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手袋とゴーグル



その日ネアは、クッキーモンスターことゼノーシュに引率されて、近々ある祝祭の為に防具を買いに行くことになった。

この祝祭は非常に荒ぶるお祭りなので、ネアはなかなかに気が抜けない祭事だと気を引き締めている。

謂うところの奇祭の一つだが、ボラボラの回で学んだのでもう二度とあんな失態はおかすまい。


傘祭りの時のように楽しくまとまることを目標とし、クッキーに叩きのめされないよう、最高の準備をしなければ。




「手袋とゴーグルを買うんだ。粉が目に入ると危ないし、突撃してくるから」


今日は先生となるゼノーシュが、きりりとしてネアに祝祭の説明をしてくれる。


「………荒ぶるクッキーと戦うのは初めてなのです」

「去年リーエンベルクでは、ゼベルとリーナが集中攻撃を受けたんだよ」

「なんと!敵は集団行動もするのですね……」

「美味しそうだけど、食べると呪われるから気を付けてね」

「………ほこりも参戦しますが、大丈夫なのですか?」

「ほこりはね、特別な祟りクッキーのところに来て貰うことにしたんだ。祟りものは味が染みてて大好きだっていうから、僕が声をかけたの」

「まぁ。さすがゼノは優秀ですね!確か去年は、グラストさんとエーダリア様が、その祟りものクッキーで苦労されたのですものね」

「うん。粉だらけで大変だったんだ。今年は大丈夫だよ」



ゼノーシュがにこにこしているのを見て、ネアはさすが鉄壁の護衛だと感心してしまう。

晴れてグラストと仲良くなれたことで、ゼノーシュはグラストに相談しながらより深くまで大事な歌乞いを守る術を模索出来るようになったらしい。


「去年まではね、危ないのになって思っても、グラストも僕も仕事だから我慢してたんだ」

「まだ、それでも危ないからと踏み込んでお話出来なかったのですね」

「うん。側に居て幸せだったけど、側に居るようになってから寂しいこともあったんだ。でも、この前は大好きだって言えたんだよ」

「まぁ!それはきっと、グラストさんは嬉しかったでしょうねぇ」

「…………グラストが?」


こてんと首を傾げた檸檬色の瞳の美少年に、ネアはふくふくとした喜びを噛み締めて囁きかける。


「可愛くて堪らないゼノから、大好きだなんて言われたら幸せだと思うのです。きっとグラストさんはとても嬉しかったに違いありません」

「………僕、もっと言ってみる。でも、言う時に息が苦しくなるから、もう少ししてからまたにする」

「ふふ、ゼノが幸せそうで、私も幸せいっぱいです。この調子で、クッキーなど滅ぼしてくれる」

「ネア、滅ぼすと粉になって攻撃してくるから、ばらばらにしないといいよ」

「…………これはもう最強の敵ですね」

「本当は燃やすのが一番なんだよね」

「むぅ。燃やす系の武器はありませんので、ディノから離れないようにしますね」


そこでネアは、ぐいっと袖を引かれた。

振り返れば、神妙な顔をした魔物がこちらをじっと見ている。


「どうしました?」

「…………だ」

「だ?」

「…………だ、………いや、また今度にするよ」


なぜか魔物は目元を染めてふるふるした後、やけに暗い目をして項垂れてしまった。

人生に絶望したような陰のある眼差しは冴え冴えとして美しいが、ネアは少し心配になった。

何かを言いたかったようだが、上手く言葉に出来なかったらしい。


「私の大事な魔物が、悲しそうです。胸がぎゅっとなるので、手を繋いであげましょうか?」

「腰に紐…」

「さて、ゴーグルを買わねばですね!」

「ご主人様………」

「お労しい」


ゼノーシュはぺそりと項垂れてしまったディノが心配なようだったが、ネアは公共の場で万人受けしないどころか半数以上の人々に敬遠されてしまう行いに身を投じるつもりはない。

旅先や遠征先ならともかく、ウィームであまり評判を落としたくないと考えてしまう人間のしたたかさを、どうか寛大な高齢者の心で許して欲しい。



「ゴーグルは、水晶のゴーグルなのですよね?」

「うん。クッキーのバターがべたべたするから、雪や水の祝福がある水晶が一番なんだ」

「ふむ。その二つに違いはあるのですか?」

「相性だと思うよ。ネアは、氷の祝福があるから雪の水晶がいいと思う」

「だそうです!ディノ、私は雪のゴーグルにしますね」

「結界で弾いてあげられるけれど、ゴーグルをするのかい?」

「ええ。クッキー達と戦ってこそ、一年の豊かな食事が約束される祝福が得られるのです!」

「それがなくても大丈夫なのではないかい?」

「だとしても、得られるものは楽しく手に入れる主義なのです!ボラボラの時のように、一度試してみてから、無理そうだと感じたら来年からは遠慮しますね」



三人が向かっているのは、ゴーグルの専門店である。

魔術師の多いウィームには、魔術効果を避ける眼鏡屋やゴーグル屋が何店舗かあり、その中でもゼノーシュ的に一番質がいいというお店だった。



「ネア、店員が変わってるから、誘拐しないようにね」

「…………さては、もふもふ」

「うん、毛皮があるんだ」

「ネア、ほらこれを持っていないと」

「なぜに三つ編みを持たされたのだ」



そのお店は、ウィームの端にある小さな公園の側にあった。

その公園には、昔、一人の精霊が恋に破れて草花に転じてしまったという言い伝えがあり、確かに真冬でもこの公園の範囲だけ花々が咲き乱れている不思議な場所である。


そんな色とりどりのお花が咲き乱れる公園の向こう側に、小さな三角屋根のお家がある。

絵本の中に出てくるような造形だが、よく見れば壁材などがかなり凝っていて洒落者の家という感じがした。

入り口の扉にある採光窓はステンドグラスになっていて、繊細な薔薇模様がなんとも美しい。


「可愛らしいお家のようなお店ですね」

「煙水晶と栗の木のお店なんだって。グラストが教えてくれた」

「昨日には、騎士さんの何人かがゴーグルを新調されたのですよね?」

「うん。去年のお祭りで、クッキーに壊されたから」

「…………なんと」


扉には、ドアハープが付いていて、扉を開けるとポロンポロンと可憐な音を立てる。

店内が薄暗いのは、水晶を削る為に夜中の内に月光を溜め込めるようにしてあるのだそうだ。



「……………む」


ネアは、そのお店にあるカウンターの奥に座っている店主を見た途端、ぞわっと背中が粟立った。

確かにゼノーシュの言うように、毛皮の生き物ではある。


あるのだが、一概に毛皮とは言え形状や色合いによって大変なことにもなるのだと教えてくれる、人生の教訓的な生き物がそこにいた。



「ディノ、手を繋ぎます」

「ネア?」

「私の大事な魔物が寂しくならないように、ご主人様が優しくなる日なのです」

「そうなのかい?」


魔物は嬉しそうにネアの手を取り、カウンターまで一緒に行ってくれた。

そしてネアは、恐怖の毛皮と向かい合うことになる。


栗の木のカウンターに大きな影が落ち、ネアは走って逃げないように自分に言い聞かせる。

幸いにもこういう場合にはあまり表情が動かない方だが、お店の外に出た後に倒れるかもしれない。


「雪の水晶のゴーグルが欲しいんだ」


そう店主に声をかけてくれたのは、ゼノーシュだった。

今日は引率の先生なのでこのように進行してくれるが、それがなければネアからこの店主に話しかけなければならなかったのだと思う。

場合によっては倒れたので、頼もしいクッキーモンスターに感謝した。


「おや、リーエンベルクの魔物達だね。そちらのお嬢さんのものかい?」

「うん。ネアはきっちり戦う派だよ」

「そうかい。では、動いてもゴーグルがずれないようにしないとね」

「………宜しくお願いします」

「はいよ。ではまず、指先でこの箱の中の水晶に触れとくれ」


がしゃんと、水晶が山のように入った木箱が差し出され、ネアは目を丸くする。

そろりと見上げると、ずもんと大きくそびえた店主が短く頷いた。


(………ほ、ホラー的な生き物)


店主は、焦げ茶色のぬいぐるみ生地のような質感の塊だった。

塊と表現してしまうのは、子供が無理やり作った歪なぬいぐるみのような形をしており、形状として目指しているのは、熊とアメーバの融合だと思われる。


つぶらで可愛らしい目も、なぜかちぐはぐな位置についており、ホラー映画で最後に出てくる系の怪物のような鋭い爪のある大きな手をしている。

しかし、声は大人の女性の声をしているので、同性であるようだ。

かろうじて性別がわかり、ネアはほっとした。



(頭頂部にあるのは、破れて中身が出た風のぬいぐるみを表現した効果だろうか。それとも、もやっとした綿のような頭髪なのだろうか………)



薄暗いお店の中で、その生き物の影が、溜め込まれた月光にゆらゆらと揺れる。

そうすると、影絵のように壁一面にその形が動き、かなりの精神的ダメージを受けてしまう。

このような光景の更に恐ろしいところは、人間には一度見た映像をあまり望ましくない時にふと思い出すという機能があるからに尽きる。

まさに今この目で見ているものが、いつか思い出されてネアを震え上がらせるのだろう。


ネアはすっかり怯えてしまいながら、箱の中の水晶に一つずつ触れていった。



「………わ」

「うん、それだねぇ」



すると、その中の一つの水晶がぺかりと光った。


「あんたの体に合った水晶だ。これなら、硬い生き物が体当たりしても割れたりしないよ」

「そうなのですね。何だか不思議です」

「質のいい道具は、魂に馴染むもんさ」


その淡く菫色に光った水晶を取り上げ、店主はおもむろに、鋭い爪先でごりごりと削り始めた。


外側を削り落とし形を大まかに整えると、爪先で器用にゴーグルの形を掘り起こしてゆく。

水晶がカンナ屑のように剥けてゆく姿を、ネアは生まれて初めて見ることになった。




「…………あっという間に」

「見事なものだね。こんな風に形を整えるのか」


ディノも感心してしまうくらいに、水晶はあっという間にゴーグルの形になっていった。

するすると爪で石鹸を削るような感じで水晶は削り取られてゆき、どういう視野なのか謎に包まれている黒い瞳がときおり鋭くネアを観察する。


顔の形を見ているだけだとわかったが、ネアは頭からばりばり食べられてしまいそうで、ディノにぴったりくっついておいた。



「………さて、こんなもんか。一度顔に当ててみておくれ」

「……………ぴったりです。素晴らしいですね」

「いや、額の合わせが少し浮いてるね。もう少し調整するよ」

「まぁ、素人にはぴったりに思えてしまうのに、更に調節していただけるのですね。はい。お願いします」


ネアは、伸ばされた毛むくじゃらの手に、もう一度水晶を戻して最終調整をお任せした。

店主はネアに斜めを向かせたりしながら、またするすると水晶を削る。

そして、ネアのゴーグルが出来上がるまでにかかった時間は、驚くべきことに十五分程であった。



「これで仕上げだ。バンドは、この五種類の素材、色は七種類だよ。あんたのは作業用じゃないから、鉄鋼花の結晶はやめておきな。重いからね」

「…………それぞれに特性があるのですね?そうなりますと、次のクッキーの祝祭で使うことを目的としている場合、どのバンドがお勧めでしょうか?」

「確か、あんたはしっかり戦う方なんだってね。それなら、この竜羽草の編んだもの、雪羊の革、それか少し重たくなるが霧の結晶を削いだものかね」

「ネア、霧にした方がいいんじゃないかな。重さは私が魔術で気にならないようにしてあげるから、守護の厚いものにするといい」

「では、ディノの勧めてくれたものにしますね。素人ですので、その素材がどういうものか想像出来る方に頼ってしまいます」

「はいよ。霧結晶ね。闇色に薄紫と藍水色、掠れ水色があるね」

「その順に色の濃さも違うのですね。………ふむ。では、藍水色にします」

「その色の霧は、雨上がりの夜明けや、雪の日の霧から出来た結晶だね。ではこれを使って……」


またしても素早く作業してゆき、ネアの特注ゴーグルはあっという間に出来上がっていった。


紫がかった煌めきを放つ水晶は、反射の良い眩しい程に輝く水晶とは違い少し鈍い煌めきだが、それがまた味わい深くて堪らない。

バンド部分と合わせても、何とも素敵なゴーグルだ。



「………実用的なものですが、とても美しいですね。こんな素敵なものを、有難うございました。では、お会計を…」

「あんたのゴーグルは、リーエンベルクにつけてある。領主様から、必要経費だからそちらに計上するようにと言われてるからね」

「まぁ!」


ネアがびっくりして振り返れば、ゼノーシュがそうだよと教えてくれる。

今回のものはあくまで仕事上での消耗品なので、必要経費としてリーエンベルク側で支払ってくれるということだった。


(やっぱり、いい職場だわ……)


ネアは胸がほこほこして、笑顔でゴーグルを受け取った。

布張りした墨色の木箱に入れて貰い、手入れは時々月光や雨の影、そして星明かりに当てておくだけでいいのだそうだ。


「ただし、あまりにも火の気が強い場所に行くと、祝福が溶けるから用心しな」

「はい!」



そして、何だか輝いて見える箱を手に持ったまま、ネアはうきうきとお店を出た。

しかし、お店を出た途端にふぅっと息が溢れたので、やはりあの店主は怖かったらしい。



「…………ほぅふ」

「ネア、あの生き物は苦手だったのかい?」

「ええ。とても素敵な職人さんでしたが、失礼な人間めは、あのご容姿が少し怖かったのです」

「おや、毛皮なのに不思議なことだね」

「ネアの好きな毛皮なのに何でかな?」


ネアからすればあの容姿はどう考えても怖いのだが、魔物達にはそれは分からないらしい。

そのくせに人面魚にあれだけ怯えるのだから、魔物とは不思議なものだ。


しかしディノは、きゅっと手を握ったご主人様がぴったりとくっついてくるので嬉しかったようだ。


「さて、次は手袋ですね」

「うん。手袋は竜革だよ。大きなお店だから、迷子にならないようにね」

「もしかして、大通り沿いの大きな手袋屋さんでしょうか?」

「グラム工房?」

「ええ、その名前のお店です。一度入ってみたかったのですが、お店に入るなり全てのお客様に担当の店員さんがつかれるようですので、冷やかしでは入れなくて……」

「うん。お店の人が案内してくれるんだ。それぞれに専門分野があるんだよ」


到着したグラム工房は、リノアールのような雰囲気の高級店めいた空気感を出していた。

アクス商会の表看板であるテーラー程に秘密めいた格式の高さはないが、入る瞬間に一度気持ちが切り替わるような感じがするのは、ネアが庶民階層の精神構造だからだろうか。



「いらっしゃいませ。本日はどのような手袋をお求めですか?」



扉を開いたところで、ネア達を出迎えてくれたのは背の高い男性だった。

綺麗な灰色の髪で、目尻の下がった理知的な淡い紫色の瞳に、くるりと巻いた水色の羊の角を持つ異世界らしい容貌の人だ。

穏やかで理知的だが、微笑みかけたくなるような眼差しにネアはほうっと感嘆の息を吐く。


(こういう雰囲気の方は、薔薇の祝祭の時に女性では見たけれど、男性でも素敵だわ。お店の店員さんだと、安心してお買い物を任せられそうな雰囲気………)


「…………クッキー祭り用の…」


しかし、ネアが口に出来たのはそこまでだった。

魔物に無言でさっと持ち上げられると、ネアはそのままお店から連れ出されてしまう。



「ほわ?!ディノ?!」

「ゼノーシュ」

「うん。僕が選んでおくね。ネアの手の形と大きさはわかるし、色はさっきのゴーグルに合わせておく」

「頼むよ」

「任せて。ネアを逃さないようにね」

「ま、待って下さい!どうして、……むぐふ?!」




次の瞬間、ネアはリーエンベルクの自分の部屋にいた。

じっとりした眼差しの魔物と向かい合わせになっており、まるで面談のようだ。


「ディノ、どうして私は連れ帰られてしまったのでしょう?」

「ネアが浮気する」

「…………もしかして、先程の店員さんですか?」

「…………あの店は、入店禁止にしよう」

「随分な強硬策に出ましたね。素敵な雰囲気で頼れそうな店員さんだなとは思いましたが、それ以上のことはありませんよ?」

「君はあのような者が好きなんだね………」

「………むぅ。確かに素敵な方だとは思いますが、私はそこまで無節操ではありません」

「しかし君は、気に入ると狩ってきてしまうからね」

「住民の方を狩ってきたりはしません…………」

「困ったご主人様だね。さて、どうしようか」

「なぜに私を犯罪者前提にしたまま進むのだ」



ネアはむぐぐと眉を寄せていたが、魔物は真剣な面持ちで対応策を考えているようだ。

どこか憂鬱そうな眼差しは美しく、微かに伏せ気味の瞳の上には真珠色の睫毛が素晴らしい影を落とす。


美しい生き物なのだと思って僅かに思考が逸れたところで、その薔薇色の唇が微かに開いた。

ふと、触れてみたいと考えてしまってネアは微かに頬を染める。

ネアは淑女であって変質者ではないのだ。



「………では、こうしようか」

「む…………」



ぽふりと音がした。

ネアは目を丸くしてから、視線を下げて机の上を見る。


その上に乗っていた魔物は、ぽてぽてとネアの前まで歩いてきてから、きゅっとお腹を見せて殉教者のような覚悟の目をしてみせた。



「ムグリスディノ」


そしてそんなムグリスディノは、もふもふふかふかのお腹をこちらに向けている。

どうやらこれは、お腹撫でをしていいので、あの店員を諦めろということだろう。



(………浮気じゃないのにな)


そう思いはしたが、目の前のむくむく毛皮を見た途端、理性は瓦解し始めていた。

自分の主張やディノの誤解はともあれ、まずはこの毛皮を撫で回すことから始めよう。


「浮気をしてはいませんが、ムグリスディノのお腹をまずは堪能します。今日も逃しませんよ!」

「…………キュ」



そして襲いかかった人間の手で、ムグリスディノは撫で回されてしまった。

膝の上に持ち込まれぴくぴくしている愛くるしい毛皮を見下ろしてネアが満足の溜め息を吐いたのは、それから半刻後のことだ。


ぴくぴくしている毛皮の背中を指先で撫でると、びくっと体を揺らすのが堪らない。

しかし何度も撫で回すので当人も癖になってきたようで、時々自ら死にに来るのがあざとい可愛さである。


撫で回しではそれぞれに特性がある。

前屈みでお尻をきゅっと上げる構ってポーズで追いかけっこをしたい銀狐に、頑固に逃げ出そうとするくせに気分が良くなると頭をぐりぐりしてきてもっととせがむ白けもの。


そしてディノは、サイズ的になす術もなく撫で回されて倒れてしまうものの、中毒症状があるのかまたぴょこんと物陰から覗いているタイプのいじましいもふもふである。



「……………は!すっかりお腹撫でに夢中でした」



ネアはそこで我に返り、慌ててゼノーシュを探しに行った。

ムグリスディノは現在死亡中なので、ポケットに入れてゆき、廊下を往復で無限に走り回る遊びをしていた銀狐を捕まえて、ノアに同行して貰う。



ノアに調べて貰ったところ、ゼノーシュは既にリーエンベルクに戻っているようで、すぐに再会出来た。



「あ、ゼノ!うちの魔物がご迷惑をおかけしました!」

「ううん。あの精霊は危なさそうだったから、ネアは近付かない方がいいよ。一目見てネアのこと気に入ってたしね。でも、伴侶がいるって言っておいた。でね、これが手袋だよ」

「………いつの間にか既婚者にされています。それと、素敵な手袋ですね!淡い藍色で天鵞絨の手袋に見えます。代わりに注文してくれて有難うございました。ほわ、ぴったりサイズ!!」

「竜革なんだよ。でも手触りがいいでしょ?」

「はい。これもリーエンベルクの支給になるのですか?」

「うん。それとネア、無花果ゼリーを買ってきたからみんなで食べようよ」

「無花果ゼリー!!」



その後、ネア達は無花果ゼリーを食べながら、みんなでクッキー祭りの話し合いをした。


ネアが、真夜中にゴーグルを削っていた生き物のことを思い出してしまい、震え上がって魔物の巣に飛び込む騒ぎはあったが、これで無事に防具は揃ったようだ。



こうして、数日後に控えた呪いのクッキーの祝祭では、ネアも何とか人並みに戦える準備が整ったのである。







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