94. 薔薇の祝祭の朝食をいただきます(本編)
薔薇の祝祭の日の朝、ネアはいつもとは違う場所で朝食を摂ることになった。
ノアベルトからのカードの返事に、朝食時に時間を作ると返信したところ、彼は張り切って別会場を用意してしまったのだ。
リーエンベルクの薔薇のジャムを食べ損ねたと思ったネアは一瞬殺意さえ覚えたが、そこはそつなく、ネアの大好きなリーエンベルクの朝食を揃えてくれている。
「ノア、ここは影絵の一つなのですか?」
「うん。旧王朝時代だね。僕は、建物や文化ならこの頃のウィームが一番好きだ」
「時々現れるリーエンベルクの大浴場も、この時代のものですよね」
「その大浴場、行った事ないんだよね。今度ネアが行く時に僕にも声かけて」
「まぁ、そうなんですね。今度行くときはお部屋をノックします」
「………いいんだ」
「温泉はみんなで入ると楽しいですものね」
「言ってみて良かった!」
二人がいるのは、いつかの時代のウィームの庭のガゼボだ。
柔らかな木漏れ日の下、咲き乱れる薔薇に囲まれたガゼボはお伽話の中の一枚の絵のように美しい。
小鳥の囀りに、遠くから聞こえる噴水の水音。
そしてテーブルクロスを動かさない程度の気持ちのいい風に、ネアは澄んだ朝の空気を胸いっぱいに吸い込む。
「気に入ってくれた?」
「はい、とても!たまには、こんなところで朝食をいただけると素敵ですね」
「いつでも頼んでよ。ネアの為なら、僕張り切って用意するよ?」
「ふふ。じゃぁ、うちの魔物が荒ぶらない程度にお願いします」
食器は、白地に青色の模様のある上品で美しいものだった。
ぱりっとした真っ白なテーブルクロスに映え、なんとも贅沢な気持ちになる。
(某老舗食器ブランドの、フルレースに似ているわ。とても綺麗……)
「あ、この食器気に入った?昔いた、妖精の絵付け師の作品でね、朝はこうやって清涼な青紺だけど、夜になると葡萄色になるんだよ」
「とても上品で綺麗ですね。この雰囲気大好きです。……それと、もしやノアが給仕してくれるのですか?」
「僕に任せて。二人っきりの朝食だから、他の誰かなんていれるもんか」
「苦手そうだったら、私がやりましょうか?」
「あはは、僕これでも慣れてるから安心して!」
実際に、ノアはとても上手にサーブしてくれた。
小さなカップに入ったあたたかなスープは、キノコのクリームスープで、新鮮な海老と帆立に薔薇の花びらを散らしたサラダも美しい。
ネアの楽しみにしていた、赤と黄色にピンクの三色薔薇のジャムもあり、薔薇の祝祭らしい朝食だった。
「ねぇ、来月からの歌劇場の演目は、春の夜の喜劇なんだよ。お薦めだから、一緒に行こうよ」
「む!それは花びらが沢山降ってくる、素敵なやつですよね」
「そうそう。春の加護が少しだけ流してあって、恋人達はいい雰囲気になるんだ」
「そうなると、決して一緒に行ってはいけない気がします」
「僕は君と行きたいなぁ」
「ところで最近、お部屋の長椅子の下の絨毯を毟りましたか?」
「…………夜中に時々爪を立てたくなるんだよね。どうしてだろう」
「野生の本能ですね。爪研ぎ板を買ってあげましょうか?」
「爪研ぎ板………」
自身の野生化に少し悲しい目をしてから、ノアはすいと手を伸ばして、ネアの髪に触れた。
「ほら、ジャムにつけないように」
「今の距離感では、確実にジャムに届かない位置だったのでは」
「そう?耳にかけてあげる」
「くすぐったいので、自分でやります!」
抵抗しようとしたのだが、残念ながらネアの手にはジャムをたっぷり乗せたパンが絶妙の角度で設置されており、それをお皿に戻す為に手間取っていると、ノアに好き勝手にされてしまった。
「むぐ、耳に髪をかけるのに、耳朶に触れられる意味がわかりません!」
「ネア、耳は苦手?可愛いなぁ」
「ノア、悪さをすると、狐さんの時に低品質の石鹸で洗ってこわこわの毛皮にしてしまいますよ!」
「ごめんなさい」
その後も、ノアは朝食は申し訳程度につまむだけで、ネアを構い続けた。
目が合うだけで幸せそうに笑うので、怒る気も失せてしまい、ネアも構ってやる。
ノアの分の朝食を略奪出来たので、満更でもない。
「やっぱり僕は、ネアと一緒にいると一番楽しい」
「あら、ヒルドさんと居ても楽しいでしょう?」
「………うん」
「エーダリア様のことも好きですよね?」
「………うん。棒付きの玩具が好き」
「お風呂は、ディノがお気に入りなのでは?」
「うん。お風呂は、グラストとシルが一番上手だよ」
「ふふ、ノアは浮気者ですねぇ」
「………ネア、………でも、ええと、ヒルド達は男だから」
あわあわと弁解するのが面白くて頭を撫でてやれば、ノアは情けなさそうに目元を染める。
「どうして君は、いつも思い通りにいかないんだろう」
ちょうどネアの食事が終わったので、ノアは立ち上がると隣迄やって来て、そっとネアの頬に両手を添える。
微かにあたたかな魔物らしい温度に目を瞠れば、困惑したような、けれどもどこか安堵したような目をしていた。
「僕達、結構似てるのにね」
「似ているからこそ、思い通りにいってしまうと厄介なことになる気がしませんか?」
「だね。あんまりいいことにはならなさそうだ。でも、僕にだって欲求があるんだよ」
「それなら、今度沢山ブラッシングしてあげましょう」
「……背中のマッサージの方がいい」
「あら、ブラッシングはもう飽きてしまったのですね」
「だって、ネアは毛の絡まりを強引に梳かすでしょ。グラストの方が丁寧だよ」
「あんなに手入れして貰っていて、どうしてすぐに毛玉にするのかが謎めいています」
「それについては黙秘させて貰うよ。……ありゃ、あと半刻くらしかないか。シルは怒ると怖いからなぁ」
そこでノアは、体を離してネアの手を取ると、立ち上がらせてガゼボの外にある薔薇園に案内した。
「とってもいい香りですね」
「これは確か、ウィームの昔の王の為に作られた品種だよ」
「ノア、こちらは……ノア?」
ふわりと背後から抱き締められ、ネアは驚いて彼の名前を呼んだ。
色めいた男女の抱擁というよりは、少し切実なものだ。
「ねぇ、一つだけお願いがあるんだ」
「……どんなお願いですか?」
「今度ね、四月に火の祭りがある。ウィームの大火を鎮める祭なんだけど、僕は大嫌いだ」
「確か、火のついた松明を持った方々が練り歩く勇壮なお祭りですよね」
「リーエンベルクでも、一晩中松明を燃やす筈だよ。その日はさ、狐のままでいいからネアの部屋で寝かせて」
「いいですよ」
さらりとそう答えると、耳元で微かに息を飲む気配がした。
「…………いいの?」
「お部屋にはディノもいますが、それでも良ければその日はお泊まり会をしましょう」
「隣で寝ていい?」
「狐さんならば良しとします。怖いものがある時、触れられるくらいの距離に誰かがいると安心しますよね」
「………うん」
「それと、片手の位置がやけに上ですが、その手を動かしたら髪の毛を毟ります」
「………ごめんなさい」
不埒な手を外させて、向かい合うとノアは魔物らしいしたたかさに、傷付いた生き物らしい頼りなさを滲ませて微笑む。
「良かった。ネアが側にいてくれるなら、その日も安心だ」
「魘されてしまった時も、お部屋に来て良いんですよ?」
「………この前そうしたら、シルの巣で寝かされた」
「え………。それは、良かった?……ですね」
「シルはネアの横に移動してたし、あんまり良くなかった」
あまりにも悲しそうに言うので、ネアは笑ってしまった。
それでも、ディノがあの部屋に入れてやるのだから、とても大切にされているのと思うのだけれど。
「凄いですね、ノア。ディノの巣には、私も滅多に入れて貰えないんですよ」
「………僕は男だからね、同性の巣にいれられても嬉しくない」
そこで時間が差し迫ってきたことに気付いたのか、ノアは小さく溜め息を吐いた。
少し背中を屈めて、ネアの頭頂部に口付けを落とす。
親密な行為だが、ウィリアムやドリーもするので、年長者が子供向けにする行為だろう。
「楽しい時間はあっという間だね。もうすぐ終わりなんて、信じられないよ」
そう言ってどこからか取り出した薔薇の花束に、ネアは目を丸くする。
「………なんて綺麗なんでしょう」
その反応が嬉しかったのか、ノアは男性的な微笑みを深めた。
「僕の花束が最初だよね。はい、ネア。この花束を貰ってくれる?」
「ええ、喜んで。こんなに沢山の色があるのに、とても上品で、見ていて楽しくなるような花束です!それに、私が好きだと思った薔薇ばかり入ってる……」
「二人が通じ合ってる証かな?」
「……思い出しました。薔薇選びの日、狐さんがずっと近くにいましたよね。さては私の薔薇選びを盗み聞きしてましたね!」
「…………でも、全部覚えてたんだよ。褒めて!」
「むぅ、これだけ素敵な花束なので、褒めてつかわすしかありません。ノア、有難うございます!」
「それと、僕と結婚して」
「お断りします」
隙を突いてとんでもない要求を投げ込んできたので、ネアはすかさず断った。
気付いたかと項垂れているので、こうやってどさくさに紛れて押し込む悪巧みだったらしい。
「………断られちゃったかぁ」
「本気でもないのに、恐ろしい罠をしかけてはいけません」
「半分くらい本気だよ。だってネアなら、シルもいる分、僕がどれだけ駄目な男でも許してくれるでしょ?伴侶になっちゃったら、ずっと面倒見て貰えるし」
「結構嫌な理由だった!」
「それに、シルならいいけど、君が彼以外の誰かの女王様になると思ったら、凄く嫌だったんだ」
「待って下さい、どうしてそんな想像をしたのかすら分かりませんが、その前提で悩まれる事自体かなり嫌です」
ぎりぎりと眉間の皺を深くしたネアに、ノアは困ったように微笑んで、その皺を指先でなぞった。
「………嫌がってくれるなら、少し安心かな。そろそろ戻ろうか。シルから、二時間だけって言われてるしね」
「何で女王様などという疑惑をかけられたのだ………」
首を捻りっぱなしのネアに唇の端を持ち上げると、ノアはすっと頭を下げた。
手慣れた素早い略奪に、気配に気付いたネアが目線を上げる頃には、避けられるだけの距離がある筈もない。
「………!」
「隙だらけだよ、ネア。……っつ?!」
ごすりと音がして、力一杯頭突きされたノアが蹲る。
そこで時間切れになったのか、足元に見事な術式陣が浮かび上がって、二人はリーエンベルクの会食場に戻った。
祝祭の朝食なので、完全にノアに渡してもディノが荒ぶってしまう。
ネア達は早めの朝食として、最後のデザートを一緒に食べる約束だったのだ。
ノアがいつの間にかエーダリア達に姿を見せても大丈夫になっていたことは、ネアにとって大きな驚きだった。
特にエーダリアなど、狐の正体を受け入れ難いだろうから、変なことで露見して拗れやしないかと心配してたのだ。
その辺りを上手く取計らったのは、さすがヒルドである。
そして戻ってきた二人に、朝食の席に居た全員が眉を顰める。
すぐに立ち上がったディノが、赤くもなっていないおでこをひと撫でしたネアの腕を取った。
ノアはまだ、蹲ったまま呻いている。
「………ネア、何があったのかな?」
「悪い奴を懲らしめました。制圧後なので問題ありません」
「ノアベルト?」
「………僕、結構この顔を大事にしてるから、もう二度としない」
「そして、予告通り今度安い石鹸で狐さんを洗ってこわこわにしてやります!」
その残虐な懲罰に震え上がったノアが憐れだったのか、ディノは少しばかり冷ややかな目をしたものの、特に怒りはしなかった。
とは言え、後で聴取を受けそうな空気なので、ネアは少し緊張する。
折角いい雰囲気で仲良くしていたので、仲違いするようなことにならないよう、上手く誤魔化そう。
(もはや、文化の一つとして受け入れた口付けぐらいでは動じないとは言え、ノアにされてしまうとは何たる失態!)
「貰った薔薇は気に入ったかい?」
「ええ。見て下さい、こんなにたくさんの種類と色があるのに、上手く纏まっていて素敵ですよね。お仕事用の机に飾って、これで気分を上げましょう!」
「おや、君が興味を示した薔薇ばかりだ」
「狐姿の諜報員がいたようです」
「毛皮をこわこわにする時は、私が洗ってあげるよ」
ふわりと微笑んでそう宣言したディノに、背後でノアが身を竦める気配がある。
慌てて逃げてゆき、勝手にエーダリアの隣に避難すると、怜悧ですらある美貌を完全に無駄にする方向でその影にさっと隠れた。
「ヒルドからも隠れるのは構わないが、どのみち叱られるなら先に謝っておいたらどうだ?」
「エーダリア、僕、暫くはエーダリアに遊んで貰おうかな」
「前提が狐になってるぞ……」
一連の騒動を興味深げに見守るグラストと、何個目かわからない薔薇のジャムを添えたスコーンをいただいているゼノーシュは無干渉を徹底する模様。
穏やかに紅茶を飲んでいたヒルドは、優しい微笑みで懲罰を加えた。
「ネイ、ボール遊びは一週間禁止にしましょう」
「ヒルド?!ボール禁止はやめて!毛皮をこわこわにしていいから、ボールは取り上げないで!」
「………魔物とは何だろうな」
塩の魔物のまさかの弱点がボール遊び禁止だったことにより、エーダリアがすっかり哲学な感じになってしまったので、ネアはディノに受け取って来て貰っていた薔薇の入った籠のチェックに入る。
(うん、揃ってる)
肝心の花束だけは、ノアとの早朝の約束の前に自分で受け取ってきて首飾りの金庫に隠してあった。
ノアから貰った薔薇にもディノに状態保存をかけて貰い、同じように金庫にしまっておく。
この後で部屋に帰ったときにきちんと生けよう。
「わ、スコーンにも薔薇が入っているんですね!」
そうしていつもの席に落ち着くと、さっそく本日のデザートを堪能することにする。
胃に重たくないように小さめに焼いたスコーンはほこほこ湯気を立てており、クロテッドクリームと薔薇のジャムでいただく。
パン用だった薔薇のジャムは甘みが強かったが、デザート用のものはローズヒップを使った酸味のあるものだ。
「薔薇の祝祭なのに、どうしてスコーンなんだろうね」
「ディノでも知らないことなんですか?」
「うん。いつの間にか始まっていた風習みたいだね」
「王様の好きだったパイのような理由かも知れませんね」
そんなことを話していると、ノアの処遇が決まって落ち着いたのか、エーダリアが一度席を立って、薔薇を持ってきてくれた。
親しい者から渡してゆくので、まずはヒルド、そしてグラストとゼノーシュ、ネアとディノにノアとなる。
勿論ダリルには、朝一番で送ったそうだ。
花束になっていない薔薇は、セロファンにも似た雪解け水の結晶を薄く削いだものでくるみ、リボンをかける。
エーダリアが選んだリボンは、上品にきらきらと光る銀色のものだ。
煌めきが細やかなマットなものなので、薔薇から浮かずにさすが元王子らしい色合わせ上手である。
魔物達はこんな風に薔薇を貰うのは初めてのようで、ウィーム領主から貰った光の加減で淡い銀色の艶が見える白みがかった薔薇色の花びらを、思い思いの表情で見ていた。
ヒルドとグラストとネアが貰ったものには、淡い灰色の蕾が添えてあり、シックな合わせで素晴らしい。
「エーダリア様、有難うございます」
「ああ、特等階位の薔薇ではないが、今年は良い色の出た薔薇だ。ウィームの王族や領主はいつも灰白が多くてな。今年は白周りの薔薇をアルテアが使うそうなので、この色にした」
「白っぽくも見えるけれど、光の角度で深みのある薔薇色にも見えます。薄っすら煌めいている銀色が贅沢な感じで、とっても綺麗です!」
「ああ、この白は雪白の魔術陣を使ってだな…」
「エーダリア様」
「………いや、そうだな。薔薇の祝祭に魔術式の話をするのも無粋だ。今度にしよう」
長くなりそうな話のスイッチを押してしまったネアを、ヒルドがすかさず助けてくれた。
胸を撫で下ろしていると、今度はヒルドからの薔薇の配布がある。
ネアのものは別となるので、時間を空けた午後の場で貰えるらしい。
ディノもふくよかな赤い薔薇を貰い、どこか無垢な表情で受け取っている。
そして、次はグラストからだった。
持っている籠に入っている薔薇が狙っていた色の薔薇だったので、ネアは内心ほくそ笑む。
「ネア殿、私からですが…」
「わぁ、素敵な檸檬色の薔薇ですね!ゼノの瞳の色のようで、とても綺麗です。有難うございます」
「僕の瞳の色みたいだよね!僕もたくさん貰ったの」
「瞳の色の薔薇を貰うなんて嬉しいですね」
「うん!蕾はね、僕が選んだんだよ」
ノアという例外はあるが、魔物は花束を一つ贈る風習しかない。
その為、グラストの薔薇選びに便乗してくれたらしいゼノーシュが、そう教えてくれた。
「ゼノが選んでくれたのは素敵な水色なんですね、クリームみたいな白がとても綺麗です!グラストさんの檸檬色の薔薇と合わせると、ゼノが出来上がる仕組みが楽しいですね」
「………本当だ、僕になった!」
「あら、気付いていなかったのですか?」
「うん。でも何だろう、嬉しい……」
(これはどこに飾ろうかしら)
爽やかな色なので、鏡台のところか、洗面台のあたりがいいかも知れない。
後から貰える薔薇と合わせて、飾る位置を決めよう。
「これは私からです」
そうネアが差し出したのは、灰色がかった淡いラベンダー色の薔薇で、花びらの根元がふわりと上品な薔薇色に染まっているものだ。
艶やかで渋みのある薔薇色の蕾を添え、リボンは薄紫の艶のある灰色にした。
「ほら、ノア。ノアのものもあるので、こちらに来てください」
「…………うん」
部屋の隅っこで、エーダリアから貰えた薔薇を持ったまま固まってしまっていたノアは、手招きされてふらふらとこちらに歩いてきた。
エーダリアから貰えるのは予測していなかったらしく、相当嬉しかったようだ。
(ふふ、まだ呆然としてるけれど、目がキラキラしてる)
「綺麗だね。………ネアの瞳みたいな色だ」
「不思議ですね。あんなにたくさんの中から選べるとなると、やはり自分に近しい色を選んでしまうようです」
「これ、くれるんだね」
「同じ屋根の下にいるのに、貰えないと思ってたのですか?」
狐だったからだろうかと微笑ましく思っていると、隣りからじっとりとした気配を感じて視線を上げる。
花束の入っていない籠を見下ろして、ディノが何とも言えない気配を醸し出していた。
「ディノの分もちゃんとありますよ?」
「うん………」
「さては、寂しくなってきましたね?」
「ご主人様…………」
魔物が拗ねない内に朝の会はお開きになったが、きちんと解散する前に恋人の一人との約束が差し迫っていたノアが駆け出してゆく場面があった。
本日は残り二人だとかで、夜の部と昼の部で切り分けているそうだ。
と言うことは一人減ってしまったのだなと、不思議に切ない気持ちになりながら見送り、ネアは戦利品を花瓶に入れるためにひとまず部屋に帰った。
第二回戦には、ウィリアムとアルテアが控えている。