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賢者の麦畑と鳥の行方



ベージはその日、思わぬ事件に巻き込まれて他国の小さな街に立っていた。



だが、ここが街であったのは恐らく昨晩までのことで、今はもう瓦礫と亡骸の山になっており、人々が健やかに暮らしていた名残りは残っていない。


引き裂かれ、貪られた者達が虚ろな眼下を空に向け、死者の行列が姿を現しつつあった。




「……………胸の悪くなるような光景だ。純白が目を覚ますと、こんな風になるのか」


思わずそう呟いたベージに、隣に立っていたイーザが小さく重い息を吐く。

先程から彼は妹の名前を呼んであちこちを探し回っており、ベージ達はそれを手伝っていた。


「すみません、あなたまでを巻き込むつもりはなかったのですが」

「いや、俺はこのような戦事には長けているから、一緒に居た時に連絡が合って良かった。早く妹さんを探してしまおう」

「そうだよ。まぁ、君達は、僕がいるから大事には至らないと思うけれど、一人で巻き込まれたルイザが心配だからね」


そう微笑んだのは、エイミンハーヌという霧の精霊王だ。

獣のような巻角を持つ男で、その角は竜種から見れば高位の竜の持ち物だとすぐに分る。

かつて、数ある竜の祝福の子や災いの子の中で、最も大きな力を持つとされた夏闇の竜の王子から引き継いだもので、その角を手放した竜は今、ウィームで脆弱な魔物として自由気儘に暮らしている。


置き換え魔術でもう竜ではない彼は、ウィームに暮らす数少ない夏の系譜の叡智を持つ者として、あちこちで重用されているという噂ではあったが、最近まであまり氷竜の土地を出なかったベージは、個人的に会話をしたことはなかった。


氷竜の王は、夏の系譜の竜を好ましく思わなかったのだ。



「…………こっちだ。…………ルイザの気配がある」


取り替え子であるらしいが、それでも同じ系譜の兄妹なのだ。

お互いの位置が近くなり何かを感じるようになったのか、イーザは崩れ落ちた巨大な大聖堂の、その瓦礫の向こう側を目指しているようだ。


近くには燻る火が煙を上げていたりはするものの、生き物の気配はなく、この惨事を引き起こしたという純白の姿も見えない。

決して立ち去った訳ではないが、この周囲に隠れている訳でもないのだとエイミンハーヌは言う。

彼の司るものの資質は、そのようなことを見極めるのが得意なのだ。



地面から這い出してくる死の精霊達を避け、大きな瓦礫を越えたその向こう側に、美しい妖精が一人、瓦礫にもたれかかるようにして隠されていた。



「ルイザ!!」


そう声を上げたイーザに、ああ、彼もこのようにして取り乱すことがあるのだなとベージは考える。

確かに身内が見るには酷い怪我には違いないが、戦場を知るベージからすれば、これは治癒が可能な損傷に収まっている、たいへん喜ばしい状態だ。

もう少しどこかを引き裂かれたりしていれば、治癒どころか命を繋ぐことも難しかっただろう。



「…………失敗しちゃったわ」


美しい面は血だらけで、片目は誰かに抉り出されたようになくなっている。

片手は捻じれ、か弱い声だが、しっかりとした意志を感じさせる温度が滲み、エイミンハーヌも安堵の溜め息に肩を揺らしていた。

彼は家族ぐるみでの付き合いがあったそうで、このルイザという霧雨の妖精のことも良く知っているのだ。

すぐさまベージとエイミンハーヌで、治癒魔術で応急手当てをすると、痛みが和らいだのか、ほっとしたように深い深い息を吐く。


「喋らなくていい。………助けに来るのが遅くなったな」

「ううん。私が父さん達や兄さんじゃなくて、ヨシュアを先に呼んだのよ。あんな泣き虫のくせに、ヨシュアは強いでしょう?あの生き物がどれだけ強いか分らなかったから、怖くて家族の名前は呼べなかったの」

「ヨシュアは…………」

「ここから引き離すといって、向こうに。…………兄さん、ヨシュアは大丈夫かしら?……………私、」

「ああ、ヨシュアなら大丈夫だ。お前は、自分のことだけを考えていればいい」


小さく血の混じる咳をすると、イーザの妹はエイミンハーヌに預けられた。

これから彼が霧雨の妖精達のところに連れて帰り、治癒を受けさせるのだそうだ。

やはり妖精なので、本格的な治療などは自身の属性に近いところがいい。


「妹を頼む」


長い付き合いだという友人同士なので、エイミンハーヌに向けるイーザの言葉はベージが知るものよりも端的だ。

けれどもそこには、深い信頼が垣間見え、エイミンハーヌは微笑んで頷いた。


「大丈夫だよ、僕は災厄を避けて通るのが得意だからね。もうこの子は大丈夫だから、安心していい。その代り、僕がここを離れている間、君達はくれぐれも用心してくれ」

「万が一の際には、俺もいる。まずは彼女を安全なところへ」

「そうだな、猛勇に名を馳せる氷竜の騎士がいるのが心強い。………ルイザ、揺らさないようにするからもう少し辛抱するんだよ。ハムハムも一緒に来るのか?」


エイミンハーヌがそう尋ねたのは、ルイザの横に控えて傷付いた彼女を守っていた奇妙な生き物だ。

彼女の膝の上に乗って一緒に抱き上げられたのだが、その問いかけに悩むように体を傾けている。

青い植物の根のような姿をしているが、どうやらベージ以外の者達はこの生き物と意思の疎通が出来るらしい。


(………………人参?植物の系譜の妖精か何かだろうか…………)


そう考えて首を傾げていると、その生き物はルイザの上から飛び降りて、手を差し出したイーザによじ登った。


滑らかに這うような移動方法を見てしまい、そんな風に動くのかと一瞬慄いたが、彼等にとっては親しい生き物であるようだ。

決して動揺を悟られないよう、ベージは顔の筋肉に力を入れた。



「……………ヨシュア達は、街の城壁の外に出たのか」


その生き物が何かを伝えたものか、イーザはそう呟き、こちらを見るとまた申し訳なさそうに短く詫びる。


「危うくなったら、すぐに君だけでも離脱して下さい」

「その時は、君を掴んで逃げるさ。大事な副会長がいなくなったら、我々の活動にも支障が出てしまう。あの方を影ながらお守りしなければならないのだから、決して無茶はしないでくれ」

「……………そうでしたね。オルガだけでは、ニエークを押さえるにはいささか弱い」

「その通りだ」



顔を見合わせて頷き、二人は大きな獣でも荒れ狂ったかのような、崩れ、燃え、すっかり見る影もない街を駆け抜けてゆく。



どこかの瓦礫の下で赤ん坊の声が聞こえた気がしたが、ごうっと音をたてて崩れた瓦礫に一瞬で埋まってしまった。


赤々と燃え上がる炎の色に、首をもたげた陰惨な死の色を慌てて記憶の奥に追いやる。

ここはウィームではないし、この街を燃やしたのは火竜ではない。

恐らくこの燃え方から見るに、火の魔術か火器で、街を襲った生き物を撃退しようとしたのだろう。


彼等は、純白の翼がどれだけ強いのかを知らなかったのだ。

力強く羽ばたく翼を持つ純白であれば、この程度の火など容易く弾き飛ばしてしまったに違いない。

そうして弾かれた炎が街に落ち、延焼したのだろう。



「いた。……………あそこだ」


ここは今は小さな中継都市だが、かつては小さな国であったところだ。

この古い石の壁が今迄は民を守ってきたのだろうが、今回ばかりは、純白が餌を探す為の生け簀のようにされてしまったに違いない。

そんな街の周囲にあった古い城壁を出ると、探していた者達の姿を見付けることが出来た。



「イーザ、俺が前に出る」


イーザは高位の妖精ではあるが、ベージの様に前線で常に剣や魔術を振るう者ではない。

視線の先の荒野に真っ白な翼が見えたところで、ベージはそんなイーザの前に出た。

いざという時、攻撃を受けてもベージの方が防壁魔術も頑強であろう。


「………大丈夫です。もう、陽が落ちる」


しかしイーザは、その遠くで煌めく純白の翼と、それに相対している白い人影の方ではなく、なぜかゆっくりと陽の沈んでゆく地平線を見ていた。

その言葉にベージも空の端を見れば、雲の切れ間に沈んでゆく太陽の赤い光の切れ端が見えた。

幾筋か残った光がぎらりと煌めき、強い光が消えてゆけばもう、沈んだ太陽の光を僅かに残した空が微かに明るく残るばかりだ。



「夜になると、何か有利に働くのか?」

「雲の魔物は、夜こそが何時よりも魔物らしい。ヨシュアも、昼と夜では振るう魔術の幅が変わってきますから」

「そうなのか…………」


初めて知ることに目を瞠ってまた白い煌めきに視線を戻した。

大きく振るわれた魔術が軋むのが見え、ずしんと地面の一画が沈む。

ベージ達が立っている場所と彼等との間にあった小さな石壁が、その衝撃波を受けたのかがらがらと崩れ落ちた。


どんな魔術が振るわれたものか、周囲の草木がジワリと枯れ落ちる。

元々、死者の行列を警戒して魔術防壁を立ち上げてはいたが、その光景にはやはりひやりとした。



「やれやれ、あまり被害を広げないで欲しいんだがな」

「…………っ、」



不意に背後から聞こえた声に、ベージは素早く体を屈める。

イーザも驚いたように振り返りはしたが、ベージ程に警戒している様子はなかった。




大きく、風を孕んで真っ白なケープが揺れる。


その裏は血のように赤く、暮れ落ちてゆく陽光の最後の残照にぞっとするような鮮やかさを目に残した。




この焼けただれた戦場には不似合いな、けれどもこれ以上なくその司るものを体現した姿を初めて至近距離で目にしたベージは、あまりの精神圧に思わず一歩後退してしまう。

ただひっそりと佇んではいても、終焉の魔物が身に纏う魔術は暗く重い。


(…………イーザは、やはりさすがだな)


一緒にいる霧雨のシーは、平素から高位の魔物である雲の魔物の城で暮らしている。

雲の魔物を訪ねて高貴な魔物達がやって来る城にいるのだから、このような魔物の精神圧に、今更影響を受けることもないのだろう。

それに以前、終焉の魔物が雲の魔物を叱りに来たと話していたのを思い出し、それなら任せても大丈夫だろうかと、ベージは不敬にならないように大人しくもう数歩後退する。



「終焉の君、ご無沙汰しております。ヨシュアがご迷惑をおかけしているようですが、今回ばかりは、私もあの雪喰い鳥には思うところがありまして」

「ああ、俺もあの雪喰い鳥にはうんざりしている。………だが、夜のヨシュアも少し限度を忘れることが多いからな。既にこんなことになってしまった土地を、更に荒廃させることだけは避けたい」


そう終焉の魔物が見上げた空には、見る間に灰色のぶ厚い雲が集まってきた。


積乱雲のような大きな雲の塊を見ていると、ざっと一雨降る以上のことが起こるに違いない。

大雨が降れば火は消えるだろうが、建物が軒並み破壊されてしまったここでそれだけの大雨が降れば、この街の復興は遅れるばかりだろう。


死者の行列を率いてその死を刈り取るくせに、終焉の魔物が案じるのがそのようなことであると知ったベージは、少しだけ意外な思いがした。

或いは終焉であるからこその憂鬱なのかもしれないが、そんなことは一度も考えたことがなかったのだ。



(こういう時に、他の種族と関わらなくなってしまった一族の将来を案じたくなる…………)



統一戦争で辛酸を舐めた氷竜は、すっかり閉鎖的な種族になってしまった。


それは悪いことばかりではないが、その全てが一族の助けになる訳でもない筈だ。

ベージは、氷竜達ももう少し他の種族達と交流を持つべきだと、常々王に進言してきた。

けれどもその言葉が王の心を動かすことはなく、時折こうして胸が痛む。

ここにいるイーザと雲の魔物のように、お互いを信じ支え合える関係というものは、どれだけ心強いものだろう。


ベージは王を敬愛していたし、王も自分を信頼しているのは知っていたが、それはお互いを思って自身を変える程の強い絆ではなかった。



ぽつりと、地面に大粒の雨が落ちてきた。

さあっと地面の色を変えてゆき、あっという間に雨足が強くなる。



「やれやれ。そろそろ止めた方が良さそうだな」

「…………終焉の君、ヨシュアは私の妹の為に戦ってくれているのです。私が責任を持って止めますので、もう少しお待ちいただけませんでしょうか」

「イーザ、君はあちらに近付かない方がいい。随分と重い魔術が動いているようだから、俺が行ってこよう」

「ベージ、恐らくヨシュアは、私が行かないと駄目だろう」

「だが、………」



その時だった。


イーザの肩の上に座っていた青い人参のような生き物が、ひょいっと地面に飛び降りたのだ。



「ハムハム?」


驚いたようなイーザの声に、任せておけとでも言わんばかりに体を揺らした後、唖然としたままその動きを見ていたベージ達の前で、まるで地面に平伏すかのようにぐにゃりと体を折り曲げた。



その刹那、ざあっと、黄金色のものが地面を突き破って吹き上がってくる。



「…………これは」

「そうか、何かに似ていると思ったら畑の賢者の亜種なのか………」

「ハムハム………」




どこまでも、どこまでも。



広がって茂ってゆくのは、黄金色の麦畑だ。

それは床に零した水のようにあっという間に広がってゆき、見渡す限りをその色に染め上げながら、一瞬で雪喰い鳥と戦っている雲の魔物の方にまで届いた。


そちらで振り返る雲の魔物が視認出来たその直後、ばさりと大きく翼を広げて慌てたようにどこかへ飛び去ってゆく雪喰い鳥の姿が見えた。



「大したものだな。豊穣の魔術は、雪喰い鳥が好まないものの一つなんだ」

「そうなのですか………?」



一面の麦畑を見てどこか嬉しそうにそう呟いた終焉の魔物に、イーザも知らなかったのか、そう呟いて地面の上で跳ねていた青い人参を拾い上げる。



「彼等はあくまでも雪の系譜の者だ。実りや芽吹きは体質にそぐわないのだろう。それを同時に成されたから、不快感に耐え切れず逃げ出したんだ」

「……………こんなに美しいのに?」



思わずそう呟いてしまったベージに、終焉の魔物がこちらを見る。

ひたと向けられた眼差しは、白金のその鋭さに血を垂らしたような色が滲む。

死そのものを切り取ったような色だと思いかけ、自分を叱咤して眼差しの問いかけに答えた。



「俺は、氷の系譜の者ですが、…………それでもこの麦畑は美しい」

「自分に纏わるもの以外を慈しめるのは、竜らしい懐の深さだな」


終焉の王はそう微笑むと、自分が庇護している竜達もそうなのだと教えてくれた。

風竜で寒さはあまり得意ではないそうだが、そんな彼等は雪景色を見る為にウィームにお忍びで旅行に来ては、風竜の宮殿に戻った後で熱を出して寝込んでしまったりもするのだとか。


思いがけず終焉の魔物と、その庇護を受けた風竜の話を聞けたベージは、何だかいい気分で頷く。



イーザの妹も無事に助かったようだし、あの怪我であれば全快も容易い。

何とも悲惨な襲撃の跡を見ることにもなったものの、こうして見知らぬ土地で見知らぬ者達の営みを知るのは、とても豊かで尊いことに思えたのだ。




知らないもののその先には、何があるのだろう。


そう考えてしまうのは、一族の輪の外側に大事なご主人様を見付けたベージだからこそだろうか。




「ほえ、……………ウィリアムがいる」

「ヨシュア、無事でしたか…………」


よろよろと戻って来た雲の魔物に、イーザはどこかほっとしたような表情を見せた。

いつもの辛辣な評価を下す際の冷たい眼差しではなく、友人としての目でそっと雲の魔物の肩に手を乗せた。



「片目を潰そうと思ったんだけど、思ったよりすばしっこいから苦労したよ。暫くは泣いて暮らすんじゃないかなぁ」

「…………それは、ルイザが片目を抉られていたからですね?」

「僕の領域でそんなことをするなんて、同じ目に遭わされても仕方ないよね。でもあいつは、ルイザの目を食べて、精霊みたいな味がするからって投げ捨てたみたいなんだ。ルイザが取り替え子で良かったよ」

「いや、今迄は精霊も食べていたみたいだが、嗜好が変わったのか………?」


そう首を傾げたのは終焉の魔物だ。

純白の足跡を辿るように、その蹂躙の跡地を整えながら移動しているらしい。

目を覚まして数日にもなると、徐々に一度の襲撃での被害が拡大してきたので、そろそろどうにかしなければと思っていた矢先だったのだそうだ。



「混ざりものが嫌いみたいだよ。味が混ざったものは酷い腐臭がすると話していて、ルイザは悪食なのかって尋ねられたみたいだから」

「………成程、悪食は悪食を食べないのか。………いい情報だな」

「……………褒めてもいいよ?」

「そう言えばヨシュアは、この土地を考えなく荒らして俺の仕事を増やすところだったんだが、少しは反省したのか?」

「……………ふぇ?」

「ヨシュア、ハムハムがあなたを止めてくれたんですよ」


そう言ってイーザが差し出した手から、青い人参めいた生き物が雲の魔物の肩に移動する。


「うん、一緒にいる時にルイザに呼ばれたからね。………ハムハム、ルイザを守っていてくれて有難う。………そう言えば、あの鳥は麦を嫌がってたんだ。どうしてなのかな?」

「説明をするのが煩わしいので、後にしましょう。まずは、ルイザの様子を見に行かなければいけませんからね」

「ほぇ、イーザが冷たい………。僕、頑張ったよ?」



悲しげにそう訴えた雲の魔物に、イーザは肩に乗せたままであった手に力を込めた。

そうして、その肩に少しだけ頭を寄せるようにして小さく頷き、大きな羽を微かに震わせた。


「……………ええ。あなたがいなければ、ルイザがどうなっていたことか。ヨシュア、妹を救ってくれて、有難うございました」



そんな言葉を貰ってしまって驚いたのか、雲の魔物は目を瞬くとおろおろと視線を彷徨わせる。

ややあって嬉しくなってきたのか、銀灰色の瞳を輝かせ、自慢げに頷いた。



「君やルイザは僕の大事な親友だからね。僕が守るのは当たり前だよ!」

「…………そういうところは、良い部分なんですけれどね」

「…………いいところばかりだと思うから、君はもう少し僕を大事にした方がいいんじゃないかな」

「やれやれ、今日ばかりは仕方ありませんか…………」

「イーザ!」


感激した雲の魔物に飛びつかれ、イーザは酷く鬱陶しそうな顔をしていた。

しかしベージは、そんなイーザが心配そうに雲の魔物の体を目視で確認していることに気付き、そっと微笑む。

怪我をしていないか、心配していたのだろう。




「さてと、ここの死者達を迎え入れないとだな…………」


そう呟いて、終焉の魔物が真っ白なケープを翻して去ってゆく。

イーザが深々と頭を下げ、イーザにへばりついたままであった雲の魔物も、頭を叩かれて無理矢理頭を下げさせられていた。




「…………あの雪喰い鳥は、どこに向かうのだろうな」

「出来れば、南に逸れて欲しいものです。ウィームに近付かれては堪らないですからね」

「あの方であればいとも容易く滅ぼしてしまいそうだが、それでもどうか、あの方を悩ませることがない土地へ行ってしまうといいのだが」




そんな願いも虚しく、ネア様があの雪喰い鳥と出会ってしまったと知ったのは、その後暫くしてからであった。


手負いになった雪喰い鳥は、傷を癒す為に大陸公路沿いの国や街を襲い、そこで出会った一人の愚かな商人の息子の過ちを利用し、彼女を罠にかけたのだ。























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