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梟の魔物と後方の影



その日のネアは、狩りの女王としての鍛錬を怠らないよう、アルバンの山に来ていた。


咎竜の一件で少し足が遠のいてはいたが、幸いなことにアルバンの山にある牧場の乳製品たちが心を癒してくれるので、無事にトラウマは相殺されたようだ。


今や、アルバンの山と言えば、美味しいところというイメージに再統一された。


「さぁ、今夜はこの山を震撼させますよ!」

「ご主人様……」

「雪菓子が最後の季節なので徹底的にやります。後は、リズモが居たら……」

「ネア、今度アイザックに資産を増やして貰おう。そうすれば、もうリズモはいらないだろう?」

「いけません、狩ってこそです!」

「ネア………」


魔物はとても困惑していたが、気を取り直したように首を振る。

この山では、ご主人様はろくでもないものにばかり遭遇してしまうので、しっかり気を引き締めなくてはならない。



その夜のアルバンの山は、澄み切った空気がとても気持ち良かった。

凛と輝く満月に、あの夜の赤さは微塵もない。


早速、ぱたぱたと飛んできた蝶をべしっと叩き落とし、ネアは残虐な狩人の本性を見せた。


「蝶の精霊を倒しました!」

「ご主人様………」


もう手慣れたもので、ネアの獲物はディノが拾い上げて金庫の腕輪にしまってくれる。

これは咎竜を収納したこともあるので、なかなかに思い出深いものだ。


ざくざくと雪を踏み、固まった雪の表面からふかふかの雪の底に踏み込む感覚を楽しむ。


「…………む」

「どうしたんだい?」

「………何か踏みました」

「え………」


慌てたディノに持ち上げて貰い、ネアは、ディノが魔術で雪の下から引っ張り出してくれた生き物に愕然とした。


「これは、ふわくしゃの親戚ですか?」


ふわくしゃこと雷鳥がタオルハンカチならば、ディノが引っ張り出したのはフェイスタオルである。

ずるりと長く、雪まみれではあるがキャラメル色だった。


「もう死んでるよ。ブーツに踏まれてしまったからかな」

「こやつは何者なのですか?」

「雪雀だね」

「………雀とは、小さな茶色の鳥さんではなく?」

「茶色いよ?」

「………細長いタオル」


相変わらずの謎めいた区分により、これは鳥でもあるらしい。

とても綺麗な声で囀り、人間が通りかかると足を引っ掛けて転ばせ、とても不愉快な気持ちにするのだそうだ。

そのがっかり感を食べる魔物であると知り、ネアは途方に暮れる。


(魔物達よ、もっと楽な生き方はないのだろうか……)


ぶんぶんと円を描きながら飛び、やはり魔術で飛ぶので羽はない。

高位の鳥でもあり、珍しいので高く売れると言う。


「この際、良い獲物であればもう何でもいいような気がしてきました」

「足の病気の薬にもなる筈だよ」

「リーエンベルクか、アクス商会か、どちらに卸すのが良いでしょうか?」

「これはアクスでいいだろう。扱いが難しいから、人間には向かない品物だ」

「………難しいのですね、……タオル」

「雀は高位のものが多いからね」


夜風になびいた真珠色の髪の煌めきに目を奪われつつ、ネアは当たり前のように隣りにいる魔物に、一瞬だけ、どうしてか不可解な気持ちになった。

あまりにも家族のように馴染んではいるけれど、まだ出会って半年足らずの生き物なのだ。


(この魔物だって、不思議でおかしな生き物なのだと思う)


ウィリアムやアルテアならまだわかる。

彼等は魔物らしく、或いは魔物にしては穏やかであっても、高位の生き物らしく自立していた。

けれども、ネアから見るディノと言えば、何だか世慣れない子供のような側面がある。


「雀が高位なのですね。私の元の世界の雀たちが羨みそうです」

「高位で珍しいものだと、梟の魔物がいるね」


ネアは、そこで新たな鳥の魔物についての情報を得た。


「この前、ディノが話してくれた凄い奴ですよね!」

「とても美しいともされるから、ネアは好きかもしれないね」

「見てみたいけれど、怖い生き物なのでしょうか」

「今度、探してみようか。私から離れないと約束するなら、一緒に見てみよう」

「はい!楽しみにしていますね」



夜はふくよかに美しく、狩りは順調に進んだ。

雪菓子も一定量収穫が出来てほくほくとしていると、ふと、風に乗ってカシャカシャという不思議な音が聞こえてくる。


(何だろう?紙を丸めるような、でももう少し濡れたような音……)


これは何の音だろうかと魔物に聞いてみようとしたところ、胸元に留めたピンがチリンと鳴り、魔術通信が入った。

水晶のベルを鳴らすような澄んだ心地の良い音に、心が弾む。


「はい、ネアです」

「ネア、業務時間外にすまない。今居るのはアルバンの山だろうか?」

「ええ、アルバンの山におりますよ。どうしましたか、エーダリア様?」

「実はそちらで大物の害獣情報が入ってな。駆除出来るものではないが、山から出すことは出来ないだろうか。勿論、時間外手当もつけよう」

「害獣さんが!どんな生き物なのでしょう?」

「恐らく、梟の魔物だ。巣を作られると大量の家畜を襲うので厄介なことになる」

「…………乳製品の敵ではないですか!懲らしめます!!」

「いや、高位なので戦うなよ。ネア?!」


鼻息も荒く通信を切り、ネアはこちらを見た魔物の腕を掴んでお仕事モードに入る。


「ディノ、折良く梟の魔物さんが出現しました!巣を作られると私の喜びが死んでしまうので、山から追い出して欲しいです!!」

「わかった。ネアはまず、私から決して離れないようにね。梟は爵位持ちだから」

「乳製品を脅かす鳥の分際で、なんとも生意気なやつですね」


ホイップバターを脅かした段階で好意は最低ランクなので、ネアはディノから綺麗な生き物だと教えられたことも忘れて、梟を激しく敵視する。

荒ぶるご主人様でも狩りのときは可愛く見えるようで、唇の端で微笑んだ魔物が、指の背で頬を撫でた。


「ネアの嫌なものなら、すぐにどかしてしまおう」

「ディノが頑張ってくれたら、久し振りに髪の毛を洗ってあげます」

「だったら一緒に入ろうか?」

「む。温泉ですね……公共の場所では邪魔になるでしょうし洗ってあげられないので、リーエンベルクの大浴場が開くといいのですが……」

「温泉………」


魔物は謎に悲しげにしたが、公共の温泉でこの長い髪の毛を洗ってあげていたりしたら大迷惑だ。


「じゃあ、椅子になろうかな」

「………温泉で、ですか?」


その瞬間、ネアは質問を間違えたことに気付いた。

魔物が、その発想はなかったという目をしたのだ。


「それにしよう」

「………ええと、入浴着でお膝に乗るのはちょっと……背中も結構開いてますし」

「ネアの背中は綺麗だしね」

「だからなぜ、私の背中事情を知っているのだ!」



ご褒美の選定で少し時間をロスしたが、ネア達は件の梟が現れたという座標をすぐに見付けることが出来た。


山の上の方ではなく、少し裾野に近い森林地帯の区画で、ネアの大切な牧場も近い。

これはもう何が何でも狩らなければならないと覚悟を固めていると、唐突に魔物に持ち上げられた。

このあたりの雪は柔らかく、山頂付近よりも雪の下に何者かが潜んでいる確率も高くなる。

魔物の肩に手をかけて顔を覗き込むと、安心させるように微笑んでくれた。


(でも、まだ何も踏んでいないから、梟めが現れたのかしら)


「現れましたか?」

「違うものだけれどね」

「違うもの?」


視線で促された方向を見ると、一昨日見たばかりのカーキ色のコートが目に留まった。

はたりと柔らかな風にコートの裾が揺れ、木々の影に見たことのある色の瞳が光る。

思いがけない姿を見付けて、ネアは眉を顰めた。


どうして彼が、こんな何もない山の中にいるのだろうか。


「………ジーンさん?」


目が合えば薄く微笑まれ、ネアは首を傾げる。


「こんばんは。こんなところでお会いするのは、何やら不思議な感じです」

「ここは魔術が清涼だし、ネアが前に話した牧場があるというから、何となく立ち寄ってみたくなった」

「そうだったのですね。でも今夜は、梟の魔物さんが出現したようなので、気を付けて下さい」

「梟の魔物か………」


少し考え込む様子を見せたジーンに、持ち上げたネアの耳元で、ディノが短く囁いた。


「前に君が話した、すとーかー?……かな」

「………その病気でないといいのですが」


実は、ジーンに出先で偶然出会うのはこれが初めてではない。

一昨日からで五回目になると少し不安になってくるが、因果の精霊だと言うしこんなものなのだろうか。

もう少し事例を蓄積した方が良さそうだが、場合によっては怖いやつだ。


(そう言えば、ゼノが随分心配していたし、アルテアさんも精霊は厄介だと言っていたけれど……)


この落ち着きぶりでストーカーなど非常に恐ろしいので、偶然がフル稼働していることを是非に願おう。



「ネアは、梟退治をするのか?」

「いえ、乳製品の敵なので、この山から追い出すだけです。私の愛する牧場の近くに、巣など作らせません!!」

「………そうか、手伝おうか?」

「いいえ、これはお仕事としての発注を受けましたので、私とディノでどうにかします。ジーンさんは、どうぞ巻き込まれないように安全なところにいて下さいね」

「……………わかった」


万が一のことを考えて少し距離を置きつつ、ネアはディノに近くの気配を探って貰う。

ジーンが離れる様子がないのを不安に思いながら報告を待っていると、どうやら梟は牧場のすぐそばを経由して、少し離れた森林地帯の斜面側に移動したようだ。


「良かったです、少し離れてくれましたね」

「でもあの辺りだと、追い出すには回り込ませなければだね」

「む。牧場の近くを通りますか?」

「横を通す必要があるから、ネアの大事な牧場には結界を余分に乗せておこう」

「…………梟めは、退治してしまってはいけないのでしょうか?」


一応、狩りの獲物とは違うので無益な殺生はしないつもりであったが、牧場を脅かす者であるのでネアは普段より気が短い。

ここでさっくりやってしまった方が、後々の憂いなく過ごせる気がする。


「どうだろう。大きいし、少し暴れるから、山が荒れるんじゃないかな。ここはネアの狩り場だしね」

「むぅ。確かに山に被害が出ると、ここで暮らす方々にも宜しくありませんね」


家畜たちのストレスになってもいけない。

そう思ってジーンに別れを告げ、自身の中の残虐な衝動を押さえながら該当地点に急行すると、雪を纏った森はしんと静まり返っていた。


(この感じ、……………少しだけ似てる)


大きな力を持つ者が傍に居ると、森や山に住む生き物達は息を潜める。

咎竜の時とはまた違う静まり方ではあるが、同じ種類の静けさには違いない。


「気配を抑えているから、少しだけ静かにね。梟は強いけれど、臆病でもあるんだ」


ディノから梟の魔物のことを聞いた時にも、そう話していた。

梟の魔物は大きくて強く、とても臆病で残虐な、大食漢の魔物である。

山や森の中にある大きな洞窟に巣を作り、風の強い日には遠くまで飛んでゆく。

雨の日には決して出歩かないので、討伐の際には雨の日に巣の中にいるところを狙うらしい。

しかし梟の巣に入ることになるので、幼い個体であっても毎回甚大な被害が出るのだ。


(そう考えれば、エーダリア様が巣を作らせたくないと話していたのもわかるかも)



こうっと風が鳴った。


厄介な生き物が傍にいる時、いつもこうやって風が鳴るので魔物に訊いてみたところ、これは魔術領域が動いているという証でもあるようだ。

言わば、魔術の風なのである。


かしゃかしゃという不思議な音が響き、びくりとしたネアに、ディノがそっと回した腕に力を込めた。



「………ほら、あれが梟だ」


耳元で囁かれる声に意識を引っ張られながら見た木の影に、大きな影があった。

木の影に沈んでいる部分と、月光を受けててらりと光っている部分があり、話に聞いていたがやはり大きい。

大きな木と同じくらいの高さがあるので、建物並みの大きさはありそうだ。

これに一人で遭遇したら怖いだろうなと思いながらも、ネアはまたしても異世界の生き物に困惑させられる羽目になった。


(……………え、あれが梟?)


「……………あやつは、巨大包装紙ではないのですか?」

「梟だよ。この梟は、唐草模様だね。個体によって模様が違うんだ」

「お洒落な模様の包装紙です…………」


道理でカシャカシャと音がする訳である。

この生き物は、巨大な包装紙を適当に丸めて形成したような体をしており、動くたびにその体が触れ合ってカサカサ音を立てるのだ。

サイズが大きいことと、包装紙の表面にグロス加工があるので、少し濡れたような不思議な音になって聞こえるのだろう。


怯えたり感嘆したりするでもなく、半眼になってしまったご主人様に、魔物は不思議そうな顔をした。



(…………異様という意味では、とても怖いけれど)


「怖くはなさそうだね」

「はい。………何でしょう、心が不安定にはなります」

「梟は嫌いかい?」

「好き嫌いを超越した、…………包装紙です。でも、ディノの言う通り、模様は綺麗ですね」

「私が見た梟は、花柄だったな」

「花柄………」


すっかり気持ちが緩んでしまったものの、ネアの仕事はこの梟をアルバンの山から追い出すことにある。

さてどうしたものかと議論したが、案外扱いが難しいようだ。

少し考えてから、ネアはそれしか思いつかなかった方法を試してみることにする。


「………ディノ、今夜は風があるので燃やせませんが、あやつを水浸しにしてみて下さい」

「梟を水に浸けるのかい?」

「はい。何かで覆って、どぼんと水浸しにしてやる感覚です。結界とかで出来ますでしょうか?」

「うん。それは可能だけれど……」

「少量の水だと、表面がコーティングされているので弾きそうですものね。しかし、裏面は柔なので水責めの刑です!」

「雨を嫌うからなのかな?」

「……………一目瞭然ではないのですね……」



そして、ネアの立てた作戦が実行された。


雪が溶けるとあまりよろしくないので、水はとても冷たいものが用意され、まずは隠れているらしい木の影から引き摺り出して結界に隔離せねばならない。


「私を持ち上げたままでは不便ですよね、降ります」

「このまま離れないで。ネアが離れると、不安だから」

「え、………うっかり落としたりしません?」

「覆って水を溜めるだけだから大丈夫だよ」


その言葉の通り、ディノは頼んだことを一瞬で終わらせてくれた。

木の影から引き摺り出された梟は怪獣のような咆哮を上げて暴れたが、ぎろりと睨んだ相手が見事に白い魔物であることに気付き、切羽詰まったようにまた咆哮を上げてもがいた。

梟がぶつかった木の枝から雪がざあっと落ちたが、枝が折れたりしないのはディノの調整の賜物だ。

こういう時に、ああやはり高位の生き物なのだなぁと、しみじみ実感する。


木々の重なっていない開けたところに引っ張り込まれ、梟は大きな四角い結界に閉じ込められた。

何だかもうこのままどこかへ転移させてしまえばいい感じではあるが、言い出した作戦があるので最後まで試してみようと思う。


何しろ、目の前で暴れているのは包装紙なのだ。


「水で満たすよ。…………あれ、萎んだ」

「ふむ。やはり無力化出来ますね」



案の定、梟の魔物は、水に浸けられてしまった途端、紙というものが余さずそうあるべき姿として、水の中ではくしゃくしゃになって小さくなってしまう。

雨を嫌うのはきっと、弱ってしまうからだろう。


「………そろそろ水を抜いて解放してもいいかもしれません」


割とすぐに無力化されてしまったので、少し哀れになり解放を早めてやることにした。

水は流してしまうのではなく、どこかに戻されてゆくので雪原が緩むこともない。

ただ、水浸しで随分縮んでしまった梟の魔物が転がっているばかりだ。


ディノに持ち上げてもらったまま、近付いて覗き込んでみると、子供の描いた絵のような雑な構成の両目が、懇願するようにこちらを見上げている。

可愛いと表現するには、やはり少し狂気染みた容貌の生き物だ。

折り紙のように形が整っているわけでもなく、適当に丸めた紙に顔が描かれているだけの巨大生物を想像して欲しい。

とても怖いの一言に尽きる。


「梟さん、このお山は私のテリトリーです。私の狩り場であり、私の大事な牧場があります」


そっと話しかけたネアに、ずぶ濡れで小さくなった梟がぶるぶると震える。

こんなに水を吸ってしまうと動けないらしく、無力に蹲るばかりだ。


「なので、今後は決して近付いてはいけません。もしその約束を守れるのであれば、自由にしてあげますが、出来ないのであれば水に浸けたまま日当たりの悪いところに放置して、カビさせてしまいますよ!」


生きながらにカビを生やされるとなると相当に恐ろしかったのだろう、梟はいっそうに震え出し、何か梟語でもしゃもしゃと囀っている。

ネアを抱えたままのディノが通訳してくれた。


「この山からはすぐに出て行くし、…………忠誠を誓うって言っているよ」


後半声が低くなったのは、梟が伯爵だからだろうか。

魔物がやきもきしても可哀想なので、ネアはその部分は即座に否定する。


「包装紙めの忠誠などいりません。悪さをしないと誓うことが大事なのです!」


ぴしりと強く言い切られて、梟はまたしても震え上がる。

がくがくと頷いているので、ネアは鷹揚に微笑んでやった。


「さて、自分の立場が分かったようですので、どこか遠めの土地にぽいっとやりましょうか」

「熱いのは苦手だから、南は嫌みたいだね」

「愚かですね、ある程度の気温がないと、ずぶ濡れのままでしょうに」

「………意見を変えたみたいだ。少し南でも構わないらしい」

「ディノ、そのような土地であればどこでもいいので、こやつを移動させられますか?食いしん坊のようなので、出来れば餓死しないくらいのところだと嬉しいです」

「森があるなら、アチアの西側あたりかな………。獲物として欲しいなら、殺してあげようか?」

「今回はあくまでも山から追い出すだけでいいので、狩りとは分けて考えましょう」


かくして、水浸しの梟の魔物は、アチアという国に追放された。

山から追い出すどころか国からも追放されたので可哀想と言えなくもなかったが、偶然にであってもネアのホイップバターを脅かしたのが運の尽きである。

運命とは残酷なものだと、諦めて貰うしかない。



「梟があんなに水に弱いとは思わなかった。雨で弱っているのを見たことはあるけれど、普通に動いていたからね」

「表面の加工によって、ある程度は緩和出来るようですものね。でも、しっかり濡らされると駄目なのだと思います」

「きっとあの梟は、もう水に浸けられないようにするのだろう」

「む。それを防ぐだけの力が、あの包装紙にあるのですか?」

「ネア、あれでも梟は伯爵なんだよ?」

「もし、濡らされないようにして悪さをするのならば、燃やしてしまえばいいのです。所詮、あやつは紙切れですからね」

「……………燃やしてしまうんだね」

「そう言えば、春から夏にかけては、リーエンベルクで使う牧場が変わるそうなので、その情報も与えておけば良かったですね」

「多分、もうウィームには近付かないんじゃないかな………」




後日、ネアの元にディノを経由して、素敵な南国の果物がたくさん届いた。

水浸しにされてしまった梟が、これで今後とも良しなにという意志表示で送ってきたらしい。

ウィームには怖くて近付けないそうなので、せめて一匹分の梟の危険は去ったことになる。

あまりにも量が多いので厨房に卸すと伝えにゆくと、エーダリアは、肩に乗せた銀狐と同じ困惑の眼差しで梟の貢物を見ていた。

定期的に果物を貰えるとなれば、ドリスの実の祝福ということになるのだろうか。


「そう言えば、梟の魔物さんは何匹もいるんですね」

「同じ模様のものはいないけれどね。伯爵だからあまり狩られることもないし………」


梟を燃やす発言が余程怖かったのか、ディノは少しだけ梟寄りの姿勢を見せるようになった。

かつてディノが出会ったという梟は花柄だったようなので、その梟が出た時には手加減してやろうと思う。



余談だが、同じタイミングでジーンからもザハの焼き菓子セットが届いた。

ディノ曰く、ネアが梟の魔物に陰惨な脅しをかけている際、木の影から震えながら見ていたそうなので、自分もそんな目に遭わされないようにする為の賄賂ではないかということだった。

別にジーンをカビだらけにする予定はないので、ネアは腑に落ちない気分で焼き菓子を頬張っている。



因果の精霊がストーカーかどうかの判断は、まだついていない。

















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