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安らかな夜



夢を見た。



その夢は酷い土砂降りの中で彷徨い歩くもので、手には折れた剣を握っている。


目の前に倒れているのは、赤い髪の女だ。

その髪が雨に溶け、やがては塵となり雨に打たれて見えなくなった。



(…………いなくなる)



それはみんな。



「…………出会わなければ良かった」



(…………シーメア)


手を伸ばした先で背中を向けたのは、シーメアか、グレアムか、……或いは、記された名前が本の一冊分にも及ぶくらいの、立ち去り死んでいった友人達の背中か。




「…………静かだろう?誰もいないんだ。私も長くここにいたけれど、誰かと話すのは初めてだよ」



どこまでも続く夜の砂漠を睥睨し、そう呟いた万象の横顔。

はたはたと風に揺れる純白の長衣の裾に煌めいていた虹色の宝石の煌めき。



「………ったく。足元に転がってるのか、立ち上がってどくのかどっちかにしろ」


体を起こして愕然としている背中を蹴りつけ、そう言ったのは初めて出会ったアルテアだった。


その奥で派生したばかりの絶望が怯えたようにこちらを見ていて、更に何柱かの魔物の覚醒の兆候が見受けられた。


闇夜の畔からは闇の精霊が産声を上げ、煌めいた夜明けの光から光竜が生まれた。

妖精の誕生は見なかったが、賑やかになり始めた世界の砂の上に立ち、ただ静かに微笑んでいた万象がゆっくりと立ち去ってゆくのは見ていた。



(俺があの夜に絶望を知ったのなら、シルハーンはあの夜に裏切りを知ったのだろう……)



誰もいない世界に初めて派生した同胞が、ここには耐えられないと命を絶とうとしたのだ。

置き去りにされ、その後の時間を万象はどう過ごし、何を考えたのか。




「花の雨が降るように、絶望がはらはらと降り続けているんだ。あの方の周りで、その雨が降り止むことはない」



そう教えてくれたギードの言葉に、あらためてシルハーンを振り返った。

グレアムが悲しげに目を瞠り、またあの万象の背中を見送ったあの日。




からりと、崩れ転がった骨が鳴る。




「シーメア!また会えたね!」


そう微笑んで、手を取り合う夫婦を視界に収め、ケープを翻して立ち去った死者の国の街角。

何年か後にその街を訪れた時にはもう、二人ともウィリアムの姿を見ても視線が動かない程に空っぽになっていた。

死者達の魂から溶け出した心が真っ白になり、転生が近くなっていたのだ。



「どうしてなんだ?!僕達は友人じゃなかったのか?!………ウィリアム!!」



そう叫んだのは、泣き崩れて憎しみの眼差しを向けたのは誰なのか。

それすらも忘れてしまった。



また、その名前をただの一行として記した頁がめくられ、次の白紙の頁に移る。




「…………さて、一度起きてみませんか?悪い夢は一度手放してしまいましょう」



誰かの声に顔を上げる。

真っ白な頁はどんどん真っ黒に埋められてゆき、またぺらりと頁がめくられる。



真っ暗な城の中で、一脚の椅子が見える。

真っ白な椅子に腰掛けたまま、何年も身じろぎもせずに座っていた万象の姿にぞっとしたあの日。



「俺は、……あまりにも名前が多過ぎて、すぐに頁が塗り潰されてしまうんです。あなたにも、忘れられない名前はありますか?」

「……………さて、どうだろう」


あの時、シルハーンがそう答えてくれてほっとした。

苦しんでいるのは自分で、疲弊しているのも自分で、彼までもが苦しんでいるのだとしたらその痛みを背負うことは負担であった。

万象が同じように苦しんでいると考えることは、どうしてだか恐ろしかったのだ。


ギードが教えてくれた絶望の花の雨のことは、思い出さないようにした。



またぺらりと頁がめくられる。

はらはらと降る花の雨は、誰の絶望だろう。

慟哭の響きは誰の終焉で、誰が今度はこの名前を憎しみの響きで呼ぶのだろう。



「………そんな俺が、あなたの恩寵を失いたくないなど、……どれだけ身勝手な言い分なのでしょうね」



そう呟いて項垂れた額を、ふわりと誰かが撫でた。



「さすがにもう起きた方が良さそうです。悪夢は体に良くないので、まだ起きないようであれば武力行使もやむを得ません。………とりゃ!」


「………っ?!」


べしりと額を叩かれ、ぎょっとして体を起こす。



「…………ふむ。起きましたね」

「…………ネア?」

「魘されるような夢だったのですか?ディノにも、ぎゅっとして貰います?」

「………シルハーンに?」

「私があんまり長時間抱っこしていると、ディノが荒ぶってしまいますからね。そういう時は、狐さんもそうするのですが、ぽいっとやってディノに抱っこして貰います」

「………ウィリアムはいい」

「あら、火の夢を見た時の狐さんは抱っこしてくれるのにですか?」

「……………竜の姿だからね」

「確かに、ディノの巣には入らない大きさですね」



そこではっとして周囲を見回した。



そこは、ウィリアムが借りていた部屋ではなく、見たことのあるネアの部屋だった。



「…………ここには?」

「体調は大丈夫かなと大浴場帰りに覗きに行ったら魘されていましたので、ディノに魔術で運んで貰いました。なかなか目を覚まさないので、長期戦になるのであれば私も眠いので、お部屋に持ち帰る方が楽なのです。………そして、怖い夢を見たのですか?温かい飲み物でも作ってあげましょうか?」

「…………俺に?」

「勿論ですよ。ただし、竜さんの姿なのでお皿から飲むことになるのでしょうか?」

「……………そうなるな。やめておこう」


就寝前に出されたペット用の水皿を思い出し、ウィリアムは首を振った。

そう言えば、まだ朝日を浴びていなかったので竜の姿のままであったのだ。

恨めしい思いで毛皮の体を見下ろし、少し広がっていたらしい羽をきちんと畳んだ。



「…………もふもふお腹」

「ネア?」

「もう一度、後ろ足を少しだけ上げて下さい。お腹が見たいのです」

「……………ん?」

「駄目だよ、ご主人様。竜は毛布がわりにはならないだろう?」

「し、しかし、包まれる大きさの白もふは初めてです。羽を畳んだ時に無意識に足がぴょいっと上がって、ふわふわお腹が見えました!」


ウィリアムは、そこで自分の体勢がどうなっているのかやっと理解した。


寝台ではなく床の絨毯の上に寝かされており、頭はネアの膝の上に乗せられていたようだ。

ネアの隣にはシルハーンが座っていて、どこか不機嫌そうな顔をしていた。



「ほら、ウィリアムは部屋に返そうか」

「むむぅ。しかし現在のウィリアムさんは、雪豹アルテアの生地にも採用された、霧竜さんの姿なのですよ?ディノも大好きな手触りではないですか。………は!さては、もふもふ独り占めへの嫉妬ですね!」

「ご主人様………」

「仕方がありません。半分こですよ。私は上の方のお腹に包まれますので、下半分はお譲りします」

「ネア、駄目だよ?」

「むむぅ。では、私が下に…」

「ネア、それは駄目だ。俺からも禁止させてくれ」

「むぐぅ」


ウィリアムは、慌ててその目論見を阻止した。

流石に下半身に顔を埋めて寝られるのは、色々困ったことになりかねないので勘弁して欲しい。



「では、背中………羽が邪魔です。むしると痛そうなので、やはりお腹」

「ネア、お願いだから毟らないでくれ」

「では、お腹を差し出すのだ!」

「…………さては、眠くて気が荒くなってきてるな?」

「ずるいです!そのふわふわを見せつけるだけ見せつけて、独り占めするつもりですね!!ていっ!」

「ネア?!」


次の瞬間、ネアは荒っぽくウィリアムの胸の中に飛び込んで来た。

慌てて受け止めようとして前脚を開いてしまったせいで、ネアの望み通り腹部に飛び込ませてしまう形になる。


「ネア!」


焦ったようなシルハーンの声が聞こえ、ウィリアムは慌てて首を振った。

これはあくまでも事故だ。


「もふり毛布です。満足でふ!ささ、ディノもどうぞ」

「ネア、駄目だよ。ほら、……ネア?」

「むぐふ。………今夜はこの素敵毛布で寝るので、ディノは後ろから挟んで下さい。ディノの方が大きいので、そうすれば少しは毛布感を味わえますよ」

「………それだと、私はウィリアムと抱き合って寝ることになるんじゃないかな」

「我が儘を言ってはいけません。…………ぐぅ」

「…………寝ましたね」



途方に暮れてそう言えば、シルハーンは小さく溜め息を吐いた。

ひやりとしてその視線を伺おうとしたが、目を伏せられてしまい読み解けない。


(…………その領域を侵したいと、思ったことはない)


どれだけウィリアムがネアを気に入っていても、シルハーンのその手から奪いたいだとか、彼よりも多くのものを欲しいと思ったことはない。


それは元々ネアが万象の指輪持ちであったこともあるし、彼女が明確に万象を選んでいることもある。

その心を生かし伸ばしているのがシルハーンであることや、彼だからこそ彼女を守れていることも分かる。


もし、彼女が誰の手のひらでも咲く花であれば奪いたくなったかもしれないが、彼女が万象の腕の中でしか咲かないであろうと、そう理解出来るくらいにネアは複雑で繊細だ。

そう言う意味では、ネア程にシルハーンに似ている者を、ウィリアムは知らない。

ウィリアムなどとは違い、その不在が己を滅ぼすとしても、決して適合しないものには希望を持たない……希望を持てないのが、この二人なのだ。



(だがら、その腕から顔を出し、少し離れたところで遊んでいる時にだけ、触れられればいいんだけどな………)



伴侶がシルハーンのものだとしたら、ウィリアムが望むのはそれに続く彼女の余分である。

零れ落ちるその全てを欲しいとは思うくらい、貪欲に手を差し出し掬い取り味わいたいとは思う。

とは言え、彼女にはそんな風に群がる者が多いのも、厄介なことだった。


(だからこそ、シルハーンの不興を買うのは御免こうむりたい)


そう思っても、この腕の中で安心して眠るぬくもりは、ともすればこちらの箍を外しかねない程に心地よい。



「…………シルハーン、その」

「この子の毛皮好きにも困ったものだ。ウィリアムがもう少し小さければ、毛布にしようとは思わなかったのかな」

「…………すみません」

「いや、今回は呪いだからね、君のことは責めないよ。ネアの呪いを入れ替えてくれたのも、万が一この子に障りがあるといけないからだろう?」

「………ええ。ネアは、やはり世界の境界を超えた者ですからね。あまりにも事故に巻き込まれているところからしても、より強く大きな運命に流されやすいんでしょう」

「……………うん。そんなことになるとは、考えてもいなかった。………この子にはいつも怖い思いをさせてしまう」


ラエタの時も、だからこそシルハーンは、ネアを近付けさせないようにしてネビアと話をしに行ったのだそうだ。

遠ざけ、強い魂を持つ魔物の運命に巻き込まれないよう安全な足場を守ろうとしたのに、振り返ればネアは、安全な筈の見知った騎士の領域から引きずり込まれてしまっていたのだと。


「だからね、今回のことはこの子が怖い思いをせずに、寧ろ君がお気に入りの生き物になったことで喜んでいたくらいだ。………私もこの子の喜びを喜ぶべきなのだろうが、………どうしてかな、やはり素直に飲み込めないんだよ」

「彼女はあなたの指輪持ちなのですから、それでいいんだと思いますよ。もう少ししたら完全に熟睡するでしょうから、その後でこの手を剥がしましょう。………残念ながら、俺の今の手では上手く出来そうにありませんので、お願いしても?」

「そうだね。………ただ、この子の眠りを邪魔すると、…………大丈夫かな」


その時に、シルハーンが躊躇った理由はすぐに嫌と言う程にわかった。

けれども、ウィリアムはほんの僅かな時間のただ胸を熱くするばかりの体温と重さを楽しみ、腕の中の無防備な寝顔に口元が緩まないようにするので精一杯だ。

一晩を同じテントで過ごしたあの夜のように、腕の中に抱き込んだそのぬくもりと、自ら飛び込んできてしがみついて眠っているぬくもりでは、その甘さはやはり違う。


だからこそ、こんな状況であれその甘さに、なぜか目の奥が熱くなった。



(…………ああ、ここ数日は色々なことがあったな)



ラエタの影絵に落ちたネアに、過去の自分を見られてしまったことが酷く不愉快だった。

そんな自分が彼女を損ない、その心を失ったのだろうと考えた僅かな時間は恐ろしく冷え冷えとした思いで、阻止しようのない事件で失われたものの大きさを考えないように、必死に目を逸らしていた。


(ネアが俺を倦厭していないと分かって、………ギードにも久し振りに会えた)


シルハーンが指輪を贈る相手を得たことに、そしてその事実をグレアムが知ってから旅立てたことに、あんな風に安堵したギードの顔を見れて、ウィリアムも嬉しかった。

いずれ、ネアがシルハーンの伴侶になる頃に彼がこちらに来るのなら、たくさんそれまでの話をしてやろう。

またいつか、ギードと休みの日に酒を飲み交わし、たわいもない話を出来るだろうか。


(……………ネアは、ギードを気に入るだろうか)


そう思うと、少しだけもやもやしたので深くは考えないようにした。

ただでさえ、今日の朝にリーエンベルクを訪れたウィリアムに、ネアは週末のバルバのことを楽しそうに語ったのだ。

内容としては一緒に楽しみたかったという可愛らしいものだが、新参者が何やら定着して仲間になりつつあることに思う事がない訳でもない。

ただでさえ、アルテアやノアベルトと妙に親しくなり過ぎているのは正直気に食わないのだ。


(………でもまぁ、………シルハーンとその隙間に俺だけだと、………失くしそうだな)


淡い苦笑と諦観を握りしめてそう思う。

ネアはとにかく無差別に慕う者を集め過ぎだが、シルハーンは彼なりに精査して彼女を守るものを残しているような気がする。

今回の世界の始まりの荒野を見たのだから、彼ほどに、万象の伴侶が失われることについて考える者もいないだろう。


(妖精も、他の魔物も。………まぁ、竜は排除したがっていたみたいだが。……必要は必要なのか)


そう考えたら、竜に憧れのあるネアは不満だろうなと少しだけ胸の底で苦笑した。

もし擬態を得意としているのであれば、こうやってまた竜の姿になってやれただろうに。


そうしたらネアは、またこうして無防備にこの腕の中に寄り添うのだろうか。



抱き竦めて閉じ込めて、一瞬だけ誰にも渡したくないと思う程に。




「そろそろいいかな……」

「ええ。呼吸が深くなりましたし、今なら」

「………ウィリアム、少しだけ身構えておいで」

「シルハーン?」



そして、お気に入りの毛布から引き剥がされそうになったネアは、眠ったまま猛然と暴れ出した。

抱き締めて離さないという行為は別に問題ないのだが、手を出してくる敵を排除しようとでも思っているのか、天敵に追い詰められたレインカルのように荒れ狂うのでウィリアムもとばっちりを喰らうのだ。



かなり激しい戦いを経て、ようやくネアが分離された頃には、ウィリアムも疲労困憊していた。

ネアは、身代わりとして渡された白い雪豹のぬいぐるみを持たされてすやすやと眠っている。

先程までの凶暴さが嘘のように、穏やかで無防備な寝顔を見ていると、何だか笑ってしまった。



「シルハーン、お疲れ様でした。………ん?………シルハーン?」


ふと気付けば、余程の難作業だったのか、ぬいぐるみを抱えたネアを抱き締めたまま、シルハーンもぐっすり眠ってしまっている。

万象らしい虹持ちの髪を乱して、幸せそうに大事な伴侶になるべき歌乞いを抱きかかえて。



「…………グレアムが見たら、喜んだろうにな」


そう呟いて微笑むと、ウィリアムは慣れない体で立ち上がり、寝台の上にある毛布を引っ張り落とした。

あまり繊細な作業には向かない手足を恨めしく思いながら、二人に毛布をかけてやる。

人型であれば寝台に戻してやっただろうが、さすがにこの姿では無理だ。


そして、少しだけ考えてからネアの反対側からそっと寄り添うと、翼と尻尾を四苦八苦しながら折り畳んで自分も眠りについた。

誰かの寝息を聞きながら眠るのは初めてではないが、この奇妙な贅沢さはなぜだか胸に染みる。

こっそりと額をネアの額につければ、ふにゃりとネアの唇の端が幸せそうな微笑みの形になり、ウィリアムは息が止まりそうになった。



(だが、ものすごい状況だな。………シルハーンと一緒に床で眠るなんて)


そんなことを考えながら、深い眠りに落ちた。




翌朝、ウィリアムはどんよりと曇った空に呆然としながら目を覚ました。

朝からウィームは酷い土砂降りであり、勿論陽光などはどこにも差し込んでいない。

おまけにすっかり熟睡してしまったのか、ネアが起き出してから目を覚ました有様だ。

夜明け前までに天候が回復しなければ、転移で晴れている土地に行こうかとシルハーンと話していたのだが、すっかり寝過ごしてしまったようだ。

既に、呪いを解くのに使える朝日の時間は過ぎてしまっている。



「……………ネア?」

「むぅ。目を覚ましてしまいました。お腹撫で放題だったのに無念です」


その言葉にぎょっとして自分の体を見ると、ひっくり返されたのか仰向けになっている。

その為にか、腕まくりをしたネアは悔しそうに目を細めた。


(………ん?何でズボンも捲り上げているんだ?)


しかし、ウィリアムが混乱しているのに気付いたのか、唇の端を持ち上げる。


「まだ行けそうです!」

「…………っ!!…………ネア、……………待ってくれ。本気でまずい。……ネア!!」


柔らかな手で緩急をつけて体中を撫でまわされ、さすがにまずいと息も絶え絶えに逃げ出そうとして、はっとした。

どうにも首元に妙な圧迫感があると思っていたのだが、その部分にいつの間にか銀狐が丸まって乗っているではないか。

しかも、この騒ぎでも起き出す気配もなく、気持ちよさそうに眠りこけている。


「……………それと、俺の上にノアベルトが乗っているのは何でなんだろう」

「夜明け前に見回りに来て仲間外れに憤慨したようですよ。どんな抜け道で侵入したものか、もぞもぞ割り込まれて目を覚ましたのですが、私よりもウィリアムさんな竜さんの毛皮の方が素敵だと気付いてしまったようで、ウィリアムさんの胸元にべったりと張りついて寝てしまいました」

「うわ、全く嬉しくないな……………」


両手が元の状態であったら、頭を抱えたくなっただろう。

しかもよく見れば、ウィリアムの長い尻尾は、まだネアの隣で熟睡しているシルハーンに握り締められていた。

そちらを見て言葉を失っていると、ネアはふわりと艶やかな微笑みを深める。


「ディノはもう、ウィリアムさんの尻尾に夢中です!」

「何だろう、すごく複雑な気分になるな。それと、昨晩は暑かったのか?」

「む?袖も裾も捲り上げているからですね?これは、素敵な毛皮を全身で堪能する為の準備なのです。肌で感じてこそふわとろ毛皮。もふもふを楽しむ為のお作法ですね!本当は水着でもいいくらいです」

「そんなに嬉しそうに言われると頷きたくなるが、ネア、それは色々と問題があるぞ。………ネア?!」



あちこちを拘束されて身動きが取れなかったことで、ウィリアムはその後、ネアに心行くまで撫でまわされてしまうことになった。

これは本当に色々と危険だと身を持って知ったので、ほとんど野生化してしまってその範疇ではないノアベルト以外の生き物が不用意に獣に姿を変えてネアに近付かないよう、注意を払ってゆこうと思う。

以前見かけた白い雪豹も厳重に取り締まろうと思っていたのだが、残念ながらただの魔獣なのか、どこかの魔物なのか正体を暴くことは出来なかった。



なお、この一件以降、リーエンベルクを訪れると、目を輝かせて銀狐が走り寄ってくるようになった。

ウィリアムが竜にならないと分かると尻尾を引き摺って帰ってゆくのだが、毎回やられると不憫さのあまり竜に擬態しなければいけないような気持になるので、なかなかに困っている。















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