死者の薬と失踪した魔物
「シル、爪でも髪の毛でもいいから、何か貸して!」
「ノアベルト?」
「僕はね、ウィリアムの人間に向ける好意だけは、雑過ぎて、絶対に信用しない派なんだよね」
「ちょ、ネイ!何を連れているんだ?!」
「死者の国に落ちる前の死者を掠め取って来たんだよ。これで、シルの魔術を使ってあれこれ工夫して、どうにか穴を開けるって算段なんだ」
「ウィームの領民をそんな道具にするんじゃない!!すぐに返してやれ!!」
「えー、もう死んでるから大丈夫だよ。人間の死者の一人や二人……」
「ネイ、他の領土の死者なら如何様にしても構いませんので、他の材料を探しにゆきましょうか」
「…………ヒルド、他の領地でも同じだぞ。死者を材料にするな」
「アルビクロムで、そろそろ亡くなりそうな貴族が一人おります。あの方は、良い材料になりそうですね」
「私怨だな?………お、おい、まさか死期を早めるようなことは………」
「ヒルド、僕、道を繋げやすいところを探すね!」
「頼みましたよ、ゼノーシュ」
その日、スールでの騒動もどうにか片が付き、リーエンベルクを訪れたアルテアが見たのはそんな光景だった。
不在にしていたウィリアムが鳥籠を放置したせいで、スールは惨憺たる有様であった。
閉ざされた土地でどこにも行けず、疫病や死や悪夢が蔓延るのだから、土や岩ですら腐り落ちている部分があった程だ。
ヴェルクレアは、スールの利権とエメラルドに食指を動かしている。
その一端を任されたアルテアが、あの国をむざむざ死なせてしまう訳にもいかない。
なので、ネアからウィリアムと再会したという伝言を受けてから、アルテアはスールの延命に尽力していた。
土地や国の延命作業など慣れない作業なので、ひどく疲弊している。
気に入っていた靴も捨てる羽目になり、最悪の気分で避難してきたところでこの有様だ。
よく聞けば、どうやらウィリアムは、死者の国にはもうこれ以上余分な要素は受け入れられないと話しているらしい。
ネアに関しては、自分が面倒を見るので問題ないという訳だ。
加えてネアの買った家には不穏な地下室があるそうで、ウィリアムには解決出来ない事情があるのだとか。
その不安要因を加味され、ネアは寝台の隣をウィリアムが使うことに対しての抵抗感を曖昧にされてしまったらしい。
“ほら見ろ、あいつは腹黒いからな”
そうネアのカードに書いてやれば、目下、地下室の脅威を回避するのが最大の課題であり、ウィリアムは親族のような感覚なのであまり気にならないと大真面目に返され、まさかそれを本人に言ったんじゃないだろうなとげんなりする。
そんなことを言われれば、あの男とて意固地になるだろう。
(自分の領域で、寄る辺ないお気に入りの面倒を見るのは、さぞかし愉快だろうな……)
そう考えれば不愉快だったが、今回に限っては、そのきっかけを作ってしまったのはアルテアなのだ。
椅子に座ってタイを緩めながら、あの瞬間の血の気の引くような思いを反芻する。
展開されたのが死者の門であることはすぐにわかった。
それに、シルハーンも自分も、決して間に合わないわけではなかったのだ。
あの小さな部屋を横切って、門が閉じる前に飛び込むことぐらい容易かったのだが、あろうことか死者の国は魔物という要素を綺麗に弾き返したのである。
『これも理か…………。成程、私達は入れないようだね』
そう呟いたシルハーンの声の静かさに、少なからずひやりとしてしまい、門を作った者達はまず生き延びられないだろうなと考える。
あの後から、ネアの消息がカード越しに伝わるまで、シルハーンはただの一度も氷のような微笑みを崩さなかった。
『私は道が混ざらないように、少し死者を留めよう。君は、ウィリアムを見付けておいで』
死者の国に干渉可能であるウィリアムが姿を消しているとわかると、シルハーンにはそう命じられた。
命じられたという言葉の響きが、そもそも異例のことである。
魔物はそれぞれが己の領域の王である。
それ故に、第五席程度までの魔物が露骨に万象に膝を屈することはないが、それでもやはり彼がそう望めば叶えざるを得なくなる、そんな響きを久し振りに耳にしたのだ。
(あの時…………、)
あの時、シュタルトの麻織物の店の廊下で、シルハーンから、第四王子のジュリアンがネアのかつての想い人に似ているのだと聞かされた。
一度会えば由縁となる。
あまり関わらせたくないから連れて帰ると言われて、部屋に戻ろうとしたシルハーンを無理矢理引き留めたのはアルテアだ。
聞き逃せない問題であったので詳細を引き出そうとして、その時間は恐らく一分もかからなかっただろう。
でも、それだけあれば充分に間に合ったことは自分でもよくわかっていた。
(それにしても、死者の道を閉ざすつもりか……)
恐らく万象は、全ての死者の道を閉ざすことで、ネア達が落ちた区画へ、他の生者や、新しい死者が転がり込むのを防ぐつもりだ。
死者の国に落とされる生者は咎人であることが多く、死にたての人間は取り乱しやすく攻撃的だという。
一度全ての道を閉ざして、ネアがどこか安全な場所に辿り着くまでの猶予を与えるつもりなのだろう。
(………相変わらず、とんでもないな)
それは、世界中の死者や死者の門の権利を奪うとんでもない荒技だ。
歌乞いを得てから、シルハーンがこうした万象らしい高慢さを示すことは少なくなった。
ふと、そんな風に万象を変えた一人の人間がいるということに、微かな感慨を覚える。
しかしその直後、またしてもひやりとする出来事があった。
核を持たせた人間が地下に落ちたことがウィリアムにわかったように、強固な守護を与えた者には、その守護対象者への攻撃がわかる。
死者の国に落ちた後で、ネアの守護が大きくたわんだ瞬間があったのだ。
命を奪う程の衝撃ではないが、守護がなければ肉体を大きく損傷したであろう衝撃が守護にかかった証であり、繋がった先のアルテアはぞっとした。
本人は打ち身と切り傷程度だと話しているその時に、恐らく本当はそれなりの攻撃を受けている。
守護がまだ生きている間に受けた衝撃であったことと、本人がさしたる危機感や恐怖感を覚えていなかったことが幸いではあるが、結界をたわませた以上は、魔術を絡ませた打撃であったことは間違いない。
アルテア以上の守護を深めているシルハーンも、同じように彼女が何かに脅かされた瞬間を感じた筈だ。
少し嫌な予感がしたので、エーダリア経由でシルハーンの様子を探らせたところ、どういうわけかゼノーシュが面倒を見ていたらしい。
現場にいてもどうにもならないと判明した段階で、情報を集約しやすいリーエンベルクにシルハーンが戻った後、非番だったというゼノーシュが、なぜかシルハーンの膝の上にあの狐を設置し、自分も隣に座ってあれこれ世話を焼いていたのだそうだ。
『契約の魔物同士にしかわからないこともあるのだろう。正直助かっている』
そう言ったエーダリアの言葉に、なぜだか少しだけ不愉快になる。
確かに彼女は契約の魔物のものでもあるが、自分とて今は事故のような経緯であれ、使い魔の契約を結んでいるのだ。
そう考えかけて、アルテアは何とも言えない気分になった。
ネアが無事にウィリアムと再会したと聞き、特に返事もせずにスールの調整にかかりきりになったのは、そのせいかもしれない。
もう大丈夫なら、自分は手を離してもいいだろう。
そう考えてあの血と怨嗟に満ちた大地を歩いてきたくせに、なぜ、こうしてリーエンベルクに戻って来ているのだろう。
(そもそも、何でノアベルトがこうも自然に入り浸っているんだ……)
結果、思いがけないものを見ることにもなったので、来て良かったのは確かだ。
大騒ぎしている連中から少し離れた場所に陣取りながら、その喧噪を目を細めて観察する。
いつもならそこで舵取りをしている灰色の髪の少女は、当たり前だがここにはいない。
今頃は、死者の国でウィリアムと一緒にいるのだ。
「俺は暫くまた王都だ。もう待ち時間なんだろ。ここで肩を突き合わせていても仕方ないからな」
途中でシルハーンを捕まえてそう言えば、心内を読み解けない不可思議な微笑を浮かべて振り返った。
「うん。それがいいだろうね」
穏やかで整った声音だが、まるでこちらを見ていない。
やはり嫌な予感がしたので、帰り際にノアベルトを捕まえて忠告しておいた。
「あいつをしっかり見張っておけ。このままだと、ろくでもないことをするぞ」
「ありゃ、そんなこと今更言うの?多分、このままだと保たないだろうから、僕達は門をどうにかしたいんだよ」
「シルハーンの為に?」
「それと、あの子の為にかな。僕が向こうに行ってもウィリアム以上のことは出来ないしね。それなら、ネアにとって一番来て欲しいシルを放り込むのが一番だと思うでしょ?」
「おい、放り込むつもりなのか」
「ウィリアムは死者の国がどうこう言ってるけど、まぁ僕は、死者達なんてどうでもいいしねぇ」
「それを言えば、俺を含め他の奴等だって、死者なんぞどうでもいいだろ」
「そっか、アルテアは統括だから制限があるのか。もし、死者がこっちに溢れてきたら後は任せるよ」
「雑に閉める気満々かよ。どうせこじ開けるなら、もっとマシな手を使え」
「そうかな。一番穏便な手段だと思うけれど………」
そう笑った塩の魔物の向こうに、小さなカードを覗き込んでいる万象がいる。
無心に何かを書き込んでおり、返事が来たのか小さく瞳を揺らしていた。
また何かを書き込んでいるが、随分な量な気がする。
どれだけやり取りをするんだろうと思って、呆れた気持ちになった。
言うべきことは言ったので、リーエンベルクを出ると、転移を踏み変えて新しく手を入れたばかりの屋敷に帰る。
小さく息を吐いてジャケットを椅子の上に放り投げ、ジレのポケットから小さな白いカードを取り出した。
そこには、ネアらしい想定外の文字が並んでいて、思わず目を瞠る。
“週末にある、ウィームのおまんじゅう祭りのおまんじゅうを買っておいてください、使い魔さん”
「…………どれだけ食い気なんだよ」
そう呟いて唇の端を持ち上げると、ペンを取り出して返事を書き込んだ。
すぐさま返ってきた文字には、微かな焦りが窺える。
“そんなものと馬鹿にしてはいけません!普段は食べられないようなものが、たくさん売り出されるんですよ!ゼノは食べるのに夢中でしょうから、私の分の確保は使い魔さんの仕事なのです”
(祭りの限定食の確保が、使い魔の仕事でいいのか………)
でもそれは多分、ネアが自分にしか頼めないと考えたことなのだろう。
シルハーンに頼んでも、加減や選択があまり上手く出来ないだろうということが、アルテアにも充分に想像出来る。
“蒸したてのおまんじゅうですので、状態保持魔術が必須なのです。そこで労力を割くので、エーダリア様やヒルドさんにも頼めません。担当者が一人しかいない重大なお仕事ですので、必ず成功させて下さいね”
“死者の国の食べ物は、砂を噛むような薄味なのです。最低限の食事はウィリアムさんに頼めますが、おまんじゅうを夢見て心を慰めているのです……”
あのネアが食事面で不遇を強いられているとなると、かなり落ち込んではいるのだろう。
その表情が目に浮かぶようで、何だか苦笑してしまう。
(そんな祭りに行きたかったのか………)
正統な祝祭とはまた違う、販促も兼ねた市井の祭りなのだろう。
気になって調べてみれば、確かにウィームではそんなものがあるらしく、数日後の予定であった。
(週末か………)
その前に門を開けば、出してやれるのに。
そう考えてしまって、眉を顰めた。
「あれは愛玩動物みたいなもんだ。死にはしないんだからこのままでいいだろう………」
そう呟き、着替えて食事をすると、その日は屋敷で自堕落に過ごした。
スールの後始末とヴェンツェルとの交渉で、王都に発ったのはその翌朝だ。
そしてその三日後、アルテアは、ヴェルリアにある屋敷の寝台で飛び起きた。
(…………待てよ、ノアベルトが作ろうとしているのは、死者の薬か?!)
夜明けにふと目が覚めてしまい、酒でも飲んでからまた寝ようかと思案していた時、唐突にその存在を思い出した。
あまりにも古い時代の知識であるので、すっかり記憶から抜け落ちていたのだ。
かつて、魔物に殺された人間達のあわいがなく、全ての死者が死者の国に落とされていた時代があった。
実は、魔物がお気に入りの人間を殺してしまうことはかなり多い。
なぜか心を寄せた者を失いやすいという習性を持つこともあり、死者の国には度々、殺してしまった人間の魂を取り戻さんとする魔物達からの襲撃があった。
そのことにうんざりした先代の終焉が、魔物に殺された人間達用に別の亡者の国をあわいに作り上げて今日に至っている。
死者の薬とは、その古き時代に重宝された秘薬である。
魂の階位の高い人間の亡者と、高位の魔物の体の一部を使い作られる薬だ。
爵位のないような魔物の場合は、まさに命と引き換えになる薬であることもあり、先代の犠牲の魔物と精霊の王達、そして竜達も力を合わせ、その薬にまつわる叡智を封じたとされている。
(………ノアベルトの奴は、相変わらず抜け目ないな)
しかし、作ろうとしているのが死者の薬なら、ノアベルトはその知識をまだ有しているのだろう。
確かあの時、絶対にそういうものを望まない一部の者にのみ、その知識を残すという話も出ていた。
アルテアは人間の死者になどさしたる興味もなかったので放っておいたが、その権利を得たのがノアベルトなのかもしれない。
「…………待てよ」
(だが、あの薬には一晩の効能しかなかった筈だぞ………)
であれば、その一晩でネアを連れ戻すつもりなのだろうか。
そうなると、どのみち死者の国との境界を壊して出てくるのだろう。
或いは、効用が切れても死者の国に留まるとする。
その場合は、死者の国は異物としては大き過ぎる万象の魔物を背負い込めずに破綻する可能性がある。
「くそっ、ノアベルトが言ってたのはそういう意味か!」
ネアがいるのは、ヴェルクレアの死者が落ちる国の十三区だ。
地上に該当させると、アルビクロムとヴェルリアの国境域が一番近いだろうか。
そんな土地から亡者が湧き出してきたら大問題になる。
統括の魔物として、どれだけの労役となることか。
防げないというなら、どうにかして薬そのものの効能を長時間安定させるしかない。
そう考えて慌ててリーエンベルクに駆け込めば、すでに完成させた薬の前でノアベルトがしたり顔で笑っていた。
「遅かったね、アルテア。仕上げは任せるね」
「………お前、俺のことも折り込み済みか」
「そりゃそうさ。従来の死者の薬の効果だけじゃ、どう見ても足りないでしょ」
「死者なんぞどうでも良かったんじゃないのか?」
「どうでもいいよ。僕はまだ、人間達のことはあまり好きじゃないしね。でも、大騒ぎになるとネアが責任を取らされるかも知れないし、エーダリアやガレンが後始末をする羽目になると思うんだ。僕のお気に入りが困るのは嫌だからねぇ」
テーブルの上を滑らせて、小さな青い結晶石の小瓶を渡される。
微かに暖かいのは、これが高位の魔物であれ喉を焼く劇薬だからだ。
死者の薬は、服用し薬の効果がある間のみ、魔物から声を奪う。
この副作用から、相手の人間を説得出来ずに起きた悲劇も幾つかあったそうだ。
「一日はかかるぞ。その間、シルハーンを抑えておけよ?」
「勿論。シルはさ、僕が薬を作れたことまだ知らないから大丈夫」
ノアベルトにはそう言ったが、薬の完成は急ごうと思った。
もうすぐ二週間になるのだ。
あの万象があと一日も待てるだろうかと、心から不安になった。
しかし、事はそう簡単にはいかなかった。
「…………誰だよ、これを最初に作った奴は」
リーエンベルクに借りた部屋の中でその死者の薬を調べてみると、思ってたより遥かに厄介なものだと判明した。
成就や打ち消し、呪いや祝福など様々な要素が絡み合い過ぎており、その全てに均一に選択の要素を与えるということがどれだけ困難なことか。
(効能を引き延ばすにしても、この絶妙な織りを崩したら薬の効果ごと失われるぞ……)
薬の効能を引き延ばすには、一般的にはここで効果が終わるという、終焉や終了の要素を意図的に選択させなければいいだけだ。
本来であれば終焉の魔物が一番向いている作業であるべきだが、残念ながらウィリアムはそういう小手先の作業に関しては壊滅的である。
やろうと思っても出来ない筈なので、となればこれはアルテアくらいしか出来ない作業なのだが、一通り薬の成り立ちを紐解いたところで、もう無理な気がした。
(寧ろ、この薬をよくもこれだけの短時間で作ったな……)
そう、少しばかりノアベルトを見直しながら、その後も半日くらいは薬瓶に向かい合いあれやこれやと魔術を捻くり回してみたが、これ以上触ると薬の薬効を壊すというところで諦めることにした。
無理だと認めるのは癪だが、薬効を失わせて取り返しがつかなくなったら元も子もない。
中身を分析したときに、どこで集めてきたのかわからないような厄介な代物も混入していたからだ。
もう一つ作れと言われても、二度目はない可能性が高い。
(高位の魔物のかけらや、高位精霊の血まではどうにかなるが、竜の王族から生きながら抉り出された目玉や、血族に処刑された王族の心臓はそう簡単に出てこないしな………)
と言うか、この短期間でよくもまぁ集めたものだと感心せざるを得ない。
(………土曜の朝か……)
早朝のリーエンベルクをうろつき、青い小瓶を持って少しだけ口惜しい思いのままノアベルトを探せば、なぜか、リーエンベルク内は騒然としていた。
「丁度良かった、アルテア!シルを見なかった?」
「………まさか、あいつがいなくなったんじゃないだろうな………」
「そう、いないんだよ!一人にしないようにみんなで見てたんだけどさ、昨日の夜に僕が膝の上で居眠りしちゃった後から姿が見えなくて、ヒルド達も探してくれているところ。……でも、その薬はアルテアの手元にあると………。うーん………」
「…………は?お前が、……あいつの膝の上で居眠り?」
「もしかして、アルテアに預けてある薬を使って、早々と死者の国に降りたのかなって思ったんだけど、違うのかぁ。これ、大丈夫な事態かな……」
「…………いや、大丈夫じゃないだろ」
そう言えば、ノアベルトも深い溜息を吐く。
どこへ向かったのかは察しがつくが、その結果引き起こされる騒動が問題なのだ。
「………ネアに言う?」
「あいつに言うよりも、まずはウィリアムだろうな」
「まぁ、彼の場合は自己責任だけどね。余分な要素を受け入れられないなんて、多分嘘だと思うし」
「だろうな」
「だから、ウィリアムはどうなってもいいんだよ。でも、あの子は巻き込まれ型だからなぁ……」
「そうか?あいつも引き起こしてるだろ………」
その後、ネアは思いもよらない形でシルハーンと再会したらしい。
あらましを聞く限り、第四王子の罪状が上乗せされそうな事故もあったようだが、今はそれどころではないようだ。
余る形になった死者の薬は、ノアベルトが使いたがっていたが、エーダリアが泣き落とす形で温存させたようだ。
確かに、この世代の人間達が目にするのは初めての薬なので、出来れば現物をとっておきたいのだろう。
余程えげつない対価を要求したのか、ノアベルトは謎にボールと呟きながら、ご機嫌で鼻歌を歌っていた。
そしてかなり消耗した様子のウィリアムが、予定にはない日に門を開けるそうなので、アルテアとしては、その経緯に何があったのか詳しく知りたいところだ。