扉の裏側とぬいぐるみの名前
「今回はさ、ウィリアムを押さえるのが大変だったんだ」
そう語るのは、グラスを傾けながら笑うノアベルトだ。
ヒルドは小さく眉を顰め、そんなことが必要だっただろうかと呟き首を捻る。
「………ウィリアム様が何かされていたのですか?」
「うん。アルテアとの使い魔契約を破棄させて、光竜を排除しようとしてたから、絶対何か企んでたよね。ウィリアムは基本柔軟な対応をするけど、シルの過保護さとはまた違う感じだ」
「おや、悪いことでもなさそうですが」
「アルテアってさ、そこそこいい虫除けなんだよ。自分である程度距離も保つし、一緒に暮らしたがる性格じゃないけど、余分は払うしね」
「………成る程、そうなるとウィリアム様の方が、………何というか、手強いと?」
「うん。ウィリアムはさ、特定の相手を大事に出来ても、その相手の周囲のことまで考えるのって苦手だからね」
「そういう調整の取り方や、平定の秀逸さこそがウィリアム様の得意分野のように思えますがね」
「それがウィリアムの厄介なところなんだ。どうでもいい相手にはどこまでも感じがいい男なのに、一番癖がなさそうで、一番癖が強いんだ。よくネアがその不安定さに気付いてくれたと思うけど、警戒はしないからなぁ」
「と言うよりも、ネア様の場合は元々の取捨選択がはっきりしていますからね」
ヒルドがそう言えば、ノアベルトはだらりと長椅子の上に伸びてしまった。
美しい氷色の多色持ちである白い髪はくしゃくしゃになり、片足はだらしなく床に落としている。
「……そうだよね。あの子にとってのウィリアムは、頼りになるし好きだけど、面倒そうだから毎日はいらない相手ってかなりはっきりしてるからね」
「…………ネイ?」
「でもさ、距離を詰めるまではかなりのお気に入りだったんだよね?」
「………まぁ、ダリルとの会話で、理想的な男性の例として挙げたくらいですからね」
「それなのに、今はちょっと距離感微妙な父親みたいな扱いな訳だ。………ってことは、僕も冬毛になるまでは」
「ネイ?」
頭を抱えてぶつぶつと呟いていて、ヒルドが名前を呼ぶと、荒んだような目をした塩の魔物が視線を上げる。
「………ネアがね、僕の夏毛は好きじゃないらしい」
「確かに、少し毛並みがしっかりとしますからね」
「ヒルドも?!」
「おや、私は毛並みで好き嫌いの判断はしませんよ。その代わり、近頃エーダリア様の靴先を噛む生き物がいるようなのですが……」
「ごめんなさい………」
三足も上等な靴を駄目にしたノアベルトは、目に絶望を浮かべてヒルドを見た。
ヒルドを怒らせると、ボール遊びの時間を短くされるとわかっているからだろう。
謹慎期間中はリーエンベルク全域にその通達を出され、誰も長く遊んでくれなくなる。
前回、国宝級の絨毯を駄目にした時には、三日間の謹慎期間で、銀狐は背中に心因性の円形脱毛域を作ってしまったくらいだ。
「では、新しい靴の購入をお願いします」
「わかった!すぐに、最高の靴を注文する」
「出来れば、ある程度の祝福や魔術的な効果を添付していただけると助かります」
「いいよ。ヒルドって案外抜け目ないよね………」
「おや、謹慎の方が良かったですか?」
「ごめんなさい………」
靴噛み犯がもう一度謝ったところで、ヒルドは話を戻した。
「で、ウィリアム様を排除するのに、何か画策したのですか?」
「まぁ、今回、僕はこっちの守りで忙しかったけど、シルに、竜よりはアルテアの方がマシだよねって助言は入れておいたかな」
「奇遇ですね。ゼノーシュも同じことを言ったそうですよ」
「え?ゼノーシュが?」
「家族を亡くした光竜に、グラストが同情的だったようです。一般的に人間の武人は、竜というものに一定の憧憬がありますからね」
「うん、二人から言われたらシルも決断しちゃうよね」
「と言うよりも、今回はネア様の心に響かない竜種であったのが一番かと」
「あの会話でわかったんだけど、あの子、竜に乗りたいんだろうね。光竜だって乗れると思うけど」
「魔術飛翔について想像がつかないそうで、細長い紐に乗って潰したら虐待だと仰ってましたね。ただし、ブーツや守護がありますから、実際に乗っても竜の飛翔を妨げそうではありますが」
「わーお、鞭使っておいて虐待を気にするんだ!……と言うか、竜に乗せるのは何だか嫌だね」
「おや、同じ意見ですね」
そこまで聞いてから、ゼノーシュはぱたりと扉を閉じた。
扉を開けた瞬間から気配を断つ魔術を展開していたウィリアムが、小さく溜息を吐く。
振り返って見上げたゼノーシュに、ウィリアムは薄く苦笑してみせた。
申し訳なくなって、ゼノーシュは少しだけ視線を下げる。
「ごめんね、ウィリアム。グラストが竜を飼うのは、僕、どうしても嫌なんだ」
「いや、それが普通だ。俺も、ネアが竜を飼うのは嫌だと思うからな」
「ウィリアムは、どうして竜が嫌なの?」
「俺は、風竜の後見人をしてたことがあるだろう?その分、竜をよく知っているからな。竜は誇り高い生き物だが、どこか相手について回るようなところがある」
「寂しがりやだよね。だから、竜だと駄目なんだね」
そう言えば、ウィリアムはまた少し苦く微笑んだ。
「そうだな。竜は駄目だ」
「ウィリアムは甘えるの苦手だから?」
「…………ゼノーシュ」
低い声で窘められたが、少しだけ彷徨った視線に、ゼノーシュはだからかと納得する。
飄々と歩み寄って距離を狭めることも出来るアルテアとは違い、ウィリアムにはいつも、人間との距離感を図りかねて困惑しているようなことがある。
(でも、苦手だからじゃなくて、わからないからだから、どうにもならないんじゃないかなぁ………)
お労しいことだが、ゼノーシュ的にはウィリアムのその不器用さは治らない気がした。
ウィリアムには、人間の心の些事がそもそも理解出来ないこともある。
それはもう彼の個性のようなもので、もしかしたら終焉だからなのかもしれない。
「…………なあ、ゼノーシュ、……ネアとしては、俺は面倒臭いのか?」
「お兄さんから、お父さんみたいになったって話してたよ」
「どっちもどっちだな」
「でも、今回のアルテアみたいになったら、ネアはきっとウィリアムのことも助けに行くんじゃないかな」
ゼノーシュのその言葉に、ウィリアムは目を瞠る。
分かり難いけど分かりやすいのになと思いながら、ゼノーシュは固まってしまった終焉の魔物にもう少し言葉を重ねてみた。
「だって、ネアがウィリアムのことを何かに例える時、いつも家族だよ」
「…………そうなんだな」
「うん。だから、ネアにとってはちょっと面倒臭くても、ウィリアムは家族みたいな存在なんだよ」
「面倒臭いと思われてるのは確定なのか」
そう言ってウィリアムは少しだけ項垂れてしまったけれど、その日の夜には、挽回しようと思ったのかネアに砂漠のお月見を誘っていた。
ネアはお休みを取ると大喜びだったので、ウィリアムも元気が出たようだ。
その光景を見ながら、ノアベルトとヒルドが話していたことを思い出して、ゼノーシュは少しだけ首を捻る。
(ウィリアムは、本当に何か企んでたのかな?)
多分、ネアとアルテアの契約をなくしたかったのは確かだろう。
それは同じウィームの外側にいるアルテアとウィリアムの二人にとって、繋がっているかいないかの優劣に思えるらしく、ウィリアムは少しだけ寂しがっているのをゼノーシュは知っていた。
(そういうところ、ウィリアムは竜に似てるのかな)
自分に似ているから、誰よりも竜は嫌なのだろうか。
今回の事件で、ウィリアムは別行動している時間で、バーレンを殺してしまおうとしていたりもしたようだ。
牛追い祭りの日に、ゼノーシュはウィリアムに光竜の居場所を尋ねられている。
『王宮の中にいると思うんだが、内部が分からなくてな』
『ウィリアム、王宮に忍び込むの?』
『うーん、どこでもいいんだが、早くしないと、ネアがいつの間にか捕まえてそうだからな』
『殺しちゃうの?』
『残念ながら、俺は、アルテアみたいに器用じゃないんだ』
そう微笑んだウィリアムは終焉らしくてゼノーシュも少しだけひやりとしたが、よく考えたらゼノーシュも夏至祭にはたくさんの妖精を排除したので、そういうものなのかと思う。
騎士達や友達はいいけれど、小さな女の子や伴侶に出来そうな綺麗な女の人は絶対に嫌なのだ。
ウィリアムにとっての竜も、そうなのかもしれない。
でも結局その日は、ウィリアムがちょっと真剣に脅かし過ぎてバーレンはすぐに逃げてしまったそうだ。
捕まえる前に逃げられてウィリアムは悔しかったみたいだけど、そのすぐ後にまた姿を現したバーレンは、ネアがいればウィリアムは襲って来ないと判断出来るのだから結構鋭いのだと思う。
そして、ウィリアムがバーレンを本気で殺してしまおうと思っていたのは、ネアにそのことを気付かれる前までだった。
ネアが察してしまえば、この後はどれだけ好機が訪れてもウィリアムはもうバーレンには手を出さないと思う。
それはやはり、大事なネアに嫌われることを避けようとしている、きっとノアベルトやアルテアなら狡猾と表現してしまいそうな、けれどもゼノーシュ的には不器用だと思うところである。
(だから、企んでるって言うよりは、ただ竜が嫌だったんじゃないかな。ネアの使い魔にもなりたくなさそうだし……)
ネアの、伴侶や契約の魔物になりたいという訳でもなさそうだ。
だからきっと、ウィリアムはもう少し仲良くなりたいだけなのだろう。
ゼノーシュからすれば一緒に暮らしてないのに家族のように思って貰えるのだから凄いことだと思えるけれど、ネアがアルテアに懐いているのが気になるのかもしれない。
(だけど、美味しいご飯があったら僕でも嬉しくなるし………)
そうなると、そこに勝つのは無理だという気がした。
お労しいと思いながら廊下を歩いていたら、ネアが難しい顔をして歩いていた。
「ネア、今日のおやつは檸檬シャーベットだよ!」
「………ゼノ」
「元気ないの?」
「ディノが海遊びの日の予習で死んでしまったので、使い魔さんにご用を申し付けようとしたのですが、忙しいと断られてしまいました」
「ウィリアムがいるよ。頼んでみたら?」
「まぁ、ウィリアムさんは今日もリーエンベルクにいてくれるのですね!」
「竜と戦う為に頑張って仕事を片付けたみたいだよ。バーレンがいなくなっちゃったから、少しだけお休みが出来たみたい」
「バーレンさんのお名前を聞くと、悲しみで胸が苦しくなります」
「竜はもう飼っちゃだめなんだからね」
「………ふぁい」
よろよろしているネアが心配だったので、手を繋いでウィリアムのところまで連れて行ってあげた。
「ウィリアム、ネアが手伝って欲しいことがあるみたいだよ」
エーダリアに借りた部屋で誰かと通信をしていたウィリアムは、その会話を終えてから微笑んでこちらを向いた。
死者の王らしい白い軍服姿で、ネアはいつもこの服装が格好いいという。
ゼノーシュもグラストの騎士服が好きなので、その気持ちはとてもよく分かった。
「どうしたんだ?俺でいいのか?」
「ウィリアムさん、………疲れてないですか?」
ちょっと言い出し辛そうにネアがもごもごすると、ウィリアムがその頭に手を乗せている。
眉を下げていたネアは、それで元気が出たのか少しだけ笑顔になった。
「昨晩はゆっくり休めたし、何でも手伝えるくらいには疲れてないな」
「じゃ、じゃあ、お庭にいる、もちうさの赤ちゃんを見るのを手伝ってくれますか?」
「もちうさ……?」
「ちびまろがいるのです!千切った一口お餅のような、ちびまろ赤ちゃんが四匹もいて、是非にもう少し近くで見たいのですが、赤ちゃんなので怖がらせたくもないのです……」
「ちびまろ?」
「ちび丸と称するには、少しだけたるんとした形状なので、その緩さを表現するとちびまろになりました。ふわふわちびちびの、心を掻き毟る毛玉生物です!」
「わかった。怖がらせたり逃げられたりしないように、近くで見たいんだな?」
「はい!」
ご機嫌でウィリアムの腕を引っ張るネアに、ウィリアムはとても嬉しそうに目を細めている。
ネアが可愛くて仕方ないみたいな感じで引っ張られているので、少しだけディノみたいに紐をつけるようになったらどうしようかなと、ゼノーシュは悩む。
二人きりにしてあげようと思って手を振ると、ネアも笑顔で手を振ってくれた。
「お腹空いたな。お餅食べたい………」
ネアがさかんに餅兎の話をするので、ゼノーシュまで脳内がお餅になってしまった。
午後からはグラストの仕事が終わるので、どこかにおやつを食べに連れて行って貰おう。
でもその前に何かないかなと厨房の方に向かったゼノーシュは、途中の会食堂で寝ているディノを見付けた。
なぜか丸めたタオルのようなものを抱き締めて眠っているが、もしかしてネアが身代わりに置いていったのだろうか。
海に行く前に泳ぎの練習がしたいと今朝は早くからプールに行っていて、とても疲れているみたいだ。
会食堂のテーブルに頭を乗せて、その足元には狐になったノアベルトが眠っている。
二人は仲良しだなと思っていたら、ふと、数年前にノアベルトの心臓に会った時のことを思い出した。
(………普通の鳥かと思って、食べれるかなって言っちゃったから、みんなには内緒にしておこう)
そんな事を言われた鳥は、ゼノーシュに悪態をついて逃げてしまった。
とても口が悪くて意地悪な鳥だったので、ゼノーシュは、本体と心臓は性格が違うらしいと知った出来事だった。
(僕の心臓はどんな性格なんだろう……)
少しだけ気になったが、取り出して仲良く出来ないと嫌なのでやめておこう。
もし心臓もグラストを欲しいと言ったら、厄介なことになってしまう。
そう考えていたところで、声をかけられた。
「ゼノーシュ、あいつを知らないか?」
「アルテア。ネアなら、ウィリアムと餅兎を見に行ったよ」
「…………ウィリアムはまだここにいたのか」
厨房に向かう途中で遭遇したのはアルテアだった。
アルテアもまたリーエンベルクに来てると思いつつ、ゼノーシュは嫌そうに息を吐いているアルテアを見上げる。
「仕事は終わったの?」
「南部の方で魔物の祟り物が派生してな。カルウィに蹴り出してきただけだ」
「アルテア、統括の仕事してるんだね」
「悪いが、ここ半年で俺はこの上なく働かされてるぞ?」
「そっか。今まではお仕事してなかったもんね」
「………お前、随分と人間に毒されたな。言っておくが、自分預かりの領土は手を入れてたからな」
人間に毒されたとはどういうことだろうと首を傾げたが、ゼノーシュにはよく分からなかった。
魔物は基本奔放に自分の質を示すことが本分ではあるが、特定の職を持っていなかったのは間違っていないと思うのだが。
(…………僕は、ご飯を作ってないときのアルテアは、ちょっと苦手)
それは彼が人間を弄ぶ気質の魔物だからで、特別扱いのネアと、それ以外のグラストは違う。
そう思って警戒してしまうけれど、当のグラストはあっさりアルテアと仲良くなっていた。
グラストが凄過ぎてアルテアも彼には手を出さないだろうとわかってはいても、やっぱり時々怖くなる。
だからゼノーシュは、アルテアにはネアを大好きでいて欲しかった。
リーエンベルクの仲間達は、ネアにとっては家族なのだ。
そこでふと、ゼノーシュはアルテアが白い紙袋を持っていたことに気付いた。
お菓子かなと思ってわくわくする。
「………アルテア、それお土産?」
「食べ物じゃない。あいつの毛皮欲を押さえ込む為のものだ」
「武器?」
「要は毛皮なら、何でもいいんだろ。そうなると生きてる必要はないだろうが」
「死んでる毛皮なんだね………。でも、ネアが大好きになっちゃったら、ディノが怒らない?」
「ぬいぐるみだぞ?」
「本にも嫉妬してたよ」
そう言われて溜め息を吐いていたが、ゼノーシュはその袋の中身がぬいぐるみだと知ってびっくりした。
アルテアは、好きな子にぬいぐるみをあげるような魔物に見えなかったからだ。
「アルテアの形なの?」
「………は?………おい、俺はそこまでおかしくないぞ」
「じゃあ、何だろう。あ、わかった!竜だ!」
「さてな」
その時は教えて貰えなかったけれど、後でネアが袋から引っ張り出して狂喜乱舞しているのを見たら、それはちょっと太った子供の雪豹のようなぬいぐるみだった。
とても手触りの良い白い毛皮で、ネア曰く、もふもふでとろりという手触りらしい。
ゼノーシュも触らせて貰ったが、ムグリスっぽい気がする。
「名前をつけます!」
「ぬいぐるみに名前をつけるの?」
「愛くるしい、私のお部屋の同居人なのです。抱き締めて眠ると、とても心が満たされました」
「ディノ、怒らなかった?」
「毛布妖怪になりましたが、所詮はぬいぐるみ。生きていない布製品なので我慢して貰うしかありません」
「お労しい」
「真っ白だけれど、少しだけまだらに灰白なのが可愛いですよね。尻尾も、もそもそっとしていて、…………むぅ、目はアルテアさん色です」
「本当だ。目がアルテアの色だね。同じ色の宝石、見付けてきたのかな?」
「そう言えば、前にほこりが吐き出してました」
「じゃぁ、ほこりの宝石だね」
「…………どうしましょう。もう、雪豹化したアルテアさんにしか思えません」
「ディノが怒ると思うな」
そのぬいぐるみは、ディノを悲しませないようにと別の名前がつけられたのだが、結局ネアがアルテアと呼んでしまうので、いつの間にかアルテアになっていた。
ネアは抱き枕にすることが多く、本を読む時には膝の上に乗せてクッション代わりにしている。
ディノはとても荒れ狂って、ぬいぐるみより撫でて貰う為に、時々ムグリスになっているみたいだ。
「ノアに、排他結界をかけて貰いました!」
「アルテアが燃やそうとするから?」
「うちのアルテアを燃やそうとするだなんて、なんて悪い魔物でしょう」
「本当のアルテアだからじゃないかなぁ」
「むぐぅ、こんなに可愛いぬいぐるみを用意してしまったのは自分でしょうに」
「………ぬいぐるみが一番?」
「ふふ、ディノも可愛い魔物ですが、可愛いと言えばゼノですね」
「うん!」
ぬいぐるみに対する評価は様々で、ノアベルトは、女の子の気を惹く為によくあげるよねと全く気にしていなかった。
ただし、生きた動物がリーエンベルクに来たら、銀狐の誇りにかけて八つ裂きにする予定だという。
エーダリアとウィリアムもぬいぐるみだからと気にしていなくて、ヒルドは少しだけ嫌そうにしている。
ゼベルは可愛いと絶賛しているが、夜狼の奥さんは少しだけ嫉妬しているみたいだ。
そしてディノは、他のぬいぐるみと交換してしまおうと思っていたら、ネアがノアベルトに排他結界をかけて貰ってしまったので、その日は一日悲しそうにしていた。
でもある日、ネアに雪豹アルテアは毛布みたいな肌触りだと説得されて触ってみてから、時々ディノも枕にするようになったらしい。
とても気に入ったので何の毛皮なのかを調べて、その毛皮の製品を買う予定なのだそうだ。
この前、グラストは雪豹アルテアを見ていたからと、ゼノーシュに小さな水色の竜のぬいぐるみを買ってきてくれた。
嬉しくてずっとポケットに入れておいたけれど、すこしくたびれてきたので専用のケースを買って大事にしまってある。
そのお礼をアルテアに言ったら、なぜか遠い目をしていた。
一番落ち込んでいるのはアルテアだったので、ゼノーシュは何だか可哀想になった。
でも、あのぬいぐるみを燃やすのは、もう無理だと思う。