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葡萄ジュースと逃走犯



シュタルトの街には有名な修道院がある。

とは言えそこが修道院として運営されていたのは遥か昔で、今は湖水葡萄酒のメゾンと、附属図書館、そして住人達の交流の場として残された大聖堂の三区画に分けられていた。


このメゾンの湖水葡萄酒は、シュタルトの塩の次にこの土地の名産品となっている。

魔術が豊かな土地で育つ湖水葡萄は素晴らしく、祝福の濃い葡萄酒は恐ろしい程の高値で売買されるが、その特徴から国外には持ち出せないものだ。

よって、シュタルトの湖水葡萄酒は、このシュタルトの街に観光に来た者だけが飲むことが出来、ヴェルクレアの国民だけがお土産で買って帰れるのである。


湖水葡萄酒の売り上げだけで、大聖堂の管理が出来てしまうというのだから、その売り上げは推して知るべしということか。



「ネア、麻織物の店はまた後で行こう」

「むぐぐ。大口顧客とやらのせいで、まさかの貸切営業でした」

「ここは、すぐにはお店には入れないんだね」

「大聖堂の横で、酒精検査があるようです。昔、このメゾンの壊滅を狙った悪者が、穢れた酒精を連れ込んで暴れようとしたのだとか」

「ふうん、不思議なことをするんだね」

「競合他社の潰し合いはかくも恐ろしい戦いなのですよ。因みにその時の騒動は、たまたまお食事に来ていたとある妖精さんが滅多打ちにして解決したそうです」

「滅多打ち…………」


魔物が少し不安そうな顔になったが、その愚かな競合他社の刺客を返り討ちにしたのは、溺愛する王子に美味しい葡萄ジュースを飲ませようとお忍びで来ていたロクサーヌだったそうだ。

護衛代わりにと非番のヒルドも連れ出されており、紅薔薇のシーが愛するものを脅かす相手にどれだけ容赦ないのかを目撃する羽目になった。


『ロクサーヌは戦闘に長けた妖精ではありませんから、………何と言いますか、その魔術の趣はダリル寄りですね』


ヒルドですらあまり多くを語らない程の制裁がどんなものであったのか、ネアはあまり深く考えないようにした。

よって、このメゾンの入り口に飾られた真紅の薔薇は、この場所を守ってくれたロクサーヌに敬意を示してのことであるようだ。



「…………わぁ、」


大聖堂に入ったネアは、そのあまりの美しさに息を飲んだ。


土台になる建物部分はほとんど白に見える明るい水灰色になっており、フレスコ画の部分はぐっと色彩のトーンが暗い。

その明暗の対比に加えて、装飾や彫刻でミントグリーンと黄金でアクセントをつけているので、目に飛び込んでくる色合いが何とも上品で素晴らしい。


「一番の大好きではありませんが、この淡いミントグリーンは大好きです」

「ネアが一番好きな色は何色なんだい?」

「真っ先に目を惹かれるのは、淡いラベンダー色です。ピンク寄りの菫色ではなくて、青紫の淡い色ですね。でも、淡い水色や髪色と同じ青みがかった灰色も好きですし、お洋服なら紺色が好きですね」

「ラベンダー色か。このリボンの色だね」


魔物はご主人様の大好きな色を身に付けていることにほわりとしつつ、大事なリボンを指で撫でた。


「でも、どの色が一番綺麗かと聞かれたら、ディノの髪の毛の色が大好きです!」

「…………ずるい」


魔物がぴっとなって目元を染めていたので、酒精検査の店員がびくりと体を揺らしていた。

これだけ艶麗な生き物が恥じらって俯いていたので、店員は少し優しく検査をしてくれる。

こうしてふるふるしていると、見目が飛び抜けた美貌である分、妙に可愛いという印象が強くなってしまうのだ。


「さ、お店の中に入りますよ」


まだふるふるしている魔物の手を引いて、ネアは大聖堂側からメゾンまでの中廊下を歩き、古い時代の壁画を楽しんだ。


「いらっしゃいませ」


メゾン側の入り口で待っていてくれたのは、店員というよりはオーナーの雰囲気を持つ男性で、白髪交じりの髪を漆黒のリボンで結んでいる。


(これは老齢による白髪の白さだから、この人は終焉の手の内に立ち入っている人なんだわ)


渋みのある端正な顔立ちで、こちらを見て微笑みで細められた瞳の穏やかさを覗けば、繊細で優しい気質の人なのだろう。

ここにあるのは、容赦のない死者の行列を率いる終焉でなく、ウィリアムが好きだという穏やかな終焉であった。


(ああ、これはウィリアムさんが好きなのもわかるな)


それは決して恐ろしいものではなく、穏やかで安らかな門の一つに思わせてくれる終焉。

こうしてその白さを身に纏う男性は、磨きぬかれた穏やかさが、不思議に見る者をほっとさせる。


「ヒルド様から、お客様のご紹介をいただいております。シュタルトの湖水葡萄酒は初めてですか?」

「はい。ヒルドさんから、素晴らしく美味しいと伺いました。今日はこの後で船に乗るので、食後の甘い葡萄酒だけいただくのですが、お土産で買ってゆくものもとても楽しみです」

「このシュタルトを愛して下さる方々には、ご家族様でのお越しの方も多いので、我がメゾンでは、甘口の葡萄酒にも力を入れております。やはり、女性の方には甘口が人気ですからね」

「ふふ、こちらのメゾンの甘い葡萄酒を買って帰ると、父親の株が上がると言われているんですよね」

「光栄なことです。私がメゾンを継いだ頃にはもう、葡萄酒を好まれる方達には名の知れたメゾンでしたが、ご同伴される奥様やお子様方は物足りないお顔をされていました。そこで、父と話し合って甘口のものの開発に取り組んだのです」


やがて甘口の葡萄酒が発売され貴婦人の間で熱狂的な人気となると、子供達用にきりりとした爽やかな甘さの葡萄ジュースも人気になった。

こうして家族全員で楽しめるメゾンになった結果、葡萄ジュースで育った子供達が、葡萄酒を嗜むようになってゆき、何世代にも渡って愛されるメゾンになったのだろう。


「とびきり美味しいだけでも充分なのに、土地の魔術の祝福もあるのですから、こんなに素敵なことはありませんね」

「ヒルド様やロクサーヌ様のような身に纏う祝福をお持ちの方々にもご贔屓にいただくことで、その庇護がまた紡がれてゆきます。これは、メゾンの主人としてはとても幸せなことですね」

「こちらの葡萄酒が美味しいお陰で、私達にまでその庇護を受けた葡萄酒が届くなんて、とても素敵ですね」

「そういう意味ではやはり、塩の魔物であるノアベルト様がいらっしゃっていた時代のものが愛好家達には好まれますが、統一戦争後はシュタルトではお見かけしなくなりましたね」


どこか寂しそうに呟いた主人の言葉に、ネアはこの主人がノアを直接に見知っているのだとわかった。

懐かしそうな微笑みには微かな痛みが混ざり、統一戦争を知る者らしい過去の色を映す。


(前に、岩塩坑を見にきた時に、この土地の人はまだ塩の魔物が好きなんだろうなぁとは思ったけれど……)


元はノアの城であったという岩塩坑の奥には、人間の手で増築された聖堂がある。

あれは、シュタルトの塩と王都の関係を知る一部の採掘者達が、塩の魔物の心を鎮める為に作ったものなのだそうだ。


享楽的で女好きではあるが、お酒を飲んでは楽しく騒ぐ塩の魔物を好きだったシュタルトの民も多かった。

そんな彼がウィームの歌乞いに向けた悲恋と、統一戦争の悲劇、その結果ヴェルリアにかけた呪いと続けば、シュタルトの民にとって塩の魔物は何とも心に響く存在なのである。


どうか彼の苦痛が和らぎますようにと、そういう願いの元に彫られた塩の聖堂は、ノアが人間嫌いの魔物になっても、シュタルトの人々に大事にされ続けていた。


(ノアも連れて来てあげれば良かったかな……)


最後まで旅行鞄に入ろうとしていた銀狐を思い出し、ネアは少しだけ反省する。

ノア自身の為にと言うよりも、ここで彼が楽しく過ごしていた頃を良き時代として覚えている人達が元気な内に、塩の魔物をシュタルトに連れて来てやりたかった。

それは人間だからこそのエゴなのだろうが、今回はそういう身勝手な感傷を満たせたかもしれない良いチャンスだったのに。



「…………むぅ」


テーブルに案内されながら、ネアが少しだけ眉を寄せれば、オーナーとの会話を大人しく聞いていたディノが優しく微笑みかけてくれた。


「ノアベルトなら、また今度連れてくればいいよ。何なら、予約を取ってゆけばいい」

「鞄の中から引き摺り出して、お部屋に軟禁して来てしまいましたしね。今度ここで、お昼をご馳走してあげましょう」

「ネア。困ったご主人様だね、君が食べ物を与えるのは駄目なんだよ?」

「………む。お会計は、自分で払わせます」

「うん。それなら構わないよ」


ふと視線を感じれば、ネアの椅子を引きながらオーナーが固まってしまっていた。

かなり猟奇的なワードが出た後なので、ネアはぎくりとする。

決して日常的に軟禁などしていないので、どうか誤解をしないで欲しい。


慌てて魔物に視線で救いを求めれば、ディノはどこか魔物らしく穏やかに微笑みを深めた。


「今度連れてこよう。彼を置いてきてしまったことを、私の主人が後悔しているからね」


その途端、オーナーは、澄んだ鳶色の瞳に何とも言えない強い感情を揺らがせる。

それは歓喜や驚きよりも、どこか安堵が強い鮮やかで優しいものだった。


「…………もう一度あの方に、このメゾンの葡萄酒をお出し出来るのなら、どれだけの喜びでしょう。あの方はこのメゾンをとてもご贔屓にして下さったのに、とある方の庇護を得まして他国に避難しておりました我々は、最後にあの方にお会い出来ませんでした。亡き父は、それをずっと悔やんでおりましたから」


涙ぐんでそう喜んでくれたオーナーは、ほろりと幸せそうに微笑みを深めると、優雅なお辞儀をして去っていった。

お得意様のヒルドが予約を取ってくれたので最初だけ挨拶に出てきてくれたようだが、あの様子だと、ノアがお店に来るかもしれないことを分かち合いたい誰かに会いに行くのだろう。


「お知り合いのようですし、ノアも喜んでくれるといいのですが」

「この前、ヒルドが持っていたこの店の葡萄酒を勝手に飲んで叱られたと話していたから、今でもここの葡萄酒は好きなんじゃないかな」

「それなら、万事解決です」

「ペレグリのメゾンは、元々ノアベルトが土地の守護を与えて造られたそうだよ」

「ほわ!では、こちらの方にとって、ノアは特別な存在なのですね」



二人が案内された窓際の席からは、美しい湖と雪に飾られた山々が見事な景色として楽しめた。

この席はロクサーヌのお気に入りで、小さな王子が窓から飽きずに湖の船を見ている姿に、ずっと頬を緩ませているのだとか。


「ディノ、お話に聞いた通りですよ。なんて綺麗な黄金色なんでしょう!」


やがて運ばれてきた葡萄ジュースは、教えて貰った通りに、抜けるような艶やかな金色の液体である。

透明度が高く、まるで太陽の光を切り取って液体にしたようなジュースだ。

これは夜明けに収穫した葡萄のもので、湖に映るきらきらとした夜明けの光を浴びてこの色になるのだそうだ。

逆に、満月の夜に収穫される葡萄から作られるジュースは、綺麗な紫色をしていて、きりりと締まった味になる。


「………む。これは買って帰ります!」


一口飲んですぐに籠絡されたネアは、素敵な首飾りの金庫があることを心から感謝した。

葡萄酒もお土産に買って帰る予定なので、普通に手荷物だったら腕が捥げるところであった。


(今度また狩りにも行くことにして、この前の葉っぱの残りを売ってこよう……)


別宅準備資金だった筈のものだが、ネアは素晴らしい葡萄ジュースに呆気なく決意を崩してしまった。

ザハの限定ケーキにも打ち勝った心を崩すとは、何とも恐ろしいジュースである。


ご主人様が弾まんばかりのご機嫌なので、向かいの席で食前酒を飲んでいるディノは幸せそうにこちらを見ている。


「…………可愛い」

「ディノ、このお店のことを教えてくれて有難うございます!まだお料理にも辿り着いてないのに、一口目のジュースがこんなに美味しいなんて……」

「ご主人様!」


喉越しは、暑くてたまらない時にようやく飲めたきんきんに冷えた水のように、きりりと澄んだ冷たさが堪らない。

そこに、瑞々しい果実の甘みとふくよかな香りが、じゅわっと体に浸透するような不思議な感覚がある。

後で聞いたところ、この体にじゅわっと吸い込まれるような味というものが、魔術の恩恵を深く受けた食べ物の特徴であるらしい。


食事も素晴らしかった。

トマトの小さなグラタンを添え、シュタルトの岩塩を揉み込んで皮目をぱりっと焼いた豚肉の前菜は、葡萄のソースをつけていただく。

沢山のお野菜には、ラクレットチーズのようなものをとろりと回しかけ、あつあつで食べるのが堪らない。


メイン料理は、ネアはソーセージをいただき、ディノはサーモンを選んでいた。

ソーセージと迷っていたので、そちらも一口食べさせてやる。


デザートの素朴なバニラアイスと、もったりとしない爽やかな甘さのデザートワインにネアはうっとりとした。

手が込み過ぎたお料理よりも、ネアはこの種の素朴だが目にも舌にも美味しいお料理が大好きだ。

リーエンベルクの食事が好きならばと、ディノがここの料理を勧めてくれて本当に良かった。



(ここに行くと話したら、ヒルドさんがお得意様だからってことですぐに予約をしてくれたし)



そう思って心をほかほかにし、一番人気の葡萄酒とディノの気に入った葡萄酒、そしてネアは甘い葡萄酒に葡萄ジュースを買った。

リーエンベルクのお土産用には、ハーフボトルの全種類セットを買ったので、これでわいわい楽しく選んで貰おう。

おまけに、ノアに渡してくれと、オーナーから貴重そうな葡萄酒を一本と、ネア達用にも葡萄酒を一本いただいてしまった。

とても恐縮したのだが、あまりに嬉しそうに渡されたので、こちらも幸せな気持ちになってしまう。


「こちらに来て半日も経っていないのに、既にとてもいい気分です!このお店でお昼をいただいて、本当に良かったですね」

「弾んでる。可愛い………」


ご機嫌でお店を出ようとしたその時、大聖堂の方でわあっと声が上がった。

顔を見合わせてそちらに向かったのは、元々、帰り際に大聖堂をゆっくりと見てみようと予定していたからだ。



「子熊が逃げたぞ!」

「またなのか………」

「メゾンに連絡をして、葡萄ジュースを守るように言っておいてくれ」

「チーズもだな………」


大聖堂に戻れば、そんな騒ぎが繰り広げられており、観光客達もなぜかそわそわとしている。

忙しなくしている職員を捕まえるのは忍びなかったので、観光客らしいご夫婦に話を聞いてみると、こういうことであった。



この大聖堂には、聖人に仕える子熊の壁画がある。

悪さをしていた子熊を、聖人がパンと引き換えによく働くように諭したというもので、この子熊の壁画が、時折絵から抜け出すのだそうだ。


そしてこの子熊はとんでもない食いしん坊であり、隣のメゾンの葡萄ジュースを荒らしたり、厨房のチーズ蔵を襲ったりもする。

そんな子熊を捕まえると、絵の中の聖人や精霊、魔物達が祝福を与えてくれるそうで、この騒動に出会った観光客達は、子熊を捕まえて旅のお土産の祝福を貰うべく張り切ってしまうのだとか。



「………ふむ」


幸いにも子熊はすぐに捕まると聞いて、観光客達のアクティビティとして放置しておくつもりでいたネアであったが、ふと漏れ聞こえてきたことに目を鋭くした。


「ネア、子熊はいいのかい?」

「このお楽しみは皆さんに差し上げるつもりでしたが、今どなたかが、この子熊さんを捕まえると、美味しい食べ物に恵まれる人生になる祝福が得られると話していたのですが……」

「うん、そのようだね。そんな祝福がなくてもネアには好きなものを食べさせてあげるけれど、君はこういうものが好きだろう?」

「大好きです!少しだけ本気で周囲を見回してみますね!」

「一緒に探すかい?」

「とても心惹かれるのですが、みなさんも楽しく探してますので、今回は己の力だけで挑んでみます」



ネアは、さりげなくきょろきょろとして子熊を探していたがやがてわあっという歓声が背後から聞こえてきた。


「むぐ……」


がっかりして振り返れば、先程ネア達に子熊の話を教えてくれたご夫婦が、丸々と太った小さな熊を捕獲していた。

子熊はどこからか盗み取ってきた蜂蜜を夢中で食べており、べたべたになっていた。

あの状態の子熊を手に持ちたくはないので、ネアは少しだけ溜飲を下げる。


さっそく子熊は壁画の中に戻され、封印の術式が改めて施される。

べたべたの子熊を足元に戻された聖人は、数歩下がって距離を置いていた。


「あのひらひらした聖衣に蜂蜜がついたら、かなり嫌な気持ちになりますものね」

「蜂蜜の瓶ごと戻してしまうんだね……」

「べたべたになったまま戻したので、絵に戻った子熊さんが艶々しています………」


魔術壁画の修復儀式はかなり大雑把なようだ。

場合によっては葡萄ジュースの瓶を抱えたまま戻されることもあり、一部の観光客にはこの子熊がどんなものを抱えて描かれているのかを楽しみにしている愛好家がいるのだそうだ。


「…………先程までは、箱のチョコレートを持っていたそうです。見たかったですね」

「何でも食べるんだね」

「先月までは、なぜか粘土を食べていたようですよ」

「粘土…………」


魔物が慄いてしまったが、この子熊は元々絵なので、何でも食べてしまうのだそうだ。

あまりお腹を空かせると、絵の中に描かれた仲間達すら食べてしまうそうで、絵の中の同居人達から追い出されることもあるのだとか。



「それにしても、すごい壁画になりましたね」

「…………蜂が集まってる」


元は、聖人の足元でパンを齧る可愛い子熊の絵だったのだそうだ。


それが今は、瓶に顔を突っ込んで蜂蜜を貪る子熊と、その子熊を避けるように体を捻る聖人、子熊の蜂蜜目当てで、ひと区画上の壁画から、蜂の魔物達が集まってきていた。

子熊の壁画の隅に描かれた妖精がとても嫌そうな顔になって項垂れている。


確実に周辺住人に被害を出しているので、蜂蜜はよろしくなかったようだ。



「…………船に乗りに行きましょうか」

「うん………」

「お屋敷船は初めてです!」

「魔術が足りないと沈んでしまうから、ネア一人では乗れないものね」

「おのれ、なんたる仕打ち!」

「一緒に乗るから大丈夫だよ」



屋敷船というのは、シュタルトの水遊びの定番である。

屋根付きの広い小舟を借りて、その上でごろごろする元は貴人たちの家族の遊びの一つだ。

船の床は透明な結晶石になっており、湖の中が綺麗に見える。

青白い波紋がゆらゆらと船の屋根に映るのがとても綺麗で、一時間ほど揺られているだけで心が柔らかく解れるのだそうだ。


「………竜さんに船をひっくり返されないといいですね」

「近付かないようにしておくよ」



船着場までは、少しの距離がある。

二人は、ぶらぶらとお店や風景を見ながら街を歩くことにした。




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