砂の報せと夢の警鐘
「ネア、良い報せが入ったぞ!!」
その日、約束していた串焼きの会が延期になり暗い顔でウィリアムを慄かせていたネアは、そう笑顔で会食堂に入ってきたエーダリアにもそもそと顔を上げた。
ネアの暗い目に一度ぎくりとしてから、エーダリアはもう一度微笑みを作り直す。
「良い報せだ」
「エーダリア様、それは、あまり声を大にして良い報せと言うのもどうでしょうね」
「そ、そうであった。……だが、お前にとっては安心出来る報せだからな」
後から来たヒルドに叱られつつ、エーダリアはまだいまいち表情が明るくならないネアの前に座る。
ネアは心の欠けた眼差しのまま、こくりと頷いた。
「…………美味しいソースのかかった、串焼きのお肉が食べられるのですか?」
「………そ、そうか、残響の魔物の問題で、サナアークへ食事に行く予定は延期になったのだな…………」
「むぐぅ…………」
「そ、そうだネア、俺があの店の串焼きを買って持ってくればいいんじゃないか?」
「…………ほわ。あのお肉が食べられるのですか?」
かなり受け答えの温度の低くなってしまったネアに慌てたのか、ウィリアムがそう提案してくれたので、ネアは目を瞬いた。
世界を呪う眼差しをしていた人間の目が再び輝き始めたからか、ウィリアムはほっとしたように微笑んでくれる。
エーダリアはそんな二人のやり取りにほっとしたように微笑みつつ、ネアに素敵な情報を齎してくれた。
「あらためて自身でも串焼き屋に行くのであれば、その予定は早められるかもしれないぞ。先程兄上から連絡が入って、カルウィのニケ王子が、幻惑の魔術による侵食を受けたそうだ」
「……………お肉を食べに行きたいので喜んでしまいますが、その王子様はご無事だったのですか?」
「ああ。ニケ王子は、……と言うかカルウィ王家の得意とする守護魔術でもあるが、王族に降りかかった呪いのようなものは、用意された贄に振り替えることが出来るのだ」
「まぁ………。そのような運用なのですね………」
「振り替えられてしまうので本来なら気付かないことなのだが、悪食であり魔物を取り込んだ純白と契約をしていることと、ニケ王子自身がかなりの高位魔術師だからな。触れたものが幻惑の魔術であるということや、その中に潜む狂乱した魔物の気配を感じたらしい」
「………と言うことは、もう私は安心なのでしょうか?」
ネアが恐る恐るそう尋ねると、エーダリアは今それを調べていると教えてくれた。
今回、ネアのことは巧妙に伏せてヴェンツェル王子からニケ王子に注意喚起されたそうだが、一応はこちらで着手している問題の余分として仕入れた情報を元に注意喚起したものという体裁を取っている関係で、ニケ王子からは事態収束まで逐一の報告が入るのだとか。
「兄上の方で、本当に問題がなかったかどうか明日の朝にまた連絡を受けるそうだ。それとは別に、ノアベルトも調べに出てくれている。完全に展開された魔術が閉じていて、そのどちらからももう終わったという報告が入れば一安心だからな」
「ほっとしました。エーダリア様、すぐに教えてくれて有難うございます!」
「…………エーダリア、今回のものはどうやって魔術展開されたんだ?」
そう聞いたウィリアムに、エーダリアは透明度の高い鳶色の瞳に微かな混迷を揺らす。
曖昧な魔術の難しいところがあり、ネアはウィリアムが気にしているのはそのようなものがどう成されたかという疑問なのだと思っていた。
「もし、国側の防御の手薄さなどを隠して言葉を偽っていなければだが、砂嵐に紛れてやって来たらしい。砂嵐の奥に蜃気楼のように見覚えのない街が見えたのだそうだ。……その王子は私よりも高位の魔術師だからな。展開された魔術が触れる前に対抗手段を講じられる。………不謹慎ではあるが、標的にされたのがまだ彼で良かったのだろう」
「…………ああ。だがそれは、あくまでもこれで終わりなら、というところだ。まだ残っているとなると、そのカルウィの王子は生贄を身代わりにしているだけに、回避手段の参考にはならないな」
ウィリアムがそう呟き、生贄に攻撃を振替えるような魔術は特殊なものなのだろうかと首を傾げたネアに、その魔術の仕組みを教えてくれた。
「生贄の魔術は、術式を受けた当人が相当に魔術に長けていることが必要不可欠なんだ。だからこそ精霊や魔物が好み、本来はあまり人間には適応されない。カルウィは水竜の加護を受けているからな。その王族については与えられた守護で振替えの魔術を扱っているんだろう。だが、それでも扱えない者も少しはいる筈だ」
「王族の方らしく強欲に振替えをしているという訳ではなく、その魔術を使う為の資格が、ご本人に必要なのですね…………」
ネアのその言葉に、エーダリアが頷いた。
「カルウィでは、その守護魔術を適応される資格を失わないようにと、数世代おきに意図的に人外者との婚姻もなされている。そういう意味では、人の領域を超えた力を持つ者が多いのだ」
ウィームのように、隣人としての友好を結ぶ国は少ない。
大抵の国は、より事務的な関わり方で、或いは信仰のようにして人外者達との関わりを結ぶ。
ヴェルリアのように商売などの関係から取引先としての関係を深め、更には商人を多く輩出するからこその叡智と機転で契約を増やして来た国も一定数あるし、信仰で結ぶガーウィンや、その特性から武器や鉄鋼業などの近代に派生した特殊な系譜の人外者が集まりやすいアルビクロム。
様々な国があれども、かつてのウィーム王家のように婚姻などで絆と契約を結ばずとも途切れずに人外者の力を借りれる土地は稀であり、だからこそ守護の篤い大国のカルウィの王家であっても、一定数の人外の血を定期的に混ぜ、王位継承者達の魔術可動域を上げているのだそうだ。
「その生贄さんは、残響さんの魔術の中にいるのですか?」
「お前のように、悪夢として変換するような魔術は敷いていないからな。その体ごと忽然と消えてしまったそうだ。………ネア、いつもの風景の向うに、見たこともない景色などは見ていないな?」
「はい。今日はウィリアムさんが来てくれたので、お向かいに素敵な軍服のウィリアムさんがいますが、それ以外にはいつもの通りのリーエンベルクにあるものしか見ていません」
ウィームは今朝から風が強かった。
遅くまで残った雪がなくなってきたので、季節の入れ替わりで系譜の者達が争っているのかもしれないが、気象性の悪夢の前兆だと厄介だと言うことで、グラストとゼノーシュはそちらの観測に出ている。
ディノは隣室でアルテアと話をしているので、もしかしたらアルテアが一足先に、そのカルウィの王子の情報を持ち帰って来たのかもしれなかった。
「ノアベルトは夕方までには帰れるということだった。その結果待ちだな」
「と言うことは、問題がなければ夜には串焼き屋さんに……」
「ネア、念の為に今夜はここを出ない方がいい。もしこれで終わったとしても、術式の残滓などが残っていると厄介だろう?」
「ふぎゅう…………」
「その代わり、俺があの店の肉を買ってくるから、楽しみにしていてくれ。棘牛と駝鳥がいいか?」
「ま、待って下さい。記憶から美味しかったソースや部位との組み合わせを引っ張り出します!」
ごうっと強い風が吹き、ばたばたと窓の外の枝葉が音を立てた。
思わずそちらを見てしまったネアに、ヒルドが、西風の系譜の精霊達が後継者争いをしているのだと教えてくれる。
「先日、思うように風を揺らせなくなった王が、引退を表明したそうでして。風の系譜は子供が多い。例に漏れず西風の精霊達もそのようです。空の上では、西風の系譜の精霊の王子達が争いを繰り返しているのでしょう」
「王様が後継者を選ぶのではなく、勝ち抜け戦なのですね…………」
「力が強いことが、系譜の役割を果たすことに直結する者達ですからね。………とは言え、あまり風を動かして、遠くにある悪夢の前兆をこちらに呼び込まないと良いのですが………」
「悪夢が来てしまったりしたら、その残響さんのものがまた再発したりもするのでしょうか?」
ネアがそう言えば、ウィリアムが柔らかく微笑んで頭を撫でてくれた。
「展開された魔術が閉じていれば問題ない。その代り、獲物を求めて間口が開いていると、中身が漏れ出す危険性はあるな。…………だが、悪夢の前兆はまだ遠いから、風向きが変わってウィームに来るとしても五日後くらいだろう。それまでには結論が出ている筈だ」
「そう聞いて安心しました。二つが重なってしまったりもしないようで、一安心です………」
ネアはほっと息を吐くと、そんな報告をいち早くと持って来てくれたエーダリアとヒルドにお礼を言った。
みんなには沢山心配をかけてしまったので、どうかこれで終わったと言えるようになって欲しいものだ。
無事に夜には串焼きのお肉も食べれるようだしと、ほくほくして先程までのこの世の終わりのような悲しい気分を払拭する。
「ネア、………ああ、エーダリア達から話を聞いたようだね」
そこに戻って来たのはディノだ。
ネアがふすんと頷けば、微笑んでするりと頬を撫でてくれる。
一緒に戻って来たアルテアも、少しだけほっとしたような眼差しをしており、ネアはあらためてこの事態が完全に終結したら、心配してくれたみんなにお礼をしようと考えた。
大事にされるというのは、決して当たり前のことではない。
大事に思ってくれる相手であれ、自分事のように時間や労力を割いてくれるのは、彼等が優しいからなのだ。
「ノアの確認が取れたら、ひと段落でしょうか?」
「そうだね。残滓や残響がないかを調べるのだけれど、残響は新代の魔物が派生しやすいものだ。生まれていれば新代の残響に、まだであればスリジエが調べてくれるそうだよ。彼は少しだけ、自分がジャンリを壊してしまったことで事態が複雑になったことを悔いているからね」
「いや、反省のそぶりは体裁上だろ。あれは確信犯だろうな。……残響を、他の誰かには壊されたくなかったんだろうし、であるならそのツケを支払うのは当然のことだ」
「………ノアが話していましたね。スリジエさんは、………自分が想った残響さんとは別人であっても尚、心のどこかで残響の魔物というものに執着しているのではないかと」
「それは、魔物にしては珍しいことなのだけれど、スリジエは幻惑などの質がある。彼だからこそ、新代の残響にも、愛した者の面影を見てしまうのかもしれない」
ディノが言うように、魔物達は代替わりした新代の魔物にかつての友人や伴侶の面影を見ることは少ない。
例えばディノやウィリアムのように、先代の犠牲の魔物に向け揺らす思いは、あくまでも先代に向けたものだ。
同じような容姿や言動を持って戻って来ても、それが別人なのだという認識を深めるばかりで、新代の者へ向ける心の揺れもまた、自分の内側に残った前の者への思いに留まる。
だからこそディノ達は、今代の犠牲の魔物は不思議なのだと言う。
彼はなぜか、ディノ達の知っていたグレアムらしさのような不思議に懐かしい気配がするのだそうだ。
「それはつまり、他の魔物さんであれば、今の、………というか先代の残響さんを見ても、かつて想った方を思い出して心を揺らす程度で、今回のように他者の手に委ねたくないと滅ぼしてしまうのは稀なことなのですね?」
「ああ、魔物らしくはないな。寧ろ精霊的な思想だが、スリジエは魔物の中では精霊にも気質や資質が近い。花の系譜の中では、スリジエと水仙は明らかにあちら寄りだ」
「まぁ、そのような偏りがあるのは知りませんでした………」
アルテアの補足にネアはそんなこともあるのかと驚いたが、ディノは頷いているもののウィリアムは驚いているので、一般的な常識と言うよりは知る者ぞ知る真実という感じなのかもしれない。
ウィリアムが、何やら暗い顔でもしかしたらと呟いて、アルテアが半眼で頷いている様子からすると、そのような精霊寄りの魔物な誰かで苦労したことがあるようだ。
驚いているネアに、ディノがそんな魔物の精霊寄り事情を教えてくれる。
「あまり多くはないけれど、成り立ちが精霊に近い系譜の花の魔物がいるんだ。それとは逆に、薔薇や百合は魔物の領域だから、その系譜の精霊達は魔物に近い存在となる。特に白と赤の薔薇は魔物の系譜の要素が強いものだから、紅薔薇の妖精が高位なのは、彼女も少しばかり魔物に近いからだね」
「ロクサーヌは認識しているのでしょうか?」
ヒルドはそんな裏事情を知らなかったようだ。
そんなヒルドに、ディノは微笑んで頷いた。
「彼女は花の系譜の魔物達と仲良くしているからね、知っているのではないかな」
「では、百合の妖精さんがいたら、その方も魔物さんに近いのですね?」
「あくまでも、シーに限ってのことだけれどね。他の種族の性質を帯びることが出来るのは、最高位の者達か、階位すら定まらないくらいに曖昧な者達ばかりなんだよ。………白百合のシーは先代の王族達がいなくなってしまった後は、長く空座だった筈だ。そろそろシーが育つ頃かな?」
「ええ。もう五年程で、現在の最上位の妖精達がシーになる頃合いでしょう。その中に知人がおりますが、残念ながらまだ四枚羽だと年明けに話しておりましたから」
「………ということは、普通の妖精さんからシーになられる方は、羽が増えるのですね?」
「そう言われておりますね。その間の妖精は無防備になるそうですから、羽を増やす妖精達は安全な繭を作り、ひと月程その中に籠るようですよ」
それもまた新しい驚きで、ネアはこの世界の生き物にはまだまだ不思議が隠れているのだなと息を吐いた。
どうやって羽が生えてくるのか不思議でならないが、繭に入ってしまうくらいなのだから、きっと秘密なのだろう。
「………シーにしかない魔術も、その時に増えるのだろうか?そ、その場面を見ることは出来ないのか?」
「エーダリア様…………」
ネアはもっとその話を聞きたかったが、同じように興味深々になってしまったエーダリアの質問にヒルドが呆れたような目をしていたので、またの機会にと質問を飲み込む。
「ディノ、魔物さんにも後天的に階位を上げる方はいるのですか?」
「育つという資質を持つ者もいるからね。もっとも有名だったのが、修復の魔物だ」
「は!そう言えば、鹿角の聖女さんは育って成り立ちを変えたのだと教えて貰っていました…………」
「近しいところでは、イヴリースもそうだった筈だよ。火薬というものが世に浸透するにつれ、彼は階位を上げたんだ」
色々な話をしている内に、誰ともなしに椅子に座り、家事妖精が紅茶と小さなお皿に乗った美味しいクッキーを持って来てくれた。
様々な生き物達の系譜や属性の話をして、ネアは初めて知る魔物の名前を幾つか心の中のメモに書き留め、クッキーに手を出しただけなのにちびふわ符を警戒するアルテアに眉を持ち上げられる。
窓の外は相変わらず風が強いのか、ばたばたざわざわと木々を揺らしていた。
小さな妖精達が時々きゃあっと風に飛ばされてゆくので、窓の外を何も考えずに見ているだけでもなかなかに興味深い。
ネアは強い風の日が好きなので、あの中に入って一緒にきゃあっとやれたら、きっと楽しいだろう。
「ディノ、あのお庭の木の葉っぱに、先程からぽわぽわした鳥の雛のような生き物がぶら下がっています………」
「ああ、新緑の系譜の精霊のようだね。彼等はお気に入りの木に住む小さな生き物だから、住処を変えたくないので必死なんじゃないかな」
「只ならぬ気合を感じたのはそれでなのですね…………」
ぽわぽわした生き物は、黄緑色の羽毛を持つ、小さな硬貨ぐらいの体をしている。
遠目だと木の実や変わった形の花のようにも見えるので自然界で安全に生きていくための姿でもあるのかなと思い、ネアはよいしょと立ち上がろうとした。
「いえ、私が。あの木は芽吹きが早く、枝ぶりもいい。あの精霊が大事に守っていたのでしょうね。出来ればこの先も美しい新緑を楽しませて貰いたいものです」
「まぁ、ヒルドさん、いいのですか?」
「私の系譜にも近い隣人ですから。せっかくですから、木を美しく保ってくれているお礼も言っておきましょう」
ネアがぽわぽわ雛精霊を救出に向かおうとすると、くすりと微笑んだヒルドが立ち上がってくれた。
会食堂の隅にある中庭に出られる開閉の可能な硝子戸を開け、中庭に出てゆくと、美しい孔雀色の髪を風になびかせつつ、葉っぱの縁に必死にしがみついた精霊を木の枝のうろのところに避難させてやっている。
美しい妖精に助けて貰った雛精霊は、ほっとしたようにぺこりとお辞儀しているのが見えた。
(鳥の雛のような姿だから子供のように見えたけれど、あのお辞儀の仕方を見ているとご老体っぽいのかしら?)
意外にも執事のような慇懃なお辞儀をした雛精霊に頷き、ヒルドはその他の庭の植物たちを見回してからこちらに帰ってきた。
ちょうど硝子戸を開けたときにまた、こうっと吹きすさぶ風が室内の温度揺らし、ネアは、微かな春の風の匂いを感じた。
(濡れた緑と、砂の匂い…………)
このあたりではまだ雨は降っていないが、どこか遠くでは降っているのか、或いはまだ日陰などに少し残っている雪が水の匂いを乗せてきたのだろうか。
しかしそうなると乾いた砂の香りはどこから来たのだろうと、ネアは内心首を傾げつつ、お喋りの輪に戻る。
「……………むぐ」
「ネア、眠たいのかい?」
ネアが奇妙な眠気に襲われたのは、それから暫くしてからだった。
くあっと欠伸をしたくなるのを噛み殺し、しぱしぱする目を擦って何度か紅茶を飲んで誤魔化していたが、ディノには見つかってしまったようだ。
「ふぁい。…………なぜだか、急激に眠たくなりました。お食事の消化の為に体が忙しく働いていて、それで眠たくなったのかもしれません。瞼が落ちてきてしまいます…………」
そうやって話している時には頑張って目を見開いているつもりなのだが、それでもいつもの八割くらいしか開いてない気がする。
むぐむぐしながら目を瞬いていると、なぜだか室内がひやりと温度を下げた。
誰かの手がネアの体を持ち上げて、膝の上に抱き上げてくれる。
「…………ふぐる」
「ネア、大きな鐘の音が聞こえたり、見知らぬ建物が見えたりしないかい?」
「……………瞼の裏の暗闇しか見えません。…………それと、砂の匂いがします」
そう答えれば、誰かがとても怯えている気がした。
そんな不安に答えて大丈夫だよと言ってあげたいのに、どうしても瞼が落ちてきてしまう。
抱き締めてくれている手の温度に、ディノに違いないと考え、ネアはその温かな胸にすり寄って顔を埋めた。
「ネア、ずっと傍にいるから安心していい。すぐに帰って来られるからね」
優しい優しい声を聞きながら、ネアはしっとりと深い眠りの暗闇の中に沈んでいった。
砂の匂いがして風の音が響いている。
真っ暗な部屋の無機質な天井を見たような気がしたが、最後に見えたのはこちらを不安そうに見下ろしている水紺色の瞳だった。
どこか遠くで、鐘の音が聞こえた気がした。