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ほこりの贈り物とアクスの贈り物


その日、リーエンベルクには暴食でお腹をぱんぱんにしたほこりがやって来た。

周囲の知り合いを食べてしまわないよう、予め沢山食べて来たのだそうだ。

すっかり友達になったゼノーシュが、ほこり用のおやつ篭を持ち歩き、何だか小腹が空いて来たぞと思えばおやつを投げ込む準備も万全である。



「ピ」

「まぁ、ほこりもディノのお誕生日を祝ってくれるのですか?」

「ピ!」

「なんていい子なんでしょう。優しいほこりですね」

「ピ!ピ!」

「残念ながら、アルテアさんはもう帰ってしまったんですよ。さすがに高位の魔物さんなので、そうそういつもリーエンベルクにはいないようです。と言うか、居過ぎですよね」

「ピギャ!」

「ほこりもね、ネアに甘え過ぎだって思ってるみたい。ずるいって」

「あらあら」


そこでネアはゼノーシュの方を見て安全確認をしてから、弾む雛玉の頭を撫でてやった。

嬉しそうに跳ね回るほこりは、大ぶりな雛大玉になっても相変わらず愛くるしい。

若干、ぼすぼすという弾み音が、ずどんずばんになっても可愛いものは可愛いのだ。


「ピ!ピィ」

「齧らないから、一度ギュッとして欲しいって」

「勿論ですよ、可愛いほこりを抱き締めますね」

「ピ!」


きゅっと抱き締められたほこりは喜びの舞で跳ね回り、ネアはネアでふかふか雛大玉を抱き締めて幸せな気持ちになった。


「白夜が見たら、羨ましくて倒れちゃうね」

「ピ……」


ゼノーシュがほこりの信奉者の心を慮ったが、当のほこりは短い足で何かを蹴っ飛ばすような仕草をした。

ゼノーシュの通訳では、知ったことかという感じなのだそうだ。

最近はつきまといが激しく、クッキーの祝祭で置いて行かれたことを根に持っていて面倒臭いのだとか。


「愛され過ぎるのも大変ですねぇ」

「ピィ」

「ほこりが可愛過ぎるからですが、可愛いに罪はないのです。あまりにも面倒でしたら、後見人のアルテアさんに相談してみますか?」

「ピギ!」

「叱る時は齧るから大丈夫なんだって」

「ふふ、ほこりは可愛くて強いだなんて、最強ですね」


リーエンベルク内でもほこりは、雛玉のままだ。


そこはお利口な生き物らしく、あまり人型でネアに接しない方がいいという自覚があるらしい。

それに加え、雛玉姿であればみんなに可愛がって貰えるので、ゼノーシュの推理では、ここは童心に返って大事にして貰える、ほこりの実家のようなものなのだとか。



そして、ネアの隣で跳ね回るほこりを見ていたディノの方を見上げると、ほこりはつぶらな瞳をきらきらさせた。

初恋のディノのお誕生日なので、いてもたってもいられず駆けつけてきたのが可愛い。


「ピ」


そんなほこりが、けぷっと吐き出したのは何とも見事な宝石だった。

大人の男性の握り拳くらいあり、半分が虹色がかった乳白色で、半分が灰色がかった菫色の宝石だ。

境目が明確ではなく、その二面が混ざり合う中央部分には複雑な光が入り、なんとも美しい煌めきを生んでいる。



「………すごい宝石を出したね。国が買えるよ」


思わずディノも驚く代物だったようだ。


「ピ!」

「まぁ、私とディノの色ですよ!ほこりは、天才なのでしょうか」

「ピ!」

「ディノ?」

「………ありがとう、ほこり」

「ピ、ピッ!ピギャ!!」


ご主人様に纏わるものを貰うと喜ぶ魔物に微笑んでお礼を言われたほこりは、感動のあまり部屋の反対側に転がっていった。

身悶えて喜んでいるので、追いかけて行ったゼノーシュに良かったねと言われている。

少し離れたところで見守っていたエーダリアやヒルドは、喜びの舞の荒ぶる版を見せられ、若干慄いていたが、ネアはあまりの愛くるしさにほくほくした。


「ピ!」

「うん、来て良かったね、ほこり」

「ピ!」

「そっか、ほこりの誕生日もあるんだね」

「ピ!」

「ネア、ほこりも誕生日したいって。来年やって欲しいみたい」

「そうとなれば、アルテアさんに美味しいものを沢山作って貰いましょうね」

「ピ!」

「ほこりは凄い食べるから、アルテア死んじゃわないかなぁ………」

「あら、あんな感じですが魔物さんらしく丈夫だとウィリアムさんが話してましたよ?」

「ウィリアムが言うなら大丈夫だと思う」

「ピギャ!」



そこでほこりは、ずどんずばんと弾みながら、エーダリアの前に行くと、綺麗な鳶色の宝石を吐いた。

ちらりとヒルドの方を見て、青緑色の宝石もけぷっと吐き出し、短い足でそそっと差し出す。


「いいのか………?」

「ピ!」

「私にもいただけるのですか?」

「ピ!」


驚いた二人に、ゼノーシュが通訳を続けてくれる。


「会えて嬉しかったみたいだよ」

「そうか、撫でても平気だろうか」

「うん。さっき竜を食べたばかりだから、まだ大丈夫」

「り、竜を………」


慄きながらエーダリアはほこりの頭を撫でてやり、ほこりは再び喜びの舞を舞い踊った。



「ほこり、来週はトンメルの宴がありますから、また一緒に行けますね」

「ピ!ピッ!」

「ゼノと一緒なので、三人で食いしん坊祭りになりそうです」

「ピギャ!」



楽しく弾むほこりを眺め、ネアは相好を崩す。

少し焦ったのか、お誕生日の魔物が羽織りものになってきた。



「ふふ、ほこりに焼きもちですか?」

「今日は甘やかしてくれるのだろう?」

「ええ。勿論」

「ピ?」

「ほこりがね、誕生日は甘やかして貰えるのって?」

「ええ。ほこりが、今日こうしてディノの為に贈り物をくれたように、ほこりを大好きなみんながおめでとうと言ってくれます。アルテアさんも、きっと頭をたくさん撫でてくれるでしょう」

「ピ!」


喜ぶほこりを見ながら、ネアはイブメリアのことは言わずにおいた。

イブメリアの贈り物をするまでに、ほこりが好きそうな祟りものを狩れるといいのだが。


「………ピ」

「うん。これ食べて」


ここで跳ね回り過ぎて少しお腹が空いたのか、ほこりはゼノーシュの籠からおやつを貰っていた。

籠の中の質より量なパンをむぐむぐ食べ、最後は籠もぼりぼりと食べてけぷっと檸檬色の宝石を吐く。


そのまますぐにずどんずばんと弾んでくると、ネアにまた頭を差し出した。


「ピ」

「もう帰るから、最後にまた撫でて欲しいみたい」

「では、可愛いほこりを撫で撫でしましょうね」

「ピ!」


優しく頭を撫でられ、ほこりは幸せそうに帰って行った。

あまり長くは一緒にいられないので少し寂しいが、悪食としての弊害を乗り越えて遊びに来てくれたので、何とも可愛い限りだ。

送って行くというゼノーシュと二人でいる姿は、可愛いの合わせ技である。



「可愛いお祝いでしたね」

「うん。この宝石は、国が買えるくらいだけどね」

「ディノのお誕生日用に、頑張って出してくれたのでしょう。立派な子に育ちました」


その言葉に元気そうで良かったと話すエーダリアとヒルドは、何だかんだでほこりを可愛く思っているようだ。

あの小さなふわふわ雛玉が、今や白夜の魔物を使いっ走りに出来る強い子に育ったので、何だか保護者的な誇らしさもあるらしい。


ネアも、膝の上でセーターの話をせがんでいた頃の、恋が上手くいかないとしょんぼりしていた雛玉を思い出し、成長の早さを感じる。



「そういえば、これをお渡ししておきませんと。ほこりが来たので渡しそびれておりました」



さて解散というところで、ヒルドが小さな小箱を取り出した。

艶消しの漆黒の上等な箱には、アクス商会の印が刻印され、差出人にはアイザックの名前がある。


「正式な経路で、アクスの職員を介して届けられたものですので、心配はありません。念の為に、ゼノーシュにも見てもらいましたが、ディノ様への誕生日の贈り物のようです」

「………まぁ、マメな方ですねぇ」

「ふうん。商会の名前で送ってきているね。彼らしいな」

「アイザックさんは、そういう気の回る方なのですね」

「よくこういう事をするよ。彼曰く、少ない投資で顧客を繋ぐのも、商人の知恵らしい」

「むぅ、とても高価そうですが、何でしょうね。ディノの喜ぶものが入っているといいのですが」

「開けてみようか」


そこで、ディノが箱を開け、何となく場の流れでエーダリアとヒルドもそれを見守っている。



そして箱の中から絹に包まれて出てきたのは、とろりとした艶のある、熟れた苺のような色合いの美しい蝋燭だった。

あまりにもとろりとした濃密な色彩で、齧ったらじゅわっと果汁が溢れそうな程だ。



「………幻惑の蝋燭か」

「おや、これは珍しいものですね。誘惑の系譜のシーの妖精の粉を使っておりますよ」

「………砂糖では足りなくなるな」


一瞬のあるかなきかの微かな躊躇が男性陣の瞳に揺れ、その後、何とも言えない空気が部屋に漂う。



「アロマキャンドルでしょうか?」


何だろうと覗いたネアは、試しにその蝋燭をくんくんしてみた。

葡萄のような甘くて良い香りがするので、追いくんくんをして、その香りを胸いっぱいに吸い込んだ。



「ネア?!」


しかしその途端、慌てた魔物に蝋燭から引き剥がされる。



「む。ディノ、これは危ないものなのですか?」

「……………うん」

「くんくんしてしまいましたが、もしや、毒的な………?」

「安心していいよ、毒ではないから。ただ、………とても困ったものなんだ」

「むむ?私も、困ったことになってしまいます?」

「……………なるのかな」

「………匂いだけですからね」


なぜかごくりと唾を飲んだ魔物に、ヒルドも何とも悩ましい目をする。

エーダリアだけは、今すぐ砂糖をとどこかへ駆け出して行った。



「…………むぬ、この蝋燭には、お砂糖が食べたくなる呪いでもかかっているのでしょうか?」

「…………ネア、体は何ともないね?」

「ほわ、やはり毒的な……?体は何ともないですが、………少しだけぽわりとします」

「ぽわり………」

「ええ、幸福感のような?………何というか、モフまみれの時の幸せに近いような………む、白もふがいます」

「ネア?………アルテア……白い獣はここにはいないよ?」

「目の前にいるではないですか。喋ってます」

「ネア様、それはディノ様かと……」

「そんなことはありませんよ!白もふを発見したので、撫で回しの刑にします!!」

「え…………」

「ネア様?!」



ここでネアは、目の前に立っていた白けものに飛びかかると、渾身の技を駆使して撫で回した。


「ちょ、………ネア?!ネア、それはちょっと…………」


慌てて逃げ出した白けものを追いかけて捕獲し、また容赦無く撫で回す。


「わかった、取り敢えず部屋に戻ろうか」

「むぐ!白もふ!!新種の白もふが!!!」

「ディノ様、後程解毒薬をお届けします」

「うん、お願いするよ。………ネア?!」

「お腹を撫でるのだ!」





それから暫くして、ネアはふっと我に返った。


ディノに美味しい砂糖菓子を食べさせて貰った記憶があるが、それ以外には白けものを撫で回した記憶しかない。


なのだが、なぜか、思考が冷えた頭で思い返せば、それは白けものではなくディノだったような気がする。



「どちらも愛くるしいので、さしたる違いはないでしょう。…………ディノ?」

「良かった。幻惑の酩酊が醒めたね。軽度のものだとああなるのか………」

「…………ほわ」


ネアは、寝台の上で自分を抱えたまま、くしゃくしゃになった魔物の姿に驚いた。

髪はほどけているし、それどころかひと暴れしたかのように乱れており、なんだか艶めいている。


前を開き、はだけた襟元から覗く肌にぎょっとすれば、少しだけ恨めしい顔をされてしまった。

水着や入浴での上半身裸も見慣れてはいるが、それと着衣のまま着乱れた様子とではやはり印象が大きく変わる。



ふっと安堵の息を吐き、微笑んだ魔物は煽情的だ。

その美しさの翳りと欲のかけらが、くらりと視界を揺らす程に艶麗でもある。



「大丈夫かい?気分が悪かったり、おかしなところはないね?」

「…………ふぁい。ディノが白もふさんに見えました。と言うか、アルテアさんの白もふとはまた別の、上等な白もふに見えたのです」

「………先程の蝋燭はね、欲望を燻らせる蝋燭なんだ。誘惑のシーの妖精の粉を使い、媚薬としての効果を強くしている」

「もしかして、理性の箍を外してしまうようなものなのですか?」

「…………そうだね」


手の甲で頬をすりりっと撫でられ、ネアは眉を下げる。


「………むむぅ。そして、白もふに見えたり、美味しい食べ物や財宝に見えたりするのですね」

「………ネア、違うんだ。本来は媚薬だから、外してしまう欲求は男女の色事のそれだからね」

「…………む?」

「うん。君は香りを嗅いだだけだったから、違う形で作用したのだろう」


少し困ったように眉を下げて、水紺の瞳が微笑む。

顔を傾けて頬に口付けされ、ネアは目を瞬いた。

膝の上に抱え上げられたまま横倒しになったような姿勢で、ディノがどれだけ苦労して荒ぶるご主人様を押さえこんだのかがわかり、暴れたであろう人間は少し反省した。


「……………もしかして、私がディノを脱がせてしまったのでしょうか?」

「………うん。でも君は、服を脱がせてお腹の毛皮を撫でるつもりだったようだ。あまりにも無防備に触るから、少し困ったけれどね」

「ご、ごめんなさい!」

「ネア、………手を貸してくれるかい?」

「…………む」


差し出した手を取ると、ディノはその手のひらに一度口付けてから、自分の胸の上に当てた。

まるで肌の温度を確かめるように素肌に触れさせられ、ネアは目を瞬く。

鼓動の振動が手のひらに届き、滑らかな肌の手触りと、どこかうっとりとしたように目を伏せる美しい生き物。

それはひどく危うい空気でもあったが、同時に、甘えたな犬がご主人様の手のひらに顔を押し当ててくるような無垢さもあって、胸の奥がざわざわする。



「………さっきは、撫でられるばかりだったからね」

「撫で回し犯は反省しています」

「後は、素肌で毛皮に触れるのだといって、服を脱ごうとしたり」

「…………私を痴女にする恐ろしい蝋燭め!」

「可愛かったよ。少しだけそのままにしてみようかなと思ったけれど、歯止めが効かなくなりそうだったから」

「むぐ、確かに、撫で回しを始めると自制心は消え失せます………」

「………それは分かるような気がするな。君の肌は柔らかかったし」

「む?」


小さく苦笑する気配があって、いやいいんだと言われた。

困らせてしまったのだろうかと思って見上げると、どこか満足げでもあるので、ネアに撫で回されても嫌ではなかったようで安堵の息を吐く。


「でも、ディノはこうして触れる方が好きなのですね」

「君の温度がわかるから」

「ふむ。お誕生日なので、荒ぶってしまったお詫びに特別奉仕しましょう。えいっ」

「……………ネア?!」


何とも幸せそうに呟く魔物を大事にしたくなって、ネアは肌蹴たままの胸元にぺたんと頬を押し当てた。

こうするとまるで、大事な魔物の心音を聞くような恰好になり、何だか胸の奥が穏やかな温もりに包まれる。

トクトクと脈打つ響きに、大事なものがここで生きているのだと伝わって、その命が途方もなく愛しくなった。


「心がほかほかしますね。………ディノ?…………むぅ。またしても死んでしまいました」


何だかいっぱい甘やかし、甘えた気分で微笑んで顔を上げると、ディノはきゅっと伸びてしまっていた。

頬を染めて片手で顔を覆ってしまっているので、またしても謎に乙女モードに入ってしまったようだ。

ネアはふと、婚約期間を早める以前の問題として、ディノもこういう部分を慣らしていかないと心不全で死んでしまわないだろうかと不安になる。



その後ネアは、時間を確かめた後、暫くそのままディノに寄り添って横倒しになっていた。

なぜカーテンを閉めたものか、少し薄暗くなった部屋の中で柔らかな呼吸の音に心が凪いでゆく。

この触れ合いはたいそう気に入ったので、また今度、慣らさないとディノが死んでしまうからという名目でやらせて貰おうと考える。



何だか全てを許されているような気がして、とても幸せな気分だ。

強欲な人間は、そうしてすっかり堪能してから、ディノを揺り起こしにかかった。



「さぁ、ディノ、生き返って下さい!そろそろ、今夜のお誕生日のご馳走を作りに厨房に行きますよ」

「……………ネアが虐待する」

「まぁ、………こうやってぴったりくっつくのは嫌でしたか?それなら…」

「嫌じゃないよ」

「じゃあ、またくっついてもいいですか?なんだか、安らかな気持ちになるのです」

「…………どきどきしたり、落ち着かないとかではないんだね?」

「………はい。心がほかほかして、眠たくなりますね」

「…………ネアが虐待する」

「なぜなのだ」



エーダリアやヒルド、ノア達を招待しての晩餐の時に、ヒルドから、蝋燭の影響で困ったことにならなかったのかと尋ねられた。

エーダリアはグヤーシュに咽せていたが、新種の白けものに見えて撫でまわしたようだと言えば、ヒルドはどこかほっとしたように頷く。

そういうものの影響で、なし崩しで進むのはあまり宜しくありませんからねと言われ、ネアは首を傾げた。


ノアはその蝋燭が気になったようで、いらないなら欲しいとディノに言っていたが、ディノは案外気に入ったようで渡す気はなさそうだ。

これはもう、ムグリスディノがお腹撫でで倒されてしまっても、また物陰からして欲しそうに覗いているのと同じ原理なので、ネアはあらあらと微笑んでおいた。



お誕生日二日目の晩餐は、身内で過ごす誕生日と言う感じで家庭的な雰囲気になる。


ネアはあれこれとディノのお気に入り料理を作り、その日は仕事の早く終わったエーダリア達も招いて、家族の夕食のようにしたのだ。


牛肉のタルタルや、グヤーシュにドライトマトが練り込まれたパン。

シュタルトで発見して買い占めたプレスハムにはあつあつのチーズを溶かしかけ、シンプルな串揚げにアンチョビベースのソースなど、好んで食べたものを少しずつ摘まめるようにした。

特に、こちらの世界風魚卵の辛子漬けのような食材をサワークリームと合わせてディップにしたものは、新作ながらも、黙々とみんなが永久運動をするというヒット作となり、ネアはほっとする。


シュタルトの湖水葡萄酒のメゾンで買っておいた葡萄酒も出し、なかなかにいい食卓ではないか。



「ディノ、どんなお誕生日でしたか」

「…………また来年もやろう」

「ふふ、勿論です!」



すっかりお誕生日を楽しめた様子の魔物を撫でてやり、同席してくれたエーダリア達も微笑む。



(お祝いするということは、とても幸せなことだわ。好きなものがあって、自分がそこに関われるということだもの)



だから、とても満ち足りた気持ちで、食卓を囲む仲間達を眺めてグヤーシュを啜った。

こういう大切さを重ねるのだから、きっと回数を重ねるごとに、ディノのお誕生日も、他の誰かの誕生日も、みんな素晴らしいものになってゆくに違いない。



それは、とても素敵な予感だった。




なお、ぴったりくっつく儀式は、嫌いじゃないけど刺激が強過ぎるということで、翌月まで禁止措置とされた。

頻繁にやられると色々まずいのだそうで、ネアは少し残念に思っている。










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