こうの山に虹が見える…………」
今日は、朝から曇ったり小雨が降ったりと変わりやすい天気で、こうして目まぐるしく天候を変える日を挟んで、高地の短い夏はあっという間に過ぎ去ってゆく。
既にもう、一枚上着を羽織る日もあるくらいだし、これからの変化はとても早い。
一か月もすれば初雪が降るだろう。
春から初夏にかけての季節も大好きだが、ルドヴィークはこんな季節もとても好きだった。
ゆっくりと羊を追いながら雲が流れてゆくのを眺め、干し草を倉庫にしまったり、冬用の食材を備蓄し始めたりする。
(冬支度もだいぶ進んだかな…………)
夏の間に麓の草原で狩った獲物の肉はすっかり干し肉になっているし、買い溜めておいた乾燥鰊なども麻の布袋にたっぷり入っている。
チーズは、アイザックが母の料理を気に入って、またご相伴に預かりたいからと、とても大きな塊を持ってきてくれたので、今年に作ったものと合わせて贅沢に食べられそうだ。
収穫を終えて粉にした穀物と、これからの収穫を控えているもの。
地面に埋めて保存する野菜は、地表の温度が下がり始め、まだ土が柔らかい内にそろそろ埋めた方が良さそうだ。
もう一周収穫出来そうな香草や豆類には、今朝の内にまた肥料を与えておいたし、冬には欠かせない酒の類もしっかり甕に備蓄してある。
今日の行商人から購入するのは羊たちのまじない薬用の薬草や、異国の調味料などであった。
チリンチリンと、遠くで鈴をつけた羊が歩く音が聞こえた。
鈴付きの羊は群れの長なので、ああして彼がのんびりと過ごしている内は、安心して家の周りで畑仕事が出来る。
雨雲の向こうに、遠くの山肌を照らす一筋の陽光が見えた。
虹は消えてしまい、ルドヴィークは少しだけがっかりする。
「あのウィームでも、冬支度をするのかい?」
「ええ、雪の多い土地ですからね。ある程度の備えはあります。ただ、大きな街ですので、冬越えの支度と言うよりは、冬に使う品々を点検したり、雪除けの魔術を強化するくらいでしょうか」
「そうなんだね。そちらには、白煤様は出るのだろうか?」
「白煤様………?」
アイザックが不思議そうにしたので、そちらにはいないのかなと、真っ白な煤の尾を引いた雪の馬なのだと教えてみた。
白煤様と呼ばれる山の神の一人だが、雪の使いだと言う者もいる。
白煤様が現れた翌日には、その土地に住む誰かが命を落としてしまう。
凶兆と言えばそうなのだが、冬が厳しいランシーンの山々では、冬の間に命を落とす者は多い。
決して、忌み嫌われるような存在ではなかった。
「そのような生き物については、私にも情報がありません。出現する前の、予兆のようなものはあるのでしょうか?」
「……………雪が沢山降った後の、新月の夜のことが多いかな。稀に昼に現れる時は、酷い雪が降っている間だけで、大抵は夜に現れる。僕も何度か見たことがあるけれど、とても綺麗な白馬なんだ」
「死を報せるものであれば、不用意に観察するのは危険では?」
「アイザックは心配性だなぁ。白煤様は、伝令のようなものだよ。それに自然の生き物なのだから、そんな報せから僕達が凶兆を受け取るだけで、あの生き物自体には悪意などはないのだと思う」
「………………例え悪意があったとしても、あなたは厭わないのでは?」
そんな風に問われると、目を閉じてあの暗い山肌を白い煤をたなびかせて駆け下りてゆく、勇猛で美しい白馬のことを思い出した。
白煤様に偶然行き合ってしまうと、雪崩に巻き込まれて死んでしまうというが、遠くからその姿を眺めていると、ただ静かな威厳を感じさせる美しい生き物であった。
「…………そうかもしれないね。生きるということは、そういう事なんだと思う。僕は、どうせ死ぬなら凍った地面で足を滑らせて死んでしまったりするよりも、白煤様が現れた翌日に自分の家で静かに死にたいなぁ」
「キシャー!」
「わ、ごめんミュウさん。怖くなってしまったかな。僕はまだまだ長生きする予定だから、今のはずっと先のこととして話しただけだよ」
胸元の服にしがみついて居眠りをしていた砂兎のミュウさんが、死という言葉に反応して毛を逆立てて唸り声を上げた。
小さな前足でたしたしと胸を打つので、慌ててその頭を撫でて宥めてやる。
もうそれなりに大きくなれるのだが、こんな風に小さな姿で抗議されると申し訳なくなった。
「ミュウ!ミュッ!ミュウ!!」
「ごめんね、ミュウさん。そんな早くはどこにも行かないよ」
「ミュウ!」
小さな前足でばしばしと叩かれ、ふかふかの体を両手で抱き締めた。
そして、おやっと思って振り返ると、無言で立っているアイザックが目に留まる。
とても静かな瞳をしていて、遠くの山々を眺めているようなのに、どこも見ていないような気がした。
「ごめんね、アイザック」
「……………ルドヴィーク?」
そっと謝罪すると、こちらを困惑したように見た魔物は、冬の夜空のような静かな目をしていた。
黒い絹糸のような髪が風に揺れては、その向こう側に見える山肌を彩る。
確かにこの土地には不似合いな服装だし、きっと、ルドヴィーク達と同じような装いをしてもまるで違う生き物に見えるだろう。
それでも尚、ルドヴィークにとってはいつの間にか、この風景に馴染む友人になった。
朝起きて羊達の様子を見に行く時や、嵐の後に山の様子を見にゆく時、そんな時に周囲を見回し、鮮やかな黒い影を目で探すようになったからだ。
「せっかく友達になったのに、どう死にたいかなんていう話をしたら、君と過ごす時間を楽しみにしていないみたいだよね。でも、そんなことはないんだ。君が来ると色々な話が出来て楽しいよ。今日だって、あちら側の山の尾根に、白い蛇が出たから君に見せたら喜ぶかなと考えていたし…………」
そう言えば、アイザックはどこか無防備に目を瞠る。
彼の向こう側に見える微かに霧の出ている山肌を、小さな緑色の鳥が飛んでゆくのが見えた。
(この言い方では、分り難かっただろうか?)
友としての執着や喜びを持っていないのだと、そんな失礼なことを言うつもりはなかった。
ただ、自分はそのようなものに印を残して貰い、この土地の一部になって死にたいのだという、漠然とした憧れを語ったに過ぎない。
けれども、それはまだ先の事だからと笑い飛ばせる人間とは違い、人ならざる者達にとっては、ルドヴィークが語ったそのいつかが、さほど遠くはないと思えたのではないだろうか。
とても分り難いけれど、アイザックは優しい魔物なのだ。
勿論それは彼の一つの側面に過ぎないし、見えていない他の側面では恐ろしい様相も秘めているだろう。
とは言えそれは、狩りをするときのミュウさんの獰猛さや、生きてゆくために動物達を狩る人間の残酷さとなんら変わらない。
その生き物にはそれぞれ、様々な側面があるというだけのこと。
そしてルドヴィークにとってのアイザックは、優しい自慢の友人なのだった。
「…………楽しいと思っていただけるのであれば、……………そうですね、あなたに会いに来て良かったと私も思います。……………それと、その白い蛇というものは、どのようなものなのですか?」
「君にそう言って貰えて良かった。白い蛇というのはね、山の尾根で鹿を狩っていた、背中に妖精の羽を持つ蛇なんだ。大きさは、僕の身長くらいだろうか。前に、テントに飾ってある蛇の骨を熱心に見ていただろう?あの時の蛇に似ているから、アイザックに見せてあげたいなと思っていたんだよ」
その説明に、なぜかアイザックは取り出そうとした煙草を丁寧に銀色の煙草入れに戻した。
深く深く息を吐き、片手を額に当ててから、やけに真剣な目をこちらに向ける。
「……………その蛇を見付けた時は、一人でしたか?」
「うん。今年生まれたばかりの羊が迷子になってしまって、山に住む妖精に攫われたのかなと思って探しに行ったんだ」
「……………成る程」
「その蛇は月の光のように光る鱗を持っていて、霧が深い日だったけれど、遠くからでもすぐに何かがそこにいると分ったよ。大きな牡鹿と戦っていたけれど、あっという間に倒してしまった。あの牡鹿も、目が七つもある獰猛な鹿だったのだけど…」
「………………目が七つというと、角には花が咲いていませんでしたか?」
「アイザックも見たことがあるのかい?角には、木蓮のような花が咲いていて近寄ると金木犀のようないい匂いがするけれど、君が見た鹿と同じかな」
その頃にはもう、アイザックは頭痛でもするかのようにもう片方の手も額に当てていた。
何度目かの深い溜息を吐いた後に、もう一度息を吐き、いっそ穏やかな眼差しでこちらを見る。
「ミュッ?!」
けれども、慌ててミュウさんが服の中に隠れてしまったところを見ると、もしかしたら怒っているのだろうか。
「…………ええと、もしかして、君を呼んだ方がいいような生き物だったのかな?」
「……………七つ目の鹿は、終焉の系譜の精霊です。見初めた者を精霊の国に引き摺り込み、その内臓だけを喰らう生き物ですから、他の個体を見付けても決して近付かないように」
「そうなんだね。冬眠から覚めたばかりの熊も、そういうことをするんだ。特に母熊は気が立っているしお腹を空かせているから、絶対に近付いてはいけないと教わったよ。七つ目の鹿にも注意しよう」
「………………あなたにとっては、熊も死喰らいの精霊も同じでしたね」
「熊の場合は、その場で襲われてしまうだけだから、違うのかな」
「…………………ミュ」
なぜかミュウさんにも、またばしばしと叩かれてしまい、ルドヴィークは首を傾げる。
けれど、今迄は知らなかったことを教えて貰えたので、あの鹿は危ない生き物なのだと、みんなに教えてあげよう。
数年前に、近くの山に住むフレムートが、冬場の食糧が乏しい時期にあの鹿を見付け、これはいいと思って弓を持って追いかけたことがあったそうだ。
その時は、馬に乗って山を登ろうとしたその途端に突然山の天候が激変し、激しい吹雪で鹿を見失ってしまい、狩りをするどころか、身動きが出来ずに無事に家に帰れるまでに三日かかったそうだ。
おまけに、大きな獲物を持って帰るぞと話していた子供達に、お父さんは手ぶらで帰って来たとがっかりされてしまい、かなり落ち込んだと話していたが、天候の変化に巻き込まれずに弓を射ってしまったら危なかったのかもしれない。
「やっぱり、アイザックは色々なことを知っているなぁ…………」
「…………私も、あなたはネア様と同じくらいに巡り合わせの質を持っていると再認識しました」
「僕と彼女は似ているのかな?」
「困ったところがですかね」
「そうなのかい?」
「…………ミュウ」
その後、ルドヴィークはやって来た行商人達から、様々な薬草や香辛料などを購入した。
高地での保存の為に風味を落さない風の魔術をかけた胡椒を見て、アイザックは驚いたようだ。
このような土地でしか使われないものであるし、高度な技術というよりは、実は相性がいいというくらいの古くからの生活の知恵の一つなので、大きな商会の代表でもあるアイザックでも、時には知らないこともあるだろう。
ただし、幾つかの香辛料はたいへん厳しい目をして首を横に振られたので、ルドヴィークはそんな品物は買わないことにした。
行商人達が次の住人達の住む山に向かうと、振り返ってアイザックに理由を聞いてみる。
「あの香辛料はまずかったのかな?」
「質も値段もお勧め出来ませんね」
買わないようにと目線で合図を送られた香辛料は、アイザックの商会が半額の値段でもっと質のいいものを卸してくれるようだ。
「その時に、幾つか取扱いを検討している調味料や新たな産地の塩もありますので、それもおつけしましょう。感想やどのような料理に使えたかを教えていただければ、お代はいりませんよ」
「うーん、いいのかなぁ。君はよくそう言って色々なものをくれるけれど、商品になるものは金額を教えてくれれば、欲しいものはきちんとお金を出して買うからね?」
「ミュウ!」
「あなた方は、私に対しても、その商品を誠実に試した上で忌憚のない評価を聞かせてくれます。そのような評価は思うよりも貴重なんですよ」
「それなら良かったよ」
その後二人は、ルドヴィークが白い蛇を見かけたという山に出掛けたが、残念ながらその日は見付けられなかった。
けれども質のいい果実や薬草をお土産に出来たし、アイザックとする色々な話はとても面白くて、ルドヴィークにとっては良い時間であった。
(だから、安心していたのに…………)
その日の夜、海から帰ってきたばかりの叔父が山から妙な光が下りてきたと言うので、慌てて見に行くと、片手を黒焦げにしたアイザックがいるではないか。
「アイザック!」
名前を呼んで駆け寄れば、ぎくりとしたように小さく呻いてから、焦げた片手を隠してしまう。
慌てて掴んで引っ張り出したが、その時にはもうその手は綺麗になっていた。
「やれやれだ。こっちも溺愛か…………」
そう呟く叔父の声が聞こえたが、ルドヴィークは何てことはないと言い張るアイザックの怪我をしていなかった方の腕を掴んで、テントの中に引き摺り込むのに忙しかった。
「母さん、薬草酒を出してくれるかい?!」
「おやまぁ、怪我でもしたのかい?」
「アイザックなんだけど、自分で治してしまったから、内側からも元気にしておこうと思って」
「…………いえ、私はそろそろ帰りますので…」
「ミュウさん、ブブさん、アイザックを押さえてくれるかい?」
そう頼めば、ルドヴィークの家族達は頷いてくれたが、叔父からやめて差し上げろと言われてしまった。
「…………アイザック、あの蛇を退治してくれたのだね?」
「…………帰りに偶然見かけましたので。あれは咎竜という、呪いを齎すものです。偶然にも遭遇すると厄介ですし、……………希少なものとして私の商売にも役立ちますからね」
「君は困った友達だなぁ。………そういう時は、僕の名前を呼んでくれればいいのに」
そう言えば、アイザックは切れ長の瞳を瞠り、なぜだか絶句してしまった。
母と叔父は顔を見合わせて微笑んでいるし、兄は不思議なことに青ざめている。
「……………カタルの根を漬けた薬もあったよね。それも飲んで貰おう」
「ミュウ!」
「ルドヴィーク!そりゃ、じいさんが愛用していた夜用の滋養強壮の薬だ!やめてやれ!!」
アイザックは薬嫌いなのか、逃げられてしまい、最初の薬草酒以外はもう何も飲んでくれなくなった。
「…………やれやれ、あなたは怒ると獰猛になるのですね」
「帰ると言って一人で山に入ったからだよ。夏でもこの山は危ないんだ、僕に言ってくれれば見付けるまで一緒に探したのに」
そう言えば、アイザックは苦笑して小さな溜め息を吐いた。
口元に手を当てて小さく笑うので、ルドヴィークはまた首を傾げる。
(やっぱり、アイザックは変わってるな…………)
大事な友人だけど、苦手な筈の人の顔をしている魚を欲しがったりして、少し変わっているのは昔からだ。
こちらこそやれやれと溜め息を吐き、ルドヴィークは話し始めた。
アイザックが片手に大きな怪我を負ってまで駆除してくれたあの蛇は、その魚を与えればすぐに死んでしまうのだと。
そんな説明をされた友人は、なぜかとても悲しそうだった。