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林檎のケーキと落し物の約束




ザハには、美味しい林檎のケーキがある。


林檎の季節ではないのだが、夏至祭の後になんとなく林檎のケーキの流行りが毎年くるらしく、この時期各店ではいつものケーキに混ざって林檎のケーキが置かれていた。


恐らく、夏至祭を一緒にいられなかった憧れの人と食べてみたり、無事に恋が成就した恋人たちがあの甘い夜の思い出を蘇らせる為にと、デートの度に林檎のケーキを食べたりするらしい。


そして、ネアのように、お口の中に林檎のケーキの味の流行りが来た食いしん坊も少しはいる筈だ。



なのでその日、ネアはザハに来ていた。



「ザハの林檎のケーキは、二種類あって、お酒のクリームのものも好きなのですが、今日食べるケーキはとっても素朴で美味しいから大好きなのです」

「君が好きな、他の林檎のケーキとは少し違うね」

「はい。いつもの煮た林檎の入ったケーキやアップルパイも大好きなのですが、このザハの林檎蒸しパンとも言えるふかふかしっとりな林檎ケーキには、中毒性があるのです!」

「中毒性…………」



ごくりと息を呑み心配そうな顔をしたディノに、ネアは食物における中毒性について説明した。



「体に悪いという意味合いでの中毒性もありますが、今回の場合は、またすぐに食べたくなってしまうという、やみつきなお味を表しますからね」

「またすぐに食べたくなってしまうんだね。フレンチトーストみたいにかな………」

「ふふ。ディノの気に入ってくれたフレンチトーストは、週末に焼きましょうね」

「ご主人様!」



嬉しそうにこくりと頷いたディノを、手を伸ばして撫でてやっているとテーブルに注文の林檎のケーキが届いた。


ケーキと冷たい紅茶を持ってきてくれたのは、いつものおじさま給仕だ。

時々小さなケーキをおまけしてくれたりして、ネアの大好きな給仕さんである。



「まぁ!」



林檎のケーキはお持ち帰りでしか食べたことがないのだが、こうしてお店で注文するととても上品なケーキだった。


白磁のお皿には、ロイヤルブルーで繊細なレース模様がある。

ネアの生まれた世界の老舗陶磁器メーカーのシリーズもののお皿に似ていて、ザハで見かける中でもお気に入りのお皿だ。

そしてその上に、ほかほかの焼きたてしっとり林檎のケーキが鎮座しているではないか。



フォークとナイフではなくて、手で千切って食べる優しい味のケーキで、ザハの常連さんの中では、甘さのしっかりとしたクリームやチョコレートのケーキが苦手な男性が食べていることが多い。

ご婦人方は、小さなお子さんへのお土産に買って帰るのがよく見かけられた。



ほかほかケーキを手に取り、ぺりりっと外側のカップを剥いて、一口サイズを千切ってぱくりと食べる。



「…………むふん。この林檎のケーキは堪らない美味しさです!言うならば、ほっこりケーキの最高峰……」

「手で食べるのだね」

「そのボウルのお水で手を洗えますし、おしぼりもありますからね」


ご主人様の幸せいっぱいの微笑みに目元を染めていたディノは、食べ方を教えて貰って自分のお皿と向かい合う。

意を決して、ネアと同じように一口食べると、ぽわわっと表情に喜びが滲んだ。



「……………美味しいね」



ネアが感じる限り庶民派の子供舌寄りなディノは、林檎蒸しパンことザハの林檎のケーキを食べると嬉しそうに目を輝かせた。


見込んだ通り気に入ってくれたみたいなので、ネアは安心してディノが林檎のケーキを食べる姿を見守った。

美貌の男性が手で千切って食べる林檎のケーキを食べている姿は何とも無防備で、心が緩むような優しい絵に見える。



「大聖堂前の祟りものの駆除は終わったから、もう今日の仕事は終わりかい?」

「まさかの、たくさんの賽子が並んでいるという珍事に出会い、ザハのケーキを食べるしかないくらいに動揺してしまいましたね。もう、間違って石畳の隙間にはまらないで欲しいです…………」

「何で外に出てしまったんだろうね………」



午前中にネア達が任された仕事は、大聖堂前の広場の隅っこで石畳の隙間にはまり、祟りものになってしまった賽子集団の駆除であった。

とても珍しいのでほこりに届けてあげたいくらいだったが、ぱちんと跳ねて襲いかかってくる悪い生き物だったので、ネアは致し方なくきりんで滅ぼすしかなかった。



滅びた賽子は石になって転がり落ち、たまたま夏至祭の賑わい目当てでウィームに来ていたガレンの魔術師が、その石を欲しいと駄々を捏ねるひと騒ぎもあり、ネア達は疲労困憊してザハにやって来たのだ。



その魔術師については、エーダリアに相談してみたところ、身分確認が取れたので一つ差し上げてもいいと許可が下り、祟りものだった賽子石を貰った魔術師は大喜びで楽しい休暇を終えたようだ。

その代わりに休暇から戻った後にはたくさん残業をするそうで、ネアは少しだけ労働環境が気になった。

本人が楽しく働き過ぎてしまうと、気付かずに健康を損ない易い。



(でも、魔術師さんはそういう方が多そう…………)



ガレンの長自身も素敵な魔術書に出会ってしまうと眠らなくなるので、ヒルドやノアが定期的に監視しており、今回の賽子な祟りものにもたいそう興味を示しているらしい。


なお、どうして近くのお店の商品棚にいた賽子が脱走したのかは、現在調査中である。



「残りの賽子はダリルさんのお弟子さんが引き取ってくれましたが、あの賽子石はどこかで役に立つのでしょうか?」

「…………また賽子にするのかな」

「自由を求めて賽子の箱から仲間達と共に脱走し、石畳の隙間で誰にも気付かれずにはまり続けて祟りものになった後に、また賽子な生涯に戻ってゆくのですね…………。切ない運命です」

「運命…………」



二人は首を傾げ、何だか切ないような気もするがまぁいいかと頷き合った。

お互いに、ちょっと祟りものな賽子の引退後の活用法にまで知識が及んでいなかったし、まだ美味しい林檎のケーキを食べている途中だったからだ。



「………さて、この後は返礼品のおつかいで、リノアールのカード屋さんでカードを買います!お返しのカードは一緒に見て欲しいのですが、ディノのカードを選ぶ時だけは、影を繋いでいてもいいのでお店の棚の反対側のところにいて下さいね」



本来であればヒルドが付き添ってくれる筈だったイーザへのカード選びだが、その荒ぶる賽子事件があったお陰でヒルドが多忙になってしまい、ネアとディノで買うこととなった。



(すぐに退治出来たけれど、最初にあの賽子な祟りものさんにぶつかられた方は、お腹に穴が空いてしまったから………)



重篤な怪我人が出たので、ヒルドは今回の事件の報告などに追われているのである。

ウィームは領主がエーダリアなので必要ないように思われるが、祟りものによる領民への被害が出た時には、本来は速やかにガレンに報告が必要になる。



大量出現の可能性への警戒などの迅速な情報共有が必要になった場合に備え、ヴェルクレアでは、日頃から祟りものの出現報告までの時間が定められているのだ。


勿論、祟りものだと認識されなかった場合や、関係者が報告どころではない危機的状態に陥っているなど、状況に応じて遅れても仕方ないとされることも多いものの、悪質な報告遅延は罰則の対象にもなるので、特にウィームでは他領のお手本となるようにと、早めの報告を心掛けられていた。




「きっとヒルドさんも、お友達へのカードは一緒に選びたかったと思うので、我々はそんなヒルドさんをも満足させるカードを見付けなければならないのです!…………ディノ?」

「……………君を、一人にしなければならないのかい?」

「あらあら、棚の反対側にいるだけでいいのですよ?それに、影を繋いでおけば、私は危なくないのでしょう?」

「ご主人様…………」



一緒にディノ用のカードも購入するからこそ、ディノは少しの間だけご主人様から離れなければならない。

しゅんとしたディノに、ネアはもう一度その理由を伝えることにした。


ディノに喜んで貰いたくてカードを買うのに、それが理由で荒ぶってしまったら大変ではないか。

ウィームとて、夏は気温が上がる。

夏期の毛布妖怪出現はどうかご遠慮下さいという気持ちなので、いつもよりも説明は丁寧にせざるを得ない。



「ディノに送るカードを選ぶ間だけで構いません。せっかく大事な魔物にカードを送るのですから、届いた時に初めてカードを見る驚きを得て欲しいなぁと思ってしまうのです」



そう言えば少しだけもじもじとして、魔物はとても恐ろしい提案をしてきた。



「紐で……………」



いつもなら、ばしりと断ってしまうところだ。



だが、昨晩はどうもあまり嬉しくない外出をしていたようなので、しょんぼりして帰って来たディノが心配でもある。

お風呂に入っていたと当人は証言しているが、あんな風に弱って帰ってきたらばればれではないか。


勿論その夜はとても大事にしてやったし、朝にはいつものディノに戻ってくれていたのだが、まだ昨晩のことなのでついつい甘やかしてしまう。




ざざんと、どこかで遠い波音が蘇った。


ネアはほんの少しだけ、あの時の出会いに予感を覚えている。



(だから、それまでは少しでも、ディノを甘やかしてあげたい………)




「……………むぐぐぅ。心配なら、今回は私のお願いで少しだけ離れて貰うので、…………むぐぐ、カード選びの間だけ紐を許可します。その代わり、他のお客さんが引っかからないように工夫して下さいね?」

「ご主人様!」

「他のお客さんにご迷惑をかける繋ぎ方をしたら、お仕置きですよ?」

「…………可愛い」

「またなぞめいた反応が…………」



二人はあれこれお喋りしながら、美味しい林檎のケーキを食べ終えた。


お店を出る前にネアがお手洗いに行こうとすると、魔物がとてもそわそわするので、そうそうお店から雪喰い鳥に攫われたりはしないのだと宥めてやる。

そのような場所にまでついて来てしまうようになったら、悲劇以外のなにものでもない。



「雪喰い鳥が落ちていたら、すぐに私を呼ぶんだよ?」

「そうそう落ちていないですし、落ちていたらお店の方がお掃除している筈だと思うのです…………」

「雪喰い鳥なんて…………」

「でも、その時のことを思うと、シェダーさんは元気かなと考えてしまいますね」

「………うん」



ネアは巧みに話題を変えたが、ディノはまんまと引っかかってくれた。

小さく頷いて、どこか澄んだ眼差しに優しい色を浮かべたディノに微笑みかけると、ネアはよいしょと席を立って、そそくさとお手洗いのある部屋の外の廊下に出る。



「………うむ。逃げ切りました」



男前に手の甲で額の汗を拭い、ネアは追っ手がいないかどうか後ろを振り返った。

今だけだが、気分はすっかり秘密工作員だ。



ザハの廊下には人気がなかった。



(シェダーさんについては、また会えたらいいなと思うけれど、ああして擬態する必要があるだけの、何か事情もあるのだと思う…………)


ディノが会話をして、それについては手助けはいらないものだと言われたそうだが、その事情故に、こちらからずばっと会いに行けないのだろうか。



(今年のディノの誕生日に、………無理だとしてもいつかは呼べるような人だといいのだけれど、またそんな風に仲良くなれたらいいなと思うのは、私のエゴなのかしら…………)



かつての犠牲の魔物は、アルテアすら翻弄したことがあるという、切れ者の魔物だったらしい。

彼はその器用さで、白を持たずして階位を上げて公爵の地位を得た、とても稀有な魔物だったのだ。



(犠牲の魔物さんの固有魔術には特殊なものがあって、グレアムさんは、対価と引き換えに願い事を叶える魔術が得意だったのだとか、…………)



いつだったか、それを教えてくれたのはウィリアムだった。

けれどもそんな力を持っていても、愛する人の死をなかったことにすることが出来なかったから、狂乱したのだと。



そんな言葉を思い出しながら、ふかふかとした絨毯を踏んであの日にも見た大きな鏡の前に立つと、色々な感慨や思惑を持ってその鏡をじっと見つめた。




(今はもう、鏡を見ることは怖くなくなった………)



かつてそこには、失われた家族の面影があり、大切なものを全て落としてしまった人間のがらんどうの目があった。


けれども今はその履歴のない顔と向き合い、アルテアに叱られないようにクリームを塗り込んでいても、ふと、目元や口元が父や母に似ていると気付いてしまって胸の苦しさに目を背けたくはならない。


ディノの行ってくれた練り直しの、大きな恩恵の一つでもあった。



そうして、鏡と向き合っていたネアに、音もなく廊下を歩いて来た誰かが後ろから声をかけてくれる。



「何か気掛かりがおありでしょうか?」



少しだけ予感のあったその優しい声に振り返れば、いつもテーブルを担当してくれるザハのおじさま給仕が立っていた。


不思議なことに、なぜか未だにどのような名前で働いているのかすら知らないのだが、いつもの滲むように優しい灰色の瞳に胸がほわりと温かくなり、ネアはお気に入りの給仕に微笑みを返す。




(不思議な人だわ…………)



少し小柄だったような気がしたのだが、こうして見てみると、魔物達よりは肩幅が華奢に見えてしまうものの背はそれなりに高い。


ロマンスグレーな雰囲気におじさま給仕として認識していたが、澄んだ瞳の輝きを正面から見れば、そこに窺える冷静さには、外見と年齢の一致しない人ならざる者達のような奥行きもある。



「…………以前、こちらから雪喰い鳥さんに攫われた時のことを考えてしまっていました。夏至祭の夜に、他の人のものですが少し気掛かりな予言を聞いてしまったようなので、うっかり私の身に降りかかり、あの時のように攫われてしまったりはしないかと…………」

「それはご心配でしょう。差し支えがなければ、どのような予言だったのか教えていただけますか?悪い夢と同じように、心を曇らせる言葉は、害のないところで他人に喋ってしまった方がいいことがありますからね」

「むむ、実は、記憶がほろほろと崩れてしまって、その予言の内容は分からないのです。でも、妙に気にかかってしまい、ここでつい立ち止まってしまいました………。もし、またディノを置き去りにしたらと思うと、胸がぎゅっとなるのです…………」



穏やかな眼差しでネアの言葉を聞いて頷くと、この世界に来たばかりの頃からこのお店で出会っていた灰色の瞳に、少しばかりの悪戯っぽい煌めきが揺れた。



「であれば、良いおまじないを一つお教えしましょう。救い手の得られない困難に見舞われた時には、執着や利用価値はあるものの、無くしても構わないものを一つ落としてみて下さい。そうすると、力になってくれる協力者に出会えるそうですよ」



微笑んでそう言われ、ネアは唇の端を持ち上げる。



「まぁ、なんて素敵なおまじないなのでしょう!それがあれば、安心して生活出来そうです。困難に見舞われた時には、やってみますね」

「ええ、是非試してみて下さい」



優雅に一礼して去って行く後ろ姿を見送り、ネアはそのまま、お手洗いには行かずに満足して席に戻った。



悪巧みをしていたとは言え、大事な魔物を心配させるのは本意ではない。

テーブルで待っていたディノと目が合うと、はっとしてみせて、てへへという雰囲気を意識して苦笑する。



「…………ネア?」


ご主人様の名演技に、水紺色の瞳を瞠って、ディノはこちらを見上げた。

ネアは椅子に座りながら、そんな反応をしてみせた理由を説明する。


それをどう伝えるのかはともかく、ディノが覗き見してしまっているかもしれない行動においての隠し事自体は、出来るだけなくしておきたいのだ。



「廊下の鏡のところで立ち止まってしまい、いつもの優しい給仕さんとお話をしたら、お手洗いに行くのを忘れてしまいました」

「……………浮気?」

「あらあら、違いますよ。行く前に雪喰い鳥さんの話をしたので、あの鏡のところで立ち止まってしまったのです。気付いて声をかけて下さったので少しだけお話して、こうして大急ぎでディノのところに戻ってきたでしょう?」

「急いでしまうような、何か怖いことがあったのかい?」

「あの日、私があやつめに攫われたことで、ディノを怖がらせてしまったことを思い出したら、一刻も早くディノのところに戻って、私の大事な魔物を安心させてあげたくなってしまったようです。うっかり当初の目的を見失ってしまいましたが、ほら、この通り無事に生還しましたよ!」

「……………かわいい」

「む。またしても用法が行方不明に………」



ネアは三つ編みをそっと献上されたのでそれを握ってやり、お会計をしようとしてまたしてもディノが先に支払ってしまったことに小さく唸る。



「むぐる。今回は、私がお支払いの約束だったのです。いつになったら、ディノにザハのケーキを奢ってあげられるのだ!」

「そんなことを気にしなくてもいいのに。………それに、君は今日、賽子にぶつかられてしまって悲しかっただろう?だから今日は、私が君に美味しいケーキを食べて欲しかったんだ」

「…………しかし、ぶつかってきた賽子めは踏み滅ぼしましたし、私がザハにゆきたいと提案したのに、いいのですか?」

「うん。君はここのものを食べていると、とても可愛いからね」

「であれば、その優しさに甘えてしまいますね。しかしながら、次こそは私の奢りのケーキを食べて貰いますよ!」

「………砂糖菓子でもいいかな?」

「……………む。もしかして、砂糖菓子の手持ちが無くなりそうですか?」

「うん………………」



在庫が危ういことを告白してぺそりと項垂れた魔物に、ネアは慌ててすぐに作ってあげると約束してやった。

ネアの手作り砂糖菓子は、最近ではディノ専用の栄養剤のようになっており、とても大事に食べてくれているのが何だか嬉しい。



「では、今日は美味しい林檎のケーキをご馳走してくれたディノに、砂糖菓子を作りますね」

「ご主人様!」



嬉しそうに目元を染めた魔物と一緒に、ネアはザハを出る。

出口まで見守ってくれたおじさま給仕が妙に大荷物だと思ったら、その大荷物の原因な紙袋がすすっと差し出された。




「もし良ければ、これをお持ち下さい」

「…………ほわ」

「先程お召し上がりになった、林檎のケーキです。お二人が喜んで下さっているのを他の給仕が料理長に伝えたようでして、料理長が是非にと」

「まぁ、…………こんなに。いいのですか?」



驚いてネアがそう尋ねると、彼はまた悪戯っぽく微笑んだ。



「これは私なりの推察ですが、うちの料理長は、有名なエーダリア様贔屓ですからね。お持ち帰り後のお裾分け狙いではないでしょうか?」

「まぁ!それは共犯になるしかありませんね」



そう言われたら受け取るしかない。

エーダリアは、徹夜明けに食べるザハの焼き菓子が大好きだし、ちょっと素朴めのお菓子や料理に弱い。


ネアは、そんな風にエーダリアを好きでいてくれることに何だか嬉しくなってしまい、食べるばかりで人としてはよく知らないザハの料理長を、勝手に大好きになってしまった。



「ふふ、ではこの林檎のケーキは、エーダリア様に差し入れさせていただきますね」

「勿論、間違いなどがないように調べていただいて結構です。そのようなお気遣いをさせてしまうことを承知で、大事な常連様にお手数をおかけしてしまいますが………」



淡く微笑んでそう詫びてくれた灰色の目の給仕にお礼を言い、ネア達はザハを出た。



その日の夜、ヒルドとノアの厳しい異物混入チェックを経て無事にエーダリアに献上された林檎のケーキであったが、すっかり気に入ってしまったエーダリアの隣で、深刻な中毒症状を発症したのは銀狐であった。



あまりの美味しさに尻尾を振り回して部屋中を弾み回っていたので、それからはリーエンベルクの住人達は、度々ザハの林檎のケーキをお土産に買って帰ることとなる。



エーダリアにとっても大好物になったのだが、銀狐がお裾分けを貰うためには手段を選ばないので、丸々一個を食べたことはまだないらしい。








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