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工房中毒と妖精の見立て




アルビクロムの魔術師の屋敷の探索の後、ネアは少しだけ体調を崩した。

紙吹雪の魔物が舞い飛んだ部屋の遮蔽が、百年程開けられていなかったことに由来する。


即ち、掃除のなされていない部屋の魔術粉塵などが舞い上がり、工房中毒と呼ばれる病気にかかって、発熱と喉の痛みなどの症状を発症したのだ。




「まったく、大騒ぎし過ぎだよ。大したことはないんだから。…………知らない?魔術師の工房ではよくあることなんだよ。なぜか人間だけに出る症状だね」



そう教えてやったのに、契約の魔物はすっかり慌ててしまい、ネアを抱き上げたりあやしたりしている。

喉を乾燥させないようにして、特殊な薬草スープを飲めば一晩で治ると言ったのに、まるで死に至る病を得たようにおろおろとしていた。



(知ってる………のはまぁ、アルテアくらいか……)



幸いにも、一番荒れそうなディノは、この病について知らなかったようだ。

人間にしか発症しないものであるし、あまり情報が残らない病なので耳にする機会がなかったのだろう。

派手な症状が出る訳ではなく、喉の痛みで食が細くなったり、発熱でふらつくくらいだ。



そして、大抵の場合は翌月くらいにころりと死んでしまう。

地味な病なのだ。




「ディノ、喉がいがいがするだけなので、ダリルさんの言うように薬草のスープを飲んで一晩ゆっくり寝ますね。ただし、その前にグラタンを…」

「……………治ってからにしろ」

「むぐ?!グラタンの約束は、決して反故にしてはならない魂の約束です!グラタンなくして、………ごほっ、」

「ほら見ろ、そんな状態で暴れるな。今晩からは一晩用事があるからな。戻ったら作ってやる」

「…………むぎゅう。お口の中が、もはやグラタンな気分なのに、とてもいがいがぜいぜいするのでふ…………」

「ネア、可哀想に。苦しくないかい?すぐに部屋に帰って横になろうね」



スープの作り方はアルテアに伝えると言ったので、ディノはすぐにネアを抱えてリーエンベルクに帰って行った。


ちらりと横を見ると、アルテアの表情は若干青ざめている。

この魔物がこの調子では、ヒルドやあの馬鹿王子も大騒ぎだろう。

無駄を省く為にもその前にと、リーエンベルクに一報を入れ、情報を規制しておく。

横で声を聞けばアルテアへの説明の手間も省けるので一石二鳥だ。



幸いにも、エーダリアはすぐに通信に応じた。



「………ダリルか。どうした?」


こうして連絡をすることは稀なので、エーダリアはすぐに異変を感じ取ったらしい。

無駄な労いやご機嫌伺いなどを省き、すぐに要件に触れる。

よい反応だが、これはエーダリアがそう対処出来るようにと、仕込んだものであった。


急ぎの通信というものは、最初の一言やかけられた状況から内容の予測が立てられる。

三秒しかないかもしれないその時間を、無駄なお喋りで失うという愚かな事例は、受ける側が特に発言権を握りがちな上長であればある程、決して珍しい話ではない。




「ネアちゃんがね、変質した辻毒と粉塵を吸い込んだみたいだ。典型的な工房中毒の症状が出ている」

「………っ?!工房中毒になったのか?!」



通信の向こうで、エーダリアの声がひび割れたからか、隣に立つアルテアが体を揺らすのが分かった。

先程、すんなりネア達を帰らせたのは、ネアの症状が工房中毒だという確証がなかったからであったらしい。


工房中毒は、今はもう治療法が確立されたが、数年前までは魔術師の職業病であり、不治の病であった。

けれどもそれは、治療法が確立されるほんの数年前までのことなのだ。



そして、その治療法はとても限定的で外部には出回っていない。




「今はもう一晩で治る病気だろうが。取り乱すんじゃないよ。あんたが取り乱せば、ディノまで動揺するだろう。あの魔物は、うちの国でだけ成功した、工房中毒の治療法の確立の経緯までなんて知らないだろうからね」



そう言えば、エーダリアはすぐに通信の理由を飲み込んだようだ。



「そうか、では、こちらでディノが動揺しないように言葉を選んで説明しよう」

「ああ。そうしな。ヒルドも念の為に用心した方がいいね。あいつも、どこでトチ狂うか分かったもんじゃない。………まずは、あんたが契約した魔物にでも協力を頼むといい」

「………ああ。そうだな。…………確か、先程までボールを追いかけてその辺りに潜り込んでいたが…………。ダリル、一報を入れてくれて助かった。早急に対処しよう」



またしても塩の魔物が銀狐などになってボール遊びに興じてたという残念な報告を聞き、ダリルは通信を切った。


静かに隣の魔物の方を見れば、ひやりとするくらいに鮮やかな赤紫色の瞳を、ひたと真っ直ぐにこちらに向けるアルテアがいる。




(…………よくも、こんな魔物を捕まえたもんだ)




ふと、そんなことを考えた。


ダリルは、こんな魔物をあの少女が捕まえてしまったことについては、密かに驚嘆していた。


ある程度の助力、ある程度の執着や愛着などはあるだろうと思っていたが、それはこの魔物のご愛用の立ち寄り場所のようなものであって、こんな凄艶な目をする男が、まさか自分をそこに鎖で繋ぎ、それを外すための鍵を自ら捨ててしまうとは思ってもいなかったのだ。


隷属と寵愛は違う。

与えられたのは気紛れな寵などではなく、膝を折り差し出された、この魔物の屈服だった。



あの少女は、その出来事がそこまでとんでもない行為だとは知らないままだろう。


けれども、選択の魔物が己を捧げたのだから、それは言葉のまま、この魔物が自分の体や心を彼女に差し出したということなのだ。

ある種、ディノやウィリアムなどよりも遥かに難しいであろうそのたった一つの選択肢を選び抜き、ネアは選択を司る者を手に入れてみせた。


ダリルが考えうる限り、この世でもっとも捉え難い魔物の一人であったろう、アルテアを。



(…………でもまぁ、アルテアを捕まえられたから他の魔物も行けるだろうって思っても、そうはいかないだろう。単純に相性なんだろうけどねぇ……………)



例えばそれは、アルテアとよく似た嗜好を持つアイザックが、ネアにはまるで食指を動かさなかったように。

或いは、女好きのバンルや、実はそれなりに恋多き男であるアーヘムが、まるであの少女をその恋の対象として意識しないように。

彼女に目を止めない相手にとっては、ネアという人間はまるで透明な存在のように可もなく不可もなくすり抜けてゆく。

また、夏や春の系譜の者達の中には、露骨に好まないと評価する者も多いらしい。



第一王子やその契約の竜のように、すぐそこにいるウォルターやガヴィレークのように、ネアの齎す成果や言動から彼女という人間を評価しても、女として、或いはかけがえのない友人としての魅力を覚え、手放せなくなる程ではないという者もいる。


ダリル本人もそのようなものだ。

この上なく愉快な人間であり、好ましい同僚だが、例えば二人で食事に行きたいだとか、親しく会いに行きたいというような気持ちにはならない。

そのような興味を惹くのは、同じように愉快に思う他の者達の方なのだ。



(あの子は、捻くれて拗れて、どこかでぞっとする程に孤独な者達を引き寄せる。でも、アルテアはやはり、その中では異質だね…………)



それは、本来なら彼女の狩場では、捕まえられる筈のなかった者。

だからこそダリルは、この魔物がこれ程までに彼女を望んだことにとても驚いていた。

こうしてその瞳を覗き込み、魔物らしいしたたかさと狡猾さ、淫奔さや残忍さなどを知れば知る程、奇妙なものだと考えざるを得ない。




こんな魔物が、あの少女の容態を、血の気がひく程に案じているだなんて。




「…………その治療法とやらは、すぐに効くんだろうな?」

「簡単に効くよ。その治療法が確立されるまでに時間がかかったのは、その他の呪いの解術のように、治療に必要な条件が厄介だったからだ。………症状が症状だから、それまでは治癒や調薬を専門とする魔術師や、その種の祝福に向いた魔物や妖精ばかりを頼っていたのだけれど、それがまずかったんだよ」

「工房中毒は、………俺の知る限りまだ不治の病のままだと思っていたが?」



慎重な問いかけにダリルは微笑んだ。

神妙な顔をして安心させてやるより、この方がアルテアは納得するだろう。



ところで、彼のように知識の幅が広く、多くを知り得た魔物が工房中毒の治療法について知らなかったことには理由がある。

治療法が見付かったことが、とある事情から秘密にされているのだ。



「ガレンは、その病を治癒出来ることを公表していないからね。なかなかに厄介な国際情勢を踏まえて、治癒方法を知っている魔術師も厳しく限定されてるんだよ。魔術師の職業病である工房中毒は、他国からすりゃ、妬ましい魔術大国を苦しめる、古くからある愉快な病の一つだ。そういうものを克服したと大々的に知らせると、思いがけないところで羨望の箍が外れることもある。こいつはね、この国の持つ秘密の一つなんだよ」



元々、工房中毒は人間だけが発症する病であるので、人間達はそれを魔術というものに手を伸ばす代償として甘んじて受けて来た。


その中でも特に、ヴェルクレア………と言うよりウィームは、工房中毒患者を多く出してきた土地だ。

高階位の魔術師が多い国を妬ましく思っても、そんな魔術師達が不治の病にかかる危険をも負うのだと思えば、魔術師を多く輩出出来ない小国の溜飲が下がることもあるだろう。

些細なことだが、そんな事で取れる均衡があれば活用しない手はない。



魔術師という職業は、高い社会的地位や報酬を得られる反面、どこか只人とは違う存在として、或いは魔術汚染などの危険からも倦厭され易く、妬みも買いやすい、非常に難儀な役割である。

この治療法を秘匿すると決めた誰もが声高には言わないが、国内でもその情報が公にされていないのは、国の中にもくすぶる差別や偏見などを警戒したのだろう。

この国は、元はと言えばまるで違う四国が統一されたものであり、風土や気風が違うからこその配慮が色々と必要となる。



それに、有り体に言えば、他国の脅威となる魔術師が工房中毒で死ぬ分には、この国は全く構わないのだった。




「…………で、どう作る?」

「その薬草スープを作り与える者は、患者を愛し、守護や誓いを与えた者でなければならないのさ。どうだい?簡単なことだろう?………勿論、そんな条件を満たせずに死んでゆく者もいるだろうけどね」



解術の条件を教えてやると、アルテアは浅くではあるが息を吐いた。

そんな馬鹿馬鹿しい条件かと笑いそうなこの魔物であるのに、彼は今、それであれば大丈夫だと安堵したのだ。



(まったく、…………おかしなことだね)




そうして寄せる心は、誰にも予測し得ないものなのだろう。



例えばそれは、ダリルが、まったく好みの気質の人間ではなかった筈のエーダリアを、彼が生きている限りは命がある限り守り続けると決めたように。



弄ぶつもりで近付いたくせに、なぜだか分からないが愛おしくなり、なぜだか手放せずにいたまま、自分でもよく分からぬままに、この魂をくれてやった者がいる。

それはとても奇妙なことでもあった。



アルテアが新しく取り決めた契約の内容を知った時、ダリルは驚愕と共に、心の何処かでああお前もなのかという不思議な感慨を覚えたものだ。


目の前にいる男は、かつてのダリルと同じ覚悟を決めたらしい。

或いは、そこに男としての執着が絡むのであれば、より深くより愚かな選択をしたのかもしれない。



そして今のところ、この平静な振る舞いとは裏腹に、まったく余裕がないようだ。



「使う薬草は?」

「単純な災い除けの薬草ばかりだね。雪解け水に、夜の雫か黎明の霧の雫、ローズマリーにニワトコの花、雪苔か春告げ草、祝福を受けた塩に、魔物の涙だ。味もさほど酷くはならないし、煮込むだけで構わないよ」

「…………魔物の涙は一般的な災い除けのスープにはないだろ。大抵は、花の精か竜の涙だ」

「これに使うのは魔物の涙なんだよ。どれだけ下位のものでも効果は大差ないから、大抵は市販品にある植物の系譜のものを使うね」



血や涙は魔術的に人手に渡ると厄介なものではあるが、食用にされる生き物達のものや、その血や涙にそこまでの重きを置かないくらいに、祝福を多用してしまう系譜の者達のものは、市販品としても手に入る。


消毒鎮静効果もある魔物の涙を工房中毒の解毒に使うのは、その症状を引き起こしている呪いを確実に殺す為にであった。




「せっかくだし、ネアちゃんに貰った鍋で作ってやれば?」

「さてな。……………それと、今夜は例の海溝のシーのところへ顔を出す必要がある。あいつが回復次第ウィームを離れるつもりだが、それを飲ませるだけで大丈夫なんだろうな?」

「疑い深い男だねぇ。熱が引くからすぐに分かるよ。………それにしても、海溝のシーが答えを持っているかどうかすら分からないままだが、それで構わないのかい?恐らく他の小国の守護者達も押しかけるだろう。アルテアなら他の奴等を出し抜けるのは間違いないとしても、あの頑固な妖精が口を割るとは限らないよ」



海溝のシーは、まだ年若いが頑固な妖精だ。

青い瞳を持つ美しい女で、妖精であれど精霊に気質が近い。

今回、アクス商会から持ち込まれた厄介な情報によって判明した、今年の夏に開催される催しの情報をそのシーが握っている可能性が高く、アルテアはそんな海溝のシーとは顔見知りであるようだ。



(表情を見る限り、まぁ、男女のそれだわな……)



であれば優勢だと言うことはないだろう。

万が一にでもその別れに不満があれば、シーの女は愛した男に呪いをかけられるのだから。



であれば、そんな海溝のシーと再会することで不利益が生じる可能性もある。

だからあえて、ダリルはそこにまでは触れず、問題がないのかと問いかけるのだ。



「五分五分だな。………千年に一度の海竜の戦が、よりにもよって今年なのが痛いな。…………せめて来年であれば、まだマシだったが。ったく、この国も俺も、この上ない面倒に巻き込まれたもんだ」



(来年、ね…………)



そんな言葉選びで、アルテアが何を懸念しているのかが分かってしまう。

この魔物の周囲で来年になれば大きく状況が変わるものといえば、ネアが正式にディノの伴侶になるかどうかということぐらいだ。


この魔物は、その千年に一度の戦に、ネアが巻き込まれるのではと考えたのだろう。



「案外、ネアちゃんを放り込めば、一瞬で片がつくかもよ?」

「やめろ、縁起でもない」

「………冗談はさて置き、今回も一週間前程で片がつくものなら、ヴェルクレアから出るのはウォルターになるだろうね。いつの海竜の戦も、必ず二人の内の一人はその国の人間であることが条件にされる。開催理由の性質上それは変わらないだろうし、あの殺し合いを切り抜けるには、海の加護を受け、海の試練に耐えられる者である必要がある」

「お前のお気に入りを海に捧げることに、不満はないのか?」

「あると思うかい?ウォルターとガヴィレークなら、他の国々がどんな精鋭を送り込もうと、それに劣ることはない。負ける予定もないのに不満を持つ訳がないのさ」

「……………ならいいが」

「とは言え、参加資格の情報がないとこちらも動くに動けないからね。………過去の記録によれば、まずは参加する為に、一定の条件を満たして参加を表明する必要がある」



それを知る為にこの統括の魔物は、海の底に住む海溝のシーに会いに行くのだ。



海竜の戦は、いつも海の眷属の誰かを通してその開催を陸に伝えられる、古から続く魔術儀式のようなものだ。


滅びる海竜の王への餞けとして、指定された海域に面した国々で代表者を送り込み、海竜の秘宝を巡り戦う。

指定された国の者であっても、参加資格がなければ参加出来ず、参加するかどうかは自由だ。


とは言え、海竜の戦が行われるのは、海竜の王が代替わりする時に限られているので、新代の海竜達に名前を売り、守護を得られる数少ない機会である。

参加を見送るのは賢明ではないとされる、千年に一度の慶事なのだった。



本来は国として対応するべき事業だが、それについてはアクスから内々に処理出来ないかと打診があった。

アイザックの考えでは、この海竜の戦に挑む者を国主導で選定させた場合、都合の悪い者が代表に選ばれる可能性が高いと踏んだのだろう。



(そこまでご大層なもんじゃないのに、海を力とするヴェルリアの連中は、国家の存亡を賭けた儀式だと騒ぎ立てかねない。………そうなると、英雄に仕立てるという意味も兼ねてあの第一王子あたりを選ぶか、犠牲にする覚悟で魔術の扱いに長けたエーダリアを差し出す可能性も確かにありそうだね………)



なので、そんなアイザックの打診を受け、今回の問題はウィームと第一王子派の間だけで極秘裏に進められることとなった。

他国からこの海竜の戦が開催されるという情報が入らぬよう、情報の統制と工作はアクス商会が請け負うそうだ。


ヴェンツェルかエーダリアのどちらか、或いはどちらもが、アクスにとっても失いたくない人間であるらしい。




「…………念の為に聞くが、ヴェルクレアから参加者が出なかった場合、損失はどれくらいになると考えている?俺の試算とお前の試算は、恐らく違うだろう」



そう尋ねたアルテアは、統括の魔物としての目線で参加そのものが必要なのかどうかを問いかける。

海竜の戦は、敗れた参加者は殺されるので、参加しないという選択も許されている。



「海軍の軍予算の一年分程度だろう。逃したと知れりゃ、取り戻せる程度だね。けれど、それだけの富と祝福を近隣海域の小国に手にされても厄介だと思うよ。アルテアは?」

「俺が握っている情報を加味すると、そこに更に半年分の加算となるな」

「なんだい。その情報とやらがあるなら、私に尋ねなくても良かっただろう」

「元の想定が俺だと正確じゃないからな。俺が想定出来るのは、追加になる部分だけだ」

「…………へぇ。アルテアは慎重だねぇ」



こういう時、ダリルはこの魔物をとても評価する。


彼とて試算くらい出来ただろうが、彼は外様の自分の計算を当てにはしない。

もし彼がこの計算式の答えを求められたなら、今回のように内情を知り正確な答えを出せる者の意見を聞き、その上で自分の計算と合わせて答えを求めるだろう。


己を知るという初歩的な感覚であるが、長命高位な生き物がそれを続けられることはあまりない。

過信するに至るだけの力と叡智を持ち、それでもこの感覚を維持しているのは、この魔物が商売にも手を出しているからなのだろうか。


「海の覇権を握る竜が変わると、場合によっては海の内外の勢力図も塗り替えられる。大きな入れ替えが起こるとかなり荒れるぞ。…………まぁ、どちらにしても、回避を選択出来る最低の線引きは超える以上、この国からも誰かが出るしかない規模なのは確定したな。………やれやれ、前回同様にまた北側の海でやればいいだろうに………」



そう呟いたアルテアはダリルの答えを待つこともなく転移で姿を消し、ダリルは、そんな過保護な魔物の背中を見送った。



きっと、転移した彼は自分の大事な人間の為に、ダリルに教わったスープを作るのだろう。

自分であれば、解術の条件を満たしていることを確信した上で。





ネアのお手柄でそんなアルテアが命拾いするのは、その数時間後のことだ。

その決断を下すのはダリルにとっても賭けであったが、妖精の直感というものもまた、得てしてよく当たるのである。



けれどもそんな一幕を経て、ダリルは、どこかで不測の事態が起こり、海竜の戦に挑むのはネアになるのではないかという理由のない確信を覚えた。

なぜだか妙に避けられる気がしないので、覚悟を決めておくに越したことはない。



その時に彼女の使い魔がどんな反応をするのかも、何となく想像がつくような気がした。







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