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氷漬けの魔物と浴槽の話



その日ネアは、目の前で惨事が起こる一部始終を見てしまった。



事の起こりは、中庭の噴水の前で新雪にはしゃいでいる銀狐を見たことからだった。

新雪にはしゃいでいる姿に、とうとう獣の本能に支配され始めたのかと慄いていると、はしゃぎすぎた狐は、弾んでいる内に雪溜まりにバウンドして氷室に落ちた。


「えっ……?!」


よりにもよってのタイミングで、リーエンベルクに届いたばかりの雪林檎と氷苺を、家事妖精が氷室にしまっているところだったのだ。


カチンコチンになった銀狐を家事妖精からリレーの要領で受け取ると、大慌てで一番近い銀狐用の部屋に駆け込み浴槽に放り込んだ。

蛇口を捻ってじゃばじゃばとお湯を出し、滝行の仕組みで解凍を図る。


(すごい、お髭までぱりぱりに凍っている!)


氷室は特別入室符を持たないと凍ってしまうとは聞いていたが、まさかここまで激しいものだとは思わなかったネアは驚くばかりだ。

幸い狐姿だと小さいのですぐにお湯に浸かり、ふにゃりと溶けてきた銀狐は意識を取り戻した。

とろんとした目を開いた銀狐に、何度も声をかけて揺さぶる。


「き、狐さん、大丈夫ですか?!」


指輪に向かってディノにも救援要請をしたのだが、この部屋の中に入ってしまうと魔術的飛び地扱いになることをすぐに思い出した。

ここから離れて救助を呼ぶにしても、今はぶるぶる震えている狐から離れる訳にはいかない。


「狐さん、狐さん、……寝てはいけません!そして、毛皮がとても冷たいままなのは何故なのだ………?!」


(どうしよう。これだけ熱いお湯に漬けているのにこんなに冷たい!)


前回ネアがしでかした時に、ヒルドが話していたことを思い出しながら幾つかの可能性を思案した。


(狐という無力な生き物だから、魔術の影響が大きい可能性もあるし)


そしてもう一つ。

前回のネアが身ぐるみ剥がされたあの理由がある。


(もしや、着衣の状態で狐に擬態しているとしたら……)



「…………ノア!元の姿に戻って下さい!!」



狐を狐として受け入れる為にも、決して呼ばなかったその名前を呼んだ。

震えていた銀狐がびくりと体を揺らし、青紫の瞳をまん丸にしてネアを見上げる。


「こんなことで凍死してはいけません。今日のことは見なかった事にしますから、とにかく元の姿に戻って下さい!!」


途方に暮れたように固まった後、銀狐は弱々しく首を振る。

やはりそこは、譲れない何かがあるのだろうか。


(何となくだけれど、狐の姿だからリーエンベルクで暮らせているんだってことは、わかるけれども!)


今のノアは、とても幸せそうなのだ。

だからネアは、今迄その意志を汲んで、銀狐を狐以外の者として扱わないように注意してきた。

自分が何者なのかを明らかにされたら、この狐はどこかへ行ってしまいそうな気がしたから。



「とは言え今は、あなたの意地など知ったことではありません!さっさと元の姿に戻らないと、このまま暖炉の直火で解凍しますよ!!」


ネアが続けた一喝で、狐は寒さとは違う意味で震え上がり、慌ててもしゃもしゃと動くとふわりと空気が揺れて元の姿に戻った。



(…………ああ、ノアだ)



自分でやらせたのだし、一度は眠ってはいたがこの姿を見ている。

でもそれは見たという程度の物であって、決して会った訳ではなかったのだ。


浴槽にずぶ濡れで座っているのは、黒いコートを着た美しい魔物だ。

ネアが知っている頃とは違い髪が伸びており、それを乱雑にリボンで結んでいる。

ラベンダー畑で出会った頃にはなかった、目元の微かな翳りに流れた時間の重さがわかる。


ノアは、白い息を吐いて後ろめたそうな目をしてこちらを見ていたが、目が合うとすぐにうな垂れてしまった。



「………自分でコートを脱げますか?」

「コート………ぬぎ、………脱げる」

「舌がもつれているくらいなので、危なっかしいですね。そして、やっぱり衣類がネックになるのでしょうか」

「…………ねっく?」


回らない舌でそう尋ねた塩の魔物を無視すると、ネアはおもむろに着ていたセーターを男前に脱いだ。

ノアがぎょっとしているのがわかるが、このセーターは乗馬及びアクティブな外出用のお気に入りなので、これ以上濡らしたくない。


中に着ていたブラウスも伸縮性がなく濡れると動き難いので脱いでシャツ姿になると、なぜか呆然としているノアのコートを脱がしにかかった。


「ま、………待って、どうして脱ぎゃ、……脱がすのかな?」

「洋服に保冷の魔術が添付されてしまうそうです。ほら、手を上げて下さい!」

「ネ、ネア………」


抵抗する患者から容赦なくコートを毟り取り、重たく濡れたコートは浴槽の反対側に引っ掛けようとして、そのコート自体からお湯が冷える可能性を踏まえて洗面台に乗せることにした。


指がかじかむのかボタンが上手く外せないノアの介護をしつつシャツも脱がせると、途方に暮れたように目元を染めている魔物をひと睨みする。


「照れていないで、残りも脱ぎますよ!下は自分で脱げますか?」

「…………色々と問題になるから、……自分で脱ぐよ」


遭難救助中なので上半身裸くらいでは動揺しないが、さすがにネアもそれ以上は見たくない。

シャツも水気を絞ってから洗面台に持って行っていると、背後でもの凄い音がした。


「ノア?!」

「だ、……………大丈夫、ころんだ」


浴槽に浸かったままズボン脱ごうとしたのだが、バランスが崩れた体を支えるだけの余力がなかったらしく、お湯の浮力でひっくり返って浴槽の縁に頭を打ったようだ。

周囲も自分もびしゃびしゃにしてしまい、これだけ美しい魔物だからこそ、何とも惨めな様子である。


「ちょっと待っていて下さいね。ディノを呼びます」

「ネア!………ごめん、待って。さすがにこの有様は、見られたく………ない」

「我が儘の助ですねぇ!ほら、頭を見せて下さい。たんこぶにならないといいのですが………」


自分でも惨めな気持ちになったのかほとんど半泣きなので不憫になり、ネアはぶつけた頭を診てやった。

血は出ていないようだが、続け様に額も打ったのか、可哀想に赤くなっている。


脱げたズボンは回収しておき、若干メンタルの方が重傷になりつつある魔物の頭を撫でてやった。

寒がっているのだからお湯から手を出さない方がいいのだが、びしょ濡れのくせにぎゅうぎゅうとしがみ付いてくる。


「よしよし、びっくりしましたね。ほら、一応は魔物なのですから、己の力でも戦うのです」

「……………初めて凍った。死ぬかと思った」

「大丈夫、無事に解凍してきましたよ。着替えはありますか?」

「………バスローブ」

「あの棚ですね。持ってきてあげますので、氷室の魔術に打ち勝っていて下さいね」

「…………ネア」

「はい?」


振り返ると、おでこを赤くした綺麗な魔物がこちらを見ていた。


「どうせなら、一緒にお風呂に入る?」

「もう一度氷室に放り込んだ方が良さそうです」

「…………ごめんなない」

「言えていませんよ。きちんとお湯に浸かって、頭まで解凍して下さい」

「ネア………」

「何ですか?」

「心細いから………側に居て」

「………ここにいるでしょう?ゆっくり湯船に浸かって、まずは普通に喋れるようになること。ヒルドさんを呼んで欲しいですか?」

「ヒルドは、………お、…王都」

「じゃあ、私が頑張って介護しますね」


バスローブを取ってきてやった後は、なるべくそちらを見ないように浴槽の周りを片付ける。

やってみて分かったのだが、見ないようにするのは中々に大変で、寧ろヒルドのようにさらりと受け流す方が楽だった。


見たい見たくないではなく、面倒なのだ。


(ええい!もう、動き易さを優先にする!)


なので、ネアは早々に諦めた。

そもそも、介護現場で裸も何もあるまい。

意識をしようにも、相手は通常時は狐なのである。



暫くの間ふにゃりと顎先までお湯に浸かっているノアを見守り、途中で目を離しても大丈夫だと判断して、部屋の方の受け入れ準備を整えにゆく。


暖炉はないので、部屋の通信機から家事妖精に大きな湯たんぽを二つオーダーした。

ついでに、お風呂からディノが出てきたら、狐部屋にいると伝言を伝えて貰えるよう頼む。


(毛布を、体温が逃げないように設置しておいて………)


元々、ディノのお風呂中を狙って狐をブラッシングに来ていたので、残り時間の猶予はまだ計算出来ているが、あと十分ほどで茹で上がる筈だ。


そこまでを終えると、浴槽のノアを迎えに行った。



「さぁ、立てますか?」

「………バスタオルを広げて持たれると」


いつかの場面と立場が逆転したネアに、ノアは男らしくなくたいそう恥じらった。

しかしまだふらついているので、今度こそ本格的に転んで頭を打ちそうな気もする。

転ばれてしまうとネアの力では持ち上げられないので、そうならないようにしたいのだ。


「恥ずかしがっても仕方ないでしょう。今更です」

「………命の代わりに、他に大切なものを失った気がする」

「命が助かるのが一番ですよ」

「………ネア、目を閉じてて」

「乙女ですか!」


しかしながら、頑固に首を振るので仕方なく目を閉じていてやると、浴槽から上がる気配がした。

ハラハラしたが、時間をかけて慎重に動いているようだ。


ややあって、広げたバスタオルにぼすんと人型がぶつかった。


「…………目を開けていいよ」

「耳元で言う必要はありますか?」

「だって、ネアに寄りかかってるから。ねぇ、一緒にごろごろしようか」

「ふざけてないで、体を拭きますよ」

「え、…………じ、自分で拭く」

「じゃあせめて、そちらの壁に寄りかかって拭いて下さいね。ざっと拭いたらバスローブを着せてあげますから」

「…………自分で着る」



余程ネアの申し出がショックだったのか、ノアは驚く程に素早く身なりを整えた。

ゆっくりしているとネアに着せられてしまうと焦ったらしい。


やはりふらふらしているのを部屋に戻し、作っておいた毛布の巣に配置すると、準備も発送も魔術仕掛けなのでとても到着の早い湯たんぽを、受け取り口から引っ張り出す。


それを膝に持たせると、毛布でノアごと包んでやった。

足の下にも差し込み、やはり毛布で包んで保温する。



「湯たんぽより、ネアを膝に乗せた方が暖かいと思う」

「直火がご希望ですか?」

「ごめんって」

「ほら、暖かいお茶を頼んであげますから、少し休んでいて下さい」

「ネア…………」

「まだ寒いところがありますか?」

「ううん。………一度だけこっちにきて」


手を伸ばしているので、ハグをしたいのだろう。

すげなく却下しようとして、子供の頃に病気になるとこんな風に寂しくなったことを思い出す。

胃がおかしくなってディノに甘えた時もこんな感じだった。



「やれやれ、仕方ありませんね」

「……………ネア」


母のような気持ちで歩み寄って腕の中に収まってやれば、しっかりと抱き締められて深く深く息を吐かれる。

胸の底から安堵したような、妙に切実な溜め息だった。


「いっぱい抱き締めて貰ったけれど、君を抱き締めたのはあの日ぶりだ」


そんな風に言うのだから、ネアのことは覚えていたらしい。


肩口に顔を押し付けるようにされていたので、よしよしとまだ濡れた頭を撫でてやった。

そして、髪が濡れていることに眉を顰める。

このままではここから風邪をひきそうではないか。


「髪の毛を乾かせますか?えいやっと水分を飛ばして下さい」

「ネアも濡れてるよ」

「介護の勲章です」

「介護…………」

「そしてふと思ったのですが、狐さんの姿の方が湯たんぽとの接地面が多くなるのでは……」

「…………えっと、僕のこと嫌い?」

「嫌いだったら、家事妖精さんに任せたまま知らんぷりです。こんな風に甘やかしたりもしません」

「………そっか。じゃあさ、ずっとここに居てもいいかな」


それはとても心配そうな声だったので、ネアはふわりと微笑んだ。

不調があるときに気弱になるのは、人間も魔物も同じであるようだ。


「ここは私の権限でいつまでもいいよとは言えないところですが、あなたは多分、ずっとここに居た方がいいんだと思います。だから、お部屋を確保したんですよ。そして、……安心しました」

「あん、しん?」

「ええ。こちらの姿を見てしまったら、ノアは出て行ってしまうような気がしていたのです」

「…………その予定だったけどね」

「でも、もうずっといるのでしょう?」

「……………うん。……………君が生きていてくれて良かったな」

「もう咎竜は狩らないので、安心して下さい」

「それもだけど、そのことじゃないんだ」

「あら、そんなにあちこちで死にかけてはいませんが……」

「あはは、そうだね」

「ノア?」


名前を呼ぶと、青紫の瞳を嬉しそうに細めて微笑む。


「やっと名前を呼んでくれた」

「呼んでもいいならこれからも呼びますが、ボール遊びの時だと複雑な気持ちになりませんか?」

「…………狐姿の時は呼ばないで」


想像がついてしまったのか、ノアはその言葉にしょぼくれた。

こういう落ち込み方がディノに似ており、ネアは少し複雑な気持ちになる。


「ノア、今の内に訊いておきたいのですが、首輪は嫌じゃありませんか?」


とは言え、そもそも首輪とリードを持ち込んで散歩に連れて行けと強請ったのは本人なのである。


「三人で外に出掛けられるから嫌じゃないよ。ネアのものって感じがするし、あれをつけてるとシルも面倒を見てくれるから」

「よくわかりませんが、嫌じゃないなら良かったです。お散歩具合を見ていると、公共の場では必要なようですから」

「うん。よくわからないんだけど、時々犬とも喧嘩しちゃうんだ。負けたくないんだよ」

「体格的に敵わないときは戦わないことです。それから、前みたいに魘された時には、私達のお部屋に来てもいいですからね」


こちらを見上げた青紫の瞳がくしゃりと歪んだ。

灰色と水色の混じった白い髪はぼさぼさで、一度氷漬けになったせいかとても弱って見える。

はっとする程美しいくせに、どうしようもなく無防備な感じがした。


「…………シルは嫌がらないかな」

「甘えてしまえばいいのです。ああ見えて、ディノは案外私より心が広いかもしれません」

「そう?」

「ボール遊びだって、狐さんは私よりたくさん遊んでくれるディノの所に行くでしょう?」

「だって、ネアは途中でボールに飽きちゃうからね」

「あそこまで延々と終わらないものだとは思いませんでした」


その点ディノは、意外にしつこい狐の要求にネアより応えてやっている。

体の造りが違うので、疲労感もネアより溜まらないかも知れないが、意外な面倒見の良さだった。


(そして、ディノも一緒に遊んでるのでなければ……だけど……)


実は少しだけ、ディノはノアには甘いような気がしていた。

狐だからなのか、或いはかつての二人の関係性なのかはわからない。

しかしそうであると、心臓の一件はそれなりに大きな事件だったのだろう。



「さて、そろそろディノが来ますよ?」

「さすがに狐に戻ると身体機能が心配なんだけど、怒るかな……」

「じゃあせめて、この手を離しましょうね」

「もう少しあちこち触っていたいなぁ。この前出かけた女の子と違って、ネアはちょうどいいよね」

「…………ちょうどいいとは」

「胸とか腰とか?」

「暖炉…」

「ごめんなさい」



やがて、少し忙しなく扉を開けてディノが入ってきた。

振り返ったネアの姿を見て、あからさまに呆然とする。


「…………ネア、どうしてそんな服装なんだろう?」

「ディノ、ノアを診てあげて下さい。仮にも一度、氷漬けになってしまったのです」

「ネア、どうして脱いでいるのかな?」

「………む。これは、大事なセーターが濡れるのが嫌だったのです」


ネアは慌てて釈明したが、ひどく難しい顔をしたディノに何か布めいたもので覆われてしまう。


「…………お部屋の毛布ですね」

自室から取り寄せたものか、火織の毛布だった。

それを羽織って初めて、ネアは濡れた服を着ていたので少し体が冷えていたことに気付いた。


ふすんとディノを見上げれば、珍しく呆れたように微笑まれた。


「さてと、」

「……ええと、ごめんなさい」


今更ながらにネアの恰好を思い出したのか、若干青ざめているノアを見下ろし、ディノはすらりと伸ばした指先を彼の額に当てて小さく溜息を吐く。

指を当てられたノアは、驚いたように固まった。


(…………あらあら、)


少し微笑ましくて、ネアはこっそり見守る。


「弱ってはいるけれど、大丈夫そうだね」

「…………うん。シル、僕は擬態したまま氷室に落ちると、僕達でも死にかねないって発見した」

「滅多に、氷室に落ちる高位の魔物はいないからね」

「新雪に、はしゃいで跳ね回っていて落ちたのですよ」

「……………新雪に」

「シル、心が折れるからそんな目で見ないで……。これでも、擬態を解いても一度死にかけたって事象は適応されるらしくて、結構ぼろぼろだから」

「ディノ、もう少し温まったら、寝台に運んであげて欲しいのです」

「私は構わないけれど、本人がすごく嫌そうだ」

「………自分で移動する」


介護感に打ちのめされたのか、落ち込んだノアが丸まっている隙に、ネアは服装の規定について、ディノにしっかり怒られた。

肌着感覚のものであろうと、着ているのは透けない厚さのあるほこほこ素材なウール地のシャツなのだ。

ネアとしても反論のしどころがあるのだが、魔物的にはアウトなのだとか。


「しかし、こやつはタンクトップの範疇です。入浴着もこんなものですし、何しろ今回下ははしたないと表現されてしまう部分はしっかり隠しています!」

「でも君だって、その服装で外には出ないだろう?」

「夏場はこんなものではないのですか?」

「……………ネア、少し婚約期間を早めようか」

「なぜに、そんなに問題案件なのだ」


ネアはさっとノアの方を見たが、明らかに狸寝入りしている。

リノアールで見かけたバカンス用のドレスワンピースには、華奢なストラップのものも含めて袖なしのものが普通にあった筈なのだが。


(というか、タンクトップも駄目なら夜会服はどうなのだ!)


遥かに扇情的だが、それは構わないのだろうか。

実はそう遠くない未来に着る予定があるので、この程度で荒ぶらないでいただきたい。


「……ディノ、この問題は後回しにしましょう。まずは、意識のなくなったノアを寝台に…」

「ごめん、起きてる起きてる!」


慌ててよろよろと寝台に避難したノアは、一度絨毯の縁に躓いて転びかけて、結局ディノに支えられた。

死にたいと呟いているので、堪らなく恥ずかしかったらしい。


湯たんぽも設置してやり寝かしつけると、弱っていたのは確かなのかすぐにこてんと寝てしまう。



「心配なので、午後はここにいましょうか」

「とにかく君はきちんと着替えておいで」

「………そんなにまずいですか?」

「腕を出すかどうかというよりも、着ているものが何の為に作られたものか考えてご覧」

「むぐ。………保温下着です」

「気軽に誰かに見せるものではないだろう?」

「ごめんなさい。気を付けます。でも、夜会服も駄目ではなくて良かったです」

「夜会服を着る予定があるのかい?」

「ふふ。着るときは、ディノにも見せますね」

「………ご主人様?」



魔物はたいそう不審がったが、午後は、大人しくノアの部屋で一緒に読書をしてくれた。

毛布を剥ぐたびに包み直してたくさん温め過ぎたのか、途中からノアは寝苦しそうだったが、目を覚ました時に側にネア達がいたことがとても嬉しかったらしい。


しかし、意気揚々と銀狐姿で現れた晩餐の場で、家事妖精から事の顛末を聞いたヒルドに本気で叱られて震えていた。



あまりにも人が落ちるので、氷室の周囲にはあらためて結界が張られることになったそうだ。

かつての王宮時代から、幼児ですら落ちたことがなかったのにと聞き、ネアと銀狐はとても反省している。



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