歌乞いと歌乞い
「あら、あなたも歌乞いなのね」
薔薇の祝祭も近いある日、ディノを連れて街を歩いていると、見知らぬ女性に声をかけられた。
綺麗なストロベリーブロンドに、印象的な琥珀色の瞳をした美しい女性だ。
どうしてわかったのだろうと目を瞠れば、綺麗に笑って、あなたに傅く魔物を連れているからよと教えて貰った。
(そう言えばさっき、ディノは私をご主人様と呼んだのだった)
「綺麗な魔物ね。愛玩用?」
「愛玩用………?そんな分類の契約の魔物がいるのですか?」
「そっか、ヴェルクレアの魔物は我儘なのよね。私の国では、歌乞いの力の方が強いの」
「まぁ、国ごとに違うのだとは知りませんでした」
「そんなものでしょうね。それが変えられないものなら、国だって真実を教えたくなどないわ」
割と何かを隠されているという感覚なく来てしまったネアは、その言葉をまだ噛み砕けずに首を捻る。
(魔物との関わり方がヴェルクレア独自の運用なら、ディノ達が教えてくれそうなものだけど)
とは言え、国ごとに文化や思考も違うのだ。
水竜のことを思えばそんなものかも知れない。
「知識や技術を借りる魔物、そして戦闘に長けた魔物、あとは愛玩用がいるのよ」
「愛玩用の魔物は何をするのですか?」
「そうねぇ、恋人の代用品かしら」
「あら、もふもふの魔物さんを撫でたり、可愛いやつにお菓子を与えて愛でるのではないんですね」
「あはは!何それ!それじゃ、魔物を甘やかしてしまうだけじゃないの」
「しかし、もふもふを撫で回すと心が安らかになりますよ。良いもふもふは、狩らずに解放してやろうと思いますし」
「へぇ、魔物狩りもするんだ!あなた、狩人なのね。どんな武器を使うの?」
狩りという言葉に女性は顔を輝かせた。
そちらのお国でも、狩りの文化はあるようだ。
しなやかな肢体が雌鹿のようで、躍動的で勝気な印象の、強さと女らしさのバランスが絶妙な女性であった。
「…………素手が多いでしょうか。あとは、ブーツで踏んづけます!」
「………ねぇ、それ雑種狩りよね。武器を貰って、もう少しいい獲物を狩りなさいな」
「………雑種。武器があれば、もっと良い獲物が狩れるのでしょうか?」
「そうよ。そんな綺麗な魔物を連れているんだから、もう少し大きい獲物を狩れるでしょう?」
そこで、隣で目線をこちらにも向けずつんとしていた魔物の方をむけば、ディノはネアの視線を意識してすぐに振り向いた。
少し、人見知りの犬に似ている。
「ディノ、武器があればもっといい獲物が狩れるそうですよ?」
「ネア、今の君が狩っている以上の獲物は、それぞれの種族の高位になる。これ以上は、狩ってきても売れないよ?」
「なぬ。………竜も売れたのに、売れないくらいの高位のものもあるのですか?」
不思議に思い尋ねてみると、反対側で竜?という低い呟きが聞こえた。
「例えば、君が狩った竜は、咎竜の王はさて置き、人型を持たない竜だったろう?爵位持ちの竜も、鱗を剥がすだけで殺してはいない。殺してしまうと、さすがに売れないことが多いんだ。身体に残る呪いが厳しくなるからね」
「………では、今のままで充分かもしれませんね」
「ネア、嫌いで殺すのは構わないけれど、狩りで狙うなら、竜王は厄介ごとの比重の方が重くなるからやめた方がいいよ」
「あら、好き嫌いで倒したことはありませんよ。皆さん、乱暴者だから打ちのめしたまでです」
そこで女性の方を向けば、若干困惑したようにこちらを見ていた。
「せっかく教えて貰ったのに残念です。どうやら、私の狩りには武器は向かないみたいでした」
「………あなた、普段は何を狩っているの?」
深刻そうに尋ねられ、ネアは少し警戒した。
他国からのお客のようだし、あまり大物を狩れると知られて獲物を狙われても厄介だ。
ネアとしては、心穏やかに過ごす、庶民的で静かな暮らしが理想である。
リーエンベルクに住んでいるという問題は、そこが与えられた社宅だからだと納得することにした。
とても豪華だが、言わば住み込みの職場なのだ。
「あまり大したものではないんです。ムグリスや鳥さん程度の、可愛らしい獲物ばかりです」
「ムグリス………。ええと、鳥はどんなもの?」
「………雷鳥などでしょうか。あのふわくしゃな生き物は、叩き落とすと死んでしまうので、狩りという程に技術もいりませんしね」
「……………雷鳥?!」
「………はい」
何かまずいことを言っただろうかと、ネアは眉を寄せる。
さすがに血を狙うという蝶の精霊や、相影の竜の話はしていない。
リズモは珍しいそうであるし、万が一狩り場を教えてくれと言われたら金運が減ってしまうので内緒なのだ。
(雪雀はまだ一度しか遭遇していないし、梟は水浸しにしただけだし……)
雪食い鳥は狩ったというよりも、躾けただけだ。
狩りの獲物として話すにはいささか与えたダメージが弱い。
「………そ、そう。雷鳥が狩れるなら大したものよ。その魔物と一緒に狩りをするの?」
「ディノは、私が狩りに夢中で走って行ってしまうと、きちんと追いかけてきてくれます。見失わずにいてくれているお陰で、いつも迷子にならずに帰れるんですよ」
「……単独で狩りをしているのね。ところで、あなたの魔物は何の魔物なのかしら?」
そう問いかけた瞬間、女性はその腕にぶら下がるようにして密着していた少年に、ぐいっと腕を引かれていた。
「………フォーン?」
とても可愛らしい少年で、人間だと五歳くらいの容姿に見える。
真っ直ぐに切り揃えた前髪が無垢そうに見えるが、やはり結構な年嵩の魔物なのだろうか。
「ミュレ、駄目です。その方について話してはいけません。見ても触れても駄目です。僕ではお守り出来ませんよ!」
幼子らしい舌ったらずな喋りにネアが微笑むと、反対側にいた魔物の方からじっとりとした気配を感じた。
フォーンと呼ばれた少年が、その気配に気付き、ぴっと声にならない声を上げて震え上がる。
「ディノ!こんな幼気な子を脅してはいけません」
「………見ただけだよ。それに、擬態もしているのに怖がってしまうのはどうしようもない」
「じゃあ、ちょっと離れて…」
「ご主人様?」
「むぅ、離れるのが嫌ならば、悪さをしてはいけませんよ」
無茶をしない程度に叱り、視線を戻せばフォーンは涙目になっていた。
このままでは児童虐待になりそうなので、そろそろ離れた方がいいのかもしれない。
「ねぇ、あなたの魔物は擬態しているの?」
ミュレと呼ばれた女性が、ふっと声を潜めて顔を寄せる。
いきなり距離を詰められるのは苦手なので、ちょっぴり表情が強張ってしまったかもしれない。
「はい。……ええと、諸事情がありまして」
「………ふーん」
「ミュレ!早く失礼させていただきましょう!!」
「だって、まだネイが来ないんだもの。フォーンとだけいてもつまらないわ。私を楽しませられないんだから、黙っていて頂戴」
叱られたフォーンが唇を噛んで項垂れたので、ネアは少し可哀想になる。
叱られた理由の根本はディノが怖がらせたからだが、どうやらこの二人の関係はいつもこんな感じであるらしい。
どうやら、本当に人間の方が上位であるようだ。
「ミュレさんは、誰かを待っているのですか?」
「そうよ。今の恋人なの。魔術師なんだけれど、階位は中堅どころかしらね。でも、ヴェルクレアの魔術師は質がいいから、結婚するなら悪くないわね」
「なんと!魔術師さんにも質があるのですね」
「あるでしょうよ!どこに勤めていて、どんな内容の仕事なのか、あとは稼ぎもそうだし、得意な魔術もね」
「成る程、確かにそうですね。魔術師さんについて、得意な魔術など考えたこともありませんでした!」
そう考えれば、エーダリアと彼の魔術師としての才能について話をしたことはない。
結界周りや気候の調整などは得意なようだが、お隣りの魔物が特殊なので、あまり特別さを感じることもない。
とは言え、ガレンの長なのだから、きっと凄い魔術師なのだろう。
そんなことを考えていたら、まさかのエーダリアの話になった。
「ねぇ、ここの領主を知ってる?」
「………はい。とても良い方ですよ」
「王位を辞した元王子なのでしょ?見目も綺麗だし、ガレンエンガディンなのよ。まだ奥様はいないそうだから、どこかで会えないかしら」
「領主様がお好きなのですか?」
「みんな好きだと思うわ。前に私の国の王女も狙っていたけれど、あの子じゃ無理ね。ああいう男性は、少し強いくらいの女がいいの」
「成る程………」
確かにエーダリアの趣味は風竜の女性であるようだし、少し奔放で尚且つ甘えさせてくれるような年上気質の女性がいいかもしれない。
(確かに、元王子様のあの容姿だから、ふわっとした可憐なお嬢さん達に人気があるけど、エーダリア様は自立した女性が好きそう……)
ミュレは狩りを好むようだし、その種の洞察力もあるのだろう。
感心して頷いていると、がしっと手を掴まれた。
「立ち寄る場所や、行きつけの店はないのかしら?」
何とも難しい質問なので、ネアは途方に暮れる。
「………読書がご趣味なので、あまり外に出て来ない方なのです」
「でも年頃の男性だもの。少しは羽目を外すでしょ?」
「それもあまり聞かないですね。何と言うか、………引き篭もり的な?」
「引き篭もり?」
「しかし!とても素敵な方だとは思います。ガレンでのお仕事の時や、祝祭の儀などで外に出る時もありますよ!」
あんまりな評価に少々引いてしまったミュレに、ネアは慌てて言葉を補った。
率直な評価を述べただけで、決してエーダリアの出会いを潰したい訳ではない。
だが、そもそもミュレには魔術師の恋人がいるのではなかろうか。
(ツテをと言うならまさにここにあるのだけど、軽々しく紹介していい方じゃないし……)
と言うか、このまま側にいるとフォーンがディノ怖さで死んでしまいそうである。
(おまけに、この女性の恋人って多分………)
「ネア?!」
そんなことを考えていたら、まさにその当人が現れた。
何とも言えない表情で振り返ったネアに、ノアこと擬態中の魔術師は驚愕の顔で凍りつく。
「………ミュレ、……どうしてこの子といるのかな?」
「歌乞いだから声をかけたのよ。もしかして、この子と…」
「あ、それはありません!」
さっと魔物の指輪を見せれば、何だ他の所属かと気の抜けた目をされ、一拍置いて物凄い形相で振り向かれた。
「まさか、契約の魔物に指輪を貰ったの?!」
「は、はい」
またしても何か問題だっただろうかと困惑しているネアに、ミュレは深刻な表情でぽそりと忠告をくれた。
「命令すればいいだけなんだから、やめておきなさい。契約の魔物の伴侶になるなんて、一欠片の自由もなくなるわよ?」
「わぁっ、ミュレ!!」
慌てたノアが彼女の口を塞ぎ、そう忠告されてしまったネアは、そろりとディノの方を見る。
ディノは、美貌に見合った優雅さで、微笑んでこちらを見ていた。
「ネア、まさかとは思うけれど、今の言葉で私とのことを考え直したりするのかい?」
後方から、ノアが御免なさいと必死に謝っているのが聞こえてくる。
ミュレは分かっていないようでノアが謝る理由を彼に尋ねていたが、今はちょっと黙ってと叱られていた。
「考え直したりはしませんよ。しかし、一欠片の自由もなくなるなら、ご主人様はたいそう荒ぶります」
「おや、君が嫌がることはしないのに」
上手に断言を避けた魔物に、ネアは優しく微笑んで三つ編みを掴んだ。
「私が今こうして暮らしている程度の喜びを奪うようであれば…」
「そんなことはしない……」
「では私は、奪われるかもしれない自由の為に悩む必要はないのですね?」
「………うん」
ネアが微笑んでいるけど笑っていないことに気付き、魔物はすぐにしゅんとして、ご主人様の自由は奪わないと約束してくれた。
とても悲しげではあるが、本気でネアが嫌がるまでの線引きの見極めが出来るようになってきた。
しかしそれは逆に、バランスの取れる程度の我が儘なら、ご主人様が聞き入れてくれると学んでしまったということでもある。
このあたりは今後の課題なので、対応策を練ってゆこうと考えている。
「だそうですので、大丈夫ですよ」
「ごめん、ちょっとまずい忠告だったね。でも、この子に悪気はないから」
「ふふ、そのくらいわかります」
「それと、…………ええと、ミュレとは…」
歯切れ悪く何かを言いかけて言葉に詰まるノアを見ていて、ネアはその懸念を悟った。
「大丈夫ですよ」
(他に三人も恋人がいることは告げ口していません!)
ノアの味方という訳ではなく、単に修羅場が嫌だからだ。
という訳で、下手にボロが出ない内にこの場を離れよう。
「それと、フォーンさんに美味しいものでも食べさせてあげて下さい。うちの魔物が怖がらせてしまったのです」
「…………うん。君の今の大丈夫が、僕的にはあんまり大丈夫じゃなさそうなのはなぜだろう?」
「あら、私は空気の読める大人ですよ。さて、そろそろ失礼しますね」
困惑顔のまま口をへの字にしているミュレにも手を振り、ネアはディノとその場を離れた。
後で色々と質問責めに会いそうだが、あんな風に動揺したらそれは怪しいだろう。
「四股がバレないといいですね」
「ノアベルトの心配は他のことじゃないかな。でも、ヒルドに言われていた通り、自分の所為だからね」
「もしや、浮気者だと思われるのが嫌だとか、そういうことですか?今更なのでは……」
「それでも、と思うのだろう」
「しかし、最初に出会った時も修羅場でしたし、その後で過去の恋人さんに一緒に追いかけられたりもしました。今更気にしても……」
ネアがそう言えばディノは少し気の毒そうな顔をしたが、どこか安堵もしたように淡く微笑んで、そっと腕の中におさめたネアの額に口付けを落とす。
「…………む」
あまり外ではやらないように躾けているので、ご主人様は眉を顰めた。
「ネアは浮気禁止だからね」
「私は、ディノ以外には薔薇の花束を贈りませんよ?」
「そうだね。婚約者なのだから、私だけにしないと」
よしよしと頭を撫でられて、ネアはなぜか少しだけむしゃくしゃした。
ディノのことはとても好きだが、最近上手に転がされている気がする。
今後の力関係を定める為にも、どこかでこの魔物をぎゃふんと言わせたい。
「………ネア?」
「最近、婚約者としてディノに上手く転がされている気がするので、いつか報復してやろうと策を練っています」
「ご主人様………」
恐れ慄いた魔物が美味しいお昼ご飯を奢ってくれたので、ネアはすぐに機嫌を直した。
どうにかこのまま、空気の読める良い魔物でいて欲しい。
翌日、狐語がわかるヒルドからの伝言によって、ノアが約束通りフォーンに美味しいものを食べさせてやったことが知らされた。
大好物のグラタンを半年ぶりに食べられたらしく、フォーンは啜り泣きながら夢中で頬張っていたらしい。
(ノアが側にいてあげて、フォーン君に好きなだけグラタンを食べさせてあげられればいいのに)
ついそんなことを考えてしまったが、他に三人もいるので特定の一人を推す訳にもいかない。
そして、そんなことを考えた自分が魔物寄りであることに気付いて、ネアは少しだけ複雑な気持ちになった。
ミュレが歌乞いであるならば、正規の契約の方式により、願い事一つにつき、ある程度の寿命を削られている筈なのだ。
そう考えれば、歌乞いというのは厄介な職種であるのは間違いない。
大好物も食べられずにあんな風に必死に寄り添っていたフォーンが、ミュレの命を削っているだなんて。
そんなことを魔物に話せば、彼は微笑んで教えてくれた。
「契約の魔物は必ずしも人間の寿命を削る必要はない。魔物のほとんどは、その人間に焦がれて姿を現わす訳だから、命を削るような歌乞いとしての契約に拘る必要はないんだ。けれども、人間がただの契約としてしか魔物を望まないのであれば、魔物は契約に準じて命を削るしかないんだよ」
それは初耳だったと驚くネアに、ディノは上手くいかなかったらしい木製のパズルを悲しげに眺める。
リーエンベルクで見つけた大人用の頭の体操用の玩具だが、渡してみたところ初回は敗退したようだ。
「そう考えると、雪食い鳥の試練と似ていますね?」
「確かに、そういうものの一つだね。それに歌乞いは、現れた魔物の望むものを渡すことが出来れば、契約の中身を緩めることも出来るんだ。もっとも、対価はやはり必要だから、下位の魔物では緩められる範囲にも限界があるけれどね」
「…………私の場合、あえて歌乞いの契約を選んだ理由はわかる気がしますが、最初から命を削られなかったのが不思議です」
「それは私が命を削らない方法を知っていて、それを成すことが可能だからだよ。ゼノーシュも途中からそうしただろう?」
「ええ、削らないことにしたと嬉しそうに話していましたよね」
「それは同時に、ゼノーシュが今得ているもので対価としては充分だと判断したからでもあるんだよ」
(そうか、ゼノはあの時にそう判断したのだわ……)
いつだったか、酔っ払った可愛いクッキーモンスターが話していたことがある。
歌乞いというものの仕様が固まり過ぎていて、以前のグラストはとても余所余所しかったのだそうだ。
大好きだったから会いに行ったのに、とても悲しくてがっかりしたのだと。
でも、最近のグラストはとても優しいので、僕の欲しかったものをたくさん与えてくれるんだと幸せそうに話していた。
だからきっと、グラストがゼノーシュの欲しかった何かを与え始めたことが、契約を緩める要因になったのだろう。
「そもそも、初期の頃の私は、ディノの欲しいものなんて与えていました?」
「私は、君がこの世界に呼び落とされてくれただけでも幸福だったよ」
そう嬉しそうに言われて、ネアは考える。
あの頃のディノはよく、それでもいいよと微笑んでいた。
多分、今のディノは同じように受け入れないこともあるかもしれない。
(友人や家族の存在すら許さないと言われているくせに、契約の魔物達は随分と健気なのだわ)
それはつまり、満たされていれば心が広くなるかもしれないということではなかろうか。
「ディノ。私はディノがとても大好きなので、今度ドリーさんと…」
「駄目だよ、ご主人様」
「おのれ!」
ドリーが近いうちにダリルとの打ち合わせでリーエンベルクに来ると聞き会いに行きたかったのだが、やはり駄目だったかとネアは項垂れる。
薔薇の祝祭が近くなり、魔物は随分なピリピリモードなのだ。
ご主人様は浮気者だからと、大変に遺憾な理由を公言している。
(やはり、この程度では嫉妬深いところは緩和出来ない模様…………)
ネアの立てた仮説は間違っていたようなので、作戦の変更が余儀なくされた。
「では、ドリーさんに会わせてくれたら、一週間、私の寝台を使ってのお泊まり会をしても構いませんよ?」
「…………え、何でそんなに彼がお気に入りなんだろう?」
「何しろ、滅多に会えませんから。忙しい時期は半年くらいお仕事にかかりきりだと言うではありませんか!」
「ネア…………」
提示された報酬が魅力的過ぎたらしく、ディノはその夜、考え過ぎて具合が悪くなった。