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夜の雨と静かな海




ざぶんと波音が聞こえる。

夜になると、その海には柔らかな霧雨が降った。

星空が見えない代わりに海の奥が淡く光り、海面を揺らす優しい雨にエメラルドグリーンの煌めきを波打たせる。



ネアは夢中でそんな光景を眺めては、ディノやアルテアにあれこれと、その美しさを報告した。

ざらりとした温かな質感の床石は、裸足で触れても冷たくはならない。

仄かなぬくもりを感じると、陽光に暖められた砂浜の砂を思った。



「何という攻撃でしょう!私は本来森派で、夏よりは冬の、それもウィームの雪景色が好きなのです。それなのに、この海のお家はとっても素敵です。…………おのれ、なぜにモナは開発されてしまったのだ…………」

「ネアが海に浮気する………」

「お前のその言い方だと、あの土地を滅ぼしかねないな………」

「………ほわ!見て下さい。雨が落ちたところだけ、海が淡い水色に光るのです…………むふう…………」



ご機嫌なネアを見て、魔物達は顔を見合わせる。

隣に座ったディノにそっと覗き込まれ、夜の海を夢中で見ていたネアは顔を上げた。



「ネア、…………ここはあわいだし、迷い家だからね。あまり魅せられ過ぎないようにね」

「……………海が、きらきらなのです」

「うん。また今度、あの第一王子の島を借りようか。一晩そこで過ごしてみるかい?」

「く、曇りの日に行ってみたいです。一緒に行ってくれますか?」

「では、その日はヨシュアにも手伝わせよう」

「なんて楽しみなんでしょう!ディノ、絶対ですよ?」

「………………かわいい。ずるい」



すっかり素敵な海のお家にはまってしまい、魔物の手を握ってびょいんと弾んだ人間のせいで、真珠色の髪をした魔物は儚く倒れてしまった。

ネアは死んでしまった魔物を見下ろし、果たして約束を覚えておいてくれるだろうかと眉を寄せて悲しい顔をアルテアに向ける。



「…………何だ」

「アルテアさんが証人です。今の会話を覚えていて下さいね」

「構わないが、俺に得るものはあるんだろうな?」

「ちびふわをたくさん撫でますね」

「それだと、お前の利益しかないな」

「あら、アルテアさんなちびふわは、私に耳の下とお尻を撫でられるのが大好きで、わしわしすると、よろよろふわふわしながら大歓喜です」

「やめろ」



顔を顰めてそう言ったアルテアは、ふっと視線を下ろした。

ネアが、そのパジャマの袖をくいっと掴み、くいくいっと引っ張ったのだ。


淡く儚く輝く海の色に、この部屋の中にはえもいわれぬ静謐さが満ちる。




「…………アルテアさん、イブさんの魂を持つ方は、見付かるでしょうか」

「海竜の絶滅となれば一大事だ。見付けるしかないが、まぁどうにかなるだろ。………何だ、気になるのか?」

「…………その方が見付かったら、会ってみたいのです」



ネアがそう言えば、アルテアはどこか冷ややかな目をした。

久し振りに見る眼差しに、ネアは目を瞠る。

仄暗い蝋燭の光で過ごす海辺の家で、その赤紫色の瞳は猫の瞳のように光って見えた。



「どうしてだ?」

「……………どうしてと問われると難しいのですが、イブさんがとても素敵な人だったからでしょうか。その魂を持つ方がいるのなら、どんな方なのか気になってしまいます」

「…………ほお」


相変わらずアルテアの眼差しは鋭く、声も低い。

そちらを見て首を傾げたネアにすっと目を細めて剣呑な眼差しになると、おもむろに手を伸ばしてネアの髪を一筋掴んだ。



(こうして向き合うのは久し振りだ…………)



「…………調子に乗って余分を増やすなよ?お前が考えなしに削るのは、本来魔物が許さない領域だ。余計な動きを取れないような状態にされたいのでなければ、自分の言動には責任を持て」



静かな声でそう言う魔物の瞳を覗き込む。

それは尤もなことだし、魔物であればそう言うだろう。

けれどもネアにも、譲れない一線というものはあるのだ。



「アルテアさん、私は強欲な人間です。あなたにあなたであることを捨てろと言わないのは、私自身が私を捨てるつもりがないからなので、今、私に向けられた言葉の全てを飲み込むことは出来ません」

「俺がその言葉一つで、であれば仕方ないと頷くとでも?」



艶やかに暗く微笑んでそう問われ、ネアはそっと首を振った。

窓の外にはまだ、美しい夜の海が揺れている。



「それでもと、私も譲れないこともあるのです。私は愚かな生き物ですが、困ったことに自分のことはさして嫌いではないのですから」



そこで、ふわりと誰かが頬に触れる。

おやっと思って振り返ると、どこか憂鬱そうに瞳を曇らせた魔物がこちらを見ていた。

はらりと落ちた真珠色の髪は、光を孕むようにこんな薄闇でもきらきらと光る。



「ディノ、無事に生き返ったのですね」

「……………君はとてもイブが気に入ってしまったのだね」


ディノまで悲しげにそう言うので、ネアはおやおやと唇の端を持ち上げる。

こちらを見下ろすディノの瞳にも、魔物らしい微かな白銀色の光彩が際立つ。

こうして瞳の表情で心内を映してしまう、何とも愛おしく美しい生き物ではないか。



「…………そうですね、確かにあの方の生き方はとても素敵です。得たものはかつて私が欲しかったものに似ていますし、とても穏やかにからりと笑う魅力的な方でした」

「…………君は竜がとても好きだしね」

「ええ。とは言え、それはあくまでもイブさんのことなので、きっと同じ魂を持った方はもう違う人なのでしょう」

「それでも、…………気になってしまうのかな?」

「かもしれません。同じ魂の別の方でも、イブさんのような方かも知れないではないですか。そうなると、またディノがお友達になれる方かもしれませんよ?」

「私が…………かい?」



目を瞠ってそう呟いた魔物に、ネアはやれやれと思いながら、その三つ編みをにぎにぎしてやった。



「あの方は、ディノのことをちょっと親しめにシルハーンと呼んでいました。………お友達だったのではありませんか?」


その質問は予想外だったのか、ディノは驚いたような顔をした。

隣にいるアルテアも、眉を顰めて困惑の眼差しになる。


「……………どうなのだろう。……けれど、会わなくなってしまったよ」

「ふむ。それは、あの方の中身が入れ替わってしまったからですね。そうなるまでは、きっとディノはあの方を気に入っていたのではないのかなと思うのです」

「……………気に入ってはいたと思うよ。………それが、関係あることなのかい?」

「はい。せっかく同じ魂の方を探すのですから、であれば似た雰囲気の方や、同じような考え方をする方なのか知りたいのです。イブさんのような方であれば、ディノはまたお友達になれるかもしれませんよ?」

「…………私が?」

「ええ。しかしながら勿論、それは私の野望なので、私が責任をもってその前にお友達査定をします!ディノを虐めたりする悪い奴なら、きゅっとやって、人知れずどこかに捨てておきますね」



そう言われてもまだ困惑したように首を傾げているディノに、ネアは微笑みを深めた。



「君の野望…………?」

「まったくもう、困った魔物さん達ですね。ディノは、あの方と会ったときどれだけ懐かしそうな目をしたのか、あの方が望むように死ねたと話した時にどれだけ優しい目をしたのか、自分では気付いていないのですね?」

「ネア…………」


驚いたように目を丸くした魔物に、ネアは困った魔物めという微笑みを浮かべる。

ネアはあの時、久し振りにディノのそんな眼差しを見て、いっそうにイブが好きになったのだ。

入れ替わりに気付けなくて疎遠になってしまったのは残念だが、ネアはまた一つ、大事な魔物の心を動かした綺麗なものを見付けられたようで嬉しかった。




「そしてアルテアさんもなのです。このお家を堪能し尽くさんばかりのお気に入りぶりで、やはり、イブさんのことを話す時には、懐かしそうに目をきらりとさせます。…………私と違って、魔物さんは長く生きるものですから、こういう縁でお会い出来る方が、またイブさんのような魅力的な方なら素敵ではないですか」

「……………あのなぁ…」



ネアはここで、自分の作戦を披露した。

ただし、それは自分の為の自分勝手な作戦なので、あくまでもフィクションだと理解していることを念押ししておく。



「作戦はこうです。その方を見付けたら、お友達査定をした後に、私がまず強引に捕獲し、ささっと二人を紹介しますね。これはリズモ狩りに着想を得た戦法で、混乱及び恐怖でいっぱいの間に素敵なものを見せてしまえば、きっと飛び付くと思うのです!」

「……………お前の段階での心象は、混乱と恐怖でいいのか」

「……………む?私は引き継ぎ担当なので、別にいいのですが………」

「……………取り敢えず、その戦法はやめろ」



うんざりとしたようにそう呟き、アルテアは掴んでいたネアの髪の毛をはらりと離した。



(もしかして、私がイブさんの生まれ変わりの方を捕まえようとしていると思ったのかな?)



ネアは、なんと狭量で何と我儘な魔物だろうと思い、そんな魔物達と生きてゆく人間の我が儘さもおかしなものだなと心の中でくすりと笑う。


勿論、そんな生まれ変わりの誰かが素敵な人だといいなと思うのは、ネア自身の欲求だ。

けれども、ネアはただ素敵な人の魂の欠片に出会っただけのほぼ他人でしかなく、実際にイブという男性をよく知っていたのは、ディノやアルテアの方ではないか。


そんなイブを自分事にしきれるほど、ネアは図々しくはない。

他の領域なら吝かではないが、人付き合いとなると、ずずいっと踏み込むのはいささか不得手なのである。



とは言え、綺麗事では済まない部分のことも、こんな夜だからきちんと話しておこう。



(私が、イブさんを魅力的だと思ったのは確かだから、そこの部分と、今の魂の持ち主の方に会いたいと言った部分が、混ざって伝わってしまったのだと思うし…………)



「私は、イブさんを魅力的な方だなと思いましたが、それはやはり、イブさんご自身、あのように生まれてあのように生き、かつて私が望んだような穏やかな暮らしを我が儘に堪能した方の魅力なのだと思います。誤解を恐れずに正直に言えば、私はあの方が得た成果も含め、あの方に興味を持ちました」



海に降る霧雨は少し弱まり、エメラルドグリーンの海は穏やかに波打ち砂浜の淵で揺れている。


穏やかな夜だ。

穏やかで優しく、この優しさに甘えて、少しばかりみっともない本音を話してもいいような気になってしまう。



「成果…………、なのかい?」

「そうあけすけに言ってしまうと、私はとても残酷な人間のようですが、きっとあの方が竜の王様のままでいたら、そんなイブさんを見ても私はあまり惹かれなかったように思うのです…………」

「だから、…………彼の魂を持つ者は、君自身の興味を惹く者ではないのかな?」

「同じように望まないところに生まれ、それを放り出してこんな素敵なお家を持っている、イブさんのような穏やかでからりとした物腰の方である可能性もなくはないので断言は出来ません。………でも、そのような方が出現しない限りは、あの方が王様だった頃からお友達だった、ディノやアルテアさんがまた仲良しになれるような方だといいなぁという野望を持ち、単純な人間はわくわくしてしまうばかりなのです。………だって、今回のあわいの列車は、恩寵を与えてくれるものなのでしょう?」



ネアが手をわきわきさせてそうほくそ笑むと、魔物達は不審そうに顔を見合わせた。

片手で頭をがしがしと掻き、アルテアが呆れたように呟く。



「イブから託されたものを、お前の恩寵とは取らないのか?」

「私にとってのものかと言えばそうでもなく、寧ろあれは、イブさんからのご依頼という区分なのかなと」

「…………それに、友人作りをお前に心配される必要はない」

「けれど、恐らくその方は、ディノか、アルテアさんが関わるようになる方な気がします。こうしてイブさんの魂の欠片を預かり、触れてしまったのですから、この問題はどなたか他の方に託されても、決して無縁には出来ないように思うのです。………特に、アルテアさんは事故り易いですしね!」

「…………お前に言われたくはないな」

「であれば、せめてお友達になれるような方で、ここでこうしてイブさんとお会い出来たことが、何かの形で心に残るものだと良いですね。もうなくなってしまったものというだけではなく、この先にも続く良いものがあったのならば、それは素敵な恩寵だと思うのです」



高位の人外者の寿命はとても長い。

それは多分、恩恵というだけではなく、その長い道のりで失ってゆくものの多さなのだとも思う。

であれば、途切れたものが違う形であれどこかで繋がり、また新しい芽吹きがあればそこは豊かな森になるだろう。



「こう見えても私だって、ディノやアルテアさんが、度々エーダリア様達と密談して、海竜さんの問題で議論を重ねているのを知っているのですよ?皆さんがどうしたものかなと思って頭を悩ませている海竜さんの問題ですが、少しでも良いものがそこに眠っているといいなぁと、私なりの野望を抱くのです」

「そうか。……………君は、イブを気に入ったからこそ、彼の魂の持ち主に期待をしたのだね」



ネアは魔物達のように上手い言葉で説明出来なかったが、それでもディノは理解してくれたようだ。

ひたりと眼差しを伏せて考えるディノの姿は、男性的でどこか硬質な美貌である。

ネアは、自分の抱いた野望が上手く伝わったかなと、そんな魔物を覗き込んだ。



「ええ。なので、これは所詮私の為の野望なのでした。……イブさんの魂を持つどなたかは、私があれこれ素敵な想像をして期待をしやすい位置づけの方なのです。………ディノは、生まれ変わった方は新しくなり、自由であるべきだと思うのに、ここで強欲な人間が、またあんな風に気持ちのいい心を持った方になっていてくれますようにと願ってしまうことに呆れてしまいますか?」

「…………どう考えればいいのかな。………そうだね、確かに君の言うように、関わらざるを得ないのであれば、問題のない人物であればとは思うよ。けれども、イブの魂を持つ見知らぬ者には、そこまでの興味はないかな。…………でも、そうであれと願うのは、あくまでも君の野望なのだよね?」

「はい!それは私の心の野望なので、敢えて言うようなこともありませんでした。………でも、魔物さんはとても鋭いので、私がその方に何某かの期待をかけているのを察してしまうのでしょうね。そこで誤解を深めたままでいると、ディノがしょんぼりしそうですし、アルテアさんも森に帰ってしまうかもしれません。…………そう考えたので、身勝手な人間の本音をお話しする覚悟を決め、私が企んでいる野望についてお話したのです」



ざざんと、波が鳴り、なぜか魔物達はふーっと深い息を吐いた。



「ネア、もしもイブがまだ生きていたら、君はどうしただろう?」

「…………む。イブさんがまだご存命なら、ディノと仲良しに戻って欲しかったです。その上で私もお友達になれるのなら、この気持ちのいい家にみんなで遊びに押しかけたり、仲良し度合によっては、ディノと一緒に釣りを教えて貰うのです」

「……………一緒に、釣りをするのかい?」

「うむ。あの素敵な小舟で釣りをしたら、きっと素敵でしょうね。でも、実際には私はイブさんをほとんど知らないので、ただの憧れのお話に過ぎません」

「……………そうだね。でも君は、やはり彼のことはとても気に入ったみたいだ。彼の魂を継ぐ者が、彼のような人物ではないといいのだけれど…………」

「なぬ。なぜなのだ。素敵な人の方がいいのでは?」

「君が浮気するといけないからね……………」

「根深い問題が再発しました………………」



ネアはここで、アルテアをぐいっと引っ張ると、もしゃもしゃと耳打ちをする。



“あの方は穏やかでからりとしていたので、ディノの特殊な嗜好の相談をするのに、うってつけの相談役になると思ったのです”


そう伝えてネアが体を離すと、アルテアはなぜか耳を押さえどこか恨みがましい眼差しで暫く固まっていたが、小さく溜め息を吐いて、ディノに向き直った。



「安心しろ。こいつは、自分の婚約者の趣味についての相談をする相手として、イブを見込んだだけだ」

「むぎゃ!あっさり告げ口しましたね!!」

「…………相談をするのかい?」

「むぐぅ。……………ご褒美の頻度や紐の応用についての対策などについて、怯えずに相談に乗ってくれそうな人材かなと思いました。アルテアさんはご存知の通り私を冷やかしますし、ノアはディノが大好き過ぎますし、ウィリアムさんは若干ご自身の主観が強いのです。綺麗に第三者の立場になって相談に乗ってくれる、人生経験が豊富で、からりとした包容力のある大人を急募なのです!!」

「ネア、……………何か、私とのことでそんなに困っているのかい?」



魔物はすっかりしょげてしまい、悲しそうにそう尋ねてくる。

なのでネアは、暗い目を足元の布紐に向けた。

この状況下で何が問題なのか分らないとなると、それも大問題ではないか。



「……………私の魔物は、こうして手を繋げる距離にいるときにもご主人様を布紐で縛ります」

「ご主人様……………」

「それで事故らないなら上々だな」

「こうしてお隣にいるのに、なぜ紐なのだ!手を繋げばいいではないですか!」

「ネアが大胆過ぎる……………」

「………………私は今、この難しい問題に対する打開策を求めてやみません」



ネアはその後も、布紐運用についてあれこれ建設的な意見を述べたのだが、どれ一つとして採用されぬまま、惨敗することになった。


そもそも、ディノは紐で縛られるのがとても素敵なことだと思っているので、ネアの訴えが通る筈もないのだが、せめてアルテアからは一般的な目線での意見が欲しかったところだ。

最近はちびちびふわふわ率が高くなっているので、すっかりリードに近しい民としての目線になってしまったのかもしれない。



(…………でも、イブさんがいても、竜さんだからリードは喜んでしまったかも?)



ネアはふと、そんなところに気付いて戦慄した。


なぜだかイブは、ドリーに次ぐ、竜なのに竜っぽくない枠の人物であった為、そんなことをすっかり失念していたのだが、魂だけになって竜の肉体からは開放されたとしても、価値観には竜のそれがある可能性が高い。

となると、ベージのあの爽やかな言葉も、竜だからこその価値観故のものだったのかもしれない。



(紐で縛るのが一般的じゃないと感じられる人に出会いたい…………)



ネアはその後、すっかり孤立無援な思いで悲しく過ごしていたが、後日、思いがけないところで味方を見付けた。



ある日、ご主人様が事故らないようにと布紐を持った魔物に迫られていると、若干引いた顔のエーダリアが、それはやめるようにと言ってくれたのである。


それ以降ネアは、布紐で縛られそうになるとエーダリアのところに逃げ込むようになった。

エーダリアに賛同する形で、ヒルドやノアも、婚約者を布紐で繋いでおくのはどうかなという姿勢を見せ、結果、仲間外れにされた魔物がしょんぼりして布紐を仕舞うようになったので、その問題での相談役は不要になったのだった。




ざざんと、波が揺れる。



ネアは、いつか自分がいなくなった後で、こんなお家で余生を過ごしたイブのように暮らすディノを想像してみたが、ほんわかするかなと思ったところ逆にとても胸が苦しくなったので、その夜は魔物を抱き締めて眠った。


刺激が強過ぎたのか途中でディノがくしゃくしゃになってしまい、夜中に一時間くらいアルテアにバトンタッチされたのが、ちょっと繊細な気持ちでいたご主人様としては、たいへんに遺憾である。






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