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106. 爆発に巻き込まれたのは初めてです(本編)


その後、リーエンベルクでは幾つかのトラブルが起きていた。

一つはエーダリアの失言に始まるヒルドのお仕置きだったのでそちらにお任せし、もう一つは大人の男性の悪い遊びなので近寄らないように眺めて楽しませていただこう。


アルテアの行く先々に服や小物を置いてゆくディノに、先程まで面白い色合わせになっていた選択の魔物がいたのだ。

ネアから見ても紫と黄緑は奇抜なので、本人にとっては黒歴史となるやつに違いない。

よろよろと逃げてゆくアルテアを見ながら、少しだけぱさぱさになっているディノの髪の毛が気になった。

アルテアと遊んで気を紛らわせているのだろうが、きちんとお風呂には入っているのだろうか?

ちょっとしたサプライズで浴室にお手紙を置いてきたので、読んだかどうかハラハラするではないか。


(あの朝はカオスだったからなぁ…………)


ディノが駄々をこねている内に騒ぎを聞きつけた銀狐が来てしまったりと、何かと忙しなかったので出がけの準備が少し雑になってしまったのは否めない。

寂しくならないようにお部屋には少しばかりの生活感を残してきたりと工夫しているのだが、良く考えれば食事の席で会えるのだから、あまり荒ぶらないで欲しいところだ。


「ウィリアムさん、この瓶はどうしたのでしょう?」


本日はリーエンベルクに控えているので、大人しく通常業務に精を出すことにしたネアは、たくさんストックしている狩りの獲物を選別していたところだ。

こうして素敵な一品を上司に献上することで、薬ではないが本日分の働きとして承認して貰うのだ。


しかし、その作業をしているネアの向かい側で、ウィリアムはなぜかテーブルに綺麗な青色の小瓶を三つほど並べだした。

本日の彼は、いつもの白い軍服ではなく貴族の男性の普段着のような寛いだ服装である。

このような服装をするとますます高位の魔物感がなくなり、何だかもうずっとここで暮らしている人だったような気がしてくるのが不思議だ。


「いや、俺も薬を作ってみようかなと思って」

「ウィリアムさん!お仕事の範疇のものであれば、私の備蓄から切り出せますから、そこまで助けていただかなくても大丈夫ですよ?」


慌てて止めようとしたネアに、ウィリアムは笑って首を振った。


「すまない、気を使わせてしまったな。俺がやってみたいだけだから、気にしなくていいよ」

「………ウィリアムさんは優しいので、そう言うことにして面倒を見てくれてしまいそうな気がするのですが」

「どうだろう。俺はこれでもかなり自分勝手な方だけどな。それと、薬を作ってみたいのは本当なんだ。こういう細かい作業をしたことがないからな……」


そう言いながら真剣に薬瓶を手にとっているので、ネアは興味津々でその作業を覗き込んだ。


どう作用するのかわからないので、本日の業務提出用の獲物はもう一度腕輪にしまう。

薔薇の祝祭の日に街歩きで捕獲した通り魔こと縁切りの魔物で、目のない真っ黒な小鳥の形をしたなにやつかである。

認識が曖昧になってしまうのは、素材がフェルト人形にしか見えないからだ。

しかしながら立派な魔物であり、己が決して縁を結べない存在であることから生じた恨みもので、無作為に他人様の縁を切る悪い奴なので手刀で永眠いただいた次第となる。


(でもこれが、ちょっとしたトラブル回避に効く薬になるそうだから)


備蓄は大事である。

こうして備えておけば、仕事が滞って己の評価を損なうこともなく、いざというときの選択肢が広がるものだ。


(そしてそれは、人材もなのだ)


ほろりとその欲に綻び、淡く微笑む。

現状、ウィリアムはこんな風にただ穏やかに、リーエンベルクの日常に付き合ってくれている。

多少窓の外が悪夢で真っ暗なことには目を瞑るとして、日常の延長線上という感じで、何の特別さも感じさせずにいてくれるのはとても有難いことだった。

やはり、慣れた魔物と一緒にいるわけではないので、あまり気を遣うようになると疲れてしまうだろう。


「どんなお薬を作るのですか?」

「自分の領域のものならやれないことはないんだ。だから、今日はそうじゃない一般的な傷薬でも作ってみようかな」

「傷薬はあって困るということもないですしね!」


そう頷いたネアは、とても不穏な単語を一つ聞き逃していたことをすぐに後悔する羽目になる。

この世界の魔物達の奇妙な効率の悪さをすっかり忘れていたのだ。


「成分的には恐らく………」



次の瞬間、ネアは普遍的な薬品事故の最たるものを自ら体験することとなる。

現実の世界でも見たことがなかったものの、まさか自分が被害者になるなど誰が想像しただろう。



どかん、とすさまじい音がした。



「ネア?!」


音を立てて扉を開け駆け込んできたのはディノだ。

ウィリアムが借りている部屋なので、直接室内に転移出来ない仕掛けがあったらしい。


「ネア?!ネア!!」


がくがくとゆさぶられてぱちりと目を開くと、不安に震える魔物に抱き締められている。

ぎょっとして自分の体のあちこちを触ってみたが、幸い頭がなくなったりはしてないようだ。

服も見てみたが、燃えたりもしておらず綺麗なままで安堵した。


「…………私、どこかなくなったりはしてませんか?」

「大丈夫、傷一つないよ。守護がきちんと仕事をしたようで良かった」

「鼻ぐらいは失ったかと思いました。…………は!ウィリアムさん?!ウィリアムさんは!!」


爆発の中心地にいた筈の現在の相棒の名前を呼べば、どこか気まずそうな声で応えがあった。


「すまない!ネア。……良かった、怪我はしてないな………。俺は大丈夫だけど、テーブルを元通りにしないと」

「…………テーブルはどこへ」



ネアが呆然とするのも無理はない。

恐らく、事態のあらましとしてはこうだ。

薬を作ろうとしたウィリアムが魔術暴発を起こし、あまりの衝撃でその手元を覗き込んでいたネアは吹き飛ばされてしまい、一瞬意識を失っていたのだろう。


勿論そうなると使っていたテーブルなど跡形もないが、ウィリアムは見事な手際で部屋の全てを瞬く間に修復してしまった。


「この作業は得意なのですね」

「終焉の要素を引き剥がして元通りにするだけだからな。ごめん、びっくりしただろう?」

「人生におけるびっくり度では、かなりの上位に進出しました」

「…………やれやれ、どうしていつも上手くいかないんだろう」


寂しそうにウィリアムが呟いていると、忙しない足音が背後に幾つか重なる。


「ネア様?!」

「おい、ネア大丈夫か?!」


痴話喧嘩中だったエーダリアとヒルド、そして銀狐が飛び込んできて、あっという間に取り囲まれる。

銀狐においてはさりげなくネアの爪先を踏んでいるので、地味に痛い。


「………お前、そういう作業は相変わらず駄目だな」


一足遅れて部屋にやって来たアルテアは、何があったのか察したらしく、呆れ顔でこちらを見ている。

ディノの悪い遊びに付き合わされてしまったせいで、珍しく前髪をきっちりとオールバックにして撫で付けていた。

魔術遮蔽の用途ではないお洒落用の眼鏡姿は初めて見るので、ネアは少しだけ凝視してしまう。

べっ甲縁の眼鏡など、ちょっと好きな感じの雰囲気ではないか。


「…………なんだ」

「アルテアさん、眼鏡姿似合いますね」


思いがけず良い評価を下され、眼鏡越しに赤紫色の瞳が見開かれる。

やるではないかと好意的な目で見ていると、なぜかいたたまれなくなったらしく、すいっと目を逸らされた。


「………浮気してる」


微かに焦りを滲ませたディノにぎゅうっと抱き締められたネアは、魔物の体でもうちょっと堪能していたい眼鏡姿のアルテアを隠されてしまった。


「と言うか、あの眼鏡はディノが用意したのでしょう?自損事故で荒ぶってはいけませんし、そもそも謹慎中の筈です!」

「ネア、もうこっちに帰っておいで。これでわかっただろう?ウィリアムは危ないよ」

「…………ウィリアムさんはもしや」


魔物の腕を押しのけたネアが疑惑の目で見つめた先で、ウィリアムは困ったように微笑む。


「俺は、自分の領域外での細かい魔術作業が苦手なんだ。傷を治すことは出来るが、傷薬を作れた試しはないな」

「だから、やってみたかったんですね」

「シルハーンがやっているのを見て真似してみたんだが、やっぱり上手くいかないか………」

「いや、お前それでどれだけ派手に暴発させたんだよ。ネアじゃなければ死ぬ規模だぞ?」

「そう言えば確かに、僅かですが空中に滞在した時間がありました」

「………ネア、さらりと言っていいことではないと思うぞ」

「うーん、何でだろうな。間違ったことは何もしてない筈なんだけどな」

「これだけの被害を出しておいてその感想、頭がおかしいだろ」

「あれ?アルテア、いい眼鏡ですね」


にっこり微笑んだウィリアムに反撃され、アルテアはぎくりと体を強張らせる。


「ネア様、爆発の影響はありませんでしたか?」

「ヒルドさん、ご心配をおかけしました。私も覗き込み過ぎてしまったのです。しかし無傷でしたので、人生経験を豊かにしたばかりです」

「であればいいのですが……」


床に膝をついて様子を見てくれたヒルドに、ネアは少しばかり照れくさくなった。

爆発で吹き飛ばされたなど、お世辞にも淑女の行いではない。

二度目は叱られるに違いないので、もう爆発には巻き込まれないようにしなければ。


そう頷いたネアの向こうでは、ウィリアムがエーダリアに頭を下げて恐縮されていた。


「悪かった、エーダリア。リーエンベルクの補修は済ませたから、備品はもう大丈夫だ。この部屋の遮蔽や外の結界も修復してあるからな」

「………いや、……っ?!あ、頭を上げてくれ!修復さえ済めばそれで構わないが、………しかし、外の結界も修復しなければいけない程だったのだな……」

「今回は派手だったな。ネア、もうやらないから安心してくれ」

「初めてだったので驚きましたが、ウィリアムさんにも苦手なものがあるのも新鮮でいいですね!」

「はは、情けない気分だったから、そう言ってくれると助かるな」

「浮気…………」


部屋があっという間に元通りになってしまったので、ウィリアムは観客達を追い出しにかかった。

他の者達がいるとディノもすかさず居座ってしまうので、こうするしかないようだ。

しかしディノも少しだけ粘ったので、最終的にはネアが少し話をして、何とかお引き取りいただくこととなる。



そして無事に二人きりになると、ウィリアムはどこか疲れたように長椅子にくしゃりと腰を下ろした。


「………薬は作れないかぁ」

「かなりの憧れが窺えます」

「ある程度堅実な稼ぎがあって、手元で出来る仕事が好きなんだ。でもいつも上手くいかないな」

「そう言えば、ウィリアムさんの忙しさでも騎士さんに混じって生活していたことがあると聞きました」

「ごく稀に、半年近く鳥籠がいらない年があるんだ。そうすると、人間に混じって暮らしていたりしたな」

「それは楽しいですね!」

「ああ。そういう年はほっとするよ」


そういう時に備えて、ウィリアムは滞在してみたい国をピックアップしているのだそうだ。

次はヴェルリアだったらしいのだが、アルテアが入り浸ってしまっているので渋々二番手の国を繰り上げたのだそうだ。


「西方にある貧しい国なんだが、軍隊の質がいい。国民の気質も清貧で穏やかなんだ」


丸く切り出した香木に青い特殊な顔料で絵付けをして、質のいい魔術道具として輸出してもいるそうだ。

元となる木の数があまりないので、量は作れないが品質の良さから高額になる。

各国の魔術師達が順番待ちをしているのだとか。


「面白いことに、その国にはほとんど魔術師がいない」

「それなのに魔術道具を作っているのですね」

「標高が高く、閉鎖的な国でもある。職人気質の者が多いんだろうな。あまり派手な好みではなく、心が強い」

「ウィリアムさんが好きそうなお国ですね」

「はは。いつか滅ぼすことにならないよう、祈るばかりだ」

「………そういう事が多いのですか?」

「だからいつも、人間との友情は断ち切れてしまうな」


ほんの少し、寂しげな声は魔物らしい冷やかさもある。

アルテアのようにその辺りをつついても支障ない魔物もいるが、ウィリアムはどういう反応をするのかわかり難い魔物であったので、ネアはその陰りには触れないようにして他の国の話をせがんでみた。


(それともこの言葉は、私に対する牽制でもあるのだろうか?)


小さな懸念は会話のやり取りの中で流されてゆき、また少し二人の間の空気は穏やかになる。

少しだけウィリアムがかつて訪れた国の話で盛り上がっている内に、また窓の外の悪夢が様子を変えていたようだ。


ざあっと降り出した雨に、ネアはちらりと視線を向けて眉を顰める。


「悪夢の気配がするのか?」


穏やかに尋ねる声に、ネアは視線を戻して深く息を吐く。


「かもしれません。こんな雨がざっと降る日に、両親が亡くなったという連絡を受けたのです。なので今でも、似たような降り方をすると身構えてしまうことがあるんです」

「そういうものが、まさしく悪夢の断片になるんだ」

「私もそう思ってました。………だから、実際に悪夢の中に入った時、ジークには会いましたが、思っていたより良心的で驚いてしまいました」

「停滞期だからかも知れないが、俺も少し不思議だったんだ。停滞期の悪夢のとは言え、ネアはさして影響されてなかっただろう?もう少し執着があるかと思っていた」


また窓の外で雨足が強まる。

屋根や窓を叩く雨の音に、ずしりと聞こえた足音めいた地響き。

どうやら、巨人が現れる悪夢が展開されているようだと、ウィリアムに教えて貰った。


「…………あれは果たして、私の悪夢だったのでしょうか?」

「………ん?」


こてんと首を傾げ、ネアは顎先に手を当てる。


「不思議だったのです。アルテアさんが、ジークのことを、ウィリアムさんに似てると話していたでしょう?私はそんな風に思ったこともないですし、妙だなと思っているのですが……」


ネアの知っているジークはそんな容貌ではないので、なぜそんなことを言うのだろうと不思議でならない。


「うーん、確証はないが、悪夢はより精神が強い者に影響され易い。だからこそ悪夢からの身の守り方として、高位の人外者と一緒にいる方がいいと言うんだからな」

「でも、確かに私の知っているものばかりでもあったんです」


とは言えそれは、悪夢に満たない感傷のようなものだった。

胸は痛むが、ネアに傷を負わせるようなものではない。


「………悪夢が混ざった可能性もあるな」

「む、混ざるものなのですか?」

「悪夢の一般的な傾向として、こうなるだろうという恐怖や懸念が実現化するものなんだ。ネアの悪夢とはまた別の展開として、アルテアのものが浸透した可能性はある」

「………と言うことは、怖がりさんが団体で巻き込まれると、とんでもないことになるのでは………」

「そう。だから都市部の悪夢は厄介なんだ」

「そういうことなのですね、やっとわかってきました」

「悪意で展開を拡大させる奴もいるだろうしな」


高度な悪夢の展開例として、己の展開した悪夢を足場として戦場にする者達もいるらしい。

悲惨な記憶を元に他者を巻き込み、その中で邪魔な者を殺してしまおうという策略を巡らせるのだ。

おまけにそこから、飲み込まれた側の精神圧が強ければ、そちらの悪夢を上書きして圧倒するという対応策もある。


「奥深いですねぇ」

「ま、人外者同士の悪夢の応酬にだけは、巻き込まれない方がいい」

「現状、このリーエンベルク程に危うい場所はなさそうです」

「それは間違いない」


くすりと笑ったウィリアムに、ネアも小さな微笑みを返す。



「………む」

「どうした?」

「ウィリアムさん、ちょっとだけ目を伏せたままでいて下さい」


気になったのは、顔の角度で少し変わる雰囲気であった。

あれだけジークに似ていると言われてしまったので、少しだけ雰囲気が近付いた角度を発見して、追求してみたくなったのだ。


「ああ。こうかな」

「顔、もう少しこっち向きで」

「左?」

「やや左ですね、」


長椅子で隣に座っていたウィリアムの顔の位置を修正しようとして、ネアは少し身を乗り出した。

ウィリアムも応じてくれようとこちらに視線を戻す。


(うーん、やっぱり似てないか……………)


「いけるかなと思ったのですが、やっぱり似てはいませんね……」

「ああ、その流れだったんだな。…………ん?」


そこで、ウィリアムが眉を顰める。



「ご主人様?!」



またしても、ばぁんと激しく扉が開いた。


半眼で振り返り、ネアは駆け込んできたディノを冷ややかに一瞥した。

ウィリアムは、額に手をあてて小さく溜め息を吐いている。


「謹慎中の悪い魔物が来ました………」

「シルハーン、部屋に戻りましょうか」


冷静に叱ろうとしたネア達に、艶麗な筈の老獪な生き物はふるふるしながら、顔を寄せた二人を凝視していた。

顔の角度を調整していたので、ネアの手はウィリアムの頬に伸ばされていたままだったようだ。



「…………ネアが浮気してる」

「しておりません!ハウス!お部屋に帰りなさい!!」

「ネアが浮気して虐待する………」

「カオスですね………」

「ほら、シルハーン。アルテアで遊んでいたんでしょう?部屋に戻りましょうか」


微笑んで立ち上がったウィリアムが、じたばたするディノを追い出しにかかる。


(もはやアルテアさんは、玩具指定なのか……)


「ご主人様!」


ウィリアムに駆除されそうになったディノが、哀れっぽく助けを求めてきた。


「ディノ、いい子なのでお部屋に帰りましょうね。お風呂にでも入って心を穏やかにして下さい。そして謹慎をするべしです」

「…………ネアが虐待する」

「期間限定で私の担当ではない魔物が、面倒なことになってきました」

「ネア、部屋に返してくるからちょっと待っててくれ」

「やむを得ません、お任せします!」


悪夢の中なので少し不安はあったが、ウィリアムの部屋なので結界等の拵えは万全だろう。


(さっき一度壊れてたみたいだけど!)


こくりと頷いたネアに、ウィリアムが思い出したように立ち止まった。

少しだけ悪戯っぽく微笑んで、指を立ててみせる。


「でも悪夢の中だからな、念の為に」


そう微笑んだ終焉の魔物が、ぽふりと虚空から銀色のものを取り出した。

ふかふかのそれを掴んで、柔らかく投げてネアの膝の上に着地させる。


「これと一緒にいるように。………ノアベルト、ネアを頼んだぞ」



そして扉がぱたりと閉まり、部屋にはネアと、目を丸くして尻尾をけばけばにした銀狐が取り残された。

ウィリアム達の気配が遠ざかってから、ネアは無言で銀狐と顔を見合わせる。


窓の外ではまだ雨が降っているようだ。

雨音の中で、一人と一匹はしばし見つめ合ってしまった。



「…………ノア、ウィリアムさんにバレましたね」



膝の上でぶるぶる震えている銀狐を撫でながら、ネアは感慨深く呟いた。

もう少し内側まで踏み込んでみたいのだが、やはりあの魔物は手強そうだ。

案外、自分もどこかでこんな風にしっぺ返しを食らうかもしれない。

そんな予感を、実は結構しっかりと持っていた。




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