夢の幕間と魔物の文字
誰もいない真っ暗な舞台に立っている夢を見た。
こちらを生気のない目で見ているのは、全員が死者達だ。
虚ろな眼差しに、灰色の肌。
両親や小さな弟にジークだけではなく、交通事故で命を落としたという幼い頃のクラスメイトもいる。
写真でしか見たことのない祖父母に、ジークと同じ車に乗っていたらしい、側近の男性の姿も。
わあっと喝采が聞こえるが、死者達は身じろぎもしていない。
ここにいて生きているのは、ネア一人だけなのだ。
「歌わないのかい?」
そう尋ねたのはジーク・バレットだ。
その声や眼差しがジュリアン王子とはまるで違って、ネアは何だかほっとする。
面立ちはそっくりなのに、まるで違う人であることに少し複雑な気持ちでいた。
でも、よく似ていると思ったのは最初だけで、動いたり喋ったりしたら全然似ていないと気にならなくはなったのだが。
でも、それでもやはり、ジークの正しい声と姿にほっとする。
(わたし、まだ歌えるのかしら?)
なぜだったか忘れてしまったが、もう大々的に歌ってはいけなかった気がした。
「悪魔が来るよ」
もう顔立ちもうろ覚えなクラスメイトが、そう呟く。
「死者の王が来るんだ」
そう声を張ったのは誰だろう。
「危ないから逃げなさい。そこに居るのは、悪魔達だろう」
そう言ったのは、父方の祖父だった。
初めて聞いた声は不思議な響きで、ネアは死の残響に目を瞠る。
「悪魔に捕まる前に、こちらに来るかい?」
そう手を伸ばしたのは、ジークだ。
死の色に侵された、綺麗な指先を見つめながら、ネアは手の形もジュリアンとは全然違うのだなとぼんやり考えている。
「ネア」
その時、舞台の奥から悲しげな声が聞こえた。
はっとして振り返ると、舞台の一番奥に、小さな泥溜まりがある。
その泥の中から弱々しくて悲しい声が聞こえるのだ。
「ネア、どこにも行かないで」
小さく息を飲むと、ネアは慌ててその泥溜まりに駆け寄り、少し躊躇ってからそっと指先を浸した。
指先は汚れたが、そんなことは気にならなかった。
「大丈夫ですよ、ディノ。私はずっとあなたの側にいますから」
そう口にした途端、背後の客席からひどく失望したようなざわめきが聞こえてきた。
「…………むぐ」
何だか暖かいものにぶつかって目が覚めた。
もそりと起き上がったネアは、変な夢だったなと考えながら、枕元にあったディノ専用になっているカードを開く。
“ネアに会いたい”
そこには、そんな寂しい言葉が揺れていた。
はっとして、いつから書かれていたのだろうと慌てて返事を書き込む。
“今起きました!私も、ディノに会いたいです。寂しい思いをさせてごめんなさい。でも、このカードの向こう側に居ますからね”
すぐに返事がきた。
“うん。………でも、君に触れられないんだ”
その文字に触れて、目の奥が熱くなる。
単純に婚約者をないがしろにしている罪悪感とは違い、家に一人ぼっちでお留守番のままのペットみたいに、無垢なものを不当に寂しがらせているような気分になってしまう。
寂しいということを噛み砕けない程、この魔物は幼くはないのに不思議な感覚だった。
“ウィリアムは、君に触れられるのに”
そう不満を言う魔物の文字が少し荒々しくて、妙に可愛くなってしまったネアは、唇の端を少しだけ持ち上げる。
こうして、自分が寂しくて堪らないときに、同じようにその寂しさを分け合ってくれる相手がいるというのは、どんなに素晴らしいことだろう。
先程の夢を思い出して、そう言えばこの可愛い生き物は一応は魔物だったのだと小さく笑う。
でも、だから何だというのだろう。
大事なものは大事なのだ。
“では、私もディノがずるいと思います。恐怖の地下室のない、素敵なお部屋にいるのですから”
“まだ地下室が怖いのかい?”
“これはもう、第四王子様を連れてきて、地下室に住まわせましょうか”
“…………浮気?”
“いえ、生贄ですね”
“でも、同じ家に住むのはやっぱりやめようか。ウィリアムを地下室に寝かせればいんじゃないかな”
“そんなウィリアムさんに、地下室を片付けて貰おうとは企んでいるのです!”
“君は、そういうものが苦手なんだよね。可哀想に”
“なぜか、グエンさんのかけてくれた結界が壊れているんです。だから、ウィリアムさんが来てくれたら封鎖し直して貰いますね”
その時、階下からごとんという音がした。
「…………っ!」
ぴっとなったネアは、真っ青な顔で凍り付いて息を潜める。
そのまま暫くすると、どさどさっという何か質量のあるものが落ちる鈍い音がした。
もはや、完全に息が止まりそうになりながら、ネアは胸を押さえる。
ディノからの返信が浮かんだカードをサイドテーブルに置いて、出来る限り衣擦れの音がしないように、そろりと寝台から下り始めた。
慎重に慎重に足を床につけ、軋んだりしないようにと息を殺す。
幸いにも寝台の端っこに寝ていたようなので、さして時間はかからず、ものすごい中腰の恰好のまま寝台の平面から抜けると、今度は時間をかけて普通の立ち姿になり、床が軋まなかったことに感謝しながら寝室の扉のところまで忍び足で歩いていった。
真鍮のドアノブは、綺麗な花の装飾が施されている。
水色に連続模様のある壁紙と相まって、こんなホラーな展開とは無関係な平和な部屋に思えた。
(………扉を開けても大丈夫かしら)
躊躇うことが途中から煩わしくなった大雑把な人間が扉をえいやっと薄く開けば、階段に続く廊下も、階段も、しんと静まり返っている。
先程の音は夢だったのだろうかと考えたが、確かに何か重たいものが落ちる音が聞こえたのだ。
ホラー映画でありがちな死角、足元や廊下の隅、天井もチェックしたが不審なものの姿はない。
「墓犬さん………?」
しかし、階段の踊り場のマットの上で寝ていた筈の墓犬の姿もなかった。
意を決して呼びかけてみたネアの声にも、とたとたと歩いてくる気配もなく、家の中は静まり返ったままだ。
外の街路樹が風に揺れる影が、玄関扉の上の飾り窓から廊下に落ちている。
ゆらゆらと揺れる光と影には日中の穏やかさが滲むのに、昼間を眠って過ごす死者の国にいると、その穏やかさが不自然な時間に起きているという心細さに繋がった。
(丁度、正午くらいだろうか………)
このくらいの時間になると重たい雲にも少しの陽光の切れ目が覗いて、一瞬だけ街が明るく見える時間がある。
死者達の目には苦痛に近い明るさなので、こんな時間に目を醒ましているのは生きている者くらいだ。
(…………こわい)
誰もいない空っぽの家。
穏やかな筈の時間のこの明るさも、未知の場所の自分の領域ではないところという気がする。
この家の履歴を知る者もおらず、何かが起こっても対処しきる力はネアにはない。
自分の領域ではないという無力さと異端さは、この世界に落とされたばかりの頃に似ていた。
(でも、物語に入り込んだような感じはしたけれど、ホラーのような感覚はなかったのに……)
そう考えてじわりと滲んだ惨めさを飲み込んだとき、また階下からぼさっという何かが落ちる音がした。
「……………っ!!」
飛び上がってしまったネアは、涙目になって階段の方を覗いた後、そっと部屋の扉を閉める。
明らかにもう下の階に何かいる筈なのだが、一人で確認しにゆく勇気はない。
寝室に籠城して、ウィリアムやグエンが訪れてくれるまで時間を稼げるだろうか。
ガチャリという音を立てないように細心の注意を払って寝室の内鍵を閉めると、ネアはせめてもの心の支えであるカードの方まで戻ろうとした。
「…………ネア?」
「むぎゃ?!」
ホラー感満載の状況で、振り返った瞬間に部屋の中に人がいたという驚きを、どう表現すればいいだろう。
心臓が止まりそうになったというよりは、心臓を吐き出しそうになるくらいびっくりして、ネアはその場で垂直跳びをしてしまう。
けれども、部屋の中にいたのはホラーの定番であるような容姿のどなたかではなく、少しだけ髪の毛をくしゃくしゃにしたウィリアムだった。
「ウ、ウィリアムさん?!いつのまに来たのですか?」
「ああ。………二時間くらい前かな。スールの鳥籠が思ってたより片付くのが早かったんだ」
怖さのあまりに若干取り乱し気味のネアに気付き、寝台の横に立っていたウィリアムは、こちらまで歩いてきてネアの手を取ってくれた。
少し体を屈めて優しい目でどうしたんだろうと問いかける様は、完全に泣いている幼児向けの対処法である。
「どうしたんだ?」
「むぐ!一階から何か物音がしたのです………。何か怖いものがいるかもしれないので、音を立てないように慎重になっていたのに、振り返ったら突然ウィリアムさんがいて、驚きのあまり心臓を吐き出しそうになりました……」
「そうだったんだな、驚かせてすまない。心臓を吐き出さないでくれて良かった」
「踊り場のマットの上で、地下室からの侵入者を防いでくれていた墓犬さんもいません………」
「ああ、墓犬は、俺が来たから帰らせたんだ。……………地下室に誰かいるのか?」
「グエンさんが、恐怖の地下室を封鎖してくれたのですが、封印魔術が壊れていたんです。何者かが、ばりんとやったのでしょうか?」
自分で説明しながら怖くなったネアは、よしよしと頭を撫でてくれているウィリアムのシャツの袖に掴まろうとして、むっと眉を顰めた。
袖がないので手首を掴んで拘束するが、これはホラーな何者かに襲われても道連れにする為だ。
引き摺りこまれたり落ちたりしても、これならウィリアムも一緒である。
「…………地下室の封印?………もしかしたら、俺が家の中を見て回った際に、気付かないで開けたかもしれないな……」
しかし、そんなウィリアムは、ネアの心を殺しにかかるような台詞をさらりと吐いた。
「え…………」
「全部の部屋を見ておいたからな。ネア?」
ちょっと意味が分からないという気分でネアが見返せば、この家の中を一通りチェックした際にその扉を開けた筈だと言う。
殺人犯でも見るような酷い顔色でじっと見つめられてさすがに察したのか、ウィリアムは罪滅ぼしの為に慌ててネアを持ち上げる。
「…………そんな簡単に開かなかった筈なのです。がちがちに固めてあったのに」
「…………い、いや、結界を壊したのは本気で気付いてなかった。怖い思いをさせてすまなかったな」
「ばりんとか、がしゃんという音はしませんでしたか?」
「…………すまない、ネア。と言うことは、廊下にシダ―ウッドの枝が大量に敷き詰められていたのは、ネアなりの結界だったんだな?」
「………………むぐぅ」
持ち上げられたまま低く唸った人間に、終焉の魔物はあからさまに狼狽えた。
心の狭い人間は、どんなに優しく微笑みかけられようが、あの苦心の作を笑ったら許さないという気分なのだ。
シダ―ウッドの枝を積み上げながら、ネアがどれだけ怖い思いをしてあの扉を封鎖したのか、ウィリアムは知らないではないか。
「そうか、知らない間に結界が壊れていたら怖かっただろうな。……と言うか、何でそこまで地下室を封鎖したいんだ?蜘蛛ならもう入れないようにしただろう?」
「恐怖の絵が並んでいます………」
「……………絵?……ああ、確かにそういうものがあった気もするが…」
「そういうものへの怖さを理解しない、鈍感な方でした……」
「………そうだ、ほら、頼まれたハムやバターを持ってきたから、昼食でも食べようか」
「むぅ。………精神的心の傷を癒す為には、ハムを貪り食べるしかありません」
そこで少しだけ気持ちを持ち直したネアは、ようやくウィリアムの恰好がラフすぎる問題に直面した。
髪の毛が少し乱れているのには気付いていたが、片手抱っこで持ち上げられていて、バランスを取る為にネアが手を乗せた肩が、服地ではなくて素肌であることに今更気付いたのだ。
「……………それと、なにゆえ、上に何も着ていらっしゃらないのでしょう?」
「ん?ああ。寝てたからな」
「…………寝てた」
どうにも不思議なことに、ウィリアムがそう視線を投げたのは、先程までネアが眠っていた寝台だ。
さも、そこに一緒に眠っていたかのような物言いだが、それはどういうことだろう。
「……………もしや、一緒に?」
「ああ。ネアが随分と端に横になってたから、反対側を借りた」
「………………そう言えば、寝台は一つしかありませんでした。こちらでも家具は買えるのでしょうか?」
「いや、仮住まいだしそこまでしなくてもいいだろう。俺は隣りで構わないが、嫌か?」
「む。…………しかし、大の字になって眠るにはいささか幅が足りませんよ?」
この屋敷の備え付けの寝台は随分と大きい。
前の家主さんは大柄な方だったのだろうかと考えてしまう、ネアで計算すれば三人くらい大の字で眠れそうな大きさのものだ。
とは言え、ネアは本調子になれば大の字派であるし、手足が長いウィリアムがそうであった場合には幅が足りない気がする。
「はは。大の字にはならないよ。それと、ネアはどうしてあんなに隅に寝てたんだ?」
「何かあった時の為にブーツを履いたまま眠っていたので、足だけ下して眠っていた数日間の癖で端っこに行ってしまうみたいです………」
「ネア………。この家はもう安全だから、真ん中で眠っていいからな」
「…………ふぁい」
優しい微笑みでそう言われうっかり籠絡されたネアは、安堵に心をほこほこにしつつ頷いてから、おやっと首を傾げた。
危うく、問題が残されていることを忘れてしまうところだった。
臨時避難所なのであまり煩くは言いたくないが、ウィリアムはこれからもお隣に寝るのだろうか。
その場合、出来れば上に何か羽織って欲しい。
(そう言えば、起きた時に何か温かいものにぶつかったような気がしたけど、ウィリアムさんだったのかな?)
せっかくネアの為にこちらに滞在してくれているので、不快感を与えないように頼むにはどう言えばいいのだろうかと悶々としていたら、ウィリアムに先手を打たれてしまった。
「もし急に怖くなったら、隣にいる俺を起こしていいからな」
「………はい」
ネアとて淑女なので、ここで頷いてもいいのだろうかという懊悩はある。
しかしながら、このお家はもう大丈夫だとは言われても、ホラー的危機感が剥がれ落ちる訳ではない。
何しろ、今迄だって安全だと言われた場所で、一体どれだけの危険に見舞われたことか。
そう思えば、この提案にこれ幸いと乗っかってしまい、何か起こったら全部ウィリアムに丸投げして解決して貰える環境の方が有難いような気がする。
と言うか、一人でホラーな目に遭うくらいであれば、お隣に雑魚寝する権利くらい、はいどうぞと差し上げる次第である。
(異性としてドキドキするような感覚も謎に希薄だし、そういう悪さをするような人でもないし……)
親戚の優しいお兄さん枠から、時々会えると嬉しいおじいちゃん枠に進化したからだろうか。
じっと見ればやはり美貌の男性らしい色気であるとか、見知った魔物達よりも人間寄りであるシンプルな美貌設計のお蔭で、よく分らないけれど飛び抜けて美しい生き物というよりは、男性としての意識をさせてくれるのがウィリアムの容姿ではある。
しかしなぜか、ネアは第三者目線ではそう評価出来ても、自分ではそんなに意識しないのだ。
悪夢の時の関わりを機に面倒臭くなった部分も感じてはいるが、大変申し訳ないことに、身内感が強過ぎるのである。
「ふむ。頼ることにします!」
「……………何でだろうな。俺は今、落ち込むべきだという気がするんだ」
「まぁ、何か困ったことがあったのですか?」
「ネア、今、俺が隣に寝ててもまぁいいかと考えただろう?」
「ウィリアムさんは、信頼に足る素敵な優しさの魔物さんです!」
言葉を選んで模範的な回答をしたネアに、ウィリアムは小さな溜め息を吐いている。
褒めたはずなのに落ち込むのは、なぜなのだろうか。
「念の為に聞くが、もしこれがアルテアだったらどうする?」
「寝台から蹴り出して、隣のお部屋の床に仮設寝台を作るので、そちらに寝て貰います」
「ノアベルトなら?」
「ノアは特殊対応ですね。一緒にいると安心するのですが、寝室は勿論のこと、気配を消して接近することも許しません」
「…………ゼノーシュは?」
「可愛いので、お隣に寝て欲しいです」
「もう一人聞いてみようかな。ヒルドだったら?」
「…………大変申し訳ないので、寝台は献上しまして、私めは長椅子で寝ます」
「うん。何となく傾向が見えたな………」
ウィリアムは奇妙に遠い目をしていたので、ネアは首を傾げてその困ったような微笑みを見つめた。
屋内だからか擬態はしていないようで、抱き上げられたままだととても近い白金の目を見ながら、甘やかしてくれるのなら寧ろ、一階の物音の正体を確かめに行って欲しいなと我が儘なことを考える。
「ウィリアムさん」
「ん?どうした?」
「ずっと私を持ち上げていて、腕が疲れてしまいませんか?不審音の正体を突き止めてくれれば、私はもう怖くありません。それに、地下室の絵をぽいしてくれれば、私は、ウィリアムさんが寝ている間は一人でも家の中で元気に生きてゆけます」
無理をして地上の仕事を片付けてきてくれているのだから、きっと疲れているだろう。
ネアとしてはそこを心配したのだが、ウィリアムは妙に酷薄な微笑みを深めた。
よくわからないが、優しく微笑みかけてくれたのに背中がひやりとする。
「………地下の絵は、もしかしたら俺にもどうにも出来ないかもしれない」
「……………なぬ?!」
「街並みや家は、昔に地上にあった国を切り貼りで固定してあるんだ。時間を円環にしている以上、元からある要素を動かすことは出来ない可能性がある」
「………嫌なことに気付いてしまいました。地上にあった頃からの要素だからあの絵を外に出せないのだとすれば、この家の元の持ち主さんは何者だったのでしょう?絵に描かれているのは、花売りさんなのです」
「………………そうか。確かにそういうことになるな」
よりにもよって、その疑問を提示したところ、ウィリアムまで首を傾げてしまった。
即ち、地下のあの絵は死者の王にもわからない謎であり、本物のホラー素材である可能性が高いということだ。
震え上がったネアは、家を出る際には、毎回地下室の扉に頑丈な結界を設けてくれるよう、しっかりと約束して貰った。
「この枝が崩れたみたいだな」
その後、一階の不審音を調べに行ってくれたウィリアムは、小さく笑ってそう教えてくれた。
どうやらネアが廊下に敷き詰めた枝を、帰ってきたウィリアムが廊下の片側に積み上げて片したようで、それが崩れ落ちていたらしい。
硬い葉っぱのある枝をたくさん積み上げたので、時間をかけてゆっくりと枝の反発で崩れたようだ。
またしてもウィリアムの所為でネアは心が削がれたので、とても恐縮した終焉の魔物は、ネアが入浴する際に浴室の内扉のところに控えていてあげようかと申し出てくれた。
それはちょっと面倒臭いので首を横に振りつつ、ネアは明日もハムを買ってきて貰う約束を取り付ける。
なお、地下室が本物のホラーなので、ウィリアムは隣に寝ることになったと告白すれば、ディノはすっかり拗ねてしまった。
その後、荒ぶる魔物からびっしりずるいと書かれたメッセージが届いたが、何だか可愛い模様みたいなので、ネアは消してしまうのが惜しくなった。
やっと返信の来たアルテアからのカードには、“ほら見ろ、あいつは腹黒いからな”という一言が揺れていた。