夜明け前と髪留め
目を覚ますと窓の外は猛吹雪だった。
ウィームは夜明け前から暗く白い闇に包まれ、こうこうと窓の外で雪風が音を立てる。
(…………雪の魔物か)
これはそちらに何か理由があるなと思いながら、部屋の中にあるポットを持ち上げた。
事前に頼んでおいた銘柄の紅茶が熱い状態のまま備えてあるあたり、このリーエンベルクはいつも手厚い。
白金色のポットは五つ並んでいて、氷水とお湯、珈琲と紅茶、そして温められた牛乳が入っている。
アルテアが泊まる際にはいつも、牛乳のポットは不要だと話しているので空になっているが、今回はこの季節らしく、蜂蜜とクローブの香りが立つホットワインが入っていた。
乳白色のカップにそのホットワインを淹れ、窓辺に歩いてゆくと、こんな時間でも雪灯りで薄明るく、白く染まったウィームの中庭が見えた。
人目を気にせず窓を開け放てる居住棟ではない代わりに、こちらの窓からは共用の区画になる中庭なども見渡すことが出来る。
(庭の管理者が歩いた跡もない。夜半過ぎから降っていたな……)
人外者の手による気候の急変の場合、突然がらりと天候が変化するので時間にしていつ頃からそうなったのかの認識がし難い。
しかしこのような施設では定時の手入れや警備があるので、その足跡を見ることで時間の目安をつけることは可能だった。
ウィームの庭の管理は、妖精や精霊達の活動時間を過ぎた頃合いである夜半過ぎにも一度見回りがある。
(ウィームの近くにあいつがいるのか……)
雪の魔物は気難しい男だが、冬の性質を好む者達にはひときわ美しく感じる魔物でもあるという。
ニエークは、黄褐色と灰色の瞳に銀混じりの薄青い髪をしているので、色彩などが冬を感じるもののその通りという訳でもないが、なぜか冬を愛する者達は、彼に心惹かれるのだそうだ。
そして実際に、ネアも冬告げの舞踏会では、雪の魔物と氷の魔物の容姿をかなり気に入っていたようだ。
また、ネア自身も冬の系譜からはかなり評価が高い。
ウィリアムの関係した女がネアを褒めたと聞き、それは確固たる確信に変わった。
ウィリアムを妄信的に好むような女は、決してウィリアムが同伴する他の女を褒めるような気質ではない。
それなのに一言でも褒めたと言うことは、それだけ冬の系譜の人外者達にとってネアは魅力的に映るのだ。
それを考えると、ネアとニエークを個人的に会わせるのは避けたかった。
ニエークは、美しいものや気に入ったものに、時として病的な執着を示す。
どうも嫌な予感がするのだ。
窓の縁には氷がつき、吹き付ける吹雪が雪の結晶のその形を押し当てては、窓を守る魔術に溶けて消えてゆく。
見渡す限りのものが白く染まり青い闇を落としたこの情景が、アルテアはなかなかに好きであった。
その時にふと、ふわりと百合とオレンジのようなふくよかな香りが鼻腔に届く。
以前に聞いた気紛れに開いているという大浴場の話を思い出し、興をそそられた。
まだ夜明け前だ。
閉鎖区画ではないし、勝手に入浴しようが構わないだろう。
「………気が利いてるじゃないか」
昨晩、初めて誕生日などというものを祝われたばかりで、気分良く目を覚ましたばかりだ。
その大浴場とやらを試してみるのも悪くない。
ここが領主館である以上もう起き出している者も多いだろうが、その者達は自分の役目で忙しくしているだろう。
無意識に唇に指先で触れ、苦笑する。
ちらりと、隣の続き間のテーブルの上に乗せたブラシの入った箱を一瞥し、顔を顰めると目を逸らす。
何をどう心配されたのかよく分からないが、頭髪の心配をしたことなど一度もない。
そもそも、己の肉体の自己修復をある程度可能にする魔物に、頭髪の減少を気にしたことのある者などいない筈なのだ。
恐らく、そんな認識をあえて正さずに、ノアベルトあたりが面白がって手配したのだろうと考えていたが、その後のエーダリアの話し振りからするとノアベルトも使っている可能性もあった。
小さく溜め息を吐き、今度は、枕元のテーブルに乗った箱の上に置かれた手袋に視線を向ける。
理由がどうあれ、手袋は、指輪や首飾り、または耳飾りや腕輪などには劣るものの、身につけるものとしての魔術的な意味のあるものだ。
鍋は一瞬どう捉えていいのか分からなかったが、手袋という選択は中々に悪くない。
アイザックの手袋もそうだが、密に繊細に魔術を編む類の魔物にとって、手袋というのは指先の魔術を読ませない為の便利な道具でもある。
ふっと唇の端を持ち上げ、部屋を出た。
部屋を出ると一段階気温は低くなるが、決して冷えるような室温ではない。
とはいえ、冬にこそその恩寵や祝福を深くするウィームらしく、リーエンベルクの外に向けた窓のある廊下は全て、冬の気配を少しだけ感じ取れるよう、あえて保温の魔術の段階を下げてあるのだそうだ。
(そういう感傷は気に入っている)
季節を楽しみ、それを不便だからという軽率な理由で排除しない。
力のある人間の為政者達の館や、各国の王宮や城などでは、一定の室温を保っていることこそが権威の象徴であるという風潮がある。
彼等はいかに自分に都合よく暮らすかばかりを考え、その窓の向こう、或いは敷地の外にある季節や時間を意識はしない。
魔術で整えられた見事な庭があっても、このように自然のままの美しい森を借景とする王宮は、実は人間のものでは珍しいのだ。
(………まぁ、このリーエンベルクもかなり気に入ってはいるな)
前の領主は散々なものだったので、ウィームを拠点とする古参の人外者達は、さっさと彼らを追い出してしまった。
ネアなら、追い出すというよりも殺してしまったのだろうと言うだろうが、後腐れなく消えて貰うには自滅させるのが一番だったのだ。
勿論アルテアも手をかけたが、既に複数の魔術介入が見えたので、前領主達を排除しようとしていた者達の数は、片手の指では足りない程。
アイザックも、彼等には決して上級区分の品物は売らなかった。
絨毯を踏む、さくさくという小さな音が響く。
ゆっくりと、アルテアの目から見ても見事な絨毯を踏みながら歩いてゆけば、感じていた香りの他に水の気配とでも言うべきか、流動的なものが豊かに満たされている予感を覚えるのだ。
(成る程な。これがネアの言う、大浴場が開いていると分かる感覚か………)
やはりリーエンベルクは面白い。
これは気に入りそうだぞと、微笑みを深めた。
歩いてでも通える距離に本宅があるのだが、さすがにそこまではこの予兆は届かないだろう。
恐らく、リーエンベルクに滞在している者にのみ、香りや水の気配が届くに違いない。
それに、この大浴場をどれだけ気に入ったとて、その報せを何とか受け取れるようにしても、今以上にここに入り浸ることをシルハーンは決して喜ばないだろう。
同じ敷地内に住まうのは、歌乞いの契約の魔物として歌乞いを持つゼノーシュだけなのだ。
大浴場のある部屋はすぐに分かった。
まずは森の絵を描かれた扉に同じ絵柄通りに彫った湖水水晶を貼った扉を開き、大浴場のある区画に入る。
雪結晶のタイル床を歩けば、古いウィーム宮廷文化の傾向が顕著な半円形の天井を持つ廊下の先に青銅色の霧青石の扉が見えた。
森の小道を歩くような緑の枝葉の天蓋が描かれている天井を見上げ、突き当たりの扉を開けた。
ふわりと、百合とオレンジ、それにジャスミンの香りが漂ってくる。
控えの間と従者の間を左右に見ながら、円形の空間の中央に置かれた雪花石の台座と、そこに飾られた森結晶の瑞々しい枝葉を再現した彫刻に立ち止まる。
(葉の緑はそのまま、枝の部分の色合いは上から黄水晶を貼って……いや、イエローダイヤモンドだな)
小さな赤い木の実は、紅玉ではなく薔薇結晶のようだ。
枝の質感や葉の葉脈の表現など、何とも手の込んだ彫刻だが、まるで森から切り出してきた枝を無造作に生けたかのように素っ気なく飾られているので嫌味がない。
それどころか素朴な味わいすらある。
そこを抜けると、晴れた冬空の深い青のような石床の脱衣所の入り口に出た。
右手が女性用、左手が男性用であるようだ。
これもまた、扉に蔦を這わせているように描かれた花の色によってそれとなく示されている。
男性用更衣室の扉を開くと、更衣室の内装は森を抜けて湖の畔に出てきたような空間演出としているようだ。
足元の青い床石の上に立てば、湖の上から森の入り口を望むような気分になり、これから水辺に近付くという感覚が深まるのも良い構図だ。
(清涼感と、期待か。人間の描くものは面白い)
ボタンを外して羽織っていたシャツを脱ぎながら、ふくよかな湯の香りに目を細める。
しっかりと遮蔽されているのだが、どこからかここまで漂ってくるのか、既に扉を開けた時に入り込んだ湯気から部屋そのものに香りが染みついているのかもしれない。
土地そのものの魔術が潤沢なので、一度解放された香りも決して劣化することはなく、その魔術に香りの粒子が生かされ続けているのだ。
ベルトを緩めると引き抜いたシャツを脱ぎ、そこでまた一つ気になって、屈み込むと床に触れる。
「…………温かいな」
どうやら、衣服を脱いだ者が凍えないよう、床石には保温魔術がかけられているようだ。
随所に手がかけられているのは、この施設を使うのが主に人間だからなのだろう。
だが、よく見れば妖精などの想定もあるのか、部屋にある鏡は随分と大きい。
脱いだシャツを雑に畳んで棚に入れ、他の服も脱いでしまうと、前髪を片手で掻き上げた。
指先で梳くようにして馴染ませてから、はらりと落ちてきた前髪に小さく眉を顰めた。
湯の香りがするのでつい前髪を後ろになでつけようとしてしまったが、まだ浴室の中に入っていた訳ではなかったのだ。
一息吐いて、浴室への扉を開けた。
「……………ほお」
大浴場の中は壮観だった。
天井は高く芳醇な香りの湯気が満ちており、シャンデリアから落ちる光が乳白色の湯気に虹色の煌めきを与える。
浴室の各所にはふんだんに花が生けてあり、中央にある湯の湧き出し口には、泉のシーと水竜の彫刻がある。
そのシーの持つ水瓶と竜の守る滝の部分から湯が湧き出し、台座として円形にぐるりと彫り込まれた花々は透明度の高い結晶石を砕いて乗せた加工により、瑞々しく艶やかだ。
浴室全体に使われているのは、霧結晶と白夜の結晶石、青白い色味のものが雪結晶だ。
これだけの白を揃えるだけでも、相当な資金と高位の人外者の尽力が必要になる。
「大したもんだな……」
手早く湯を浴びてから、浴槽にゆっくりと入る。
深い琥珀色の湯には、よく見れば細やかな煌めきがある。
これは土地の魔術が湯の中に溶け出しているから見えるもので、かつてのこの土地がどれだけ豊かであったのかを示していた。
体を沈めながら手ですくった湯の匂いを嗅げば、はっきりと分かる香りの他にも様々な花々の香りが溶け込んでいるようだ。
濡れた手で前髪を掻き上げ、ふうっと息を吐いて目を閉じる。
じわじわと肌に染み入るような湯の温度は、ぬる過ぎず熱過ぎず、それでいて熱が入り込むように感じ、じんわりと疲れが抜けるようだ。
「……………ああ、これはいい」
浴槽の縁に両肘をかけ、仰け反るようにして天井を仰ぐ。
その天井の壁画もまた、素晴らしいウィーム美術を結集させたものだ。
深く息を吐き、目を閉じた。
(土地に含まれる魔術を当時と同じ状態にするのは難しい。その上、常時もう一度湯を引けばこの恩恵は失われる。あえて空にしておき、気紛れに現れるのを待つしかないのか……)
そんなことを残念に思いながら暫く目を閉じていると、湯気の向こうからふと視線を感じた。
(…………ん?)
不審に思い目を開こうとしたその時、ざぶりと水面が揺れた。
あえてそのまま動かずにいると、何者かが浴槽の中を歩いてきたようだ。
特に警戒する様子もなくざぶざぶと音を立てて歩いてくると、なぜか体を寄せるように隣に座った。
「……………は?」
「むぎゃ?!」
亡霊か何かだと思って気にしていなかったが、あんまりなことに流石にやり過ごせなくなり体を起こして目を開くと、こちらを向いていた誰かが飛び退るようにして派手に水飛沫を上げて湯の中に倒れ込む。
どうも聞き覚えのある声に眉を顰め、立ち上がってそちらまで行くとまたしても後退りされた。
「す、座り給え!お湯の中に帰るのだ!!」
「…………何でお前がここにいるんだ」
「寧ろ、何でアルテアさんがここにいるのですか!」
必死に顔を背けながらばしゃばしゃとお湯をかけてくるのは、それまで全く気配を感じなかったものの、先に浴室の中に入っていたらしいネアだ。
顎先まで沈み、頭の上で纏めていたらしい髪は崩れて、すっかり湯に浸かっていた。
「なぜにまだ立ったままなのだ!お座りですよ、こらっ!アルテアさん、お座り!!」
「おい、その言い方はよせ」
「むぎゃふ!近寄ってはいけません!!なぜに浴室着を着ていないのだ!」
「一人で風呂に入るのに、そんなものを着る訳ないだろうが」
あまりにも動揺しているので愉快になって見ていると、中央の湧き出し口を回り込むように、また別の誰かがこちらにやって来る。
無言で湯の中に座ると、やはりやって来たのはシルハーンだった。
「ネアが浮気してる………」
「むが!ディノ、こちらの悪いアルテアさんにお座りを……!!………む、座ってる」
「………お前、いい加減にその言い方はやめろ」
確かに、シルハーンは浴室着を着ていた。
慌ててこちらに来ると、沈んだままのネアを引き上げ抱き寄せている。
「お前も浴室着か」
「当たり前なのです!いいですか、私がお風呂を堪能して去るまではそこから動かないで下さい!!」
「なんでだよ」
「アルテアに何かされたのかい?」
そう尋ねたシルハーンの声の静かさにひやりとしたが、ネアは、らしいと言えばらしい、相変わらずの返答をした。
「その縁のところにぐでんと仰け反って浸かっていたので、ディノだと思ってお隣に座ったのです……」
「自己責任だな」
「むぐぅ!前髪を持ち上げていましたし、お湯にある程度沈んでいたので三つ編みが見えないだけだと思ってしまったのです……むぐ」
「ほらみろ」
「し、しかし、ざぶんと立ち上がったのはアルテアさんなのです!」
「無人だと思って入ったんだ。それが、いきなり誰かに隣に座られたら立ち上がって当然だな」
「…………先客がいないと思っていたのですか?もしかして、うっかりさん…」
「やめろ。お前達も気付いてなかったろうが」
「………では、アルテアが何かをした訳ではなかったんだね?」
「ふぁい。しかし、浴室着を着てほしいですぎゅ」
「わかった。何か着せておこう」
「おい、邪魔臭いからやめろ。それと、こんな魔術特異点でこいつから離れるな」
「ネアがいつの間にかいなかったんだよ」
「ディノが浴槽の縁にくしゃりとなってうとうとしていたので、くるっと湯船の中を歩いて帰って来るだけのつもりだったのです」
呆れたことにそう平然と呟くので、手を伸ばしてその頭を叩いた。
一度頭頂部まで沈んだのか、重く濡れている。
「むぎゃふ!」
「円状に歩くことは、時として魔術を動かす呪いになる。二度とやるなよ」
「………普通に教えてくれればいいのです!なぜに叩くのだ」
「迂闊にも程があるからだな。シルハーン、お前も止めろ」
「………気付いたらいなかったんだ。ネア、こういう場所では離れてはいけないよ?」
「むぐぐ。ディノが動かなくなったので、つまらなくてつい。ごめんなさい、気を付けますね」
「つまらない………」
ネアの不用意なその一言でシルハーンが弱ってしまったので、ネア達は暫く向かいに留まり続けることになった。
濡れた髪を煩わしそうに片側に流しているネアの姿に、ふと奇妙な欲が疼く。
それはまるで、庇護よりも深く踏み込んだ慈愛にも似た、ひどく穏やかな何か。
しかしそれは、ただ飲み込むには、いささか退屈な感情にも思えた。
「………む!」
手を伸ばして首筋に張り付いた髪をすくえば、振り返ったネアは眉を顰める。
こういう時、この人間は決して甘い顔を見せない。
恥じらうこともなく媚びることもなく、ただ、油断ならない生き物と対峙したように目を細めるのだ。
だからこそきっと、飽きることはないのだろうと微かな諦観を覚えた。
そして、だからこそきっと、自分はこの人間に完全な信頼を許しはしないだろう。
気を緩ませ頼り切られてしまえば、いつか飽きる。
飽きるには惜しいと、そう思った。
「………髪の毛を毟ったら浴槽の藻屑にしますよ」
「お前な…………」
相変わらずの言動に溜め息をつき、髪留めはどうしたのかと問えば先程の騒動でピンを失くしたらしい。
「これで留めておけ」
後ろ側に回り込み、濡れて重たくなった髪を絞り、纏めてやる。
濡れた首筋に指を這わせて髪を束ねるのは、また少しだけ欲をそそった。
「ほわ、素敵な髪留めが出現しました。今の音からすると、かちっと留められるやつですか?」
「上下から挟むように留め金を合わせて押せばいい。外すときは、横を指で押さえるんだ。こうだぞ」
「ふむふむ。バレッタ的なやつですね!こやつの仕組みは分かります。髪留めを貸してくださって有り難うございました」
「やる」
「………いいのですか?これはきっと、アルテアさんの前髪を留めるやつでは…」
「俺が使う訳ないだろ」
「なぬ。ではもしや、かつての恋人さんの思い出の品だったり……」
「何でだよ」
「そうでなければ、持ち歩いている理由がありません。そういう品物は、ちょっと面倒臭いので受け取れないのです」
「…………その前提から間違っているからな」
その程度のものであれば、手元の魔術で作れることを説明すれば、ネアは目を丸くして頷いた。
こちらに来て一年も経つくせに、まだこんなことで驚くのかと思わず口元が緩む。
抜け目なく警戒心が強いかと思えば、時々、料理一つで籠絡出来そうに思える程に無防備だ。
「となると、立体きりんさんが作れるのでしょうか?!」
「…………は?」
「武器になる立体きりんさんを作ろうと、縫い物や編み物以外の製作方法を模索しているのです。木彫りは手が痛くなるので、アルテアさんの今の不思議魔術で…」
「おいやめろ。それに俺を巻き込むな。それと、自分から近付いているがいいのか?」
「むぎゃふ!」
またしても悲鳴と水飛沫を上げて逃げていったネアは、草臥れたままのシルハーンを湯の中に落とした。
今度は崩れずにきちんと纏められたままの髪を見て不思議な満足感を覚えたのも束の間、放り出されて余計に拗れたシルハーンの面倒を見る羽目になり、忙しない朝になってしまった。
それからも度々、プールや料理などの時にその朝の髪留めを使うネアを見た。
それなりに気に入っているようなので、ウィリアムに気付かれなければそのまま使い続けるだろう。