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まものとけもの




その夜ネアは、今回の時間で一人でいた時のことをみっちりと報告した後、大事な魔物を精一杯甘やかしていた。

甘えている体で甘やかしてやり、ついでにネア自身もほこほこする最強の善行である。



「ディノ、ぎゅっとして下さい」

「…………まだ怖いかい?」


悲しげにそう尋ねると、ディノは優しい口づけを一つ落としてくれる。

ネアが安心するまで、そして魔物が安心するまで、こうして何度か祝福を重ねてくれたのだ。


「いえ。怖かったことがあったのは勿論なのですが、あの統一戦争の風景や愛するものが失われてゆく悲劇を見たからこそ、大事なものを大事にしたくなったのです」

「…………愛するもの」



ところが、魔物はそんな一言ですっかり恥じらってしまった。

きゃっとなって逃げようとしてから、ご主人様が悪夢から戻ってきたばかりであることを思い出したのか、ぐっと堪えてふるふるしながら手を広げてくれているが、若干体が傾いているではないか。

必死に堪えている感じが何やら稚いので、ネアはぼすんと腕の中に飛び込んでから、背伸びをして丁寧に頭を撫でてやる。


「ディノがいるだけで安心します。私の大切なお家中の、一番大事な場所なのです」

「……………ずるい。帰ってきたばかりなのに可愛い」

「むむぅ。もしや、また抵抗力が下がってしまったのでは………」


魔物はすっかりくしゃくしゃになり、ネアを抱き締めたままぺそりと項垂れている。

少しだけ不在にするとすぐにご主人様への抵抗値が巻き戻しされてしまうので、ネアは困ったものだなと思っていた。



(これはもう、どこかでぐぐっと先に進め……)



そこでやっと思い出したのは、ネアは既にディノの血の結晶を摂り込んでいるということだった。

それを摂取することで一時的に伴侶相当になっている筈なので、そもそもこの程度で弱ってはいけないと諭してみたい。

しかし、一時的に伴侶相当と考えると、今度はネアの頭が真っ白になってしまった。



「ディノ、…………その、私は現在一時的に、ディノの伴侶なのですか?」


なので、くいくいっとディノの袖を引いてそう尋ねてみたのだが、魔物はびゃっとなるとネアを放り出して巣に逃げ込み、三つ編みの尻尾を残したまま丸まってしまう。

あんまりな仕打ちに渋面になり、ネアは巣の中の魔物を追いかけていった。



「ディノ、逃げてしまってはいけません。その………私も慣れないことなので……」

「ご主人様が虐待する………」

「なぜなのだ」

「引っ張ったり、下から見上げたりする」

「普通のことなのです。解せぬ」


しかし魔物は、ご主人様が体を屈めてずぼっと巣に頭を入れてきたからか、ますます弱ってしまって奥の方に縮こまってしまう。

すっかり加害者にされた人間は、都合よくこちらに出ている三つ編みを引っ張って魔物がこれ以上逃げないようにした。


「てい!」

「ご主人様……………」

「逃げてしまってはいけませんよ!一時的にとはいえそういうことなら、私はどうすればいいのでしょう?………これは、すぐに取り出した方がいいのでしょうか?」

「……………今晩はこのままにしておこうか。帰ってきたばかりで、君も体に魂が定着したばかりだからね」

「はい。では、今夜の間は私は、…………その、ディノの臨時伴侶なのですね?」

「………………ネアが虐待する。可愛い…………ひどい」

「どっちなのだ…………」



結局ディノは三つ編みを引っ張られて巣から引き摺り出されてしまい、ご主人様が熱烈に求めてくるといっそうに恥じらってあまり動かなくなってしまった。

せっかく帰ってきたばかりなのに魔物が死んでしまったので、ネアは仕方なくお泊りのウィリアム達に会いに行くことにした。




なぜかウィリアムとアルテアは、外客棟の談話室にいるようなので、ネアは瀕死の魔物を連れてそこまでは何とか辿り着くと、三つ編みを離された魔物はよろよろと長椅子の一つに這い上がって潰れてしまう。

微笑んで立ち上がったウィリアムが、そんな有様のディノに困惑したように眉を顰めた。

ディノは辛うじて息のある内にと、ウィリアムにご主人様を託してくれる。



「ウィリアム………、少しだけネアを見ていてくれるかい?」

「ええ、それは構いませんが、………シルハーン?」

「むぅ。死んでしまいました………」



ウィリアムは軍装のケープは脱いだようで、服装は少しばかり寛いでくれている。

家事妖精が飲み物を用意してくれたのか、サイドテーブルの上には珈琲が乗っていた。



「…………ネア、シルハーンはどうしたんだ?」

「悪夢の中で私がまた死んでしまわないよう、一時的に血の結晶を貰ったのです。そのことに言及したところ、どんどん弱っていってしまい………」

「うーん。一時的なものなら、きちんと回収して貰うんだぞ。……だが俺としては、新年の祝いが訪れるまでは、そのままでもいいとは思うんだが………」

「まぁ、そのままの方がいいですか?」

「不慮の事故や事件で境界が曖昧になると、よからぬものが混ざり込みやすいんだ。……でも明日までは俺も一緒にいるし、せっかく定めた婚約期間はそれをしっかりまっとうした方がいいからな。こちらの逃げている精霊の問題の方を、早々に片付けてしまおう」

「はい!アルテアさんもかなり本気ですので、…………そんなアルテアさんはどちらに?」

「ん?………そこにいた筈だが…………」



ネアはウィリアムに言われた方を覗いて見ると、珍しく長椅子に寝そべってしまっているアルテアに遭遇した。



「まぁ…………」


二人が一緒にいたことも意外だったが、もっと意外だったのはアルテアが居眠りしていたことだ。

悪夢まで下りてきてくれ、尚且つあの蹂躙の精霊王と戦ってくれたので弱っているのかもしれない。

顔に帽子を乗せてしまっているので起きているのかどうかは分らないが、ネアは少しだけ不憫になってその長椅子の縁に腰かけてみた。



「アルテアさんも死んでしまったのでしょうか………」


そっと手を伸ばしてなぜか白けものの時の癖でお腹を撫でてやっていると、こちらに来たウィリアムにあまりそういう部分は撫でてはいけないと叱られてしまう。


「………つい、もふふわの癖が出ました」

「ああ、…………あの生き物くらい小さいと、もうどうしようもないけれどな…………」

「どうしようもない?」

「いや、………撫でる範囲が狭いだろう?」

「む?」


そこでネアは、ごすっという音が背後から聞こえてきて、先程この部屋の長椅子に這い上がった魔物が床に落ちてしまったことに気付いた。

どうやらじたばたしている内に床に落ちたらしいので、慌てて救出に戻る。


急ぎ駆けつけてきたネアに、魔物はなぜこんなことになったのだろうという、困惑したような悲しげな面持ちでしょぼくれていた。


「ディノ、おでこは大丈夫ですか?」

「…………うん」

「しゅんとしてしまわなくても、椅子から落ちること自体は珍しいことではありませんよ?」

「そうなのかい?」

「ええ。なのでそういう時は、まずは体のどこかを痛めたりしていないのか、調べてあげて下さいね」

「うん、そうしよう」


立ち上がるのに手を貸してやれば、こちらを見た魔物がまた目元を染めてしまう。

果たしてこの魔物は、無事に婚約期間を終えることが出来るのだろうかと、そちらの問題には不慣れで素人同然の人間ですら不安になってしまう様子ではないか。

きちんと慣れるのかなと見上げていると、ディノはご主人様から見つめられ過ぎるとまたしても死んでしまった。



「むぅ。………もう少し、慣れて欲しいです」

「シルハーンが潰れてしまって悲しいだろう。暫くここにいるといい」

「私がいても、ウィリアムさんは疲れてしまったりしません?たくさん心配をかけたので、せっかくお仕事がお休みの間くらいは、ここでのんびりして貰いたいのですが………」

「ネアがいて疲れるなんてことはないさ。夕食までまだ時間もあることだし、少しこちらで話そうか」

「はい」



本日は、ゼノーシュ達が捜索に出る直前に新しい情報が入り、晩餐の時間が少し遅くなっている。

先に食べていても構わないと言われたのだが、今日のネアはエーダリア達とも一緒に食べたかったので、同じ時間にして貰った。

どうやら、ウィリアムとアルテアもその時間に合わせたようだ。



そこでネアは、ウィリアムとその談話室の窓側の椅子のところで並んで座り、今回の事件のことなどを色々お喋りすることにした。



窓の外は夜明けの光度を維持したままの明るい夜だ。

この時期特有の雪明りに、ぽわぽわと飛び交う妖精や精霊達。

夜にだけ活動する生き物達が困惑したように飛び交い、或いは木の枝の上や雪の上を駆けまわっているのだが、それが妙に眩く綺麗で目を奪う。

その美しさに目を細め、ネアはどうしても綻んでしまう唇の端を指先でなぞった。



「シルハーンとは、下でのことを話せたのか?」


こちらを見たウィリアムの瞳は優しい。

そこに映るのは怜悧な終焉の色なのに、今やすっかり頼れる魔物になったのだ。


「はい。元気でいてくれた先程までに、たくさん話をしていました。あちらで見たものや、感じたこと。出来事や出会った人、………ディノは辛そうでしたが、じっくり話を聞いて頭を撫でてくれました。こういう話をする時は、椅子になる系の魔物も素敵だなと、今回あらためて思った次第です」

「うん、話せていたなら良かった。今回は、シルハーンも、…………勿論俺も、少なからずひやりとした。春告げの舞踏会に行っておいて良かったな」

「……………ふぁい。ただ、ディノも髪の毛の一部をくれているので、もう一回の保険はあったそうです。ですが、あんな目には二度と遭いたくありません」

「そうか、そういう意味でも切り分けておいたんだな………」


そう呟いて深く息を吐いたウィリアムに手を出され、ネアは首を傾げたままそこに自分の手を乗せてみた。

ゆったりと握られたその手にじわりと体温が染みわたり、ネアは何だか泣きそうになる。



「…………ネアは終焉の子供ではあるが、頼むからもう、どんな祝福があっても死なないでくれると助かる」



静かな声はどこか熱を孕み、その冷たい熱を押し殺すようにウィリアムの声は静かだった。

苦し気に曇った白金の瞳を見上げて、ネアは、今回のことはウィリアムを最も悲しませてしまう事件だったのだと息が苦しくなる。


握ったネアの手に一度だけそっと唇を押し当て、ウィリアムは目を伏せた。

吐息の温度に安堵に変わる前の苦痛が滲み、ネアは彼が終焉だったことを痛切に感じた。



「…………もう二度とウィリアムさんを悲しませません。………今回の悪夢の中では、ウィリアムさんがくれた紐を靴紐にした雪靴を履いていたので、私が至らないところを沢山助けてくれていたのだと思います。ウィリアムさん、あの贈り物をくれて、有難うございました」

「………あの世界に居るのが、俺ではない俺で心から良かったと思うよ。死を経たのであれば、それは一度俺の手の中に落ちてくる。君のものだけは受け取りたくない。………人間には死者の国があるが、それでもだ」

「まぁ、私にとて老衰で幸せにぽっくり逝く権利はありますよ?でも、その代わりに、二度とみなさんを悲しませたり、不安がらせるような死に方はしないと誓います。今、ディノとダリルさんと、すごい武器を制作中なので、それが完成すれば無敵になりますから!」

「武器?」


そこは感動して頷いてくれる筈のところだったのだが、なぜかウィリアムは微かに慄いたような目をした。

しかしながらネアは、今回の武器開発には多大な自信を持っていたので、微笑みを深めてその仕組みを説明する。


「はい。携帯用の、箱型隔離結界のようなものなのです。ガレンでは、階位の低い魔術師さんや騎士さん達が魔獣討伐で使えるように開発しているものがあるそうで、それを改良して貰っているのです」

「………ああ、確かそんなものがあったな。投げつけることで、対象物を飲み込んで幽閉する魔術だった筈だ。だが、相手にある程度の魔術可動域があれば、すぐに打ち破られてしまうだろう?」



(…………む)


そこでネアは、当たり前のようにネアを膝の上に持ち上げて抱き込んだウィリアムにむむっと複雑な顔になったが、これは親御さんが迷子から戻って来た子供を抱っこするようなものなのかもしれない。

きっと、椅子になりたい系の魔物になった訳ではないのだろうと自分を説得し、微かな不安を押し殺す。


膝の上に設置されると顔を見てのお喋りは出来なくなったが、その代わりにウィリアムは少し落ち着いたようだ。

肩に顔を寄せられたので、安堵の小さな溜め息が聞こえる。


「…………そこで敵めが反撃出来ないように、箱の内側にはみっしりときりんさんの絵が描かれています」

「…………おっと、…………それは凶悪だな」

「はい。そして中でも寂しくないように、きりんさんのぬいぐるみも一緒です」

「……………立体のものもあるのか」

「さらには、中で退屈しないように、刺激の強い激辛香辛料油が降り注ぐ仕組みなので、刺激もいっぱいです」

「ネア、……俺に何か不満があったら、それを投げつける前に話し合ってくれると嬉しいな」

「むむ。ウィリアムさんにきりん箱を投げつけたりはしません!ウィリアムさんが死んでしまったら困るのです………」

「ああ。俺も、その箱の中では死にたくないな………」

「最終系では、中に人面魚の模型も用意します。今回開発しているものを、是非にあの精霊さんで試してみたかったですね………」


そう呟いた残忍な人間の暗い目に、ウィリアムは少し心配になったようだ。

もし蹂躙の精霊王に何かをするようであれば、まずは自分に相談して欲しいと言ってくれた。

膝の上に抱えられたまま、穏やかな労わり深い声でそう言われ、ネアは頼もしさと安堵にほこほこしながら頷く。


こうして、ウィリアムの助けも得られるようになれば、もしあの精霊がディノを傷付けようとした時にも助けて貰えるのでとても嬉しかった。



(あの精霊さんが、ディノを…………)



「むぐる………」

「…………どうした?」

「ウィリアムさんに相談して欲しいと言って貰って、これでディノが狙われても安心だと思ったのですが、あの精霊さんがディノに何かをすることを考えたら、うっかり何かをする前に滅ぼしてしまいたくなったのです…………」

「ネア、一応は、……恐らくだが、あの精霊が正妃の契約の精霊であることも、この国の安定に繋がっている筈だから、今は我慢してくれ」

「むぐ。先程、ヒルドさんにもそう言われました。ノア曰く、ヒルドさんの羽を毟ったのは、あの精霊さんではないようですので、ほんの少しだけほっとしました………」


もしそれもあの精霊であれば、ネアはこっそり髪の毛だけ毟ってやるような呪いをかけたいという誘惑に抗えなかったかもしれない。

どうであれ、あの精霊が王妃と一緒にヒルドの祖国を滅ぼしたのは間違いないのだ。



「あんな精霊さんは、紙容器の精を踏むか、逃げ沼に落ちればいいのです。………こちらでは直接関わっていませんので、そのくらいで我慢しましょう!」


そう呪いの言葉を吐いたネアに、ウィリアムはくすりと微笑むととっておきの秘密を教えてくれた。

声を潜め耳元で囁かれたとんでもない秘密に、ネアは目を丸くする。



「それなら、あのアムの弱点をネアには教えておこう。彼女は、ジャガイモが苦手なんだ」

「…………なぬ」


ネアは目を瞠ったまま、それは果たして本当に、あの残忍な美しい精霊のことだろうかと首を傾げる。

アムという愛くるしいにゃんこかわんこのような名前なのはさて置き、どう考えてもジャガイモが苦手なようには見えなかった。



「以前、彼女が滅ぼした国は有名なジャガイモの産出国でな、国民を失い、収穫をされずに畑に残ったジャガイモ達はその後の長雨や水害で全部腐ってしまったらしい。そこで、祟りものになったジャガイモが、アムに報復したんだ」

「…………ジャガイモが………」

「植物の系譜のものの呪いは、執念深く、特定の個体を滅ぼしても剥がれないことが多い。水仙のようによく祟る植物には特定の薬があるが、その当時、ジャガイモにはまだそういう薬がなかった」

「どんな目に遭ってしまったのですか?」


ウィリアムが教えてくれたのは、背筋も凍るような恐ろしい呪いの数々だった。

ジャガイモ達は、蹂躙の精霊王を決して許さなかったらしい。


入浴しようと思って浴槽に行くと、浴槽いっぱいにジャガイモが詰まっている。

他の者達には普通に綺麗なお湯にしか見えないので、アムがどれだけ怒っても騒いでも、どうにもならないのだ。

また、食事で大好物が出ると、そのほとんどは生のジャガイモの味に感じられ、時々飲み物もそうなる。

ふかふかの寝台はジャガイモ臭くなり、マットレスもジャガイモが挟まっているようにごつごつとして寝心地が悪い。

更には、時折どこからともなくジャガイモが飛んできて、頭にごつんと当って消えるのだそうだ。


「…………もしかしてあの性格は、そのせいで歪んでしまったのでは…………」

「いや、残念ながら生まれながらにしてあのままだ。それに、呪われていたのは千年近く前のことだからな。その呪いを解く為に、言の葉の魔物が半年程攫われて協力を強いられていたことがある。結局、呪いが強すぎて彼にもどうにもならなかったが、巻き込まれた他の生き物達の願いが伝わったのか、呪いは百年程で自然に消えたそうだ」

「………………ひゃくねん」

「今でも、アムはジャガイモだけは食べられないそうだ。………実は、面識はほとんどないんだが、その呪いを受けていた時に、ジャガイモをこの世から殲滅出来ないかどうか、相談されたことがあったんだ」

「なぬ。美味しいジャガイモですので、それは許しません!」

「はは。そうだな。ネアはチーズをかけたのが、大好きだったものな」



ネアは思わず、あの腹立たしい精霊の肩をぽんと叩いてやりたくなった。

ほかほかに蒸したジャガイモに、あつあつとろりのチーズをたっぷりかけて食べるあの料理を楽しめないなんて、さぞかし悲しい人生に違いない。

これで、何かあってきりん箱に閉じ込められてしまったりしたら、辛いものも食べられなくなるのだろうか。



「…………ネアが違う椅子に浮気してる」

「あら、ディノ、元気になりましたか?」

「今日はまだ帰ってきたばかりですからね。シルハーンがこちらに戻るまでは、俺が預かっていました」

「他の魔物を椅子にするなんて…………」

「あらあら、ふふ。では、ディノを椅子にしましょうか?少しだけ、伴侶な魔物さんを椅子にするということを、先取りで試してみますね」


しかし、ネアが良かれと思ってそう言った言葉に、またしても魔物は死んでしまったようだ。

くしゃっとなってしまい、到底椅子になれる様子ではなかったので、ネアは妥協案としてムグリスになったディノを膝の上に乗せていることにした。


「人型のディノは、死んでしまうと大きくて持ち運べないのですが、ムグリスディノであれば自由に持ち運べるのでどこにでも一緒に行けますからね」

「キュ!」


ご主人様に大事に抱き上げて貰ったムグリスディノは、安心して膝の上で遊んでいるようだ。

ぽてぽて歩いて転んでみたり、撫でて欲しそうにじっと見上げてはお腹を撫でられてぴくぴくしていたりする。

時折、ネアが大事さが募って両手で持ち上げて頬にふかふか毛皮を寄せてすりすりすると、ちびこい三つ編みをへなへなにして恥じらっていた。



「…………おい、何だその状態は」

「む。居眠りしていた使い魔さんが起きました。臨時で椅子になってくれた優しいウィリアムさんと、椅子になれないくらいにくしゃくしゃなのでムグリスになってくれて私を椅子にするディノです」

「…………は?」

「椅子になって貰い、椅子にもなっているので、これほど安全なことがあるでしょうか。今の私はとても守られています!」

「キュ!」


なお、ウィリアムはやはり疲れていたのか、ネアを膝の上に乗せてそのお腹に腕を回した拘束椅子の状態のまま眠ってしまったようだ。

最近、魔物は丈夫だという認識がついてきたお蔭で、ネアは安心して椅子として利用させて貰っているので、変に居心地が悪かったりもしない。

ただし、本当は長椅子のクッションに座るのが一番だとは思っているので、そこは内緒であった。



一時間程眠って回復したのか、起き出してきたアルテアはその光景に唖然としたようだ。

ムグリスディノを膝に乗せるのは構わないが、ウィリアムを椅子にするのはやめるようにと、なぜかネアはお説教されてしまうことになる。



帰って来たばかりなので甘やかされていてもいいのではとしょんぼりしたネアに、アルテアが代わりにと厨房で美味しい特製スパイスティーを淹れてくれることになった。

明日には白けものにも会わせてくれるという言質も取ったので、ネアはご機嫌でウィリアムを起こす。

ウィリアムは気持ちよく寝ているところを起こされてしまったので少し不機嫌そうだったが、みんなで美味しいスパイスティーを飲む頃にはいつもの優しいウィリアムになってくれていた。



エーダリア達の部屋にいた銀狐もちょうどネア達を探しに来てくれたので合流し、若干二名程毛皮生物になってしまっていたが、ネアは晩餐までの間、魔物ともふもふのけものまみれの素敵なティータイムを過ごしたのだった。










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