白けものとちびふわ
その日は朝から吹雪で、窓の外は重苦しい灰色に染まる。
その灰色を切り裂くようにしてびゅおるりと吹きすさぶ雪は、不思議な色の織りでネアの目を奪った。
魔術で守られた庭の木々や草花を心配することはないし、こうして部屋の中はぬくぬくと温かい。
そうなればもう、窓の外の酷い吹雪も、ネアにとっては美しい灰白のオーロラのようなのだった。
「今年は、ムグリスの渡りが遅かったのだそうです。昨年とは違う群れが来たらしくて、少し体が小さ目でふくふくしていて可愛いんですよ」
「ご主人様が浮気する」
「世界一大好きなムグリスはディノだけですので、そんな風に巣に引き籠ってはいけません。ほら、もうすぐ私との賭けに敗れた使い魔さんが、毛皮の喜びを提供しに来てくれるのです」
「アルテアばっかり…………」
「ふふ。ディノもムグリスになって抱っこされてしまいます?」
「それなら、私が君を持ち上げる方が良さそうだね」
「…………謎に椅子が発現しました。どうしてこうなってしまうのだ」
ネアはすっかり椅子になってしまった魔物のお膝の上でばたばたしたが、なぜかその上で暴れると魔物がますますはしゃいでしまう仕組みのようだ。
「可愛い。弾んでる」
「むぐふ!離し給え!!」
「君は逃げないと約束してくれたからね」
「なぬ。それはディノとこれからも一緒ですよということであって、このような拘束椅子からは脱出するのだ」
「困ったご主人様だね。もう少し素直に甘えておいで」
「解せぬ」
そうして魔物に椅子になられていると、新年明けましておめでとうな今年初めての白けものが、もそもそと歩いて部屋に入ってきた。
「白もふ!」
ネアがはしゃぐとどこかうんざりしたような顔をするので、ネアは拘束椅子をばりっと引き剥がして逃げ出すと、ぐぬぬといった様子で頑張って逃げずに踏ん張っている白けものに飛びかかった。
「いい子にしていましたか?他の誰かの愛玩白けものにされていませんか?」
そう尋ねたネアにぷいっと顔を背けるくせに、尻尾は微かにふりふりしているので、溺愛されるのは満更でもないようだ。
「首回りの毛並みも、耳の後ろもふかふかです。さてさて、お腹のもふもふはいかに!」
「………ッ?!」
いきなりお腹に手を伸ばされたので、白けものは仰天したようだ。
いつもは首回りの毛並みや耳の後ろを丁寧に撫でて意識が朦朧としてからお腹に移行されるのだが、今日は久し振りなのでいきなりのチェックになってしまった。
「てりゃ!」
前足の間から手を差し込まれ、早速お腹を撫でられてしまった白けものは、耳をピシリと立てて尻尾をけばけばにして固まる。
ネアはその隙にもふふわのお腹を容赦なく撫で回した。
(撫で回しは、速攻で無力化するのがこつ!)
ネアはお腹を撫で回しながら白けものの背中にかけた手に力をいれてゆき、ふにゃんとしてきたところで要領よくてやっとひっくり返してしまう。
かくしてあっという間にお腹を出したしどけないポーズにされてしまった白けものは、ここからが本番だと言わんばかりに襲いかかってきた人間に飛びかかられ、撫で回しの嵐に飲み込まれていった。
「…………ネアがアル…………白けものに浮気する」
「あら、撫で回しで力を出し尽くしたので、敷布団にしているだけですよ?」
「私のことは、あまり敷布団にしてくれないのに………」
「お布団化して素敵なのは毛皮の特権ですので、そんなところで張り合ってはいけません。ディノも、このふかふか尻尾を握ってみます?」
ネアは現在、すっかり死んでしまった白けもののお腹の上に寝そべっている。
胸元の毛に頬を寄せてすりすりし、後ろ足の内側のぬくぬくしたところに体を寄せて、片手はお気に入りのお腹に乗せたままだ。
普通の獣よりは大きいので、こうしてネアが敷布団にしてしまっても圧死したりはしない。
ネアはあまりの幸福感に暫くうとうとし、意識を取り戻したらしい白けものがぎょっとするのを感じた。
(そろそろ逃げてしまうかしら………)
憧れの雪豹的な生き物とこんな風に触れ合えるのだから、動物園でも見たことがなかった頃を思えばどれだけの幸福だろう。
雪豹好きの歴史に残る雪豹まみれな時間である。
しかしそれも、白けものが我に返って逃げ出すまでのものだった。
「……………むぐ」
その時、ざりりっと白けものに鼻を舐められ、ネアは眉を寄せた。
すっかり懐いてしまっただけなのだが、このような獣の舌で舐められると何だか痛い。
「むが!鼻がなくなってしまいます。むぎゅふ?!」
ネアが抗議したので良い仕返しだと思ったのか、白けものは体を起こしたネアの頬っぺたや首筋をざりりっと、舐める。
怒り狂った人間が尻尾の付け根をこしこし撫でて倒してしまおうとする攻撃と、白けものの舐め回し攻撃とで、暫く混戦状態が続いた。
ばすんともふもふの前足で体を押さえられ、ネアは仕返しに下からお腹をもふもふに撫で回してしまう。
すると白けものは、ふにゃんと体に力が入らなくなったらしく、不利になる前にと逃げ出そうとする。
「…………ネア?」
「む!白けものさんの尻尾を握りしめて寝ていたディノも起きましたね?手伝って下さい」
「…………ご主人様が浮気してる」
「その腰を押さえていて下さいね。とりゃ!!」
狡猾な人間は契約の魔物の助力を得て、腰を掴まれてむぎゃっとなった白けものの尻尾の付け根をこしこし撫でてしまう。
すると白けものはくしゃりと腰砕けになってしまい、へなへなと床に潰れた。
先程までの魔物的な悪い目はとろんとしてしまい、またしても撫で回されるだけの白もふとなる。
「ふふふ。勝ちました!そのまま撫で回されるといいのだ」
「ずるい。ネアが夢中になってる………」
「ディノも撫でますか?この、お腹のふかふかも素敵ですし、お尻のふかふかも素敵なのです」
「……………ネアが変なところばかり撫でる」
「あら、狐さんのお尻もふかふかで素敵でしょう?白けものさんのお尻を差別してはいけませんよ。白けものさんは白けものさんなのです」
その後、白けものは尻尾を持ち上げられふかふかのお尻まで容赦なく撫で回され過ぎて、ぴくぴくしながら蹲る白もふに成り果てた。
かなり傷ついた目でこちらを見ているが、時折こうして撫で回しの癖をつけておかないと、せっかく懐いていたものが逃げてしまうかもしれない。
大事な白けものに逃げられたら困るので、ネアも色々と悪どく企んでいるのである。
「こうして撫で回し中毒にされた白もふは、一生撫で回しから逃げられないのですよ」
「そうなんだね。…………生きてるかな」
「ふむ。すっかり死んでしまいましたが、またすぐに元気になってくれると思います」
「…………後で、アルテアにも会うのだよね?」
「はい。アルテアさんには、以前作って貰ったパイにスパイシーなソースの入ったものを作って貰うのです。それと、今日は素晴らしいタルトがあるそうなので楽しみです!」
実はそのタルトで、アルテアは白けものの撫で回しの時間短縮を申し出てきたのだった。
あまりにも魅力的なタルトにネアは陥落せざるを得なく、白けものの撫で回し時間は随分と短縮されている。
しかしながら、既に死んでしまったので充分だったのかもしれない。
その後ネアは、蹲った白けものには毛布をかけておいてやり、荒ぶってしまったディノをよしよしと撫でて慰めてやる時間を設けた。
ディノは自分とてご主人様のお気に入りだと示すべく、ぐりぐりと頭を押し付けてくる。
困ったものだなと思いはしたが、やはり人間とは違う感性もあるのだろう。
撫でられる系の喜びにも貪欲なのかもしれないので、ここはご主人様としてそんな魔物の願いを叶えてやらねばならない。
「ふふ、ディノも今日は甘えたですね」
「ご主人様が浮気するといけないからね」
「…………むぅ」
「ほら、爪先も踏んでいいよ」
「むぐぅ」
「今日は寝台から蹴落としても構わないからね」
「…………やめるのだ。それはどんなに頑張っても年に一度だけのご褒美だと言ったでしょう?」
「ご主人様………」
窓の外の吹雪はいっそうに強まっていた。
今日外で働いている人々にとっては、この天気はひどい災難に違いない。
しかし、すっかり閉ざされて強固であたたかな家に守られていると、そんな隔絶も何とも秘密基地めいた不思議な愛おしさが募る。
しゅんと、またポットの保温魔術が溜息のような優しい音を立てる。
最近変えられたばかりのカーテンは、淡い青みがかった灰色に虹色の艶のある白い糸で羽と葉っぱの模様を織り上げた美しいものだ。
前のカーテンにかけられた守護や環境保持の魔術が古くなったので、ネアの部屋のカーテンは新しいものにして、元のカーテンは専門の妖精に糸を解かせてその糸を救貧院などに贈るのだ。
リーエンベルクだけのものである魔術を剥ぎ取られても、その糸にはふくよかな守りの残響が残る。
リーエンベルク特有のものは悪用されないように気を付けざるを得ないので外には出せないが、リーエンベルクに紐付く魔術を剥ぎ取っても使えるものは、きちんと大事に使われるのが習わしなのだ。
(そうすると、例えばあのカーテンはどこかの救貧院で新しいカーテンになる……)
織り直されてその窓を飾るカーテンは、市販のもの以上の最高品質の保温性や遮光率を持つ素晴らしいカーテンになるのだった。
更には、本来は市井では手に入らない最高品質の糸を織ることを体験させることで、救貧院の子供達にとっては高価な織物を織り上げるという将来の為の職業訓練にもなるらしい。
織物業の業界には、妖精や魔物が多い。
家族を亡くした子供達がその業界に入ると、自分だけの契約の子供を尊ぶ彼らに見初められて、伴侶や歌乞いになる事も多いそうだ。
「…………ネア?」
「前のカーテンのことを考えていたのです。あのカーテンを解いた糸が、いつか孤独な誰かの人生を変えるのかもしれません」
「君は、そういう事も考えるのだね」
「ええ。不思議で美しいことですからね。そんな風に私達の知らないどこかで、かつては私達のお部屋にあったカーテンから繋がる幸福があればいいですね」
明日は、いよいよ待ちに待った星祭りだ。
その夜にもきっと、幾多もの願いが叶ったり、星屑が叶えてくれずにがくりとしたりするのだろう。
「…………おい、そろそろ昼食にするぞ」
「あら、アルテアさんがやって来ました。白けものさんは帰ってしまったのでしょうか?」
「…………もう充分だろうが」
「後で、ちびふわさんにも会えるのですよね?」
「半刻だけだぞ」
本日のコースは、三本立てである。
まずは白けものの撫で回しから始まり、使い魔に作って貰ったお昼をいただく。
その後は少しだけちびふわと遊び、楽しい一日の締め括りとなるコースだ。
そろそろいい時間だということで、三人はネアの厨房に移動し、まずは前菜が出されることとなる。
「こ、これは………!」
ディノもじっと見ている前菜は、まめな使い魔こと選択の魔物が、予め作っておいてくれたものを持って来てくれている。
それをどこから出したのか分からない優美なお皿に乗せてくれ、ことりとネア達の前に置いてくれた。
「アルテアさん、………ちょっと、草臥れました?」
「やめろ」
「髪の毛が少しくしゃっとしていて、何だかしどけない感じですね」
「気のせいだな」
前菜に出されたのは、茄子と玉ねぎのトマト煮込みの冷製と、川海老のリゾットの一口盛りを乗せた小さなかりかりクラッカー、とろとろ卵に燻製したチーズを薄く削ってかけたものだ。
「ほわ!この削られたチーズがお口の中で、ふわっといい匂いがします!!」
「ザルツにある杏畑で燻製させたものだ。杏の木の妖精にチーズを少し分けてやると、燻製チーズにも杏の祝福が広がるらしい」
「だから、こんなにいい香りがお口の中に広がるのですね」
「これは美味しいね………」
「ディノは、とろとろ卵系のものが好きですよね」
「うん………」
川海老のリゾットは、香草も刻んで入っているようで淡い緑色をしている。
魔術でほかほかを維持されたままに乗っかっていた。
「…………美味しいです!」
「今回は少なめだ。お前はそろそろムグリスになるからな」
「私の腰はきゅっとしてますが、その不名誉な言いがかりが気にならないくらい、美味しいものばかりです」
「それと、これがパイだな」
「パイ様!!」
ネアが大喜びで弾んでしまうさくさくとろりのパイが登場し、アルテアの振る舞い料理で前にも見たことがある、白い美しいお皿に乗っている。
白一色の繊細で優美なお皿で、前にも二回程見かけたのでお気に入りなのだろう。
だからネアも、このお皿は丁寧に扱うことにしていた。
「…………相変わらずの美味しさに、使い魔さんを失いたくない思いでいっぱいです!これからも、ずっと仲良くして下さいね」
「どうせお前は、俺がどうしようと呼びつけるだろうが」
「ウィームにもお宅があるなら、いつでも会えますね」
「…………お前は気軽に呼びすぎだぞ」
「むむぅ。………それなら、上物を貰うまでは逃がせないので、今後は暫く控え目にしますね。次は、…………一月後くらいならいいですか?」
「一月も野放しにしたら、お前はまた事故るだろうな」
アルテアがそんなことを言うので、ネアはディノの方を無言で見上げた。
さくさくとろりなパイを美味しく食べていた魔物も、アルテアも事故るという同意の眼差しでこくりと頷いてくれた。
「………確かに、私が見ていない間にアルテアさんが事故っていなくなっては困りますが、アルテアさんも立派に自立した魔物さんですし…」
「やめろ」
「ちびぽわ様に呪われたばかりなのです」
「保冷庫にも落ちるのかな………」
ディノが心配そうにそう言えば、アルテアは保冷庫とは何のことだろうと訝しげな顔をしていた。
実際に落ちるのはその翌月のことだが、ネアは案の定の事故に慈母のような気持ちでちびふわを解凍出来たものだ。
「さて、夜の雫がけの月無花果のタルトという素晴らしいものをお腹いっぱい食べましたし、そろそろちびふわさんを抱っこしますね!」
「…………アルテアなんて」
満腹で素晴らしい気分の食後になり、ディノは悲しげにそう呟きながら、ちびふわ術符をネアに渡してくれた。
ちびふわになる前に休憩が必要だと、どこかへ煙草を吸いに行っていたアルテアが、戻ってきて深く溜め息を吐く。
今日は寛いだ雰囲気で来たのか、シャツにジレだけの服装だ。
「…………さっさとしろ」
「格好をつけてみても、これからちびふわにされてしまう使い魔さんですね」
そう言えばアルテアはひどく嫌そうな顔をしたが、ぺたりと術符を肩に貼られぽふんとちびふわになって床に落ちる。
「ちびふわ!」
「フキュフ」
「愛くるしいです!あの巻き角がないのが寂しいですが、こんなちびふわでも至高のちびふわですからね!」
「……………フキュフ」
相変わらずの垂れ耳が愛くるしいちびふわは、見た目より俊敏に動ける生き物である。
ムグリスディノがぽてぽてと歩くところを、このちびふわはしゅばっと走れるのだが、尻尾がふかふか過ぎるので、時々絨毯に引っかかってぽてりと転ぶ。
尻尾を器用に使ってドアノブやカーテンレールに引っかかることも出来るのだが、手足が短いので次の移動先に手が届かないこともある。
そんな姿を見ているだけで、ネアは心が洗われて綺麗な人間になれる気がした。
可愛いは正義である。
「ところで、ちびふわは何を食べるのでしょう?」
「…………フキュフ」
「固形飼料は嫌でしょうから、果物でも食べてみます?」
「フキュフ」
実はネアは、密かにちびふわの生態を調べていた。
抗いきれないような習性や大好物が分かれば、銀狐のボールのように中毒になるもので楽しませてあげられるかもしれない。
(ちびふわもボールが好きなら、ボールで釣って自らちびふわになってくれると思ってたのだけど………)
残念ながらちびふわは、ボールには興味がなさそうだ。
それよりも、ネアの膝の上に乗せてもらってくるくると丸まってお昼寝するのが好きらしい。
「フキュフ」
「む!食いしん坊ちびふわですね。それは、ノアに貰った高級フルーツケーキなのです」
ててっとその辺を走っていたちびふわは、テーブルの上に乗せられていたノアがお裾分けしてくれたフルーツケーキをはぐっと齧る。
しかし、齧った直後になぜ自分はこんなことをしたのだろうとこてんと首を傾げていたので、魔物としては無意識だったようだ。
そして、悲しい事故が起こった。
「フキュフゥ…………」
困ったことに、そのフルーツケーキはお酒の風味の効いた大人のフルーツケーキだったのだ。
高価なお酒をたっぷり染み込ませてあるものを薄く切って、濃いめの紅茶といただくのがザルツの風習らしく、昨日ザルツにデートをしに行っていたノアのお土産である。
「ディノ………」
「困ったね………」
保存食向きの高級ケーキでもあり、一口サイズのものをキャンディのように紙に包んである可愛らしいお菓子だ。
そういうものなので、テーブルの上にちょこんと置いたままだったのを、ちびふわは紙を剥いで齧ってしまったようだった。
そして、見事に酔っ払った。
「…………早速事故った使い魔さんです」
「ちびふわ……は、お酒に弱いのかな」
「うむ。そのようですね。すっかりへべれけで、しかも絡み酒です」
「………アルテアが深酔いするのはあまり好ましくないのだけれど、これは大丈夫そうだね」
「可愛いだけでしたね」
酔っ払ったちびふわはなぜかネアの指を離さなくなり、フキュフゥフキュフゥ鳴きながらあぐあぐ甘噛みしている。
しかしながら、お口がとても小さいので、ネアからすると擽ったいくらいで済んでしまう。
「…………アルテア」
「まぁ、ディノがしょんぼりしてしまいました」
そんな魔物の姿にディノはすっかり落ち込んでしまい、元の姿に戻ったアルテアは酷い二日酔いに悩まされることになる。
勿論、魔物の薬ですぐに二日酔いは治ったようだが、自身がちびふわになって醜態を晒したと知ったアルテアは、よろよろと帰ってゆき一週間程姿を消してしまってネアはたいそう心配した。
しかし、使い魔が森に帰ってしまったのかと不安がるネアに、ノアが教えてくれた手法を取ったところ、アルテアはきちんと戻ってきてくれたので、一時的な心の旅に出ていただけのようだ。
「ほらね。ウィリアムとテント遊びをするって言えば放っておかないだろうからさ」
「アルテアさんは、ああ見えてウィリアムさんとは仲良しですよね」
「わーお。ネアはそう見ちゃうんだね」
「む?」
「それと、ウィリアムと本当にテントに泊まるなら、僕も一緒に行くよ。銀狐の姿なら、ウィリアムも嫌がらないと思うんだ。最近なんだか銀狐に優しいんだよね」
「それは多分、狐さんが、ウィリアムさんが来る度に竜さんではないかと走ってやってきてしょんぼりして帰って行くので、罪悪感に苛まれてしまっているからですね」
「ありゃ。そう言えばそんな感じだ」
アルテアは森には帰っていなかったようなので、また元気にちびふわになってくれるだろう。
今度から、悪さをしたら、ちびふわにしてあのフルーツケーキを食べさせてしまうと叱ればいいのだと、ネアは凛々しく頷いておいた。